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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第3話 再会のチンクエディア(エルフダガー)
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ハーフエルフの娘

 その客が右京の店にやってきた時は、容姿の珍しさで言葉を失った。顔は色白の端正な顔立ち。まつげが長く大きなトパーズのような黄色い目。流れるような銀髪をショートカットにした美少女。人間と異なるのはとんがった耳がまるでウサギのように長いことであった。


(これが噂に聞くエルフって奴か?)


 ファンタジーでは定番の種族である。この世界でも住んでいるとは聞いていたが、右京はこの世界に来て初めて見る。見た目はまだ若い。中学生くらいで小柄な感じだ。だが、エルフは長生きするというから、実年齢は右京よりも上かもしれない。


 革製の地味な上着に、下はスパッツと柔らかい革製の靴。音が出ないように吸音ゴムを底に仕込んでいる特注品だ。軽装だが動きやすい服。背中には荷物が満載したリュックサックを背負っている。


 服装から見ると冒険者の中でもシーフと呼ばれる職業だ。シーフは(盗賊)とも訳されるが、決して犯罪者ではなく、冒険者パーティでは行く手を阻む罠を外したり、宝を見つけたりする役割を担う。手先が起用で素早い動きをするのだ。クラスチェンジすると忍者に生まれ変わるゲームまであったが、右京に言わせれば盗賊と忍者に一体何の関係があるのだとツッコミを入れたくなる。


「うちの名はネイじゃ。ここで武器を買い取ってくれると聞いたのじゃが」


 そう言って少し首を曲げ、自分が背負っているリュックサックを目で示した。ロングソードやショートソードの柄と思わしきものが飛び出ている。


「はい。伊勢崎ウェポンディーラーズでは、お客様のお使いになった武器を買い取り、それをリニューアルして販売しています」


「そうでゲロ。お前の武器、いいものだったら高く買い取るでゲロ」


「わ~っ! カ、カエルがしゃべったのじゃ!」


 ネイと名乗る少女は、テーブルに乗って威張ってしゃべるゲロ子に腰を抜かした。そんなネイをゲロ子が馬鹿にする。ぴょんと飛んでネイの頭に移動した。そして、ペタペタとネイの銀髪を触る。


「ねえちゃん、エルフの割に知識がないでゲロ。妖精も知らないでゲロか?」


「うわあああっ……。怖い、怖いのじゃ。うちはカエルやトカゲは苦手じゃ」 


「これはすみません。おい、ゲロ子。お客様に失礼だぞ。こっちへ来い」

「面白くないでゲロ」


 ゲロ子はネイの頭から飛び上がると一回転して、テーブルへと戻った。このカエル。身体能力は高いのだが、いかんせん、身長15センチの極小。よってこの身体能力も戦闘では役に立たない。いわば無駄アビリティなのだ。つくづく残念な奴だ。


「ふう~っ。いきなり、店で驚かされるとは思わなかったのじゃ」


「改めて、店主の伊勢崎右京です。コイツが助手の……」

「妖精界のスーパーアイドル、ゲロ子でゲロ」


「嘘言うなよ」


 右京が指でピンと弾いてゲロ子を転ばす。さっきから調子に乗っているから、そろそろ、釘を刺しておいた方がよいだろう。


「そうか。うちはネイ。ハーフエルフじゃ」


(じゃ?)さっきから、見た目と合わない言葉遣いだ。声は若いがじじ臭い印象である。ハーフエルフということは、人間とエルフの間の子供ということだが、右京はエルフという種族をまだ、直に見たことがないので違いが分からない。


「それで、売りたい品物はどんな物ですか?」

「これじゃ」


 右京はネイと名乗った見た目少女の売りたい品物を見せてもらうことにした。このハーフエルフの年齢が推測できないので、口調が自然と丁寧になる。ファンタジー世界では定番のいわゆるロリババアかもしれないからだ。


