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悪魔の目玉との戦い

 暗闇のダンジョン……そう冒険者ギルドに命名されたダンジョンは、最近になって見つかったものだ。ダンジョンは過去に栄えた文明の遺跡が封じられたもので、金銀財宝から魔法具までたくさんのお宝があることが多い。


冒険者ギルドでは見つかったダンジョンを記録し、管理することで冒険者をサポートしていた。冒険者ギルドが管理するダンジョンは70程あり、40程が攻略済みである。攻略済みのダンジョンは、そこに巣食うモンスター退治をすることを目的に経験値稼ぎをしたい冒険者が挑む。


ギルドも討伐した種類数によって報酬を出す。また、未回収の宝物も数多くあるので攻略済みダンジョンも冒険者にとっては重要な『飯の種』である。また、攻略済みでないダンジョンは、新しいエリアの地図情報やモンスター情報がギルドに売れることもあって、多くの冒険者が挑んでいた。


冒険者ギルドはダンジョンに挑めるランクを設定していて、冒険者が死んでしまわないように配慮しているが、不運が重なって帰らぬ人となる冒険者もいる。

冒険者ギルドに断らずにダンジョン攻略することもできなくはないが、情報が得られない上にそれをすることは、ギルドからの追放とブラックリスト化、さらに常習だと逮捕命令までされるので、多くの冒険者はギルドを通すのが常識であった。


 『暗闇のダンジョン』という名前は、ダンジョンなら暗闇で当然だろうと思われ、ネーミングとしては特徴がない。だが、それはこのダンジョンが謎に包まれていることを意味している。出てくるモンスターは『アンデット』系が多く、レベルも高いモンスターが最初から現れる。そして見つかった場所もこれまでに何度も捜索されたエリアで、今になって見つかったことが不思議であった。いろんな意味で『暗闇』なのである。


 右京たち伊勢崎ウェポンディーラーズのメンバーは、その暗闇ダンジョンに足を踏み入れた。入口から人が横並びで武器が使えるくらい幅の通路が1キロも続く。道はフラットで石造り。壁も天井も石造りだ。真っ暗なので松明などの照明が必要である。


一応、列の中間に位置する右京が松明を持っているが、先頭から20m先にクロアが召喚したウィル・オー・ウィスプの精霊が先行して進んでおり、後方にはホーリーが唱えたライトの神聖魔法で光るメイスがあるので、全体的に明るい。

 

 暗闇のダンジョンとは言っても、これだけ明かりがあればあまり不気味ではない。また、今回、右京は黄泉の国から連れてきたケルベロスのクロを護衛にしている。この犬は見た目は子犬だが、火を吐くことができる。右京の命令で動くから右京の攻撃手段となる。このアンデッドが集うダンジョンに、黄泉の国の番犬は頼もしい戦力だ。

 

 この暗闇のダンジョン。出てくるモンスターは気持ち悪い。最初に出くわしたのはグール。食屍鬼と称されることもあるが、魔法で動かされているゾンビよりも強力なモンスターだ。15体も出てきたが、前衛のオーリスとキル子の剣戟とクロアとヒルダの火炎魔法で問題なく排除した。


 次にたどり着いた部屋には、棺桶が20程置かれ、お約束のように蓋がズズズ……と開くとマミーが現れた。これは音子が高速移動で両手の短刀で10体程の首を落とし、右京の命令でクロが火炎のブレスを吐いて勝負は決まった。


「今のところ、順調だけどそろそろじゃないのか?」


 右京が冒険者ギルドから受け取った地図を広げて確認する。ここまで歩き続け、3つの部屋を突破してきた。入ってから12時間は経過している。右京たちの目的は下の階へ降りる階段の発見。真っ直ぐ、その階段室があるだろうという部屋までやってきたのだ。


「あと100mで行き止まりでゲロ。いよいよ、悪魔の目玉との戦いでゲロ」


「作戦を確認しよう。一番の攻撃目標は悪魔の目玉。15分以内に倒さねばならない。僕と霧子さん、音子さんで直接攻撃します。クロアさんは魔法でサポートしてください。ヒルダさんとクロで周りのスペクターを排除。ホーリーさんは回復魔法と防御魔法に徹してください」


 そうオーリスが作戦を確認する。戦闘では一応、彼がリーダー役をしている。経験からしてもそうだろう。右京はショートソードを持ってはいるが、戦いは素人なので直接戦闘には参加しない。クロを操りつつ、全体を見て指示することに徹するが、正直、この戦いには参加したくない。ゲームと違ってリアルはグロいのだ。


