アイアンデュエルにエントリー
新しいお話が始まります。キル子が主演?の第18話スタート!
「アイアンデュエルですって?」
「そうだ。右京くん。イヅモの町の代表チームの一員として参加して欲しいのだ」
イヅモの武器ギルドの会長、ディエゴが右京の店にやってきたのは、午後の3時を回った頃。ちょうど、客がはけて一息ついたところだ。夕方からは冒険から帰ってきた冒険者が、戦利品を売りに来るのでまた忙しくなるが、この時間帯は比較的、客の数が減ってくる。ディエゴはそんな右京の状況を知った上でこの時間帯にやってきたのだろう。
ディエゴ会長は、右京にウェポンデュエルの大会に出場するように要請にきたのだ。大会はこのオーフェリア王国の隣国、ペルガモン王国で開かれる有名な大会であった。5年に1度開かれる大会で、ペルガモン王国はもちろん、近隣諸国から腕に覚えのある冒険者が集うバーチャルデュエルである。
この大会は召喚された巨大モンスターを7日間追い続け、討伐するのである。出場する選手は、所属するチームのサポートを受けて7日間、実に700kmの距離を移動して戦うという過酷な戦いであった。
「7日で700kmって、1日100kmちょっと移動するということですか?」
「移動だけではない。7つのチェクポイントでバーチャルモンスターと戦わなければならないのだ。完走してゴールにたどり着くことができるのは、これまでの大会の出場者平均で2割を切る。そして、忘れてはならないことは……」
「なんでゲロか?」
「武器も耐久力を試されるのだ」
「武器の耐久力?」
通常のバーチャルデュエルでは、武器が摩耗することはほとんどない。モンスターの攻撃も数値化されているだけで、実際に出場者を死に追いやることはない。これは武器も同じで斬ったり、突いたりしたからといって武器が痛むことはあまりない。これはウェポンデュエルならなおのことで、武器が傷んだり、壊れたりしたらその後の販売ができず、意味がないからだ。
だが、ペルガモンのアイアンデュエルは、その武器の耐久力をも試すのだ。召喚されたバーチャルモンスターには本物と同じ硬さ設定がされており、武器で攻撃すれば相応に摩耗したり、壊れたりするのだ。
「なるほどね……」
「過酷でゲロ……」
ディエゴの説明から、右京は広大な砂漠を走破するラリーレースのようなものを想像した。ラリーレースに召喚獣とのバトルを組み込んだものと思えばいいだろう。これは面白いと右京は思った。
「チームで出場できる選手は2名まで。移動手段は自由。大抵は馬を使うが普通の馬では、7日間を駆け抜けることは不可能。相当いい馬じゃないとな。これを一人につき、2頭まで使うことができる。武器も7日間で3つまでしか使用できない」
メインの武器に予備の武器を2つ持っていけるというルールである。
(なるほど……。短期決戦のウェポンデュエルとは違って、総合力が試されるということか……)
闘技場で行われる大会なら、単純に武器の性能や扱う人間の能力がそのまま結果として反映される。しかし、このアイアンデュエルは出場者、武器、それをサポートする体制の全てが試されるのだ。
「会長、すごく過酷な大会みたいですが、それに参加することにメリットがあるんでしょうか?」
「この大会はかなり伝統のある大きな大会だ。注目度は非常に高い。ペルガモン王国で行われるが、我がオーフェリアでも関心は非常に高い。ここで優勝すれば、いや、好成績を収めれば、このイヅモの武器の知名度も上がる」
「主様の店も多くの人に知られるでゲロ」
ゲロ子の奴、ディエゴ会長の話に乗り気である。どうやら金の匂いをかぎ取ったようだ。
会長の話によれば、この大会の公式スポンサーとしてゲロ子アイスも名を連ねることができるというのだ。例えば、乗っている馬に宣伝ロゴを載せておけば、自然と知名度は上がる。但し、右京が参加することが条件であるが。
「こちらの2名の出場者は、やっぱり……」
「君のところの霧子くんと私のところの瑠子くん。この2人しかいないだろう」
ディエゴが声をかけて2名のデモンストレーターを選ぶとなったら、やはりそうなるだろう。女戦士に女騎士。その実力は申し分がない。
だが、2人とも強いとは言ってもうら若き女性である。7日間も召喚獣を追い回し、見事に撃破することはかなり過酷である。
「いくらキル子でもちょっとキツイんじゃないかな。そもそも、女性の参加者なんているんですか?」
「うむ、すまぬ。最初に言うべきであった。このレースは女性限定なのだよ」
「マジですか!」
何だか、ホモサピエンス最強の女を決めるみたいな感じになってきた。優勝した女性には『アマゾネス・クイーン』という称号が与えられるそうだ。ペルガモン最強の女の称号だが、最強と言われるのは女でも嬉しいのかどうかは疑問だ。
「女性なら種族を問わないというのが、昔からの決まりだ」
「それじゃ、オーク女子とかゴブリン女子とか、リザードマン女子とか参加するでゲロか?」
「ははは……。さすがにモンスターはいないよ、ゲロ子ちゃん」
ゲロ子が変なことを言うから、右京はオーク女子やゴブリン女子を想像してしまった。スカートを履いたリザードマン女子なんかは想像したくない。
「女性限定っ言っても、女性にはとても7日間戦えそうにないと思うのですが」
