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イヅモ団子 VS アミカ&ヒルダ団子

決戦の始まり…。

すみません。調子こいて7000字近く書いてしまったので2回に分けます。

結末は夕方に公開。

イヅモ団子店とアミカ&ヒルダの団子店の勝負が始まる。この日はショッピングモールの開店イベントということもあって、イヅモの町の有名飲食店も出店している。唐揚げや焼き鳥、焼きそばなどの出店が軒を連ねている。


メインストリートに50店の仮店舗が並び、着々と準備が進んでいる。この企画は経理部長のヤンが発案したもので、伊勢崎ショッピングモールの宣伝も兼ねていた。イヅモの町中から人々が集まってきたから、企画は成功したと言える。このイベントで好評だった飲食店、20店程度を右京が作ったショッピングモールに誘致するのだ。

 

今回ガチ対決する老舗のイヅモ団子店とアミカ&ヒルダの団子店は、道を挟んだ向かい同士に店を構えていた。今回、アミカ&ヒルダの団子店が売上げでイヅモ団子を上回れば、新しい店をショッピングモール内に出店できる。これは公平を期すために観客には知らせていない。あくまでも味勝負なのだ。


「ふん。あんなにわか仕込みの団子など、客に支持されるはずがない。客は老舗の看板を有り難がってくるのだ。無名の悲しさを思い知らせてやる」


 ボリスは忌々しそうにそう向かいの店で、準備するアミカたちを見ている。特に腹ただしいのは、ベテラン職人のダグ爺さんが加勢をしていることだ。急に仕事を辞めると言ったダグを不審に思ったが、日頃から自分より年上で腕もある彼を疎ましかったので引き止めもしなかった。それがアミカのところで働いているとは。彼が加入することによって、かなり団子の食感は向上したはずだ。


「ボリスさん。心配は要りませんよ。あの件は任務完了です」


 そうボリスの腰巾着がそっと告げる。ボリスに命じられていたことを無事に成し遂げたことを報告したのだ。


「そうか。これでわたしの勝ちは揺るぎない。よくやった。お前を番頭に抜擢する。これからも精進しろ」


「ははっ。ありがたき幸せです。ボリス様」


 ボリスはそう言って仮店舗の片隅に置いてある壺に目をやった。これが切り札の入った壺である。これを最も効果的な場面で投入し、一気に格の違いを見せてやるのだ。


 パーン……パパン……。


 開始を知らせる花火が打ち上げられる。集まった観客は思い思いの店に並ぶ。団子店にも客は来る。


「ハハハッ……。見ろ! やはり、これが真実、これが正しい結果だ!」


 イヅモ団子店には長蛇の列ができる。アミカの団子店には誰も並ばない。圧倒的な知名度の違いが最初から露呈した。


「はふはふ……。相変わらず美味しい」

「この味にはホッとすよ」

「気持ち、いつも食べているのより美味しくないか?」

「昔の味だ」

 

 客たちはイヅモ団子店の団子をほおばるとみんな褒めた。焼きたての香ばしい匂いが食欲をそそる。団子は2本でふた皿。皿の積み上がった高さで勝負が決まる。最初の5分で差が開く。


「ボリスさん、材料の質を元に戻したのは正解ですね。いつもより、好評ですよ」


「最高級の小麦粉に最高級の炭で焼き上げた伝統の味だ。あんな付け焼刃の団子店なんかに客は来るものか。どうせ食べるならこちらだと思うのは自然の流れ」


 予想通りの展開にほくそ笑むボリス。一方、ヒルダとアミカは必死で売り込みをする。食べてもらえば、絶対こちらの方が美味しい自信がある。何人かが食べてくれればクチコミで広がるはずだ。だが、客の反応は今ひとつだ。


「どうぞ、アミカ&ヒルダ団子です」

「はあ? なんだそりゃ。団子はイヅモ団子で買うからいいよ」

「どこの店だい? 聞いたことないねえ……」


 通りの客は立ち止まらない。団子を食べたい客は並んでいるイヅモ団子の方を選ぶ。行列というのは雪だるま式に客を呼び込む。中身が大したことがなくてもつい並んでしまう人間心理である。ましてや、イヅモ団子の味は悪くない。老舗のもつ伝統が安心感を与えていた。


「どうしましょう……これじゃあ、とても勝ち目が……」


 ヒルダは状況を見てこれはまずいと考えた。アミカや子供たちが必死に客の呼び込みをしても、それが返って痛々しく、客が引いてしまうことにもつながっている。


「ゲロゲロ……。ヒルダ、ここは人肌脱ぐでゲロ」


 ゲロ子が意地悪そうにヒルダを突っついた。そしてゲロゲロと作戦を耳打ちする。


「えーっ。そんなことするんですか!? 嫌です、恥ずかしいです」


「やらないなら負けるでゲロ。それにヒルダ、主様が見ているでゲロ。アピールするなら今でゲロ」


 ゲロ子が指差す。右京とヤン、音子たち関係者がぞろぞろと視察しているのが見える。出店している店を見ているのだ。


「やります!」


 ヒルダは翼を広げて空に舞った。そこで幻想魔法を発動する。ヒルダの体が光る。大勢の観客が何事かと空を見上げる。光が収まるとそこにはヒルダが大きく投影されている。ビルに掲げられた巨大なモニターに宣伝が流されるのと同じ構図だ。上半身裸でそれを片腕で隠しているセクシーなポーズでヒルダが微笑む。そして団子をほおばった。


