シャドウの裏切り?
ゲロ子、27万PVだ。しかも日間で10位だぞ。
奇跡でゲロ。
それで主様、浮かれて合計1万字近くも投稿してしまったでゲロな?
ブクマ&評価してくれた人へのお礼だ。
結局、いくら待ってもシャドウは来なかった。右京はしびれを切らした。もしかしたら、彼の身に何かあったのではないか。
「中央神殿前に正午だったよな」
「そうでゲロ」
「今何時だ?」
「2時でゲロ」
ゲロ子はポケットからごそごそと高価そうな金時計を出してそう言った。あのカエルタイツにポケットがあったなんて初めて知った。だが、右京はそんなことではその時計を見逃さなかった。
「おい、ゲロ子」
「なんでゲロ?」
「その金時計、どうした?」
「買ったでゲロ」
「か、買ったって! いつ?」
「昨日の夜でゲロ。主様が早く寝たからそっと抜け出して……でゲロ」
「いくらしたんだ?」
「安かったでゲロ。たったの1500Gでゲロ」
「せ、せん、ごひゃくううう!」
右京がこの町へ来た時に持って来たお金のほとんどだ。後は右京のポケットに10G紙幣が数枚と100G紙幣が1枚である。
「バカ野郎、勝手に金を使うなよ」
右京はゲロ子のほっぺたをつねって引っ張る。使い魔なのに主人のお金を勝手に使うとは折檻である。
「痛いでゲロ、ヒドイでゲロ、使い魔虐待でゲロ」
「ゲロ子、買い食いは黙認してやったが、高価なものを勝手に買うのは許さん」
「ケチな主様でゲロ。これがショッピングモールを経営して、武器のアウトレット王を目指すと言っている男のすることでゲロか」
「それとこれとは別問題だ」
「ゲロ子にボーナスだと思えば安いでゲロ。女にはアクセサリー買ったくせにゲロ子には何もないでゲロ」
ちょっとすねているゲロ子が可愛いと一瞬だけ思ったが、鳥の羽飾りと金時計では金額が違い過ぎる。それにゲロ子は頭にフードかぶっているから、羽飾りはいらないだろう。どう考えてもゲロ子の屁理屈だ。ブツブツと不平を言って反省がないゲロ子。
「どうせ、この町でそんな大金もっていても盗られるだけでゲロ」
右京はポケットのお金を改めて数える。銀貨や銅貨を含めても今夜泊まって、食事するのが精一杯だ。馬車に乗る代金もギリギリである。
「おかげで、イヅモの町まで帰るのがやっとになってしまったじゃないか」
「だから、さっきの子供から値切ればよかったでゲロ」
「お前なあ……」
右京はあきれてものも言えない。ほんと、この使い魔、やらなきゃいけない時にはやらないで、やらないでいいことをやってくれる。とりあえず、ゲロ子の不思議なポケットにさっき買った鳥の羽のアクセサリーをしまわせる。荷物運びくらいさせないと腹の虫が収まらない。
子供たちがストローの先にマッチ棒を差して吹き矢遊びをしているのを眺める。マッチ棒を差して「ふう」と吹くが、マッチは飛ばずにポロリと地面に落ちる。
どうやら、ストローを吹き矢に見立てて、暗殺ごっこをやっている。無邪気に見えるがこの町だとシュールな感じがする。暇なので右京は子供たちにアドバイスをした。マッチを先端ではなくて、吹く方に入れるように話したのだ。やってみると、先まであまり飛ばなかったのが、10m先まで飛ぶようになった。
「主様、どうでもいいこと知ってるでゲロ」
「昔、学校の先生に教えてもらったことがあるんだ」
「どうして、距離が伸びるでゲロか?」
右京はゲロ子に説明した。簡単なことだ。マッチを先端に差して根元を吹くと、空気が送り込まれて飛ぶが、その力はわずかだ。空気の力が一瞬だけマッチ棒に加わるだけだ。だが、根元だと話が変わる。空気はストローの長さ分だけマッチ棒を押し続ける。力を加え続けられて加速されたマッチ棒は勢いよく飛び出すのだ。当然、パワーが違うから遠くへ飛ぶ。
右京が教えてやったおかげで、子供たちの歓声が響く。こんな町でも子供の元気な声は周りを明るくする。道行く人も顔を上げて笑顔で見ていく。
