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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第14話 放浪のレイピア(キング・エスパダ・ロペラ)
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右京、参戦す!

「……というわけなの。わたくしのために右京は戦ってくれるわよね」


 ステファニーはこれまでのことを語って聞かせた。国王が崩御し、皇太子である父も他界した。後を継ぐステファニーは女王になると同時に結婚しなくてはならない。その相手をレイピアを用いた貴族の決闘で決めるという。この決闘の優勝者は王女ステファニーと結婚できるのだ。


「それでどうして主様が、おバカ王女のために命をかけなくてはいけないでゲロ」


「おバカ王女とはひどいこといいますわね。このカエル」

「おバカではないでゲロか?」

「おバカではありません。わたくしは、やればできる子なんです」


(おいおい、それっておバカって認めちゃっていないか?)


 右京だけでなく、この場に居合わせた人間の心の中のツッコミは全てスルーするステファニーは、ある意味大物と言えるであろう。


「それに右京にお願いする理由なんて決まっています。右京は困った女の子を見捨てない騎士精神を持っているからですわ!」


 目を輝かせて右京を見つめるステファニー。騎士精神とか言われて、右京もどうしていいかわからない。


「あ、あの……ティファ」

「何ですか? 右京」


「俺は商人で……そもそも、レイピアの扱いも知らないし、貴族の決闘の方法だって知らないのだが……」


「そんなの心配ありません。ルールは簡単です」


 事も無げに言う王女様。彼女の頭の中では、右京がちょっと特訓すれば、自分への愛から隠された能力を開放して、剣術の力が目覚めてスーパーマンのように強くなると思っている。脳内ファンタジー状態だ。


「決闘と言っても、死ぬようなものではりません。防具を身に付け、細い橋の上での決闘です。相手を橋から落とせば勝ちです。橋の2m下は泥沼ですから怪我も大してしないでしょう」


 そう傍らにいて今まで黙って聞いていたステファニーの付き人が付け加える。マントのフードを取ると黒髪の少女が現れた。年はステファニーと同じくらい。目がクリっとした美少女である。胸も結構大きい。


「君は?」

「ステファニー様の侍女をしています。アリッサといいます」


「わたくしはアリッサのおかげで、このイヅモの町へ逃げて来られたのです。有能な侍女なんですよ。アリッサは」


 そりゃそうだろう。ステファニー一人では、ここまで逃げることは不可能だろう。状況を考えれば、次期女王候補のステファニーが逃げ出すことなどできるはずがなく、警備は厳重であったはずだ。それをかいくぐって、ここまで王女を連れてきた手腕をもつこの侍女はかなり優秀な人材であると言えた。


「怪我はしないといっても、そもそも、俺が出ても勝てないのは間違いない」


「そうでゲロ。主様はヘタレの商人でゲロ。今は偶然レイピアを持っているでゲロが、それを扱う技術など一切、持っていないでゲロ」


 いくら本当のことでもゲロ子に言われると何だか腹が立つ。


「おい、ゲロ子、主に向かってヘタレとは何事だ」

「本当のことでゲロ」


 確かにハビエルに合成させたすばらしいレイピアを偶然にも手にしているが、これは売りものであって右京が使用するものではない。これを持って出場して、優勝でもすればレイピアに箔がつくであろうが、それは商人である右京の領分ではなく、デモンストレーターのキル子の領分であろう。今の決闘は男しか出られないから意味はないが。


「ステファニー様。この男はダメです。いくらステファニー様の思い人でも根性がありません。剣の才能もなさそうですし」


 侍女のアリッサ、結構きついことを言う。これでは人間版のゲロ子である。右京はちょっと腹が立ったが、現実、いくらステファニーの頼みでも勝てないものは勝てない。どう反応しようかと思った時に割って入る男の声がした。


「ハハハ……。やはり、ここへ来ましたか王女殿下」


 その聞きなれた声に右京が振り返ると、さっき帰ったはずのモンデール伯爵が立っている。どうやら、部下に店を見張らせていたようで報告を受けて急いで戻ってきたようだ。


「モ、モンデール伯爵」


 ステファニーはモンデール伯爵の姿を見て、無感動に答えた。ここまで来て会うとは運が悪いという表情だ。


「あなたらしくもない。こんな平民に頼るとは。あなたにはこの僕がいるではありませんか」

「はあ?」


 ステファニーは完全に無視する。だが、空気が読めない伯爵はツカツカと進むとステファニーの右手を取って軽くキスをする。それが貴族の礼儀らしい。


「この僕が出場して、トーナメントを制し、あなたの夫としてこの国を治めていきますよ」


「はあ?」


 ステファニーは死んだ目である。この男には本当に会いたくなかったのだろう。モンデール伯爵はステファニーの従兄妹にあたる人物で、小さい頃から知っていた。知っているだけに、この男が好きになれないのだ。モンデール伯爵の方は、ステファニーの思いなど全く気にかけておらず、自分の世界に浸っていた。


 そして、右京をにらみつける。先ほど命令したにも関わらず、ステファニーと親しく話し、しかも自分に報告しようとも思わなかったことに、無礼な奴だと憤慨している。


「おい、右京とやら。まさかと思うが、身分もわきまえず、お前も出場するとか言うのではないだろうな。もちろん、出場は不可能だ。王位継承者か有力な団体の推薦がなければ、出場はできない。それに剣の名手でなくてはな。その点、この僕は二新一流派の免許皆伝。師範の腕前だ。商人ごときでは何もできまい」


