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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第14話 放浪のレイピア(キング・エスパダ・ロペラ)
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国王崩御

王国には高位の貴族、神官、学者、軍人等の代表7人からなる『元老院』がある。王位の継承については、王室典範に則り順位が定められているので口を出す権限はないが、王が政治をするにあたって無視ができない組織であった。


各権力組織の代表として送り込まれ、元老院議員は定期的に改選されている。任期は4年。2期以上の多選は禁止されているので、国の将来を考えた視点で国王に意見することができた。

 

これは建国の祖であるアイゼルク・イワン・ド・オラクルは自分が国王になった時に、無能な者が王になった時のことを考えて作ったシステムである。ちなみに初代王であるアイゼルクは、勇者で魔物の土地であったこの国を平定し、人間や亜人間が平和に暮らせる国を建国したのだ。


その際に彼に協力したのが、クロアの祖先のバーゼル家の人間であった。魔物側であったバンパイア族を人間側につかせ、強大な魔力でアイゼルクを助け、友と言わしめることになった。初代国王アイゼルク一世は、末代に渡ってバーゼル家を大切にし、王族と同等の扱いをせよと遺言していた。


初代の遺言であるので、それは重要な不文律として残り、バーゼル家の人間が王位継承権に加わるのが常であった。


「陛下はもうだめだろう。これはオラクル王家にとって最大の危機である」


 元老院議長はそう他の議員に意見を求めた。王が崩御すれば順位に従って即位するのだが、高齢の国王の息子である皇太子までが病で危篤。その皇太子の嫡男は、放浪の旅に出たまま行方不明というのだ。このままでは、第3位の王女ステファニーが女王として即位をすることになるが、まだ20歳になっていなく、女王たる資質もないというのが元老院の結論だ。


「ステファニー様の即位はやむを得ない。問題は政治が滞らないように周りのサポート体制をしっかりしないといけない」


「現在も内務省と軍から優秀な人材を補佐としてつけている。そこのところは、よいが問題はステファニー様の伴侶となる男の選定だな」


 議員の関心はそこである。女王となるステファニーの夫は、立場的には王と同じである。そこには権力が生じ、下手な人間がなると動乱のもとになる。現に既に、貴族の間では、ステファニー王女の相手に自分の息子を推薦する動きがあり、特に王位継承権6位のモンデール伯爵は水面下で運動をしているという確かな情報もあった。


「モンデール伯爵は、先のオースティン公爵の反乱の首謀者の関係者と疑われたが、証拠不十分で逃れた男だ。今は謹慎しているらしいが、そんな男をステファニー様の夫とするなどありえない」


「だが、結婚相手の問題は重要だ。ここにいる元老院議員の支持組織から選ばれれば、それだけで均衡が崩れよう」


「どうじゃろう。ここは古式に則して結婚相手を選んでは?」


 学者代表の議員がそう口を開いた。80を超える老人で国の歴史を研究している学者だ。王国の故事については右に出るものはいなく、王国の生き字引と言われている。


「4代目女王アルフリード陛下が婿を迎えるにあたって、当時の貴族の決闘方法を使って選んだという事例がある」


「ほほう……」


 各議員は学者議員の話に聞き入る。4代といえば、現在が12代であるから、300年以上前の話だ。当時の女王アルフリードは、泥沼の上に築いた一本の細い橋上において、レイピアを用いた決闘大会で夫を決めたという。


 国中から集まったレイピア使いがトーナメント形式で勝負し、優勝した男と結婚したのだ。女王と優勝した男との間には6男7女の子宝に恵まれ、その子供たちはみんな優秀な人物となって、まだ建国して不安定であったこの国を盤石なものにしたと言われている。


「王女との結婚をかけて決闘というわけか?」

「大丈夫かのう。剣術バカが勝つことになりはせんかい?」


「レイピアを使った競技という点で、品性や家柄はある程度担保されよう。卑しい平民が勝つことはありえない」


「ちょっとまて。卑しい平民とは聞きづてならないな」


 貴族議員と商工会代表議員の間で反目が起こるが、ここは議長が介入してことを収める。


「最近の王家は近親婚が原因か体の弱い後継者、能力の低い後継者しか生まれていない。そろそろ、新しい血を入れるべきではないか? 国王陛下の状態も緊急を要するし、崩御されて王位が空位となるのは避けたい」