「ああ……まだ来ないな」
ついに夕方近くになってしまった。町をブラブラしてシャドウを探すという手もあったが、この治安の悪い町では危険が伴うだろう。この時間まで来ないとはシャドウの身に何かあったとしか考えられない。予想外の展開で、右京はどうすればよいか迷った。シャドウの考える狙撃ポイントが分からないのでは、武器の改良アイデアも浮かんでこない。
トボトボとあの月海亭に戻ると騒ぎが起こっている。極丸会の連中が6人、宿屋の店先で大声を張り上げている。ロディとミーアが男たちに取り囲まれている。
「宿泊していた男はどこへ行ったか言えよ」
「知りません。それに知っていてもお客様のことは話せません」
「何だと! 貴様ら、俺たちが誰か知らないみたいだな」
「極丸会の方々かと……」
「じゃあ、言うとおりにしないとどうなるか分かってるんだよな」
「……」
「まあ、待てよ」
「若」
6人の男たちの後ろから、きらびやかな服と指にゴテゴテと宝石をはめ込んだ男が出てきた。変な借り上げ頭で色が白く、肉がブヨブヨした坊ちゃんと呼ぶにふさわしい容貌の男だ。この町を支配するサンジェストの息子である。
「その男は元月海亭の御曹司だ。大きなホテル経営の息子がこんなチンケな宿で細々と暮らしているとはお笑いだ」
ぐっと悔しさを押し殺すロディ。ここは静かに嵐が過ぎ去るのを待つしかない。いくら極悪人でも何もしてない自分たちにひどいことはしないだろう。
「なんだ? 何も言い返さないのか? はん、とんだ負け犬だぜ。ははは……」
「ははは……」
周りのチンピラ連中が追従して笑う。
「お前の父親は今月中にも処刑だ。これまでオヤジも忘れていて牢にぶち込みっぱなしだったが、昨日、思い出したみたいでな。2週間後には首を絞めて吊るされるだろう」
「な……っ」
「俺が一言、オヤジにいえば、刑は延長されるかもな。どうだ? 言う気になったか?」
「ぐっ……」
ロディは拳をギュッと握る。キッとにらんで叫んだ。
「お客様のことは何も話せません。これはホテルマンの誇りの問題だ」
「ちっ。仕方がねえ」
デブの坊ちゃんは目で合図すると6人の男たちがロディを引き倒す。そして、背中に隠れていたミーアを取り込む。
「妹ちゃん、可愛いねえ。今晩、可愛がってやろう」
「いいアイデアですね、若」
「俺たちにも回してくれますよね」
「きゃあ、お兄様、助けて!」
「ミーアに触れるな」
ロディは立ち上がろうとするが、男たちが足蹴にする。
「知ってること言わないと妹ちゃんが女になっちゃうぞ。まあ、言っても決定だけど」
「ハハハッ……」
ドカッっとパンチが坊ちゃんの顔面にめりこんだ。右京が首根っこを掴んで振り返らせると迷わずパンチをぶち込んだのだ。
「ブギュ」
と鳴いて坊ちゃんは鼻血を出してその場に崩れた。
「一回、豚を殴ってみたかったんだ。殴るとそんな声で鳴くんだな」
「ハハハッ……」
思わず手下が吹き出す。右京のセリフが的を得ていたからだが。
「ば、ばかやろ。そいつを捕まえろ!」
「ふん。ロディさん、ミーアさん。今のうちに逃げろ」
「は、はい……」
ロディが妹の手を取って走り出す。右京は余裕でファイティングポーズを取った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「で……、軽くのされてここにいるでゲロか」
「うるさい。ゲロ子、お前こそ、俺がやられている時にどこへいたんだ」
「隠れていたでゲロ」
「お前なあ……」
右京は6人のチンピラにボコボコにされて、ロープで縛られて馬車へ乗せられた。檻付きの囚人護送用の馬車である。どこかに隠れていたゲロ子がそっと顔を出した。ゲロ子は使い魔らしく、主人である右京の下には瞬間移動できるのである。
