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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第9話 伝統のクロスアーマー(モイラクロスアーマー)
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八つの指輪

第9話完結でゲロ

読者が増えたでゲロ。評価も増えたでゲロ。感謝。

モイラ草から繊維を取り出して布にする。これは麻と同じである。麻は植物に含まれる繊維の総称で、同じ麻でも植物によって性質は全く異なるのだ。例えば、亜麻あまはリネンとなり、服や寝具になるし、黄麻こうまはジュートと呼ばれ、カーペットや麻袋になる。


麻で作られた布は天然繊維の中でも強靭で、特に水に濡れるとさらに強さをます傾向にある。さらにシャリ感や張り、通気性に優れ接触冷感と共に爽やかさを与える。

 

モイラ草から作られる糸もほぼ同じように作られる。モイラ草はモイラ族の住む湖だけに自生する植物である。葉は高さ1~2mになり、水中の泥の中に地下茎をのばす。先端は赤いソーセージのような穂を付ける。


「このモイラ草の茎の部分を刈り取って、まず、水に一週間に漬ける。毎日、水替えをして腐らせないようにするのじゃ」


 そうライラ婆さんは右京たちにモイラ草から糸を作る方法を説明してくれた。水に漬けて柔くなったモイラ草を今度は丹念に木づちで叩く。茎の繊維をさらに柔らかくするのだ。


そのあと、専用の刃物を使って繊維をこそぎとる。これは熟練の技が必要だ。そこから、さらに熟練の手作業で裂いて糸を作っていくのだ。


「そうやって作った糸をさらに、道具を使って紡いでいく」


 クルクル回る糸車を使ってモイラ族の女性が作業している。みるみるうちに糸が紡がれ、球状になっていく。紡績という言葉があるが、「紡」とは寄り合わせるという意味で、「績」とは引き伸ばすことを意味する。短繊維の繊維を非常に長くすることだ。これは羊毛や綿でも同じ工程をするが、モイラ草の場合はやはり伝統の技がないとできない。


「さらにこれを織ると、モイラ布になる」

「なるほど」


 右京は作業の様子を見させてもらい感嘆の声を上げる。これは伝統工芸といってもいい。しかも、誰もこの価値に気づかず、モイラ族だけの技になっているのだ。モイラ布は強靭な布で重ねるとそれだけで、耐衝撃性能があり、繊維の硬さから刃物すら受け付けない。並みの剣では斬っても斬れないのだ。この布だけでも価値がある。


「これは布を鎧の内側に貼るだけでも効果が期待できます。あと、靴とか帽子とかに流用もききますね。商品価値としては無限の可能性があります」


 そうヤンが言った。この新しく雇った経理担当者も右京について、モイラ族の村に視察にやって来たのだ。ただ、モイラ布を加工するのは難しい。なぜなら、簡単に切れないし、糸で縫い合わせることも困難なのだ。


よってクロスアーマーにするには糸をさらに寄って毛糸のような太いものにする。それを編んで整形するのだ。これにはさらに伝統の技が必要でしかも、その技はライラ婆さんとその娘のランノしかできないのだ。モイラ族が争いをすることがなくなったため、クロスアーマー自体の必要性がなくなり、廃れようとしている伝統技術なのだ。だが、それはもったいないことである。


「村では布まで加工して搬入してください。すべて俺が買取ります。クロスアーマーはイヅモで生産してもらいます。ライラ婆さんとランノさんはそこで働いてください。モイラ族の方に技の伝承をお願いします」


「これが売れるとは村にとってもありがたい話だ」


「こちらもありがたいですよ。これを伊勢崎ウェポンディーラーズのみで扱わせていただけるなんて感謝です」


「右京様は我らモイラ族の恩人じゃ。このモイラの技はあなた様にお預けする」

「ありがとうございます」


 モイラ布の店は右京が開発中のショッピングモールで出店するつもりだ。生産量を上げて安定した商品供給をするという課題はあるが、モイラ族が全力を挙げてくれればなんとかなろう。今まで自給自足の生活をしていた貧しい少数民族が、富を手に入れることにもつながる。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 右京たちがイヅモの町へ戻って2日後、黒うさぎ亭の女主人クロアが右京の店へ訪ねてきた。日が落ち始めた夕刻のことである。


「ダーリン。あのオーガロード……正体は人間だったけど。あいつが持っていた指輪の鑑定できたよ」


 クロアがそう言って8個の指輪を机に並べた。既におおよそ分かっていた『炎の指輪』『魔法無効化の指輪』『武闘家の指輪』『回復の指輪』『変化の指輪』の5つはクロアが現場で鑑定したとおりのものであった。指輪には使用回数が定められ、それぞれあと数回しか使えないもので、価値的には効果の絶大さに比して価値はそこそこの値になってしまうそうだ。