 そう言って競技方法について条件を付けた。競技者は現王位継承者や元老院議員が推薦する8名の剣士をもって行う。出場する剣士の出自は問わないが、品性や人間性については推薦人が責任を負うということで決着がついた。元老院の意見を議長が代表して、国王に伝えることで会議は終了した。



 病床の王は苦しい息をしながら、自分の寿命がもうすぐ終わることを自覚していた。病気とか怪我とかでなく、老いで死ぬのだ。大往生だと自分でも自覚していた。目を開けると心配そうに見守る側近と孫娘のステファニーが確認できた。

ステファニーは側近と共に駆けつけていた。通常なら1週間かかるところを3日でやってきたのだ。


「ステファニー……戻っていたのか」

「はい、おじい様」


「そうか、そうか」


 そう言うと側近の一人を呼んで耳元でなにかを囁いた。側近はそれに対し、首をゆっくりと振った。以前から王に命じられていたことだが、進展がなかったのだ。側近の返事に王は深くため息をついた。


「陛下……ご相談が」


 そう元老院議長が国王に元老院の意向を伝えた。王はしばし考え、少しだけステファニーの方を見てから短く、「進めるように……」と答えた。あらかじめ用意した命令書にサインをする。


「ステファンの容態はどうじゃ」


 そう国王は皇太子の容態について尋ねた。皇太子ステファンも数日前から危篤であると聞いている。死ぬのも時間の問題であろう。皇太子の容態について医師が報告すると国王はゆっくり目を閉じた。アイゼルク12世が崩御したのは、この数時間後。後を追うように息子のステファン皇太子も病死した。予期はされたとはいえ、王に皇太子まで亡くなってしまったのだ。


 国にとって緊急事態とも言えるできごとであったが、それでも葬儀は淡々と行われ、国民も悲しみ、喪に服したのは王の統治がよかったことの証明であった。この機に事を起こす勢力も、オースティン公爵の反乱時に一掃されていたので平穏であったのだ。

 

 葬儀を終えて2週間が経ち、王女ステファニーは元老院議長から衝撃的なことを聞く。王も皇太子も不在で、政治は大臣と元老院がステファニーの決裁を得て進めていたのだが、そろそろ、誰が王の座を継ぐかという結論を出さないといけないのだ。


「わ、わたくしに女王になれですって!」

「左様でございます」


「いや、絶対嫌。お兄様がいらっしゃるではありませんか」


「国王が崩御されたというニュースは国内くまなく伝わったにも関わらず、スチュアート様はご帰還されておりません。やはり、放浪した先でお亡くなりになったのではというのが、我々家臣の判断です」


「そんなの勝手に決めないで! わたくしの意見はないのですか?」

「これはお亡くなりになった国王陛下の意志でもあります」


「そ、そんなあ……」

「それとステファニー様。即位の前にご結婚していただきます」


「は?」

「ですから、ご結婚です」

「だ、誰と?」


「これから決めるのです」


 そう元老院議長は事もなげに言った。そして相手はレイピアによる剣術トーナメントで決めるということも告げた。これはなくなった国王の命令であり、遺言でもあるという言葉も添えられていた。これは意見ではなく、決定事項なのである。ステファニーは固まる。祖父や父が死んでまだ、そのショックから立ち直らないうちにこの状況だ。まだ、19歳の王女には受け入れ難いことだ。


