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オークションを終えて・・・

「ク、クロア!」

 

右京は思わず黒髪幼女に向かって声をかけたが、幼女は人差し指を唇に当てて、(しーっ)という仕草をした。クローディア・バーゼルことクロアは、19歳の美少女であるが、魔法の副作用でくしゃみをすると5歳くらいの体になってしまうのだ。


「クローゼット・ホルンさんが落札です」


 司会者がそう結果を告げる。音子ねこは買えなかったことがショックで、メソメソと泣き始めた。右京の服の裾を掴む手がブルブルと震えている。そんな音子の手をギュッと右京は握った。泣いている音子ねこは、びっくりして右京の顔を見る。右京は音子に笑顔を見せた。


「音子、大丈夫だ。あの子は俺の友達なんだ。俺たちのために競り落としてくれたのだよ」


「え?」


 キョトンとした顔になった音子の手を引っ張って、右京は黒髪幼女のところへいく。クローゼットと言う名は偽名だ。クロアは王族で貴族の勢力争いで命を狙われることが多く、その度に撃退しているのだが、いくら無敵のバンパイアのクロアでも面倒なので子供に変身していたのだ。仮に襲われても強力な魔法が使えるから問題ない。上手に魔法の副作用を使いこなしている。


「ダーリン、その子がダーリンと同じ世界から来た女の子?」


 クロアはそう音子ねこを見上げて尋ねた。音子は幼女に(その子)と言われて、混乱している。こんな小さな子供が上から目線なのだ。だが、それに反発する気が起こらない。幼女だが存在は小さくない。音子はクロアがもっているオーラを感じとっていた。


「音子、この子、今は小さいけれど、正体はクローディア・バーゼル。イヅモの町で魔法のアイテム屋を経営しているバンパイアだ」


「え……この人が?」


 魔法アイテム屋のクローディア、通常『クロア』なら音子は知っている。自分と同じくこの世界に飛ばされてきたオーガ加藤を倒した人だ。


「ちゅ、中ボス……」


 この世界がゲームであると主張している音子には、クロアは「中ボス」という位置づけだ。倒すべき敵なのである。でも、目に前にいるのはいたいけな幼女で中ボスという雰囲気は全くない。オーラは間違いなく『ボスキャラ』ではあるが。それに彼女はオークションで宝石を競り落としてくれた恩人である。


「中ボスとは失礼な子だね。ダーリン、躾がなっていないわよ」


 小さなクロアは音子ねこの言葉を聞きつけた。その目力だけで音子はビビった。音子もこの世界では魔法アイテムを持った優れた戦士なのだ。クロアの戦闘力を感じて、これは逆らってはいけないと賢明な判断をした。クロアと戦闘になったら、キル子の比ではないだろう。


「クロア、正式に紹介するよ。こいつは中村音子なかむらねこ。俺と同じく、この世界に飛ばされてきた子だ。おい、音子、自己紹介とお礼をしろよ」


「あ、はい。中村音子です。あ、ありがとうございました」

「うん。素直でよろしい。はい、これ。欲しかったんでしょ」

 

 そう言ってクロアはポンとブルーサファイヤのペンダントを投げてよこした。それを受け取る音子。これをボスワースのところへ持って行って、杖に加工してもらえば、あと一つ。ウルドの石を手に入れれば完成する。


「ありがとう、クロア」

「あら、ダーリン。クロアはタダではあげないよ」

「ゲゲゲ……血かよ」


「ふふふ……。1万2千G分吸ったら、ダーリンは死んでしまうよ。その杖、どうせ魔法を解放するために必要なんでしょ。一応、杖の所有権はクロアのものということで。もちろん、使うのは認めてあげるよ。欲しければ1万5千で売るよ」


「相変わらずクロアはしっかりしているな」

「ふん。夫婦間でもお金の貸し借りは厳密にするよ」

「夫婦じゃないんだがな」


 お金に関してクロアは出会った時からきっちりしている。ある意味、しっかり者の奥さんである。それにクロアは大金持ちなのだが、ゲロ子以上の取引上手なのだ。


 今回の件も右京は飲まざるを得ない。3つの宝石を付けただけの杖ということでは、価値としては薄いのだ。この杖が音子がいうように、過去に行くことができるという魔法アイテムであれば、価値として1万2千G以上は確実であるが、そういう魔法アイテムであるという保証はない。あくまでも音子情報なのだ。


「それより、ダーリン。さっきのおばあさんのこと、気にしていたみたいだったけど」


「ああ、ゲロ子に後をつけさせている。あの婆さんは俺たちをこの世界に飛ばした時に、いた婆さんなんだ。音子はマダム月神と呼んでいたが」


「主様~でゲロ。あのババア、突然消えたでゲロ」

「なんだって!?」


 オークションに参加していたあの白髪でサングラスをしていた婆さんの後を追っていたゲロ子だったが、廊下の角を曲がった途端に急に姿を消したというのだ。


「どう見ても70才過ぎの婆さんだったぞ。そんな高速で歩けるわけがない」

「でも、消えたでゲロ。どこにもいないでゲロ」


「どうやら、そのお婆さんは今回、ダーリンや音子ちゃんをこっちの世界に連れてきた張本人みたいね。何が目的か整理しないといけないけど。音子ちゃんが話していることが本当なら、邪魔をしたということは、ダーリンたちを帰らせたくない理由があるということだね」