「あとの指輪はね。一つは『転送の指輪』だったよ」

「転送の指輪?」


「任意の物体を取り寄せる魔法の指輪。あいつが持っていた武器の部品を取り寄せていたのではないかしら」


 オーガロードに化けた男はアサルトライフル持っていた。正式には『89式5.56mm小銃』。自衛隊、海上保安庁、警察の特殊部隊(SAT)に正式採用されている銃だ。弾倉には30発の実弾が装填されている。銃は弾がなければ武器としては使えない。男はこの指輪の魔力を使って現代から取り寄せていたと思われる。今は主が死んでしまったために、その能力は失われている。


「持ち主が変わると取り寄せる品物を設定できるみたいだよ」


 取り寄せる品は現物でないといけない。指輪に認識させるとその品物を強制的に取り寄せることができるというのだ。


「ゲロゲロ……ということは……ゲロ子の大好きなソフトクリームを認識させれば、いつでも取り寄せることができるでゲ……」


 バシッとクロアがゲロ子を叩く。平面ガエルになるゲロ子。危なく、ゲロ子の専用ソフトクリーム取り寄せアイテムになるところであった。


「ヒドイでゲロ。ゲロ子はちょっと冗談を言ってみただけでゲロ」


 すぐ復活したゲロ子がそう抗議した。こいつの復元力はある意味、回復の指輪級である。忘れていたが、オーガロードに捕まったゲロ子はクロアが投げ返した手榴弾で一緒に爆破されてしまったはずだが、結局、コイツだけピンピンしていた。


「ゲロ子。お前、冗談になってないぞ」


 右京がゲロ子にそう応える。視線の先にはソフトクリーム。たぶん、ゲロ子が買ってきてテーブルに置いたものである。ついでにゲロ子の口にはクリームがこびりついている。


「ゲロゲロ……」

「話はそれたけど……。2つ目は『隷属の指輪』よ」


「何だか危ない名前だな」


「女の子にとっては危ない指輪ね。何しろ、この指輪を使われたら意思に反して身も心も捧げてしまう魔法が発動。オーガロードの性奴隷になってしまうよ」


「……危ないどころか、最低の指輪だな」


 右京の答えを聞いて、クスクスとクロアは笑う。


「ダーリンには必要ないよね。こんな指輪を使わなくても思い通りなる女の子が周りにたくさんいるから」


「おいおい、俺は周りの女の子をそんな目で見たことは一度もないぜ」


「あら、そう? なんなら、今からクロアが性奴隷になってあげてもいいのだけど」

 

 クロアが腰をくねらせてワンピースを徐々にめくり始めた。右京はチョップをクロアの脳天にお見舞いする。


「痛っ……」

「クロア、どさくさに紛れて血を吸おうとするなよ!」

「ちっ……バレたか」

「ばれたかじゃない!」


「だって、ダーリン救うために時間を止める魔法を使ったんだよ。あれは相当に魔力を消費するの。少しぐらい、飲ませてくれたっていいじゃない」


 確かにあの時にクロアが来てくれなかったら、右京は死んでいた。ホーリーもネイもだ。ゲロ子は折檻されていただろうし、キル子はオーガロードの性奴隷になっていただろう。


 飛んでいったヒルダは分からないけど。クロアは命の恩人に違いない。


「仕方がない。200だけだぞ」


 クロアが右京に飛びかかる。がっちり抱きついて離さない。まるで蜘蛛が獲物を捕まえたような感じである。


「それではいただきます~。かぷ~っ」

「うわああああっ……」

 

 何度、噛まれても最初はジェットコースターで一番高いところから急降下する気持ちになる。ジュルジュル吸われるたびに天国から可愛い天使が何人も笑いながら、降りてくる光景が脳内に溢れでる。


「ぷは~っ」


 相変わらず、夏の暑い盛りにビールを一気飲みしたオヤジのようなクロア。違うのはオヤジがビールの泡でできた白いヒゲを鼻の下につけているのが、クロアは真っ赤な血なのだ。