「嫌です。わたくしには好きな人がいます。その人じゃなければ嫌!」

「ステファニー様。わがままを言わないでください」


「嫌なものは嫌。どうして剣術で優勝した男と結婚しなくちゃいけないの! そんな剣術バカは絶対に嫌」


「ステファニー様。出場者はステファニー様好みのイケメンを揃えますので」

「え、そうなの……って、絶対嫌、イケメンなんて嫌いなの」


 ステファニーが思いがけないことを言ったので、元老院議長は王女もいい年の女の子なので好きな男でもできたのかと思った。しかし、王家の人間には個人の感情などは別途にして、国のためという宿命がある。ステファニ―王女には気の毒だが、国のために耐えてもらうしかないのだ。


「カンサク秘書官、サンケス大尉。何をしている。王女殿下はお疲れだ。部屋にお連れしなさい」


 そう議長は側近の青年2人に命じた。カンサクもサンケスも議長に命じられては、職務を果たすしかない。駄々をこねるステファニーをサンケス大尉が抱えて、部屋に戻る。わんわんと泣くステファニー。さすがに2人の青年は可哀そうに思った。


 肉親が死んで悲しんでいるのに自分の結婚も勝手に決められるなんて、いくら王族でも同情する。だが、国のために己の感情を抑えるのも王族が王族たる所以である。それにしても相手を剣術で決めるといういい加減さには、合理的な考えができる2人も納得がいかない。一応、4代女王の故事に習ってのことらしいが、今の世の中に通用するとは思えないのだ。


「それにしても王女さんが好きという男は、やっぱり、あの男か?」

「ああ。たぶんな」


 2人はステファニーが執政官として赴任先をイヅモの町にしたことや、武器の買取り店の店主と親しく交わっていることを知っている。



「わーん。アリッサ、わたしくしはもう死にたいです……。好きでもない相手と結婚させられるなんて絶対嫌。死んでやる!」


「確かに結婚相手をレイピアの競技で決めようなんてひどすぎると、アリッサも思います。しかし、ステファニー様。死んでやるとは穏やかではありませんね」

 

 アリッサはベッドでうつ伏せになり、じたばたと両手足を動かしているステファニーを冷ややかに見ている。普通、主人が死んでやると言ったら、侍女なら心配するものだがステファニーのこの行動は良く目にする光景なので慌てていないのだ。


「今度は本気よ。窓から飛び降りてやる!」


「ステファニー様。飛び降りると頭から落ちるそうです。スイカが割れるみたいに頭が割れるそうですよ」


「え……っと。血がいっぱい出るかな?」

「出るどころではありません」


「では、首をロープでくくります」


「それだと息ができずに苦しむそうですよ。ステファニー様、息を止めてみてください」


「そんなの簡単だわ……。うっ……」

(1分経過)


 ステファニーの顔が真っ赤になる。鼻をつまんで耐えるが、それも無駄な抵抗であった。


「ぷはあああっ……。く、苦しい」

「ステファニー様。首をくくるとその苦しさの100倍と申します」


「じゃあ、辞める。そうだ、毒薬を飲んで死のうかしら。あれならきれいに死ねるわ。演劇でやっていましたもの」


「それは劇だからです。本当は苦しそうですよ。胸が火で焼かれたようになるという話です」


「ううう……」


 ステファニーが死にたいとか言うのでたしなめたアリッサだったが、本当にこの王女が死んでしまわないように手を打つことにした。それにいくら王族と言っても、幼馴染のアリッサにはステファニーが可哀そうだと思ったし、競技の優勝者と結婚することは、その賞品になったような気がして同じ女性として許せないという感情も湧いてきたのだ。


「ステファニー様。あきらめることはありません。こんな方法はどうでしょう」


 アリッサはステファニーに耳打ちをした。話を聞いているうちに、だんだんと表情が明るくなってくる。


「アリッサ、それは名案です。それでいつ行うのですか?」


「やるなら今晩です。カンサク秘書官とサンケス大尉は優秀ですから、今晩やらないとチャンスはないと考えます。ステファニー様の態度から、まさか今晩やるとは思わないでしょうから」


「わかりました。アリッサ、任せます」


 ステファニーはそう侍女に命じた。この判断の早さはステファニーの賢さというより、尻の軽さによるところが多かったが、優秀な侍女のおかげで実行は成功する。

 



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