 あの婆さん。マダム月神という名にしておこう。あの婆さんは、この世界に右京や音子、オーガ加藤を連れてきた。3人にこの世界で何かをさせたかったと思われる。


 そして、まだ、目的が達していないので今回邪魔をした。まあ、オークションという生ぬるい妨害だったのではねのけることはできたが、この世界に右京たちを飛ばす力があるのだ。本気になれば宝石を奪い取ることは簡単であったと思われる。


「クロアの乱入で諦めたのが不気味だ」

「単にお金を持っていなかったのではないかでゲロ」


「持ってないのはお前だろが!」


 忘れていたが、ゲロ子の奴、無駄遣いでお金を使ってしまったことが判明した。これはきついお灸を据えないといけないだろう。帰ったらゲロ子に正座させて説教3時間コースを命じることにする。


「それとクロア。音子はこの世界がゲームの世界だというのだがどう思う?」


「さあ? 音子ちゃんがどういうルートで情報を集めたのかは知らないけど、生まれた時からこの世界にいるクロアは、この世界が虚像だとは思わないよ。ただ、ある日目覚めたら別世界で元の世界が夢だったとか、この世界の方が夢だったとか考えることはできるけどね」


「そんなんじゃない……」


 ここまで黙って聞いていた音子がそう口を開いた。音子はこの世界に飛ばされた後、魔法アイテムを使って冒険者をやっていた。1年もの間、色々な場所をまわり、そして色々なところを見てきた。


「訪れる町々の景色が私の知っているゲームに似ていた。ここは絶対ゲームの中。そして、そのゲームのキーアイテムだったのが、この宝石3つを集めて完成させる『リセットロッド』。それによってゲームの主人公は元の世界に帰るというストーリーだった」


音子ねこ、お前、厨二病だよ……)


 真面目な音子だが、その考えはやっぱり飛躍していると右京は思う。一応、音子が言っているゲームは『グレイト・ブラッドソードコレクション』というもので、景色が実際にある都市と似せて作ってあることで有名なものであった。プレーヤーの中ではコスプレして、モデルとなった町を訪れるということが流行っていたからだ。



「まあ、結論はその杖を完成させることで出てくるとクロアは思うよ。消えたマダム月神も、きっと接触してくるだろうし。ウルドの石は最近見つかったダンジョンにあると聞いたけど」


「地名はフシミの洞窟。ギルドでは暗闇のダンジョンと呼ばれている。攻略レベルは仮認定でA。かなり攻略が難しいと言われている」


 そう音子が答えた。次は本当の激しい戦いになりそうだ。ダンジョン攻略には、それなりの戦力がいる。急いでイヅモの町に帰り、戦力を整えなければいけないだろう。クロアは魔法使いとして参加すると言った。リセットロッドの所有者なので、最後まで関わりたいらしい。キル子とホーリーも右京が頼めば協力してくれるだろう。ネイとヒルダも加えれば、それなりに強力な戦力だ。


 前線は女戦士のキル子と音子。音子の戦闘スタイルは、戦士というよりも忍者かアサシンだろうが。中盤はネイとホーリー。後方はクロアとヒルダだ。ちょっと前線が手薄だから、補強したいところだ。商人の右京と使い魔のゲロ子は戦力にはならない。せいぜい、冒険に必要な物資の調達と万全な旅支度。武器の手入れ、調達くらいだ。

 

 イヅモの町に帰った右京は、商売の傍ら、冒険の準備をする。そして、いよいよ、明日が旅立つ日という時に一人の戦士が右京の店を訪れた。


「こんにちは。ひさしぶりだね」

「あっ!」

「ゲロゲロ!」


 右京もゲロ子もよく知っている人物だ。この町に仲間を探してやって来たのだが、やっと見つけたキル子のリクルートに失敗して、今まで失意でホテルに引きこもっていた男だ。


「勇者オーリスでゲロ」


「右京くん、今まで忘れていただろう。僕はとても悲しいよ。でも、霧子さんのことは、もうきれいさっぱり諦めた。どうだろうか、僕が君の組織するパーティに入るというのは」

 

 失恋の痛手でおよそ1ヶ月は落ち込んでいた勇者オーリス。やっと立ち直って、社会復帰する気になったようだ。初仕事はギルドで見つけた右京たちの臨時パーティへの参加だ。


 暗闇ダンジョンがランクAの難易度だから、ここまで参加者は紹介されてこなかったのだが、勇者オーリスなら申し分がない。なんといっても勇者なのだ。これで前線はかなり強化されたといっていい。


「あ……」


 右京とオーリスが立ち話しているところへ、音子が現れた。宿泊先の月海亭から、右京の店にやって来たのだ。


「ああ、音子ねこ、やっと来たか。紹介するよ。勇者オーリスさん。今度の冒険に助っ人で入ってくれることになった」


「値切りの勇者でゲロ」


「せ、先輩! 海堂隼人かいどうはやと先輩!」


 音子は勇者オーリスを見るなり、思いがけないことを口走った。


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