 右京はリアルグールとか、リアルマミーなんか、腰を抜かしそうになったが、戦闘慣れしていないホーリーが健気に頑張っているので、何とか耐えているのだ。同じ、異世界に飛ばされた音子が顔色変えずにマミーの首を飛ばしていることには感動すら覚える。


「では、いきましょうか」


 オーリスが扉に手をかける。右京に顔を向ける。右京は決心して叫ぶ。バンジージャンプで空中に飛び出すような感覚だ。


「みんな行くぞ!」


 扉が開かれた。中はちょっとした体育館のような広い空間が広がる。奥には階段室続くと思われる扉が見える。だが、右京たちが足を踏み入れた途端にぼーっと青白い光がいくつも起こった。階段室の前には大きな光。空中に無数の光。それは形を整えると実体化していく。中央は『悪魔の目玉』そして空中はスペクター10体。


 スペクターが襲いかかる。このモンスターの攻撃はデスタッチ。接触されると精気を奪われ、やがて死に至るのだ。オーリスとキル子が剣を振ってスペクターを斬る。オーリスが持つのは『魔法剣オーギュスト』。このダンジョンのために持ってきた対アンデッド用のロングソードだ。スペクターにも問題なくダメージを与えられる。


 キル子が持つのは両手剣のアシュケロン。これも元魔剣であり、アンデッドにも効果的な武器だ。強烈ななぎ払いで2体のスペクターが一撃で消え去る。


「我が敬愛なる女神イルラーシャ。その慈悲と愛をもって死に迷う者たちから、我らをお守りください。神々の守り手」


 ホーリーが神聖魔法を唱える。『神々の守り手』は邪悪なモンスターからの接触を防ぐ防御魔法だ。淡い光がそれぞれを包み込み、スペクターのデスタッチを防ぐ。だが、悪魔の目玉も魔法を唱える。それは召喚魔法。相手が強力な戦士がいることを察知して、自分の前にスケルトンと竜骨兵を200体も召喚したのだ。地面から次々と現れるスケルトンと竜骨兵。それが粗末な剣を振りかざして、襲いかかってくる。


「薙ぎ払え! 爆裂ばくれつ


 クロアが右手に持った杖を大きく振る。大きな炎の弾が現れ、スケルトンの群れの真ん中に落ちる。それが爆発してスケルトンと竜骨兵が吹き飛んでバラバラになる。


「聖なる炎よ。邪悪なるものを焼き尽しなさい!」

「クロ、炎だ!」

「わん!」


 ヒルダのファイアストームの魔法とクロの火炎のブレスが飛び回るスペクターを捉える。炎に包まれた黒い物体は地面に落ちて断末魔の声を上げて消えていく。だが、悪魔の目玉は無数の凍りの刃を生み出す。アイスストームの魔法である。


「ヤバイでゲロ」


 右京の左肩に乗って戦況を眺めていたゲロ子が頭を抱えてしゃがみこんだ。大小無数の氷の嵐が襲いかかる。


「神々の楯!」

「魔封の壁!」


 ホーリーとクロアが同時に防御魔法を唱える。『神々の楯』は魔法によって生じるダメージを50%緩和する神聖魔法。魔封の壁は攻撃力の70%を軽減させる見えない壁を出現させる。これにより、ダメージをかなり防ぐことができた。


 そしてまたもや、スケルトンを大量召喚する。近づくオーリスとキル子を阻む。この行動に勇者オーリスは悪魔の目玉の狙いに気付いた。


「クロアさん、魔法感知してください。この部屋に常時発動魔法がかかっているかもしれない!」


「魔法感知……」


 クロアが自分に魔法感知の魔法をかける。これにより、どんな付与魔法がかかっているのかを把握できるのだ。視界がオレンジ色になり右端に数字がめまぐるしく動くのが分かる。その数字を見て驚いた。


「大変! 時間を早める魔法がかけられているよ。この部屋では2倍のスピードで時間が経つ」


「ゲロ子、戦闘が始まって何分経つ?」


 右京はゲロ子に聞いた。戦闘に役立たないゲロ子の役割は、ご自慢の金時計でどれだけ時間が経ったのかを確認することだ。


「5分経過したでゲロ」


 右京も自分の左腕の腕時計を見る。この時計は異世界に持ち込めた数少ない現代グッズである。確かに5分18秒を過ぎつつある。


「時間が2倍進んだということは、現在、10分過ぎたことになる。あと、そいつが自爆するまで2分30秒ないぞ!」

 

 悪魔の目玉は侵入した敵の戦力が強大だと察知し、部屋全体に時間を早める魔法をかけていたのだ。通常は15分で自爆して部屋に入った者は全て無と化すのだが、今はその時間が半減している。