「これじゃ」


 ネイは背負っていたリュックサックを下ろす。中からはロングソード1本。ショートソード3本。ナイフ3本が出てきた。どれも使い古された感じの代物である。


「これはどこで手に入れたものですか?」


 一応、右京は入先を聞く。大量の持ち込みは警戒しないといけない。武器屋の下取り品を盗んだとか、横流しだとかの犯罪に関わっているかもしれないからだ。だが、心配は杞憂であった。品物は冒険者ギルドのクエストによって手に入れたもので、ギルドの戦利品認定証が添えられていたからだ。


 この世界では中古の武器を販売するという考えがない。よって、ダンジョンで手に入れた武器類は、ほぼ買値の100分の1で一律買い取りされる。これらの武器も武器屋へ持っていけば、いくらかの金にはなるがかなり安くなってしまう。ネイはどこかで右京の店を聞きつけ、武器屋に売る前に一度見せに来たのだろう。


「うちはパーティでシーフをやっているのじゃ。この品物もゴブリンどもを追い払って手に入れた宝箱に入っていたのじゃ」


「ほう。宝箱というと開けるときに罠とかあるんですか?」

「もちろんある。それを外して開けるのがうちたちシーフの仕事じゃ」


 パーティにおけるシーフの役割である。手に入れた宝箱の罠を外すのは、かなり難しい。熟練の技と経験がいる。右京が知っている某ゲームでは、シーフが罠を外すのを失敗すると毒針が刺さって毒に犯されたり、爆発してパーティ全体にダメージが与えられたりすることがあった。


 爆発した途端に、敵とエンカウントするという極悪な展開もあった。最も厳しいのが開けた途端にテレポート。『石の中にいます』で全滅したこと。思い出すだけで、ちゃぶ台をひっくり返したくなる。


「ネイさんは熟練のシーフなんですか?」

「うちか?」


「経験20年とか、30年とか?」

「うちがそんなに年に見えるのかのう……。ちょっとショックじゃ」


「いえいえ、エルフ族のみなさんはみんな長寿だと聞いていますので」

「うちは14歳じゃ」


「へ?」

「14歳じゃ。シーフになったのは1ヶ月前じゃ」


「ゲロゲロ……。ロリババアどころか、おこちゃまハーフエルフでゲロな」


「子供じゃないのじゃ。うちは一人前のハーフエルフじゃ」


 一般的にこの世界では、15歳になると働きに出る者もたくさんいる。14歳は少しだけ若いが、例がないわけでもない。このハーフエルフが職業として冒険者を選んでも不思議ではないのだ。


「うちはこれでも腕がよいシーフなんじゃ。罠外しはもちろん、罠の配置も事前に見破ることもできるのじゃ。それに手先の器用さを生かして……」


 ネイがポンとナイフを触った。それに気を取られた右京がナイフに視線を移した瞬間にネイが左手を差し出した。手には見慣れた小銭入れがある。


「い、いつの間に……?」


「仲間からは黄金の左手と言われておる。犯罪に使うとギルドのお尋ね者になるから絶対に使えないけど、モンスター相手の戦闘中にスリ取るのじゃ。まあ、ゴブリンやオーク共は大したものをもっておらん。金貨1枚あればよい方じゃ。それに近づくと臭いし……。おや?」


 ネイが右京の小銭入れの中身をテーブルに開ける。銀貨が3枚と銅貨が5枚出てきただけである。


「ゴブリンよりショボイでゲロ」

「うるさい」


 そんなことより、鑑定である。ネイが持ってきた剣類はダンジョンの奥深くにあったせいか、サビが生じているものが多く、正直、価値は低い。右京の買取りビジネスモデルはリニューアルして新品よりも価値が出る品を得ることにある。

通常のノーマル武器では売れない可能性があるから、買取り不可ということもあるのだ。


「ショートソード一本とナイフ2本は、買取りできます。後は状態がひどく悪いので、うちでは買い取れません。武器屋で一律買取りの方がよいかと思います」


「いくらじゃ」


「ショートソードが50Gでナイフが5G。計60Gでは」


「仕方がないのう。武器屋ではその3分の1じゃ。ラッキーと思うことにするのじゃ」


 ネイとしても武器屋よりも高く買い取ってもらえる。来たかいがあるというものだろう。


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