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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第14話 放浪のレイピア(キング・エスパダ・ロペラ)
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合体魔法の研究室

「それでは、次の方入るでゲロ」

 

ゲロ子が書類を挟んだ板をもって、部屋の外に待機している人を招き入れている。伊勢崎ショッピングモールに出店希望のテナントの面接をしているのだ。冒険者用の店が集中する専門ショッピングモールとして人気を集め、イヅモの町へ立ち寄った冒険者は、みんな必ず足を踏み入れる名所になっていたが、一般の客も来るようになっていた。


それで一般向けの店も拡充をしようとテナントを募集したところ、希望者が殺到したのだ。空き店舗には余裕があったが、やはり冒険者目線で満足できる店を選んで出店することが大事だと右京は考えていた。


「自己紹介をお願いします」


 経理部長のヤンがそう出店希望者に促す。審査員はショッピングモールのオーナーに右京に共同経営者のクロア。冒険者目線で見てもらうためにキル子も呼んである。ヤンは経理方面の目線で、その店が儲かるかどうかを判断する。あと、一応、ゲロ子も審査員だ。ゲロ子アイス店は、成功しているから既存店の代表として意見を言ってもらうのだ。


「イヅモの中心街で小さなカクテル屋をやっているケントと言います。店名は『スコーピオン』と言います」

 

 若い店主だ。今の店は客が5人も入ればいっぱいになってしまう小さな店。中心街では空き店舗がないので、ここに出店したいと思ったらしい。


「ここは酒が飲めるところが少ないからな。いいんじゃないか?」

 

 キル子がそう言う。冒険者といえば、酒場である。冒険を終えたあとに酒を飲み、無事帰って来れたことを祝い、武勇伝を語る。また、情報交換をする貴重な場所である。いろんな酒を混ぜ合わせて、提供するようなおしゃれな店はなかったからうってつけではある。


「スコーピオンはイヅモでは知る人ぞ知る名店です。店主のオリジナルカクテルや顧客に合わせたカクテルを提供するサービスが有名です。採算も充分取れるでしょう」


 ヤンが提出された書類を見てそう判断する。ある程度は下調べをしてあるので、後は店主の人柄を確認して決めるのだ。


「いいでしょう。出店を許可します」


 右京がそう言って握手を求める。こうやって5件ほどの店を決めて終わった時のことだ。部屋の外が騒がしくなった。部屋へ強引に入ってこようとする人間とそれを止める人間の争う声がする。ドアが激しく叩かれる。そして、開け放たれると白衣を来た青年が飛び込んできた。だが、すぐに2人の警備員が飛びかかって押さえ込んだ。


「話を聞いてください……ほんのちょっとでいいのです」

「どうしたんだ? その人誰?」


 右京が警備員に聞く。白衣を着た青年は、30才前半と思われた。黒髪であるが、前髪の一部が白く染められていた。顔は色白で黒メガネをかけたひ弱そうな顔だ。警備員の制止を振り切り、強引に部屋へ入り込むことをするような感じには見えない。


「右京さんに会わせてくれと言って、強引に入ってきたのです。出店希望者でもないようですし。お引き取り願ったのですが」

「あなたが右京さん? お願いです、話を聞いてください!」


 顔を上げて右京を見た青年。ぴょんとその青年の頭に小さな生物が姿を現した。それはカエルのフードをかぶった体長15センチの妖精。全身緑のタイツはゲロ子と同じだ。その生物が口を開いた。


「ハビエル教授の話を聞いてくださいでケロ」

「ケロって? ゲロ子?」


 右京はテーブルの上のゲロ子と見比べる。姿形はそっくりだ。髪の色はゲロ子が緑なのに対して、青色なのが違うが顔は似ている。


「カエル妖精ね。妖精の卵からかえしたのじゃないかしら。ゲロ子と同じ妖精がいても不思議ではないよ」


 そうクロアが青髪のカエル娘を見てそう言った。ゲロ子は同じ種族を見て複雑な面持ちだ。


 青年の名前はハビエル・ブラント。イヅモ神殿魔法研究所に勤める研究者だ。カエル妖精の名前は『ナナ』と言うらしい。


「で、ハビエルさん。なんで俺に会いたいのですか?」


 右京は強引に会いに来たハビエルという青年と話すことにした。面接が終わるまで別室で待たせたのだ。会うのは自分と、興味があると言って一緒に来たクロアである。イヅモ神殿魔法研究所の学者がこんな強引に自分に会いに来るというのに興味をもったのだ。また、自分とカエル妖精を使い魔としていることも理由の一つだ。


「右京さん、どうか僕の合体魔法研究室を救って頂けませんか?」

「合体魔法?」

 

 ハビエルにそう言われても事態が飲み込めない。まずは合体魔法というのが何かを知りたいところだ。ハビエルの説明では、物と物を融合させることができるのだという。


「論より、証拠と言います。簡単にできる実験をしてみましょう」


 そう言うとハビエルは相棒のナナに目配せする。ナナは表に待たせてあった馬車から、大きな壺を運ぶように言いに行く。やがて、運ばれてきた壺は洗濯機くらいの大きさ。ここへハビエルがスプーンとフォークを入れる。