右京の心配はもっともである。女性は男性よりも肉体的に体力が劣る。持久力も弱い。7日間戦い続けるのはかなり厳しいのだ。だが、ディエゴ会長はにやりと笑った。
「だからチームによるサポートが必要なのだよ。体のケアから食事、睡眠場所の確保。馬などの移動手段の調整に武器の修理。これはデモンストレーターの力だけではない、総合力が試される試合なのだよ」
「総合力ですか……」
なんだかすごいことになってきた。チームのエントリーは全部で8チーム。オーフェリア王国からは、昨年のウェポンデュエル全国大会で活躍した人間が選ばれる。ただ、その中でもチームとしてサポートを受けられる者が参加することになっている。
「エンチャンターのアルフォンソが参戦を表明している」
ディエゴが懐かしい名前を出した。アマガハラの都で開催された全国大会で、右京と決勝を戦った男たちだ。アルフォンソはエルフ族の男で、エンチャンターという職業をしている。
大会では右京に負けたのであるが、武器を魔法で強化することで付加価値を付けるという恐るべき相手であった。準優勝しているから、出場資格があるらしい。それなりの女戦士を雇って、エントリーするに違いない。
「地元のペルガモン王国から4チーム。那の国から2チーム。オーフェリア王国から2チームで争われる」
「アルフォンソが出るなら、優勝した主様は出るしかないでゲロ」
「アルフォンソかあ。懐かしいなあ……」
右京と決勝で争った好敵手である。決勝は本物のドラゴンゾンビが乱入してきてめちゃくちゃになってしまった。勝負の結果はうやむやになってしまったが、対戦相手のアルフォンソは右京がキル子のために調達した魔剣アシュケロンの性能に脱帽して、右京の優勝を認めたのだ。
今一度、再戦ができるならしたいものだと右京は思っていた。今回はその再戦のチャンスなのである。
「私はペルガモンに行って君たちの受け入れ準備をしてくる。チームの基地となる馬車は息子のアマデオに指揮を任せる。右京くん。君は戦闘で使用する馬と武器を買い揃えてくれ。いずれも目利きが大事な買い物。君ならいいものを買うことができるだろう。
カラン……。
右京の店のドアを開けて入ってきたのは、冒険から帰ってきたキル子。いつものようにショートパンツにビスチェというセクシーな格好だ。背中には愛用の大剣アシュケロンが括り付けられている。全く、いいタイミングでやってきた。
「キル子、いいところに来た」
「お、おう……。な、なんだよ?」
店に入ってくるなり、右京に話かけられたので自然と笑顔になるキル子。だが、右京の申し出に表情が曇る。
「ペルガモンのアイアンデュエルに出てくれないか?」
「ペルガモン?」
「そうでゲロ。女子限定の鉄女レースでゲロ。キル子にはぴったりのバトルレースでゲロ」
「……あ、あたし、用事を思い出した。しばらく、冒険に出るかもしれない」
明らかに表情が変わり、ポンとわざとらしく両手を打ったキル子。ゲロ子が怪しそうな表情でキル子を引き留める。
「キル子、逃げるなでゲロ」
「に、逃げてなんかないさ!」
「ペルガモンのアイアンデュエルと聞いて表情を変えたでゲロ」
「気のせいだろ!」
「何か、レースに参加できない理由があるでゲロ」
「ないさ。そんなもん。だけど、そんなレースに出る暇はないのさ」
「キル子、そんなこと言わないで出てくれよ。お前にぴったりの武器を用意してやるし、サポートも万全にやるから」
「う、右京……。うう……」
キル子、少し立ち止まって考えている。ギュッと目をつむって下を向いているキル子。でも、決心したように顔を上げると右京の方を振り返らずに外へ飛び出した。
「すまん。右京。これだけはあたしには無理!」
キル子の奴。無理と言い切った。どうやら、ペルガモンのアイアンデュエルレースのことを知っていての判断だ。だが、右京もディエゴもキル子が無理だったら、ほかの出場者もかなり限定されると思う。キル子が無理という理由が理解できない。右京もディエゴも思わぬキル子の態度に呆気にとられた。
「あ~あ。主様。キル子の奴、出ないつもりでゲロ」
「うむ。霧子くんにしてはおかしな態度だった」
「ディエゴ会長。キル子は後で説得します」
「うむ。そうしてくれ。うちの瑠子くんにも彼女を説得するように伝えておくよ。彼女は今、都に行っていてね。不在なんだ。それではわしは出場に向けた手続きのために、先にペルガモンへ行く。後は息子のアマデオに任せるから、息子と協力して準備を進めたまえ」
そうディエゴ会長は言い残して、右京の店を立ち去った。忙しいことになった。キル子を説得することに加えて、武器と馬の調達をしなくてはならないのだ。
「どんな武器がいいのだろう」
「主様。まずは武器より、馬でゲロ。ちょうど、このイヅモの町に馬の商人が集まって、馬市をしているでゲロ」
「ああ、そう言えば、そんなこと聞いたことあるな」
馬市はイヅモの町の中心街で臨時に行われている。馬の産地である『那の国』から良質な馬を運んで行商している商人たちが年に2回やって来るのだ。ちょうど、このイヅモの町にやってきたのは何かの縁であろう。
「馬か……」
「主様は武器の目利きはできるでゲロが、馬の目利きはできるでゲロか?」
「うむ。全くの素人だが、俺も中古買取の商人だ。挑戦してみるよ」
馬を買いに出かける右京とゲロ子。さて、どんな馬を買うことができるであろうか……。