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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第10話 天誅のクロスボウ(ドラゴンバレット・クロスボウ)
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ハリマキジの髪飾り

とんでもない町でゲロ


 朝が来た。窓から差す心地よい光で右京は目を覚ます。エプロンを付けた部屋のカーテンを開き、窓を開けたミーアと目が合う。朝の心地よい空気が頭をスッキリさせる。


 そういえば、朝起こしてくれるように頼んでいた。まさか、直接、起こしに来てくれるとはである。さらにミーアはワゴンで洗面器を2つ運んできてくれた。一つは熱いお湯。これで顔を洗うとさらにスッキリする。もう一つは水で歯磨き専用だ。


 口をゆすいで吐き出されたツボに吐き出すと蒸されたタオルが差し出される。ベッドにいながらこれだ。部屋が狭くなければ、一流ホテルのスイートルーム並みの快適さだ。


(気持ちいい……)

 

 流れるような動きでサービスするミーア。ゲロ子も小さなコップ片手にゲロゲロとうがいをしている。たった10Gで一流ホテルもやらないようなサービスである。


 さらに兄のロディがコック姿で朝食を持ってくる。焼きたての目玉焼きに焼きたてパン。野菜とベーコンのスープにサラダと豪華ではないが、心のこもった料理である。


「こんな手厚いサービス、冒険者専用の安宿ではもったいないくらいだよ。代金10Gじゃ安すぎる。50G以上払ってもいいと思う人は多いだろう」


「ありがとうございます」

「そう言っていただくと、やりがいを感じます」


 そうミーアとロディが嬉しそうに右京に応えた。この二人の接客態度も洗練されている。こんな場末の安宿を経営しているようには思えない。そこで右京はさりげなく、いつからこの宿を始めて、繁盛しているかどうかを聞いてみた。


 これだけのサービスである。7部屋しかないけど満室になってもおかしくはない。ロディがそう話し始めた。


「実は月海亭はこの町でも、1、2を争う老舗のホテルだったんです。サービスがよく洗練されているということで、贔屓にしてくれるお客様もたくさんいました」


「じゃあ、ここじゃなくて別のところで経営していたんだ」

「はい。町の中心にありました……でも……」


 月海亭は2年前までこのハリマの町を代表する老舗ホテルであった。貴族や商人、ちょっと羽振りがいい冒険者が好んで利用するホテルでいつも繁盛していた。


 だが、極丸会に目を付けられ、オーナーだったロディとミーアの父親は反逆罪の罪に問われて投獄されてしまったという。ホテルは没収されてしまい今は極丸会の事務所にされてしまっている。


「ひどい話だ」

「父はこの町を浄化する活動に熱心でしたから。でも、それをあの極丸会のリーダー、サンジェストがそれを疎ましく思って……」


 ハリマの町で名高い『8月事件』と呼ばれる出来事だ。この町の財界、マスコミ、政界の良識派が一致団結して極丸会に対抗しようと動いていた時に、サンジェストは息のかかった治安当局や配下の部下を使って実力行使に出たのだ。


 特にハク中毒者を奴隷化して、それに魔法爆弾のアイテムを持たせて自爆するテロがひどかった。町民も巻き添えにしたこの攻撃で、良識派の武力が押さえ込まれると、あとは暴力で一掃したのだった。処刑された人間も多数。ロディとミーアの父親もいつ処刑されるかわからないという。


「無茶苦茶でゲロ」

「ここまで無法地帯だとはな」


「それで私とミーア、あとホテルの従業員だったムク爺さんでここを借り受けて、月海亭をやってるんです。接客はミーア。メンテナンスやお湯の準備はムク爺。私が経営と料理を担当しています。お客さんは来てはくれるんですが……」


 そう言うとロディは口を閉ざした。これ以上、客である右京に身の上話をするのは失礼だと遠慮したのだ。こんな町で外部からやって来る人間は少ない。冒険者相手のこの宿が儲かっているはずがない。


