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崩壊した世界

音子ねこ、グレイト・ブラッドソード・コレクションにこんなエリアはあったか?」

 

 右京はそう視線を動かさないで音子に尋ねた。日本で見慣れたコンビニの派手な看板をこの世界で見るとは思わなかった。店内は略奪で見るも無残に破壊されていたが。


「ない。こんなところはない。それに……」


 立ち尽くす音子。この光景をいつも見ていた。音子が晴嵐学園に通うときに通った地下街。右の角にあるコンビニは学校帰りによく立ち寄った。お向かいにあるハンバーガーチェーン店は、生徒会のメンバーと会議と称する夕食前のカロリー補給をした。その隣の焼きたてのパン屋では、チョコドーナッツをよく買っていた。夜遅くの勉強時に食べる夜食の定番だったのだ。


 そんな見慣れた地下街が廃墟となって目の前にある。人がいなくなってしばらく経った感じだ。壊れた店舗、散らばった商品がそれを感じさせる。商品によってはまだ使えそうなものもあることを思えば、何十年と経過した感じはない。


「ここがダーリンと音子ちゃんが住んでいた世界? なんか不思議ね」


 クロアが店先にあった靴の片方を摘んでそう言った。靴屋であったであろう店は靴が数足転がっていた。略奪にでもあったのか商品は根こそぎ無くなっている代わりに、棚や壁が壊されている。


「ここは私が住んでいた町の地下街……。間違いない。でも、どうして?」


「廃墟とは言え、この状態はせいぜい数ヶ月経ったって感じだ。この世界が俺たちの住んでいた時代の未来だったみたいなSF展開ではなさそうだ」


 何か手がかりはないかと右京はコンビニの中に入った。ゲロ子がポンと右京の肩から飛び降りる。


「ゲロゲロ……。主様、新聞があるでゲロ」


 ゲロ子がコンビニの中で新聞を見つけた。食料や飲料、生活用品は奪い去られたが雑誌や新聞は置いてある。非常時にそんなのものを持っていく奴はいないであろう。新聞には燃える都市の写真が大きく掲載されている。そして『地球最後の日。人類は生き残れるのか?』という見出しが踊る。右京は新聞の日付を見て驚いた。


 2026年6月18日とある。その年号は、右京が飛ばされた時から10年が経過していたからだ。これは何かの冗談かと右京は思った。


「10年後の日本だと? それがどうしてこの世界のダンジョンにあるんだ。これはどういうことだよ。それに日本が、世界が滅びたってどういうことだよ?」


 右京は新聞を食い入るように読む。音子が心配そうにそんな右京を見つめる。思いがけない展開に頭が整理できていないようだ。

 



毎朝新聞朝刊 2026年6月18日 最終版


『地球最後の日。人類は生き残れるのか。突然、現れた異形のモノによる人類への攻撃。わずか1週間で我々人類は全滅の危機を迎えた。米国は異形のものへの核兵器の使用を決めたが行使することなく沈黙。もう1週間も諸外国との連絡が一切取れていない。

日本国政府は昨日、全国民に対し、行政権の放棄を宣言。今後は個人の責任による避難をするよう宣言した』


 淡々と事実のみが書かれた記事。そして最後は記者の思いが綴られている。


『国民の皆さん。生き残ってください。本紙はこれが最終となります。知り得た情報は全紙面に掲載されています。生き残るためにご活用していただくことが我々新聞社の最後の使命です。さよなら、皆さん。そして、少しでも長く生きられますようお祈りいたします』



 あとは前日までに新聞社が知り得た情報が書かれてあった。ここまでの1週間の出来事が書かれてある。右京は信じられないと目を皿のようにして字を読む。だが、その作業は中断することになった。外を警戒していたヒルダとクロが、地下街の奥からこちらへ向かってくるものに気がついたのだ。


「うー。わんわん……」

「大変です、大変ですうううう……」


 それは集団で近づいてくる。ヒルダが空中を飛びながら、敵の正体を報告する。


「生ける屍が20体。ワイトが5体。ジャイアントゾンビが2体です。あと……小さい、人形のようなもの」


「人形だって!」


 オーリスが叫んだ。剣を抜いてコンビニの外へ飛び出る。表情は厳しく、近づいてくる敵を確認すると自分に匹敵する強さを持つクロアに声をかけた。


「クロアさん。人形が混じっている」

「まずいわね……」


 いつもどこか余裕のあるクロアの表情も硬くなった。右京とホーリーに店の奥に入るように指示した。店に立てこもって戦おうというのだ。


「人形って……まさか」


 キル子が隣で剣を握るオーリスに小声で尋ねる。もし、近づいてくる敵が、キル子の懸念しているモンスターだとしたら、死を覚悟しなければならない敵なのだ。


「キラードールだ」


 オーリスはそう視線を外さずに言った。キル子は無言で頷いた。両手に持ったアシュケロンをさらに強く握る。キル子の視線の先には小さな人形がひょこひょこと歩いている光景が映し出される。ゴスロリ服に身を包んだ女の子の人形。手にはハサミを持っている。


