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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第10話 天誅のクロスボウ(ドラゴンバレット・クロスボウ)
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浮気男に天誅でゲロ

『ドラゴンのひげ』という手がかりは得られたものの、結局はクロスボウの改造のヒントには繋がらなかった。右京とゲロ子は無駄骨だったと嘆いて、イヅモの町に帰ってきた。せっかく馬車をチャーターしたのに大損である。


『疾風の弓』の弓を借りてシャドウのおっさんに使わせればいいじゃないかという意見もあるが、そもそもシャドウの要求は500mの射程距離である。まだ、距離は足らないのだ。そのためにエルフ族の宝である『疾風の弓』を改造するわけにはいかないのだ。


 三日ぶりに戻ってきた右京とゲロ子。ついでにぼっち勇者オーリスもイヅモの町にやって来た。右京が仲間を紹介するといったので、それに期待してついてきたのであろう。軽く紹介するとは言ったが、冒険者の知り合いはそんなにいない。


右京は店に来た冒険者を紹介すればいいくらいに考えていたので、ちょっと困ったが、まあ、そのうち見つかるだろうということで、しばらくは町に滞在してもらうことにした。


「主様、どうするでゲロか?」


「シャドウさんが来るのは、あと三日後だし。改造のヒントはあっても実現することは難しいし」


 一応、右京は『けだものや』へ行って、店主のフランに『ドラゴンのひげ』を扱っていないか聞いてみたが、フランの答えは軽かった。


「そんな伝説級の素材は扱ってないっす」


 そりゃそうだろう。ドラゴンの逆鱗に触れるようなアイテムが店に売ってあったら興ざめだ。ちなみに素材マスター、エリーゼ博士が偶然、イヅモの町に来ていて『けだものや』にいたからこれは天の助けとばかりに聞いてみたのだが、答えは(ノン)であった。


「ドラゴンのひげなんて、私が見てみたいさ。素材学の研究者として大変興味がある」


 そもそもドラゴン関係の素材は、彼らが脱皮をしたときに得られる革とか、はがれた鱗、生え変わった角や爪というのが定番である。それすらも滅多に手に入らないものではあるが、さらに死んだドラゴンの死骸から手に入るものもあるにはある。


 骨とか牙といったものである。生きたドラゴンからひげを入手するのは困難を極める。となると、ひげは死なないと手に入らないということになる。しかし、死んだ直後でない限り、ひげなんかは風化してすぐになくなってしまうから、結論を言うと手に入らないのだ。エリーゼ博士曰く、『ドラゴンのひげ」は激レアアイテムらしい。


「こりゃダメだ。別の方法を考えよう」


 そう右京がドラゴンのひげのことは忘れようと思った矢先、ゲロ子が物陰に隠れて何かを見ているではないか。


「何をしているゲロ子。店に帰るぞ」

「しーっ、静かにするでゲロ」

「なんだよ」

「こっちに来るでゲロ」


 ゲロ子に誘われて右京も建物の影に隠れる。ゲロ子が指差す方を見ると、全身黒ずくめのイケメン中年男がいる。どこかで見たことある顔だ。鼻の下と顎に立派な黒いヒゲをはやした紳士である。


「あの男、どこかで見たことある。誰だっけ?」


 右京は脳内を検索する。店に来た客じゃない。これまでの冒険で関わった男でもない。もちろん、先に行われたデュエリスト・エクスカリバー杯の出場者でもない。


「主様はちょっとしか見たことないから思い出せなくても仕方ないでゲロ」

「お前は知っているような口ぶりだな」


 ちっちち……とゲロ子は人差し指を動かした。


「あれはアディの父親でゲロ」

「あーっ、思い出した!」


 以前、レインボースライムの皮を取りに行った時に現れた巨大なヒドラを一擊で葬ったブラックドラゴン。名前は『ケイオスブレイカー』。アディの母親のミルドレッドと抱き合っているシーンを思い出した右京。


「で、あの横にいるのは誰だよ」

「アディの母親じゃないでゲロ」


 ケイオスブレイカーは町のレストランで綺麗なお姉さんと楽しそうに話をしている。アディの話だと父親はどこかの山でボスキャラをやっているらしいが、人間に化けて女性と話しているとはいいご身分である。


