表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第14話 放浪のレイピア(キング・エスパダ・ロペラ)
202/320

幕間 アリッサの報告

またもや、本編進めずに今度は侍女の独り言。

本編は次回から……。

『ステファニー様をイヅモの町へ脱出させる作戦』

 立案 実行 アリッサ・アーネマン


 まずは第1の関門。


 忠実で有能な臣下であるカンサク秘書官とサンケス大尉をどう欺くか。普通の人間なら容易にだませるのですが、この二人は少々オツムの弱いステファニー様を補佐するために選ばれた優秀な役人です。この二人を出し抜くには、こちらも十分に策を練らないといけません。


 まずはすぐに決行することです。こうなると予想して脱出ルートの確保と準備を極秘に進めていて正解でした。時間が経つに連れて、両名が私の企みに気づくだろうし、警戒態勢も整ってしまいます。


 二人もまさか、今日に決行するとは思わないでしょう。

 


 作戦を実行します。

 

 アマガハラ市中の屋敷で養生をしていらっしゃるステファニー王女様のおばあ様から、ステファニー様の顔がみたいという手紙を届けてもらいました。おばあ様は大層年を召されていて、少々、ボケていらっしゃるので偽手紙は簡単に捏造できます。1時間くらいならということで、カンサク秘書官の許可を得て、ステファニー様を馬車に乗せて町へ出ることに成功しました。

 

 もちろん、このまま脱出というわけにはいきません。サンケス大尉がぴったりと護衛しているからです。おばあ様の屋敷に着いたステファニー様に私がわざとお茶をこぼします。ドレスが汚れてしまったステファニー様をお着替えと称して、衣装部屋へこもります。さすがのサンケス大尉も着替え部屋までは入ってこられませんから。

 

 このお屋敷の衣装部屋には隣の部屋へ抜ける隠し通路があるのです。そこを使って部屋を抜け出し、裏門に待機させてあった辻馬車に乗りました。それで町の西門に待機させてあった旅行用の大型馬車に乗り換えました。

 

 八頭立ての馬車で一挙にイヅモに向かって走らせました。衣装部屋の前で30分も待たされたサンケス大尉。さすがに遅いと部屋を開けるともぬけの殻。慌てて、追跡部隊を差し向けました。これは計算通りです。

 

 賢い彼は私たちがイヅモ方面へ逃げると判断して、騎兵で追いかけました。八頭立てとはいえ、荷物を満載した馬車が追いつかれるのは必定。3時間後に追いつかれる馬車。サンケス大尉が馬車のドアを開ける。中には王女とその侍女が震えて……。


「なんて、なってませ~ん」


 中には大きなくまのぬいぐるみが2つあるのみ。首には、『残念でした』の札をかけています。慌てて戻るサンケス大尉。実は反対方面に同じ馬車を用意しておいたのです。私の思惑通り、こちらが本命だと思ったようです。優秀なだけに思考を読むのは簡単です。


 翌日、反対方面に逃げた馬車に追いついたサンケス大尉。馬車の中にはまたもや、くまのぬいぐるみが2体あるのみ。札にはこんな文字が。


『またもや残念!』


 その頃、私とステファニー様は実は巡業する劇団の中に紛れ込んでいました。私のおじが劇団の団長をしていて、頼み込んだのです。ちょうど、劇団はイヅモの町に新しくできたショッピングモールというところに併設された劇場で、演劇をやるんだそうです。私もステファニー様も劇団員に混じってゆっくりとイヅモの町へ向かいました。


 しかし、道中は楽ではありませんでした。ステファニー様はどうせ化けるなら、女優がやりたいだの、主役の王女役は自分がふさわしいなどとわがままを言って困りました。


(当初の目的忘れてませんか?)

(誰のために苦労していると思っているのですか?)