「キラードールでゲロか……」


 ゲロ子が右京の肩でブルっている。それ以上、右京に話さないところを見るとかなりやばい奴なのであろう。見かけは小さな人形だ。一緒に歩いているジャイアントゾンビの方が巨大なウォーハンマーを持っているから危険そうだ。


「ダーリン。ここはクロア最大最強の魔法を使うよ。ヒルダとクロは炎で他の敵の侵入を阻んで。オーリス、キル子、音子ちゃん、詠唱まで時間がかかるよ。1分。1分だけ時間を稼いで」


「了解した。霧子さん、敵は速い。気をつけて」


 オーリスはそうキル子に声をかける。敵を足止めすることに徹するが、キラードールは気が抜けない敵である。なぜなら特殊攻撃に一撃をもっているからだ。油断をすれば勇者といえども、首を切り落とされて一撃で倒されるのだ。これは冒険者にとっては大変な驚異だ。


「分かっている。アシュケロン、あたしに力を貸して」

(はい、ママ)


「私は何をすればいいの?」


 音子はショックで放心状態であったが、クロアに叱咤されて短刀を抜いた。それをクロスさせて身構える。今は戦うしかないと集中力を高める。


「キラードールから目を離さないで。アイツは危険だ」


 キル子はそう音子に注意を促す。音子は強いがモンスターとの戦いには経験があまりないのだ。キル子はアシュケロンを中段に構えた。クロとヒルダの魔法で周りのアンデッドを足止めして、クロアの強力魔法で殲滅する。それを破ろうとするキラードールを近づけさせないのが前衛3人の役目だ。


グアアアアアアッ……。

おおおおお……


 うめき声と咆吼が交差し、右京たちにアンデッドが向かってくる。ドシンドシンと巨人の振動が地面を通して足から伝わる。店の奥にいるホーリーは、近づいてくるモンスターの叫び声に耳をふさぎたい思いであった。


 それに耐えるために右京の背中に寄り添い、シャツを両手でギュッと握っている。右京も怖いと思ったが、そんなホーリーを背中で感じ、ここは男として強くあらねばと勇気を振り絞った。


「クロ、ファイアブレス!」

「うおーん」


 クロが火炎のブレスを吐く。たちまち、動きの鈍い生ける屍が炎に包まれる。さらにヒルダが炎の障壁魔法を唱える。右京たちが立てこもるコンビニの20m先に炎の壁ができる。これでアンデッドは入って来れない。


ボスッ……。


 何かがその炎の壁にに突っ込んできた。そして燃え盛る壁を打ち破り、疾風となってこちらに襲いかかる。


(ママ、危ない!)


 アシュケロンの叫びでキル子は寸前で剣を胸元で立てた。キンっと音がして何かが弾かれる音がする。キラードールの攻撃だ。必殺の一撃を狙ってキル子の首筋を狙ったのだ。キラードールが持っている武器はハサミ。体と同じくらいのハサミだ。それで首の急所を刺したり、ハサミで首を切り落としたりする恐ろしいモンスターなのだ。


「速さなら負けない!」


 音子が高速移動でキル子を仕留め損なったキラードールを追う。両手に持った短刀で攻撃するが、キラードールはハサミでそれを受ける。四方の壁を蹴り、キラードールと音子の高速の攻防が続く。


「そこだ!」


 気配を感じてオーリスの剣撃がキラードールに向かうが、かろうじてかわすキラードール。壁を蹴ると魔法の詠唱を続けるクロアを襲う。だが、その攻撃は音子が撃退する。くるくると回って音子の短刀による連続攻撃をかわしたキラードールは、狙いを無防備な右京とホーリーに定めた。


「ケケケッ……」


 キラードールの顔は無表情ながら、口元がちょっとだけ上に上がった。


「主様、危ないでゲロ!」


 首筋に風を感じた右京。同時に金属の冷たい感触を一瞬だけ感じた。首を挟まれ、刃が合わさる瞬間にゲロ子がキラードールに体当たりしたのだ。キラードールは不意を突かれて地面に転がるが、その前にぶつかったゲロ子をハサミで刺したのだ。


「ゲロゲロ……」

「ゲロ子~っ」


 地面に倒れるゲロ子。右京は地面に倒れたゲロ子を手のひらに載せる。胸から血を流している。ぐったりしているゲロ子。いつもぺしゃんこにしたり、ぶっ飛ばされたりしてもへっちゃらなゲロ子が動かない。


「くそっ! この人形め」


 キル子がアシュケロンでフラフラと立ち上がり、また空中へジャンプしたキラードールを斬りつけた。それは見事に命中して胴が二つに割れ、剣擊の勢いで体ごと炎の壁の中へ消える。同時にクロアの魔法詠唱が完成する。


「……今、ここに大いなる力をもって、われの剣となりて禍を絶たん。全てを焼き尽くせ!『ジェノサイド』」


 敵モンスターの中心に光の球体が現れる。それはどんどん大きくなり、そして敵を包み込んだ。その球体に包まれた敵に摂氏10万度の熱が襲いかかる。その攻撃にはどんな敵も蒸発するしかない。10秒ほどで光る球体が消えた時には、周りに静寂が訪れた。


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