「この状態で砂鉄、銀、黒檀を入れます。そして、合体魔法を発動させます」


 ハビエルとナナが壺に手をかざす。蓋をされた壷から赤や青色の煙が上がる。5分ほど経つとハビエルは蓋を取って、中のものを取り出した。


「これが合体魔法でできた品です」


 スプーンの先がフォークになったものを手に取った。いわゆるラーメンフォークである。


 ちょっと驚く右京たち。


「なんか微妙でゲロ」

「いや、これは使えるんじゃない? ねえ、ダーリン」

「うむ。ハビエルさん、もしかしたら、この研究、アイテムを合成する研究だったりして?」


「さすが、右京さんです」


 ハビエルは説明をする。合体魔法は物質と物質を融合させて、全く新しい品物を作り上げるものである。特に金属同士の物を合体させることで、形の融合だけでなく、性能の強化ができるというのだ。


「なるほどでゲロ……。うまく使えば武器を合体させて、強い武器を作ることができるでゲロ」


「そうなんですケロ。教授の研究は大変意義があるのですケロ」


 ナナの『ケロ』とゲロ子の『ゲロ』でなんだが騒がしい。ナナが言うように、これは武器を商売としている右京には大変、興味深い話である。


「じゃあ、ロングソードを2本入れて、その合体魔法を使えばバスタードソードになるとか? アクッス2本入れたらバトルアックスになるとか?」


「理論的にはできます。というより、合体した武器はその攻撃力が合計されて、攻撃力が上がるのです。それにより形状が変わり、新しい武器に生まれ変わります。場合によっては魔法の力を持つようになることもあります」


「それはすごいでゲロ。それさえ、あればクズ武器もすごい武器に生まれ変わるでゲロ」


「そうだな。そういう可能性もあるということだ。でも、俺に会いに来たということは、そんな簡単な話じゃないんだろ?」


「さすが、ダーリン。甘くないことに気づいたね」


 右京とクロアに見抜かれて、ハビエルは苦笑した。現段階ではそのとおりなのだ。


「これを見てもらいましょう」


 ハビエルは短剣とロングソードを壺に入れる。そして、また材料をいくつか投入して、合体魔法を発動させた。


「この魔法は大変繊細で、作るものが大きく、複雑なものほど物質の再形成が難しいのです。また、武器の同士の相性や触媒となる物質の種類、量により変化します。それは大変デリケートでほとんどの場合は失敗します。こんな風にね」


 ハビエルが蓋を開ける。ナナが先ほど入れたロングソードを取り出した。一見、元のロングソードのように見えたが、触ると刀身が粉々に砕けてしまった。


「成功する確率は?」

「まだ10%いきません。ですが、入れる触媒の種類や量については研究の成果でおおよその結論は出ています。あとは実験を繰り返すのみだったんですが……」


 ハビエルは悲しそうに言葉を中断した。急に涙を流して右腕でゴシゴシと顔を拭っている。代わりに使い魔のナナが続ける。


「教授はクビになってしまったのですケロ。成果がでないからという理由ですケロ」


 神殿魔法研究所は、魔法アイテムの研究をいろいろとしているのだが、定期的に費用対効果を検証し、効果がないと判断すれば研究を打ち切るのだ。打ち切り申請は町の行政府に提出され、審議のあとに執政官がサインすれば成立。研究していた研究室は取り上げられ、研究者はクビになってしまうのだ。


「あと少しなんです。あと少しで謎が解明されて、成功率も飛躍的にあがるはずです。どうでしょうか。右京さんが出資してくれれば、研究は成功します。成功すれば、右京さんの商売にも大きな利益をもたらすはずですが」


「なるほど……」


 ハビエルの研究はあともう少しのところまで来ていた。これが成功すれば、中古武器を買取り、付加価値を高めて売るというビジネスモデルを促進できる。今は右京のアイデアとカイルの修理技術で武器を改造しているが、魔法で合体させることで武器の性能アップを図るという方法もあればいいに違いない。


「どうでしょうか? 出資していただき、研究する場所を作っていただくことはできませんか? 僕はこの研究に生涯をかけています。これはとても重要な魔法技術だと思うのです。お願いします!」


「お願いしますケロ」


 ハビエルとナナがそう言って頭を下げる。お願いしますも何も、これはチャンスだと右京は思った。


「いいでしょう。カイルの工房エリアに使っていない部屋があります。そこを研究室にしましょう。神殿の研究室から必要な道具を運んでください」


「ありがとうございます」

「ありがとうでケロ」


「ダーリン、いい判断ね。クロアも協力するよ。この研究、とても可能性があると思うよ。いくら費用対効果がないと言っても、それは神殿だからであって、商売する方から見れば、やめるなんて信じられない研究だとクロアも思うよ」


 そうクロアも太鼓判を押した。武器を合体させて性能を上げるなんて技術が完成したら、そこから得られる利益は莫大なモノになるに違いない。こんな貴重な研究を中止するとは、神殿の魔法研究所や出資している行政府は馬鹿だと思う。


 決定のサインしたのは執政官のステファニー王女であるが、それは置いておこう。右京のこの判断のおかげでステファニーは自分の身を助けることになるのだが、ハビエルが右京の元へ来たのはステファニーのサインだったから、結果的に天然おバカ王女様は自分で自分の運命を切り開くことになる。


「それにしてもハビエルさん。同じカエル妖精でもあなたのナナちゃんは、礼儀正しくて働き者ですね」


「そうでしょうか。使い魔は大抵、ナナのように忠実でよく働いてくれるものですが」


 右京はゲロ子の方をちらりと見た。


「例外もいますよ」

「大きなお世話でゲロ!」



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