オークどもを殲滅するでゲロ
ゲロ子がTUEEEE!
ゲロつええ。というか、ヒルダが強いんですけどね。ゲロ子、何もしてねえ。
「お頭でブヒ。商人を襲うのはいつにするでブー」
「そろそろ、うまい飯が食いたいでブー」
「女も抱きたいでブー」
オークの部下どもが口々に不満をもらす。オークの集団のボス。片目に眼帯をした屈強の体。名前を仮に『トンコツ』としておこう。トンコツは元々、100頭のオークを従えた野盗集団のリーダーであった。
先月、アジトにしていた森で冒険者の討伐にあい、散り散りになった仲間を何とか糾合してこの地にやって来たのだ。途中で仲間に加えたオークで30程の集団になった。
山の中腹に砦を築き、根拠地としたのだが、まだ、防御力が弱い。ここを基地として、遠征して略奪をするのが当面の目的である。食料や財宝を蓄え、人間をさらうのだ。
この山を拠点に小さな国を造るところまで、この『トンコツ』は考えていた。トンコツは、本能のまま、食べる、寝る、女を犯すしか脳のない他のオークどもよりは賢かった。
「お前たち、砦の柵が弱すぎるブウ! もっと木を採ってきて、分厚くするブウ。大きな木を根っこごと掘りとるでブウ!」
トンコツはそう命令する。逆茂木と言って、昔からある防御方法である。だが、大木を根ごと掘るのは重労働だ。根が怠け者のオークたちには、最もやりたくない仕事だ。
「お頭、麓へ行って人間をさらってクルでブー。そいつらにやらせればいいでブー」
勝手なことを言ってサボろうとするオークたち。そんなところへ、声高らかに笑う声が聞こえてくる。
「ハーハッハーでゲロ。豚が集団で砦を作っているでゲロ」
オークたちが砦の外を見ると、緑のワンピースに間抜けなカエルフードをかぶった女の子。等身大ゲロ子である。砦の前にある大きな岩に片足を乗せて腕組みをしている。足は太ももから足首まで露わで、ショートブーツがこれまたセクシーさを引き立てていた。変な格好だがプロポーションはよいことはシルエットから分かる。
「お、女でブー」
「女だ、女だ!」
オークどもが興奮する。砦の守りの当番以外のオークまでやって来る。
「先輩、何だか、ひどい臭いですううう。臭くて、わたくし、吐き気がしてきますううう」
オークは臭い。風呂に入る習慣がないから、その体は悪臭にまみれている。ヒルダが額にしわを寄せるのも無理はない。金髪の神々しい姿のヒルダは、そう苦情を言いながら、オークどもにその素晴らしい姿を見せつける。
等身大のヒルダはグラビアアイドル並のルックス、プロポーションである。ゲロ子とヒルダを見て、オークどもは大興奮である。よだれまで垂らしている。
「ブーブーとうるさいでゲロ」
ゲロ子はオークの数を数える。目の前の柵越しに23頭のオークを確認する。カルロの話によると30頭はいるらしい。ここはもっと集めて、一網打尽にしたいところだ。
「ヒルダ、そこの岩で踊るでゲロ」
「ええっ? わたくしが踊るのですか?」
「そうでゲロ。裸族になって踊るでゲロ」
「先輩、裸族って何ですか?」
「こういう姿でゲロ」
ゲロ子は飛びかかって、ヒルダのローブを引っ剥がす。たちまち、すっぽんぽんにされるヒルダ。ゲロ子は白いタオルを差し出した。タオル二枚で下半身と上半身を覆う。
「先輩、これじゃあ、ほぼ裸じゃないですかあ~っ。こんなの恥ずかしいですうう……」
「ヒルダは主様にもっと恥ずかしいことしてるでゲロ。それに比べたら、こんなの大したことないでゲロ」
「しかし、わたくしは神に使える神聖なバルキリーであって……」
「神に仕えるのなら、踊るでゲロ。セクシーダンスでオークどもを魅了するでゲロ。全部、出てきたところで一網打尽にするでゲロ」
「そんなあ……。踊れません。こんなタオル一枚じゃ、大事な所が見えてしまいますうう……。ご主人様にしか見せられないのに~」
「めんどくさい奴でゲロ。主様が昔、ゲロ子に話してくれたでゲロ。主様の元いた世界では、洞穴に隠れてしまった太陽の神様をセクシーダンスでおびき出したそうでゲロ。それと同じでゲロ。これを持って踊るでゲロ」