 それにしても、ミーアとロディは月海亭が健在なら、ホテル経営者の御曹司とご令嬢である。だが、そんな気取ったところなんか全くない。父親の教育がよかったのであろう。母親は早く病死したそうだが、兄妹仲良く、この小さな宿を経営して父親の釈放を待っているのだ。


「ロディさん、ミーアさん。こんなひどいことは長く続きません、必ず天誅が降るはずですよ。それまで頑張りましょう。それに……いえ、この話は改めて」


 右京はちょっと話すのをためらった。今後の状況がどう変わるか分からないから、こんなことを申し出るのは早いと思ったのだ。



 ホテルを出てから左肩のゲロ子が話しだした。


「主様、どうして話すのをやめたでゲロ」


「シャドウさんの任務がうまく行って、この町の治安が回復したら月海亭も元の場所で再開するだろう。父親の帰りを待っている二人にイヅモへ来て、俺のショッピングモールでホテルを営業してくれとは言い出しにくい」


「主様は商売が下手でゲロな。あのサービスのよさ、ノウハウは必要でゲロ」

「そうなんだよな」


 月海亭は「おもてなし」の心が充実している。この宿が右京の開発中のショッピングモールにあったら、冒険者が集まるだろう。今のところ、部屋室77室という規模の宿を考えているのだ。


 ここに冒険者が集うことで武器の売上も上がるはずだ。ホテルはそういった意味で重要な施設なのだ。それを任せる人材がいないと思っていたので、ロディとミーアの兄妹は貴重な人材に思えたのだ。


「状況を見て口説いてみるよ。まずは父親が帰ってこないことにはな」


 右京は待ち合わせの場所でシャドウを待っている。彼は昨日、歓楽街へ姿を消していた。自ら危険エリアへ足を運び、最新の情報を収集しているのだ。だが、待ち合わせの時間になっても来ない。


 今日は狙撃ポイントに連れて行ってくれるという話だった。その場所を知ることで、あと100mの射程距離を延ばす工夫のヒントにしたいという右京の考えなのである。


「来ないな」

「来ないでゲロ」


 ボーっとしていると物売りの子供がやって来る。首から下げた箱には、鳥の羽で作ったアクセサリーが並べてある。


「ねえ、お兄さん、買って行ってくれよ。彼女のお土産にどうだい」


 10歳くらいだろうと思われる少年である。服はボロボロ。靴も履いていない。こんな子供が学校にも行かないで働くしかない町の現状である。右京が商品を見る。


 こういう場合、大抵、商品は大したものではないのが定番だが、鳥の羽のアクセサリーは結構よいものであった。この地方に生息する「ハリマキジ」という種類の鳥で、特にオスの尾羽が美しく、色も様々なものがあるのだ。女性の髪にさすかんざしみたいなものである。


「おお、これいいな。紅の色はキル子に似合いそうだ。この白いのはホーリーだな。クロアはこの黄色系が黒い髪に映えそうだ。ネイは緑。目の色に合う。ヒルダの分も買っていこう。あいつは金髪だからシルバー系がいいな。ティファにも土産で買って行こう」


「主様は愛人が多くて出費が多いでゲロ」

「馬鹿を言うなよ。みんな大切な仲間だ。土産ぐらい買っていくだろう。ぼく、全部でいくらだ?」


「1つ5Gだよ。全部で30Gだよ」

「50G払おう。これはそれだけの価値があるよ」


 右京はそういうと10G紙幣を5枚少年に渡した。少年は喜んだ。家には病気の母と妹が待っているらしい。これだけあれば、美味しいものが食べられるだろう。少年が立ち去るとゲロ子が舌打ちする。


「ちっ、主様は善人過ぎるでゲロ。ああいう場合は5Gがふっかけてあるから、普通は値切るものでゲロ。ゲロ子なら全部で5Gと言ったでゲロ」


「子供相手にケチなことするなよ。それにこの羽飾りはいい品物だ。俺の目利きを信じろよ」


「主様はアイテムの目利きはできて判断即決でゲロ。でも、女の目利きはうやむやでゲロ」


「なんか言ったか?」

「こっちの話でゲロ」


 右京の買った鳥の羽飾り。ちょっとした騒動とヒロインの一人の運命に関わることになる。


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