 でも、結局、セリフが覚えられず、ステファニー様は断念。私と一緒に村娘役をやりました。これはセリフが一言しかない役なのです。


「ありがとうございました、王女様」


 たったこれだけです。でも、ステファニー様、超棒読みで注目を浴びてしまいました。


 まだ新人ということで、見ている人は大目に見てくださったようです。ステファニー様、頼みます。少しでも目立たないようにしてください。


 こうやって、途中の小さな町で公演しながらゆっくり進んでいった私たち。まさか、旅の一団と行動を共にして、公演しながら逃亡しているとは露知らず、カンサク秘書官やサンケス大尉は方々に捜索隊を出して大変だったようです。ステファニー様のためとはいえ、二人には大変な迷惑をかけたなと思います。


 さて、私にこんな苦労をさせてたどり着いたイヅモの町。当初、私がステファニー様に進言したのは、よく知っているイヅモの町に潜伏して、決闘の話がなくなるのを待つというものでした。ステファニー様がいなくては、決闘ができないわけで、これは大変有効な手段であったのです。ところが、ステファニー様の考えはブッ飛んでいました。


 ステファニー様の目的は、なんと、自分の好きな男性を決闘に参加させること。薄々分かっていましたが、今日ほど、ステファニー様のオツムの弱さを嘆いたことはありません。


 出場させようとしている男。伊勢崎右京。イヅモの町で武器の買取り業という商売で成功している商人。商人なのでレイピアを扱えるはずがないのです。


(ああ……、こんなことなら、いっそのことステファニー様を旗頭にして、イヅモの町で決闘そのものをぶち壊すためのクーデターを起こせばよかったです。それだったら、私の才能が発揮できるかと……はあはあ)


(すみません。興奮しました)


 で、ステファニー様の頼みにいい顔しない伊勢崎右京。そりゃそうです。勝てない戦いに参加するほど、この男はバカではない。商売でここまで成功する男は、ちゃんと計算ができるはずです。だけど、そういうのもちょっと悲しいという気持ちはあります。


 頭は弱いけど、ステファニー様はれっきとした王女様です。しかも、黙っていれば私が太鼓判を押す美人です。そんな王女様に助けを求められて、勝てないからやめておくなんて計算高い男は、ステファニー様にはふさわしくないと私は思います。

 


 そう思って右京さんをにらんでいたら、また、厄介な男が現れました。女の敵モンデール伯爵。この男、顔だけはいいが性格はゲス野郎です。女の子に言い寄っては適当に遊んで捨てる最低な男。最近は貴族令嬢たちの間でも相手にされないので、私たち侍女や町娘にまで毒牙にかけるといわれています。

 

 そしたらどうでしょう。伊勢崎右京さん、モンデール伯爵に喧嘩を売ったではありませんか。私は思わず、『信じられない、お前、何か策でもあるのか、絶対ないだろう』と思ってしまったけれど、喧嘩を売った度胸に思わず感動してしまいました。


 迎えの馬車と護衛の騎兵が多数やってきました。どうやらここまでのようです。最後はステファニー様の男を見る目の確かさに感心をしましたが、これが今回の逃亡劇の顛末です。

 


 今、カンサク秘書官、サンケス大尉に捕まってアマガハラへ帰る途中です。ステファニー様は、時折、ニヤニヤ笑ったり、悲しそうな顔をしたりと情緒不安定のようです。クロア様が動いて伊勢崎右京が出場することが決まったそうですが、それがうれしくもあり、彼では勝てないかもと不安だったりするようです。さすがに頭の弱いステファニー様でも簡単に勝てると思ってはいないようです。


 でも、私はステファニー様を励ましました。


「あの男はきっと何かやってくれます。それを信じましょう」


 ステファニー様はにっこりと微笑みました。


「大丈夫よ、アリッサ。右京は必ず優勝して、わたくしを守ってくれます。わたくしも右京もやればできる人なんです」


 わたしのお仕えする王女様は、超ポジティブシンキングなのです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