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ねこはJK

あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いします。

「お、俺は……」

「名前は知ってる……。伊勢崎右京。21歳、日本人。あなたがこの世界へ飛ばされてきたことは私の姿を見て驚いていたことで分かる……」


 無表情でたんたんと話す少女は首に巻いて半分顔を隠していたマフラーちょっと下げて、顔を露わにした。そして驚く右京の前で体をくるりと回転させた。短いプリーツスカートが広がって舞う。赤地チェックのスカートだ。そして、上は赤いリボンが特徴のセーラー服。赤いロングソックス。どう見ても日本の女子高生の格好だ。


身長は150cm半ばと小柄だが、履いている靴が厚底の黒ブーツで背が高くなっている。そして、大きな長いマフラーを首に巻いている。黒い長い髪を2つに縛り、前髪には3つの髪留めが付いている。目が大きく可愛いと言える顔だが、先ほどからの無表情で無感動な口調が大きなギャップを感じさせる。


「私の名前は中村。あなたと同じく日本人。この世界に飛ばされてきた人間」

 

 そう少女は自己紹介した。下の名前を言わないことに違和感をもった右京だったが、ゲロ子が少女の右腕に付けられた腕章に記された名前を読み上げた。それには青嵐学園生徒会と書記という文字があった。小さく名前も記されていたのだ。


「中村音子と書いてあるでゲロ」

「おとこちゃんか」

「男でゲロ」

「ち、違う!」

 

 少女は慌てて否定する。


「ねこだ」

「ネコでゲロか?」


「中村音子と書いて(ねこ)って読む。パパとママが音楽の教師だったから。よく(おとこ)と誤解されるし、ねこという読み方も嫌いだから。私のことは中村と呼んで……」


「ねこちゃんね」

「ねこでゲロ」


「全然聞いてない……。 そんなんだから、この世界に来ても能天気に食っちゃ寝してる」

 

 そう音子ねこは右京とゲロ子をにらみつけた。淡々としたセリフなのに毒がたっぷり含まれている。年下の女子高生に言われると温厚な右京も心穏やかではない。


「能天気にって失礼だな。俺はこの世界に来てずいぶん苦労した。この店やショッピングモールをここまでにしたんだ」


「そうでゲロ。主様は商売の天才でゲロ」


「加藤って男は知ってる?」


 音子ねこはそう右京に尋ねた。知っているも何も、オーガに化けていた男だ。アサルトライフというこの世界にふさわしくない武器を持っていた。クロアに手りゅう弾を投げ返されて死んでしまったが、死ぬ間際に自分のことを『加藤』と言っていた。


「オーガに化けていて、暴れていた男だろ。知っているがもう死んだ」


「死んだ? 加藤さん、死んだの?」

「ああ。村を襲ったり、人を殺したりとひどいことをしていたからな」


(ふう……)と音子は息を吐いた。少し、気落ちしたようであるが話を続けた。


「死んだのは自業自得だけど、これで手がかりは一つ消えた」

「手がかり?」


 右京は話が長くなると思って、音子を店の商談スペースになるソファに座るように勧めた。ハンナにお茶と杖をを持ってくるように言いつける。音子も大人しく座る。


「ねこちゃん。さっき、手がかりって言ったけど、俺に話してくれよ」


「……。能天気にここまで生きてきたおっさんに話しても解決しないと思うけど……」


「わーい。おっさんでゲロ」


 バシッとテーブルで踊るゲロ子を久しぶりにぺしゃんこにする。聞けば音子ねこは16歳だという。この年のJKにとっては21歳の右京はおじさんの類なのだろう。


「そう言わずにお兄さんに相談してみなよ」

「お兄さんだって……。何だかうざい」


 そう言うと先ほどまで質問を続けていた音子は急に静かになった。下を向いてブツブツと何かつぶやいている。話しかけられない雰囲気なので右京は黙って成り行きを見守った。再び、音子が口を開いたのは5分経ってからだ。


「右京……。あなたはこの世界どんな世界だと思う」


(おいおい、年上の俺に向かって呼び捨てかよ!)


「この世界か?」


 中世ヨーロッパ風の世界。科学レベルは明らかにその程度だ。武器にしてもその時代のものが多い。だが、そうでないものもあるし、日本を想定した島国もあるという。実に不思議な世界である。タイムトリップして過去に戻ったというより、完全に異世界と言った方がよいだろう。


「中世ヨーロッパ風の異世界かな」

「うざい」


 そう音子は短く言い返した。この年頃の女子は扱いにくい。いや、この世界の女子はこんな感じではない。音子ねこはその点でもこの世界の人間とは明らかに違う。


「じゃあ、ねこちゃんはどう思うんだよ」

「私のこと(ねこちゃん)と言わないで。なんだか、とてもうざい」


「じゃあ、ねこ」


「……そう来るの……。まあいい。……私はこう思う。ここはゲームの中じゃないかと」


「ゲーム?」


「この世界、中世ヨーロッパ風。私たち日本人には馴染みが深い世界」


 日本で発売されているRPG風のゲームは、その舞台の多くは中世ヨーロッパ風だ。漫画やライトノベルファンタジーは大抵そうだ。その方がイメージしやすいからだ。


「それだけで、この世界がゲームの中だと決め付けるのは納得できないな」

「WDはどうなの?」

 

