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買い取った杖

1/10 時系列に矛盾があるので、少し修正しました。

 黄泉の国に行ったり、旅芸人の座長になったり、隣町にさらわれた友人を救出に行ったり、治安の悪い場所へ出かけて牢に入れられたりしているが、右京は買取り屋の店長が本職だ。今は冒険者相手のショッピングモールを経営しているけれども、自分の店の売り上げが一番大切だと考えている。

 

 今日も旅先から帰ってきた冒険者が、戦利品を売りに右京の店に大勢押しかけていた。それに適正な値段を付けて買取り、修理して付加価値を付けて売るという右京のビジネスモデルは、この世界ではなかったもので商売は繁盛していた。


 右京の成功を目にして、真似しようと思ってもそれは容易なことではない。なぜなら、適正な値段というのが大変難しく、下手なものを買い取ると大損をしてしまうことになるし、ただ単に修理しても売れるような魅力あるものにはならない。右京がカイルや越四郎という鍛冶職人の達人を仲間にして、アイデアを生かした修理ができることが強みであった。


「わんわん」


 お客が来るとクロが可愛く吠える。クロは黄泉の国から連れてきたケルベロスである。今は閻魔大王の力で小さな子犬になっている。通常のお客には可愛く吠えるが、ロクでもないものを売りつけに来る不届きものには、歯ぎしりをして唸る。客の悪意を感じとるのだ。これは鑑定する時にとても役に立つ能力で右京は連れてきてよかったと思っていた。


 ただ、クロは男女差別が激しく、女性客だと尻尾を振って甘えるが、男性客だと大抵知らんふりで寝ているのだ。また、邪妖精のゲロ子に対しては、油断をするとお尻に向かって火を吹きかける。


 また、この前はヒルダが右京のストーカーをしようと店に入り込んだのだが、クロは容赦なく炎のブレスを吐いた。女の子でも人間に限定らしい。


「右京さん、困ったアイテムが持ち込まれのじゃ」


 そう買取りカウンターから、ハーフエルフのネイがそう右京に相談してきた。今、買取りスタッフは主にネイとヒルダで回している。あと二人ほど見習いとして、訓練している途中である。忙しくなければ、とりあえず十分である。よって、右京は忙しい時に入るくらいなのだ。そのネイが客から預かった武器を右京に見せた。


「ほう……杖か」


 持ち込まれたのは魔法使いが使う杖である。ファンタジー世界では『ワンド』とか『ロッド』とか呼ばれる。支えるという意味で『スタッフ』とも呼ばれたりするが、要は魔法使いの必需品である。多くは魔法を使う際の補助的な役割をするもので、これがあることで魔法使いは魔法を使いやすくなると言われている。


 物によっては硬い素材で出来ており、長いものは非力な魔法使いでも身を守ることができる打撃用の武器になることもある。さらには、杖自身に魔法が封印されており、炎の魔法や氷の魔法が使える優れものもある。


 右京の店は基本、剣や槍などの直接打撃系の武器を取り扱っている。魔法アイテムはクロアの方が詳しいので、そこでの鑑定を回すことが多い。右京では魔法の鑑定はできないからだ。ゲロ子やヒルダのような妖精だと、魔法が込められているかどうかは分かるので、魔力を感じればクロアのところへというのが査定の流れだ。


 ネイが持ってきた杖は金属製である。長さは50cm程の短いものだ。長さから言って、これは魔法を使うときに魔力を引き出す役割をするものだろう。これで殴ることはできない。観察すると、杖の先端部分は金属で加工された飾りが素晴らしく工芸品としてもなかなかの出来である。


 但し、よく見るとおそらく宝石がはまっていただろうと思われる3箇所には、盗まれたのか宝石ははめられていない。ヒルダにも見てもらったが、魔力は感じず、魔法アイテムではないということだ。


「ゲロ子、この大きさの魔法使い用のロッドの一般的な値段はどのくらいだ」


「そうでゲロ。木製のロッドで10Gから50Gというところでゲロ。金属製はその2倍でゲロ」


 ゲロ子がそう答えた。戦士が使う剣や槍に比べて、魔法使いの使う杖はひどく安いようであるが、これは杖が消耗品でないことに起因する。直接打撃をする剣や槍などは、刃が欠けたり、折れたりすることがある。よって、買い替え需要があるから、商品も多く作られるし、いろんな種類が用意される。杖はあまり壊れることがない。