「ゲロゲロ……これはイケナイ匂いがするでゲロ。ゲロゲロ……」


 ゲロ子が腹をこれ以上ないくらい真っ黒にしてそう言った。そう言われるとこれは見てはいけないものを見てしまったのかもしれない。


(真昼間に若い女性と食事をする妻と子供がいる中年男……これは、つまり……)


「浮気でゲロ!」


 これはアディの父親の浮気現場かもしれない。いや、これは間違いない。


「主様、これは天がゲロ子たちにくれたチャンスでゲロ」

「どういうことだよ、ゲロ子」

「分からないでゲロか」

「全く分からん」


「主様は善人過ぎるでゲロ」


 ゲロ子はそう言うとカメラを取り出した。そういえば、コイツ、昔、インチキ写真を使って神官のレオナルドを揺すった前科があったわ!


「浮気の証拠を撮って、あの男を脅すでゲロ。それであいつのヒゲをもらうでゲロ」


「あいかわらず、腹黒いなゲロ子。お前のその悪の発想はいつも感心する」


 バチバチっとレストランでの風景を写真に収めるゲロ子。だが、これだけでは同僚と食事をしていただけだと言い逃れされるであろう。例え、スプーンであ~んと食べさせてもらっても、隣に座って膝をくっつけあったとしても、決定的証拠にはならない。


「それにブラックドラゴンが人間の女性に浮気するっておかしくないか?」

「それは心配ないでゲロ。あの女はドラゴンでゲロ」


「え? あんな綺麗な女性が?」

「ホワイトドラゴンのメスでゲロ」


 妖精のゲロ子には分かるらしい。相手の女性はシルバーのストレート髪をシャギーにしたロボットアニメの不思議ヒロインに似た風貌の女性だ。ドラゴンが化けたようには思えないが、よくよく見ると髪にさした飾りが、ドラゴンをイメージした角に見えなくはない。


「決定的な証拠をつかむでゲロ」

「ゲロ子、お前、何だか嬉しそうだな」


「人の不幸は蜜の味でゲロ。ゲロ子には美味しいソフトクリームの味でゲロ」


 やがてケイオスブレイカーはお姉さんと連れ立ってレストランを後にする。二人の向かった先は、怪しげな宿泊施設があるエリア。お約束のようにあるハデな看板のある建物へ消える二人。


「ククク……。ヤッタでゲロ。これは決定的でゲロ」


「ゲロ子、俺はつくづく、男というものが嫌になった」


 ケイオスブレイカーは妻のミルドレッドとイチャイチャして仲がよかった。あんなにラブラブだったのに浮気をするのかと思うと、男とは因果なものであると思ったのだ。


「主様も男でゲロから、同じでゲロ」


「いや、俺は違うぞ。俺はこのひとと決めて妻としたなら一生愛する。よそ見はしない」


「ゲロゲロ……。主様は天然で女を惹きつけるから信用がおけないでゲロ」

「どういうことだ、ゲロ子」


「自分の胸に手を当てて考えてみるでゲロ」


 2時間ほど経過した。ケイオスブレイカーと女性が出てきた。ゲロ子は用があると言って一時消えたが今は戻ってきている。女性と分かれてケイオスブレイカーが一人になるのを見計らって、右京とゲロ子はケイオスブレイカーに声をかけた。


「何だ、貴様らは?」


 怪訝そうな顔をするケイオスブレイカー。右京は説明をする。


「実は俺たち、あなたの娘、アディラードちゃんや奥さんのミルドレッドさんと知り合いなんです」


 そこまで聞いたケイオスブレイカーは、一瞬だけギクッとしたような表情を作ったが、いつもの威厳のある落ち着いた態度に戻った。


「その貴様らが俺様になんのようだ。俺様は忙しいのだ」


「ち、ち、ちっ……。ゲロ子は知ってるでゲロ。見たでゲロ」

「み、見ただって? い、いったい、何を見たというのだ?」


 ゲロ子にそう言われて急に威厳がなくなるケイオスブレイカー。無敵なドラゴンが今から、腹黒い小さな邪妖精に脅される。ゲロ子は写真を一枚見せる。さっき、いなくなったのは現像をしてきたからか。前から不思議に思ったがこの世界。写真の技術は現代並みである。短時間で現像、プリントできるのだ。