「あ、頭がクラクラするぞ。どんだけ、吸ったんだよ」

「200だよ」


「嘘つけ」


 右京はクロアの両方のほっぺたつまんでグリグリと回転させる。


「よ、ひょんひゃくだよ~」

「嘘つけ」

「ろ、ろっひゃくだよ~」

「飲み過ぎだ!」


 バシっとほっぺたを引っ張って離す右京。クロアのほっぺたが真っ赤になる。


「ひどいよ、ダーリン。妻に対する暴力はDVだよ」


「夫の……夫じゃないけど、お前の俺に対する暴力はDVじゃないのか?」


「あれは食事だよ。バンパイアの愛情表現」

「おいおい。俺はMじゃないぞ」


 昔、ダーリンと呼ぶ男に電撃をかませ続けた鬼娘のアニメがあったが、この吸血鬼娘は愛情表現で血を吸うのだ。電撃の方がいいような気がするのは右京だけであろうか。


「で、話を戻して」

「戻すのかよ」

「3つ目の指輪よ……これは他のものと全然違うもの」


 クロアはそうもったいぶって右京に3つ目の指輪を見せた。それは銀に輝くプラチナの指輪である。


「まさか、俺が探していた異世界への鍵になる指輪!」


 伊勢崎右京は現代で買取屋に勤めていた。査定に出された指輪の力でこの異世界に飛ばされてきたのだ。オーガロードに化けていた男が同じであるなら、その指輪を持っていてもおかしくはない。(右京の場合は消えてしまったのだが)


「残念。これは何かの記念指輪ね」


 クロアが指輪の内側を見せると文字が刻まれている。『MASATO&YUI 2012.12.24』と読める。おそらく結婚指輪だろう。となると、あの男は既婚者で妻を置いてこの世界に飛ばされてきたことになる。この世界でやりたい放題の暴虐を尽くした経緯は知らないが、結局、その報いを受けた形で死んでしまった。気の毒な男と言えなくもない。帰らぬ男を待つ妻はどんな気持ちだろうか。


 右京が暗い顔をしているので、クロアはお目当ての指輪じゃないことで落ち込んでいるのだと考えた。努めて元気にこう言った。


「ダーリンが元の世界に帰りたい気持ちもわかるけど、こちらの世界もいいところよ。それにダーリン。今は起業して商売を大きくしている途中じゃない」


「そうだな」


 右京は武器の買取店を経営している。それが軌道にのって、今は大きなショッピングモールにしようとしている。中古武器店を中心とした冒険者が集う場所である。


「あの開発エリア、ダーリンが買えなかった土地は全部クロアが買っちゃったから」


「え?」


「当たり前じゃない。こんなチャンスは滅多にないよ。このエリアを自分たちが好きなように計画できるなんて、楽しいじゃない」


 軽くそう言うクロア。そういえば、こいつは王族のお姫様で大金持ちであった。それで商才もあるのだ。右京が抑えた土地だけでは足りないと考えたクロアが投資したのだ。この開発エリア全てが冒険者のための店が集まる場所になるのだ。


「店の選定から計画はダーリンに任せるよ。都にもない冒険者の冒険者のよる冒険者のための町を作るのよ」


「何だか、面白くなってきたな」

「でしょ? それじゃ、クロアは帰るよ。指輪はクロアが管理するね」


「ああ。気をつけて……」


 クロアを見送る右京。ゲロ子が右京の背中を見ながら、舌打ちをした。



「ちっ……でゲロ。『でしょ?』じゃないでゲロ。また主様は腹黒バンパイアにうまく利用されているでゲロ。おかげで10件の予定だったテナントが3倍以上に増えたでゲロ。指輪もクロアに取られたでゲロが」


「そう言うな,ゲロ子。規模が大きい方が、俺たちにメリットがある。これは面白くなるぞ」


「そうでゲロか?」


「ああ。しばらくぶりに我が伊勢崎ウェポンディーラーズの社訓を行ってみろ」


「アイアイサー。『売る客』『買う客』みんな満足、得をするでゲロ」


「そうだ。それが俺たち伊勢崎ウェポンディーラーズの商売理念だよ。冒険者のためになるサービスを提供する。このショッピングモールはそれを実現できる夢の商店街だ。これを成功させるのが俺たちの仕事だ」


「主様は柄になくロマンチストでゲロな」

「俺は最初からロマンチストだよ」


「まあ、それも金につながればゲロ子は文句ないでゲロ。すかんぴんでロマンとか言ってもカッコ悪いでゲロ」


「相変わらずだな、お前は!」

 


今回の収支

収入

イヅモ銀行からの借り入れ

20万G(年4%利率)

13万G(無利子)

自己資金

12万G

モイラ布&モイラアーマーの独占製造、販売権

月 3500Gの売上(当初)1年後はこの3倍の見込み

その他店舗からの収益

月 3万G 見込み(1年後はこの3倍の見込み)


支出

土地代 25万G

建物代 15万G

※討伐に関わる費用はダンゲリングが支払う 0G


「これからが楽しみでゲロ」


第9話。話数は少ないのですが、4万9千字もいってました。一つ一つが長かったですね。話自体は地味でしたが。(オーガーがアサルトライフルぶっぱなす話でしたが)結局のところ、少数民族への支援話とショッピングモールの経営の話と右京と同じようにこちらへ来た人間の悲劇話が交錯する話になりました。


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