 そんな理由で買い替え需要はあまりなく、作られる種類も量も少ないのだ。一般的な杖の場合、一応、持ってみるか程度の品物なので、希少価値もないのだ。だが、武器屋に置いてあるものは安いが、宝石で装飾されたり、金銀が使われたり、魔力が込められているものは別格である。中には値段が付けられない希少価値の高いものもあるのだ。

 

 ネイが持ってきた杖は、主だった金銀装飾は削られているし、宝石もない。そして魔力もないとなると一般的な杖と同価格帯ということになる。


「高価な部分はないけど、これは細工が見事だから、新品だと6、70Gぐらいだろうな」


「アマデオの武器屋に魔術師専用のロッドで、よく似たようなものが62Gで売っていたでゲロ」


「なるほど。そうすると下取り価格は通常は100分の1だから、1Gもしないわけだ。これはボスワースじいさんのところで修理すれば、古風だがいいものになるかもしれない。金持ち貴族の観賞用として売れるかもな。ネイ、提示額は10Gだ」


「分かったのじゃ」


 この杖を持ち込んだのは、ダンジョンの探索帰りの冒険者。魔夜に紹介されて、潜ったダンジョンでしこたま稼ぎ、さらに見つけた品物をまとめて売りに来たのだ。ギルド紹介の依頼を受けた場合、冒険を終えた時には手に入れた品物を申告して、その二割を冒険者ギルドへ収めることになっている。


 ただ、それは換金できる金貨や宝石、美術品類に限られ、武器類は申告だけでよいのだ。冒険者にとって武器類は売れれば、全額利益になるのだ。そう言った意味では、右京の買取店は大変ありがたいのだ。


「主様、魔法使いの杖なんて売れないアイテム、よく買い取ったでゲロ」


 ゲロ子は買い取った杖を見てそう残念そうに言った。魔法が込められているレアアイテムならともかく、魔力もなく、壊れた杖に10Gも払ったのはバカだという含みがある。右京も改めて見てみると、ちょっと失敗だったかなと思った。


 ボスワースに頼んで金細工を施し、それなりの宝石をはめればよいかなと思ったが、そんなゴージャスなものを買う客はこの店にはあまり来ない。貴族の収集家に美術品として売ることも考えたが、この杖に何か曰くがないと売りにくいだろう。


「う~ん。ちょっと考えが浅かったか?」


「これに投資しても売れないかもしれないでゲロ。そうなると損が大きくなるでゲロ」


 ゲロ子にそう言われて、右京は杖を改造することは今はやめることにした。杖は武器売り場の片隅に値札も付けずにポツンと置かれたままになった。





「ショッピングモール全体の売り上げは、前月比で120%の伸びです。特に飲食部門、宿泊部門の伸びは目を見張るものがあります」


 そう月初めの経営会議でヤンが報告している。今日はショッピングモール全店の経営者が参加する会議である。飲食部門では先月よりも新たに酒を飲めるバーが3軒、食事ができるレストランが2軒オープンしたことが大きい。


 いずれも右京がこれは……と思う店を口説いて出店してもらったのだ。宿屋も2軒がオープンして月海亭とサービスを張り合っており、冒険者がこのショッピングモールを拠点にしてくれるケースが増えてきたのだ。


 滞在時間が多ければ、それだけ金を落としてくれる。売上の伸びはそんな客のニーズに応えていることが理由であろう。最近はイヅモの町を拠点にする冒険者も増えてきたということだ。


「さらに、私たちが躍進するためにはさらに魅力的な店舗を増やさないといけません。現段階でショッピングモールのテナント入居率は50%程度です。まだ、完成したとはいえません。今後、新しい店の出店と娯楽施設の設置をしていく必要があるでしょう」


 ヤンの説明にゲロ子が胸を張った。


「ゲロゲロ……。ゲロ子のアイス店は毎月、売り上げが倍増でゲロ。お金が毎月、たっぷり入って笑いが止まらないでゲロ」


「ゲロ子、その格好は何だ?」


 ゲロ子の奴、指にはゴテゴテと高価そうな指輪を全部の指にはめ、腕には金の腕輪。首からは高価そうなアクセサリーを何十にもかけている。全部、利益で買ったに違いない。


「これはゲロ子の金の力の証明でゲロ」

「お前なあ、儲けた分、全部使ってしまってはダメだぞ」


 右京がそうゲロ子に説教をする。ゲロ子の生活を見ているとアリとキリギリスの話を思い出す。商売とはうまく行っている時に次の一手に備えるものだ。滑り出しが順調だからといって、散財しているとろくなことにならない。だが、さすがゲロ子。右京の忠告は無視する。使い魔の鑑だ。