「それにしても驚いたでゲロ。あのデブを殴り倒した時には、主様が最強になったと思ったでゲロ。チート展開が始まるかと思いきや、ハッタリだったでゲロか?」
「ゲロ子。現実はこんなもんだ。というか、これが普通だけどな」
「主様はつくづく、ファンタジーが向かないキャラでゲロ」
「俺は現実に生きているのだ」
それにしてもこのチンピラども。右京のことを探していたようだ。なぜ、右京が探されなくてはいけないのか、全く心当たりがないのだ。この町に商用で来た武器商人という身分である。実際、そうだから嘘もついていない。だが、その理由もすぐに判明した。
馬車は町でも一際大きな屋敷の前に止まったのだ。乱暴に降ろされるとロープで縛られたまま、大広間に引き出された。
「こいつがわしを暗殺に来たという男か?」
そう言いながら見覚えがある顔が近づいてきた。シャドウが見せてくれた写真の男である。サンジェスト。このハリマの町を牛耳る男。裏世界の支配者である。
「とてもわしを殺せるような男には見えんが……」
そうサンジェストは右京を見て言った。頬に傷があるから迫力のある顔である。正直、右京はビビった。どうみてもギャングの親玉という感じのオーラがある。
「お前、名前は?」
「右京、伊勢崎右京」
「変わった名前だな。どこに住んでる。何をしている」
「イヅモの町です。中古の武器を売ってます」
「何んだと? 中古の武器だと? そんなもの売れるのか?」
「売れます。ちゃんとしたものなら修理をすれば新品以上の価値がでるものもあります」
「ふん。面白いことを言う。暗殺者にしては設定が凝っているではないか」
「俺は暗殺者ではない」
これは事実だ。だが、全然、関係ないかというとそうでもない。この目の前の男を暗殺するための武器を作ろうとしているのだから。
「なるほど、そうだな」
サンジェストは右京の目を見てそう言った。彼は長年の経験から、人を殺せる人間は目でわかる。右京の目はそういう類の光が全く感じられない。
「オヤジ、そいつは俺を殴ったんだぜ。絶対にオヤジを殺そうと都からやって来た暗殺者だよ。それにタレコミがあったんだ。目つきの鋭い中年の男」
「タレコミだと?」
「シャドウと名乗る男が月海亭に泊まっている男は、政府機関から派遣された殺し屋だという通報さ」
(シャ、シャドウだって?)
右京は混乱した。(シャドウが裏切った? 何のために?)意味が分からない。
「ふん。バカ息子が。それはガセネタだ。多方、そのタレコミした男が暗殺者本人なのさ。この青年は巻き込まれただけだろう」
何だか空気が変わってきたと右京は感じた。このままいけば、無罪放免になる流れだ。だが、サンジェストが狂気と言われる理由はそんな空気を切り裂く。
「この男は見せしめに処刑せよ」
「え? なんだって?」
サンジェストは冷たい目で右京を見る。それは人間の目ではない。悪魔の目だ。
「あすに処刑だ。塔に閉じ込めておけ」
「はっ」
「そんな俺が何をしたって言うんだよ」
「何もしてないさ。だが、ここでは何もしてないことが罪だ。暗殺者に利用された間抜けは処刑がふさわしい」
「そ、そんな~っ」
連行される右京。屋敷から離れた囚人を閉じ込めておく塔へと運ばれる。この塔はバルールの塔と呼ばれる監獄。重犯罪人というか、政治犯が閉じ込められる建物だ。特に死刑囚は上層階の牢へ入れられる。処刑の日が近づくにつれて上層階へ移されるのだ。右京は明日処刑されるから、一番高い階へ入れられる。
「ふん。きっと僕を殴った罰さ。今晩中、そこで震えるがいいさ」
そう捨て台詞を残すサンジェストの息子。こうなることがわかっていたら、もう少し殴りたかった。
「畜生、シャドウの奴、裏切りやがった」
「そうでゲロか?」
のそのそとゲロ子が出てきた。こいつは使い魔。主である右京のいるところには、瞬時に移動できるのだ。
浮かれていないで、作品の質を高めていきます。