 音子がWDについて話した。確かにWDのシステムはゲームっぽい。幻影モンスターが召喚されて、それと戦ってポイントを削っていくというのは現実離れしていく。いくら魔法でも不自然だ。大きな画面に映して観客に見せる演出は、この中世風の世界には全然そぐわないのだ。


「仮に、仮にだぞ? この世界がゲームの中だとして、俺たちの役割は何なんだ?」


「さあ……。私には分からない。強いて言えば、ただのNPC。主人公を助ける役割」


「主人公?」

「ゲームにはプレーヤーという主人公がいる。今まであなたの周りで異様に強い、都合のいいキャラクターはいなかった?」

 

 音子はキャラクターと言った。完全にこの世界の人間をゲームの登場人物と決め付けている。


(強い?……)


 無敵の強さを持った人間は確かにいる。例えばクロア。バンパイアで大金持ち。魔力最大の無敵キャラ。


「その人は違うと思う」

「なぜ、そう思う」


「最初からハイスペック過ぎるのは主人公の条件に合わない。それにその人は加藤を倒している。どちらかといえば、ボス的な役割」


(おいおい、クロアは敵キャラかよ!)


 確かにバンパイアで超強いから、ゲーム中盤の倒すべきキャラの要素は持っている。能力は中ボスではないが、キャラがキャラだけにラスボスというのは違うだろう。


 あと右京の周りで強い人物はというと、キル子がいるが、主人公じゃないだろう。どちらかというと、最初は敵役で出てきて負けて味方になる主人公サイドのキャラだ。ホーリーは境遇が可愛そうだったから、ありえない。ネイに至っては論外だ。


「ま、まさか……!」


 右京はテーブルの上で目を回しているゲロ子を見た。


「そのカエル娘はありえない」


 音子がポツリと右京の思ったことを否定した。確かにそうだ。ゲロ子が主人公のゲームなんてやろうとは思わない。


(ある程度の力を持っていて、そいつを中心に都合よく話が進んでいく奴……。困っている人を助けて、この世界に幸福をもたらすような人って……)


「お、俺じゃん!」

「うざい。 自分で言う?」

 

 音子は右京主人公説を完全否定した。音子も右京もあのオーガの加藤もこのゲームに無理やり参加させられたNPCというのが彼女の説だ。どちらかというと不確定要素満載のバグキャラとも言える。


 華奢な女子高生の音子はどんな力を持っているか知らないが、ウガウガオーガの加藤はアサルトライフルというバグウェポンを使ってかき乱していたと言ってもおかしくないし、右京もゲームシステムを破壊しかけない商売をおっぱじめている。


 買った武器が100分の1で買われるゲームシステムが変わったなら、それはゲーム全体を揺るがすことにつながるのだ。右京たちは、音子が言うゲームを乱す隠れキャラ、おまけ要素みたいなものらしい。


「本当にいない? あなたの役割が武器屋なら、今まであなたが武器を売って助けた人物。あなたの周りのキャラを仲間にして冒険に出た人物。主人公だから、能力は当然、オーバーススペックのできれば熱血バカ……」


 音子、主人公に対してひどいことを言う。


「いるでゲロ……。そういう人間をゲロ子は知っているでゲロ」


 ゲロ子が復活している。テーブルで何故かストレッチをしながら続けた。


「主様が助けた人物は多いけど、2回も武器を売った人物がいたでゲロ。そして3回目には主様から仲間を集めようとした人物がいたでゲロ」


 いた。そんな人物がいた。1回目は斬鉄剣を右京から買取り、見事にアイアンゴーレムを切り刻んだ。2回目は金属を溶かす樹液を出すプラント119というモンスターを倒すために力を貸した。有能な戦士であるキル子を口説いて仲間にしようとしたこともある。


「勇者オーリス……」

「値切りの勇者でゲロ」


 彼がこの世界を動かすゲームプレーヤーというだろうか。彼の視点で考えるにしても、情報が少なすぎる。


「勇者オーリス……ね」

「だが、勇者と名の付く奴はこの世界には何人かいる。彼がそうだと限らない」


 もう右京は音子が言うこの世界はゲーム説に納得されつつある。そもそも、指輪の鑑定をしていて、この世界に飛ばされてきた。この世界が異世界というのもにわかに受け入れがたいことなのだ。ゲームの世界であると言われても信じない理由はない。


 それにしても、音子は何をしにここへ来たのであろうか。最近、右京が買い取った杖を買取りたいということらしいが、用事はそれだけではないらしい。


「もちろん、決め付けるだけの証拠はない。私たちが元の世界に帰るためのキーとなる人物。探すことは必須事項」


「右京様、お言いつけどおり、杖をお持ちしました」


 ハンナがお茶と一緒に以前に買い取った杖を持ってきた。それを音子は眺めて話を続ける。


「その杖も帰るためのキーアイテムになる……」

「キーアイテム?」


「右京、あなたはこの世界に来るきっかけになったのは、白髪のおばあさんが持っていた宝石じゃなかった?」


 そうだ。もう記憶の片隅に追いやられているが、右京がこの世界にやってきたきっかけは、白髪の老婆が持ってきたブルーサファイヤの鑑定であった。宝石に吸い込まれるようにしてここへ来たのだ。


「あの人はただのおばあさんじゃない……。私も加藤さんもアイツのせいでここへ飛ばされた……」


 音子はオーガ加藤の話を語り始めた。この世界に来て出会った加藤から聞いた話だ。



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