「そんなことはゲロ子の勝手でゲロ。前は主様のお金だったでゲロから、ゲロ子も遠慮したでゲロ。今は全部、ゲロ子の稼いだお金でゲロ。何を買おうがゲロ子の自由でゲロ」


「そりゃそうだが。そんなにもうかっているのなら、この町の貧しい人に寄付したらどうだ。それに貧しい子供たちにアイスを食べさせてやるとか」


「ゲロ。貧乏人には用はないでゲロ。ゲロ子が好きなのは、金を持ってくる人でゲロ」


「お前なあ……そういう考えだといつかしっぺ返しをくらうぞ」

「そんなことないでゲロ。主様の心配なんか、ケロケロペーでゲロ」


 全く反省の色がないゲロ子である。そんなゲロ子と右京の会話をうらやましそうに見ている者がいる。神々しいまでの金髪に白い翼、白銀の鎧を着たバルキリー。ブリュンヒルデことヒルダである。


(あ~ん。先輩ったら、いくらご主人様の使い魔だといっても、ベタベタと接してうらやましい。アイス屋を経営しているからといっても許せません)


 ヒルダはしばし考えた。ゲロ子との違いである。


ヒルダ……金髪でナイスバディの美女。神々でさえも見とれる美貌。

ゲロ子……緑髪で間抜けなカエルの着ぐるみを着ている。全身緑タイツで変。


ヒルダ……特級妖精。攻撃魔法が得意。空を飛べる。

ゲロ子……2級邪妖精 戦闘力皆無


ヒルダ……家事能力全般得意。特に愛情スープは絶品

ゲロ子……仕事はすぐサボる。食べるのは得意。作ったことはない。


ヒルダ……慈悲に溢れ、優しい性格。女神様。

ゲロ子……腹黒く、お金に汚い。せこくてずるい。



「ううう……。どう見てもわたくしの方がご主人様の使い魔にふさわしいじゃないですか!」


 違いと言えば、ゲロ子はアイス屋を経営して手腕を発揮しているところである。これは商売人である右京にとっては、かなりのアピールポイントである。


「やはり、 わたくしもお店を経営するしかないようですね」


 ヒルダはグッと拳を握った。ゲロ子に対抗するために実はある食べ物屋のプロディースを計画していたのだ。ここで商売がうまく行けば、右京も自分に振り向いてくれるかもしれない。


 そもそもそういう思考になること自体、ゲロ子と同格で残念な子というレッテルを貼られるのであるが、ヒルダは全く気付かない。



「あのう……。右京様はいらっしゃいますでしょうか?」

 

 ノックをして恐る恐る顔を出したのは、最近、右京の店で雇ったハンナという女の子だ。彼女は右京の店の店員として雇っている。元はセガール侯爵に仕えていたメイドで、ホーリー付きのメイドだった子だ。ホーリーがイヅモの町に戻ったので仕事がなくなってしまったので、ホーリーに頼まれて右京が雇ったのだ。


 まだ14歳ながらも裁縫の技術があり、接客も上手なので重宝していた。彼女の父親と兄はショッピングモールと冒険者ギルドをつなぐシャトル馬車の御者をやってもらっている。


「ハンナ、どうしたんだ?」


「それが……武器売り場の方にお客様がみえて、あの杖を買いたいと言っておられます。値段が付けられていないので、右京様に聞いてくるように言われました」


「へ? あの杖を買いたいという人がいるんだ」


 杖とはしばらく前に買い取ったものだ。全然、修理がされていないのに買おうという人間がいるなんて予想もしていなかった。会議を進めてもらうことにして、右京はハンナとともに会議室を出た。




 店に戻った右京は買いに来た客の姿を見て驚いた。その驚きぶりを見た客は確信をもって、こう右京に言った。


「あんた、日本人だろ? そしてこの世界に飛ばされてきた」


 その声はまだ若い少女の声。


 そして、彼女は日本人なら誰でも知っている格好をしていた。


1、2日と投稿はサボる? かもです。

さすがに、忙しいw

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