 写真には料理を女性に食べさせて貰っているケイオスブレイカーが写っている。その顔は全くもって『いやらしい』。男の女に首ったけな時の顔は、こうも下心という文字が浮き出ているものだとは思わなかった。


「い、いつの間に、それを……」


「もっと過激な写真もあるでゲロ。これなんか、奥さんに見つかったらヤバイでゲロ」


 ゲロ子がチラチラと1枚の写真を見せる。チラ見しただけでも放送禁止になるヤバイ写真だ。


「ちょ、ちょっと待て。それはやめろ」

「では、ゲロ子たちにひげを差し出すでゲロ」


「な…なんだと! 俺様のひげを差し出せだと」


 オスのドラゴンにとってひげは重要なパーツだ。自分のプライドと言っていい。ケイオスブレイカーは、ドラゴン族でもエリート中のエリート。ブラックドラゴンという種族だ。通常のドラゴンとは違うステータスなのだ。そんなエリートドラゴンにひげを差し出せなんて無謀な交渉だ。


「断る。そもそも、我らドラゴン族が人間、ましてや邪妖精なんかの言うことをきけるか。貴様らそもそも、ドラゴン族の高貴な種族であるブラックドラゴンのこの俺様を脅すなんて100万年早いわ! そもそもここで貴様らを抹殺すれば済むこと」


 ケイオスブレイカーが怒り始めた。目が徐々に赤くなり、顔もだんだん人間の擬態が取れつつある。ドラゴンに戻って暴れられたら右京もゲロ子もひとたまりもない。町も火の海になってしまうだろう。


「ゲロ子、やっぱりやばいぞ。謝るんだ。謝らないと大変なことになる」


「主様、ビビることはないでゲロ。この男は妻もいるのに昼間から浮気をしているエロドラゴンでゲロ。ゲロ子が天誅を下すでゲロ」


 ゲロ子の奴、中指を立てて挑発する。これではますます、火に油を注ぐことになる。怒り狂ったケイオスブレイカーが髪を逆立て、今にも摂氏3000度を超えるとてつもない炎のブレスを吐く気配だ。吐かれたら右京もゲロ子も一瞬で蒸発するだろう。


 だが、この勝負はゲロ子の方が一枚上であった。


 ケイオスブレイカーの背後に(ゴゴゴ……)という擬音と共に現れた人物。その美しい瞳は炎が燃え盛り、美しい金髪はメデューサの蛇のようにうごめいている。


「あなた! これは一体どういうことです!」


 お腹が大きい妻のミルドレッドである。実はゲロ子がこっそり呼びに言っていたのだ。こういうことになると悪知恵が働くゲロ子。だが、今の場合はそのおかげで助かった。


「ミ、ミルドレッド~っ?」


 さっきまで恐怖の大王化していたブラックドラゴン、ケイオスブレイカーがどんどん小さくなる。地面に正座させられてミルドレッドにこっぴどく説教をされている。全く、妻とは恐ろしいものである。


 それで怒り狂ったミルドレッドに哀れケイオスブレイカー。ひげを切られてしまった。もちろん、そのひげはゲロ子がもらう。浮気情報を知らせる代わりに受け取る約束をしていたのだ。


(ゲロ子、ナイス!)


 一応、夫婦喧嘩の仲裁に入ってミルドレッドの怒りを鎮めた右京。哀れなケイオスブレイカーは妻に散々怒鳴られて、ハムスターみたいに縮こまっていた。自業自得であるが、妻が妊娠中の時に夫が浮気すると聞いたことがあるが、ドラゴン族も実に人間臭い。


 逆鱗に触れる入手困難なアイテム


『ドラゴンのひげ』


「見事にゲットだぜ!」

「ゲットでゲロ」


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