ゲロ子は木の枝を2本切ってヒルダに渡す。それを両手に持って踊れというのだ。ちなみに、ゲロ子が先ほどしゃべった話。おそらく、天の岩戸に閉じこもった天照大神をアメノウズメノミコトがセクシーな踊りで誘い出した有名な話だが、今の状況とは全く違う。『同じでゲロ』と言いくるめるゲロ子。
仕方ないので、渋々と踊るヒルダ。渋々ではあるが、ヒルダはやっぱりバルキリー。神に仕えせし天使の踊りを披露する。それもタオル2枚で隠したほぼ裸族の格好で。世の男どもがこれを見たら、みんなクギ付け、かぶりつきで見ることだろう。
ましてや、ここ数ヶ月、禁欲生活していたオークたち。ヒルダの踊りに大興奮。別の場所の見張りをしていたオークまで柵のそばまでやって来た。
「お前たち、何をしているでブウ」
「女だブー。お頭、女が二匹でやってきて、オイラ達を誘っているでブー」
「馬鹿な、そんなの罠に決まってるでブウ!」
さすがトンコツ。ゲロ子の企みに気づいた。だが、指で数を数えていたゲロ子。全部で30頭が集まったことを確認したのだった。
「ヒルダ、全部、集まったでゲロ。強力な魔法で全て吹き飛ばすでゲロ」
「は、はい~っ」
ヒルダ、両手に持った木の枝をサラサラと動かし、長い足を上げて舞うと同時に呪文を唱える。
「地の底より湧きいでる力の源、炎の王よ。すべてを焼き尽くす炎を身にまとい。今こそ、我の召喚に応えるべし。我の前の邪悪なりものを焼き尽くせ!」
ヒルダが右手を差し出すと、燃え盛る火の玉がビー玉の大きさから、野球のボール、バスケットボールと大きくなり、最後には大玉転がしの玉ほどになる。オークどもはヒルダの魔法を唱える姿にさえも興奮して、柵に張り付き、鼻を出してかぶりつきで見ている。
たくさんのオークが柵に殺到したので、重さに耐え切れなくなった柵が倒れた。
「わわわ……危ないでブー」
「イタタタっでブー」
「火炎地獄!」
オークたちが重なって将棋倒しになった。ちょうどそこへ、呪文が完成した強力な魔法が発動する。強大な炎の弾が破裂すると、螺旋の渦となった地獄の業火がオークたちに襲いかかる。
「ウギャアアアッ……」
「熱いでブー」
苦痛など感じる暇もなかったであろう。それはほんの一瞬であった。螺旋の炎が消えた時には、きな臭い煙が幾本も上がっているだけであった。かろうじて黒い炭が散見するだけである。ブーブー言っていたものは綺麗さっぱり浄化されて消えていた。
「やれやれでゲロ。オークなんか一撃でやっつけると誰もが期待していたけど、こうもあっさりとやっつけては面白くないでゲロ」
「面白くないって、先輩、それはちょっと侮り過ぎですう」
「もうちょっとギャグ要素が必要でゲロ」
「ギャグって、先輩は口ばっかりで戦ってないから、そんな気楽なことを言えるのです。先輩も戦ってくださいよ」
「ゲロ子にはゲロ子の役割があるでゲロ。オークは雑魚だから、ヒルダで十分でゲロ。それにしても……」
クンクンと匂いを嗅ぐゲロ子。焼け焦げた匂いしかしないので首を振った。
「ヒルダ、やり過ぎでゲロ。焼き過ぎで豚の丸焼きにならなかったでゲロ」
「先輩、オークは豚の容姿をしていますが、豚ではありません。丸焼きにしても食べられませんわ」
「そうでゲロか?」
とぼけた表情でそう答えるゲロ子。確かに、オークの肉は臭くて食べられたものではない。オークは豚ではなくモンスターなのだ。
「そうです。それにわたくしにこんな恥ずかしい格好を見たのです。一頭たりとも骨すら残さず消去しないといけません」
ヒルダはタオル二枚で体を覆った自分の姿を見る。大きな胸でタオルは今にもはじけそうであるし、腰に巻いたタオルもいつ落ちるか分からない。こういう場合は短期決戦に限るのだ。
ヒルダは、この恥ずかしい状況から逃れるため、短時間で勝負がつくようにと超強力魔法を使ったのだった。オークが一箇所に集まるという状況から、中級魔法でも十分、一掃できたはずだが、過剰な魔法で殲滅してしまったのであった。
「これで残る敵はクラウドドラゴンでゲロ」
神に近いと言われるレジェンドドラゴンと対峙するゲロ子とヒルダ。このお笑いコンビ、もとい、妖精コンビはどうやって戦うのであろうか。