「う~ん。美味しい。このモチモチ感、ヒルダ、くせになっちゃう~っ」


 そしてカメラ線になって片目を閉じた。


「早く買わないと……売れ切れちゃうぞ。アミカ&ヒルダの団子だよ」


 おおおっ……。


 観客がどよめく。あまりの神々しさにみんな恍惚となった。そして映像が切れた途端にキョロキョロとその団子店を探す。イヅモ団子に並んでいた客一斉に向かいのヒルダの団子店に移動した。


「何? これ、うま」

「表面パリパリで中がモチモチ……不思議な感じ」

「このタレの美味しさはハンパねえぞ。イヅモ団子より上かも」

「わたし、こっちの方が好き」


 一口食べた客はそう褒め称えた。そのクチコミが広がってどんどんと客が集まってくる。一気に客の流れを手繰り寄せる。


「うん。これは美味しい。やはり、団子はもち米に限る」


 音子ねこはもぐもぐとヒルダたちの団子をほおばる。こちらの方が食べ慣れていて、日本から来た音子には口に合うのだ。


「ヒルダの宣伝効果はいいタイミングだったな。客が落ち着いてきたところで、派手なCMはグッドだと思う」


 右京はそう評した。開始早々の興奮状態の時では、客も夢中でそれほどインパクトは与えられなかったであろう。一つ何かを食べて落ち着いたところでのCMは効果的であった。


「ゲロゲロ……。主様、勝負はこれからゲロ」


 ゲロ子がポンと飛んで右京の右肩に乗った。口には団子のタレをいっぱいつけている。手伝いがてら、つまみ食いをしているのは明らかだ。


「ゲロ子、お前、ここ数日いないと思ったら、ヒルダに協力していたのか?」


「バカ正直ヤンデレバルキリーには荷が重いでゲロ。ゲロ子がコンサルティングをしてやったでゲロ」


「お前のことだから、報酬ごっそり要求したんじゃないのか?」

「さあでゲロ」


 ゲロ子の奴がタダで動くはずがない。だが、ゲロ子が手伝わなきゃ、団子生地の改良はできなかった。今のタイミングでの効果的なCMもそうだ。




「畜生め! こんなはずでは……」


 ボリスは客が並ぶアミカの店を見て地団駄を踏んだ。圧倒的に勝つはずが皿数では肉薄されつつある。もちろん、イヅモ団子店も客数が減っているわけではない。老舗の信頼と変わらぬ美味しさで客はある程度はつなぎとめている。


「おい、手を休めるな。焼きは軽くでいい。2度付けはやめて、1回で出せ」


 ボリスはそう職人に命令する。こうなったら回転を早くして客数を上回る作戦だ。勝負は皿の数なので、1枚でも上回れば勝つのだ。作る際の手数を省き、手抜きをしてスピードを上げようとしたのだ。だが、職人達は抵抗する。


「ボリスさん、それじゃ、味が落ちます」

「老舗の看板を汚す行為です」


「うるさい。貴様ら、俺に逆らうのか? 逆らうやつはクビだ」


 そう凄まれると職人たちはどうしようもない。黙々と言われる通りにするしかない。味は落ちても客は来る。行列と老舗の看板で客は減らない。


「大変です! 作りおきの500本がなくなりました」


 ダグがアミカにそう報告する。あまりの評判のよさにストックが切れたのだ。急ぎ、ダグが生地を練り、子供たち総出で丸めて串に差す作業をするが、客の多さにさばききれない。待たされると客は逃げる。


「おい、まだなのか?」

「いつまで待たせるんだ!」


 客が不満を漏らす。食べ歩きを楽しみたい客としては、いくら美味しくても長時間待ってまで食べようとは思わないのだ。同じ団子なら向かいのイヅモ団子店の方に行く。こちらは10人もの職人が総動員で作っている。商品の供給切れなんてこと起きない。


「フッハハハ……。やっぱり、老舗と素人の差が出たな。所詮はこの世は資本力の差だ。いくら内容が素晴らしくても、規模が大きい方が勝つのだ。味だとかサービスのよさなんか関係ない」


 ボリスはアミカたちの様子を見て高笑いをする。これで勝負はついた。ここからは圧倒的に自分が勝つ。そういうシナリオしか思い浮かばない。


次回、ゲロ子の仕込みが炸裂するw

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