 偉そうにそう言うので右京はムカついた。こいつを決闘で泥の中にぶち落としたいという衝動が起こったが、それはグッと我慢する。悔しいが剣の技ではこんな奴にも劣るだろう。そこは冷静に考えなくてはと右京は思う。


「主様、ここまで言われて黙っているでゲロか? それでも商人でゲロか?」

「いや、商人だから決闘引き受けるの間違っているし……」

「右京……」


 ステファニーがキュッと右京の背中に回ってシャツを掴む。その手が微かに震えている。わずかな振動がシャツに伝わり、右京はそれを感じることができた。


(ティファが震えている……)


「優勝候補はこの僕だ。もちろん、家柄も財産もこの僕にかなう出場者はいないさ。決闘などやるのは無駄だけど、これも広く国民に知らせるためだと思えば、時間の無駄ではないさ。人々は勝者の僕を褒め称えるだろう」


 立派な演説をしているモンデール伯爵。正直、話が長すぎてウザイ。


「主様」

「右京」

「……」


 ゲロ子はいっちょぶちかませという顔だし、ステファニーは、目をギュッとつむっているし、アリッサは完全に期待していないという表情だ。


(ちくしょう、どうにでもなれ!)

 右京は決意した。どうせぶちかますなら、派手にぶちかましてやるとい気持ちで言い放った。


「仕方がない。出てやるよ。その決闘に出て、まず、目の前の口ばっかのバカ貴族のおぼっちゃまに泥を食わせてやる」


「やっぱり、主様でゲロ」

「右京、やっぱり、わたくしの右京だわ」

「マジ?」


 ゲロ子は褒め称え、ステファニーは感動のあまり涙目になっているし、アリッサの顔には『信じられない、お前、何か策でもあるのか、絶対ないだろう』と書いてある。


「貴様、無礼なことを言うな。気でも狂ったか! なんなら、今ここで決闘してやろうか。王族への不敬罪で切り捨ててやる」


 モンデール伯爵は顔を真っ赤にして怒り心頭で腰に吊り下げてあるレイピアに手をかけた。抜いて今にも右京を切り捨てようという勢いだ。右京も手にしたレイピアの柄に右手をかけた。喧嘩を売ってしまった以上、もはや成り行きに身を任せるしかない。だが、幸いなことに事件にはならなかった。ひょこひょこと黒い物体が現れたのだ。


「はい、そこまで!」


 右京とモンデール伯爵の間に割って入った人物。クロアである。いつもの黒うさぎの帽子をかぶり、昼間なのでサングラスに黒いマントですっぽりと全身を覆っている。


「クロア!」

「ク、クローディア・バーゼル……」


 モンデール伯爵はクロアをよく知っている。この姿を見て一発でクロアだと言い当てれるほどだ。そして、モンデール伯爵はクロアを見て急に声のトーンが落ちる。先ほどのステファニーがモンデール伯爵に会った時みたいにだ。ちなみにクロアはステファニーが苦手なので、この王族3人は三すくみ状態であると言える。


「さすが、わたしのダーリン。さっきの決闘宣言、かっこよかったわ~」

「そ、そりゃどうも……」


「で、アルベルト・モンデール伯爵。わたしのダーリンに喧嘩を売ろうなんていい度胸ね。何なら、妻であるわたしが相手になってあげましょうか?」


「じ、冗談だよ。こんな平民に貴族である僕が喧嘩なぞするものか。それに人外の女と戦う趣味もない」


 同じ王族なのにクロアのことを人外と差別して呼ぶのは、せめてもの強がりである。その差別の言葉に腹を立てるのでもなく、クロアは淡々と答える。それがかえってリアリズムを高めて恐ろしい。


「あらそう。残念ね。異世界へ飛ばして存在を消してあげようと思ったのに……」


 カタカタと右手を柄に当てたレイピアが鳴る。モンデール伯爵の顔は真っ青だ。クロアの性格をよく知っている彼は今の言葉が冗談だとは思えない。目の前の女子はそれくらいのことを平気でやる冷酷なバンパイアなのだ。


「ふ、ふん。勝負は正式な決闘の場でつけてやるさ。人外の邪魔が入らないようにしてな。ステファニー王女殿下。都へ帰りますぞ。すぐにでもあなたの優秀な部下が迎えに来るでしょう」


 そう言うと待たせてあった馬車に向かって歩き始めた。足がもつれそうである。ビビって思うように歩けない。


「クロアにビビるとは情けない男でゲロな」

「いや、あれが普通でしょ。クロアの戦闘力知っていれば」


 クロアは一見、顔色の悪い(発育ではないよ)華奢な女の子であるが、凶悪なモンスターの群れを一瞬で葬る魔力の持ち主なのだ。


 モンデール伯爵が去り、ステファニー王女もすぐに駆けつけてきた、カンサク秘書官とサンケス大尉に確保されて行政府に連れて行かれた。明日にでも都へ逆戻りである。


 だが、ステファニーの目標は達成された。それは右京の決闘への参加の約束であったからだ。


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