「うおおおおおっ!」


 オーリスとキル子が剣を振り、新たに出現したスケルトンをなぎ払い、ぶちかまし、粉々にする。ヒルダは光の矢の魔法を唱える。30本程の矢が飛び出して悪魔の目玉に刺さる。


グエエエエエエッ……。


 地の奥底から響く不気味な叫びを発して、悪魔の目玉が空中でのたうち回る。さらにオーリスが立ち止まって左の指2本を立てて額に当てる。


「我、望む。続くはイカヅチの槍!」


 額に当てた指を悪魔の目玉に向けた途端に稲妻の槍が現れて、悪魔の目玉を突き刺す。だが、まだ倒れない。


「なんて耐久力なの」


 あと少しで肉薄できる位置まで近づいたキル子は、地面の異変に気がつく。赤い円が自分たちを阻むように現れたのだ。体が反応して後ろへ飛ぶ。その瞬間に炎の柱が湧き上がった。『フレイムピラー』である。炎の柱が悪魔の目玉を守るように地面から吹き出たのだ。


「あと2分もないでゲロ。もう無理でゲロ~っ」

「これじゃ、とどめをさせないぞ!」


 右京の目の前に見えるのは炎の柱に守られたボスキャラ。柱の前にはまだ倒していないスケルトンと竜骨兵が100体は群がる。


「これで自爆まで時間を稼ぐ気か」


 炎に阻まれたオーリスも剣を構えて息を整える。時間さえあれば勝てる相手だが、あと残り時間2分を切った状態ではかなりまずい。


「ダーリン、クロに命じてファイアブレスでスケルトンをなぎ払って。ヒルダも援護魔法。ホーリーは前衛3人のダメージ回復。あたしの魔法でフレイムピラーを打ち消す。前衛3人は近づいて一気にトドメをさす。1分後に行くよ!」


 クロアがそう叫ぶ。フレイムピラーを打ち消す魔法は詠唱に時間がかかる。クロアでも1分はかかる。消した瞬間に肉薄し、倒さなければまた時間稼ぎの魔法を使われるかもしれない。勝負は一瞬だ。クロアの格好は黒いローブに黒いうさぎの帽子、『絢爛の杖』と呼ぶ魔力をブーストする効果のある杖を装備している。


「クロ、ファイアー!」

「わん」


「ご主人様、わたくしも加勢します。炎の精霊、イフリート。その怒れる力で敵を薙ぎ払え! ファイアーロード!」


 クロの炎とヒルダの火炎魔法が炸裂する。スケルトンと竜骨兵が灰と化す。そして、同時にクロアの魔法が完成する。


「この魔法の前にはすべての活動は停止する。絶対零度コキュートス!」


 クロアが杖を左から右へ払った瞬間、炎の柱が凍りついた。そして、次の瞬間に粉々に砕け散り、細かい銀のチリとなって空中を舞う。両手に短刀を持った音子が消えた。魔法アイテム『火渡りのブーツ』で高速移動したのだ。次の対抗魔法を唱えようとした悪魔の目玉は呪文詠唱することができなかった。音子はその巨大な瞳を2つの短刀により賽の目に切り刻んだのだ。その攻撃、左斜めに6斬、右斜めに6斬。合計12斬。


「斬・百花繚乱!」


「一閃!」


 音子の攻撃が終わった瞬間に、横真っ二つになる悪魔の目玉。オーリスの必殺の一撃。さらに上空に飛び上がったキル子。両手で持った大剣アシュケロンが輝く。


「ママ、行くよ!」

「アシュケロン、あたしに力を! 脳天唐竹割り!」


 縦に真っ二つ。キル子が地面に着地した時に、悪魔の目玉は4つに分かれ、そして、さらに賽の目に崩れていった。


「倒したでゲロ。残り13秒だったでゲロ」


 ゲロ子がへなへなと右京の肩で腰を落とした。危ないところであった。この強力パーティでなければ、自爆に巻き込まれてあの世へ行っていただろう。


 チリン……と空中から鍵が落ちてきた。扉を守るガーディアンを倒したことで発現したのであろう。流れから行っても奥にある扉の鍵に違いない。




 鍵を手に入れてホッとする間もなく、右京たちは鍵で扉を開ける。予想通り、階段が現れた。それを降りていく。まるで地下鉄の駅へ降りる程度の階段を下りると衝撃の光景が広がっていたのだ。


「ば、ばかな!」

「なんで?」


 そこは都会の地下街。ハンバーガーチェーンやコンビニ、カフェや服屋の廃墟。人っ子一人いない空間が寒々と続いていた。



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