ミリタリーオーガロード
オーガロードがもっていた武器。
それはとんでもないものだった。眠いから反則チート技をつかったわけではありません。
ファンタジー世界ぶち壊し(ヤバ!)
オーガはかなり手強いモンスターだ。だが、戦闘のプロである傭兵が8名にモイラ村の男たち10名からなる討伐隊の前には殲滅されるはずであった。
「なんでこんなことになったでゲロか?」
「分からない。俺にも分からない」
右京たちは戦いに敗れて、なんとかモイラの森の洞穴に逃げ込んだ。今は右京たちを探しているオーガたちから身を隠しているのだ。傭兵8名のうち6名までは戦死。村の男たちも半分が死んでしまった。
この洞穴へ逃げ込んだのは、戦闘に参加しなかった右京とゲロ子にホーリー。後方で戦っていたキル子に空を飛べたヒルダ。逃げ足が早いネイ。後はダンゲリングを始めとするけが人たちである。重傷のものが多い。ホーリーとヒルダが治癒呪文を唱えてなんとか応急処置はしているが、早く病院に運ばないと危ない。
ゲロ子がそっと洞窟の入口から様子を伺う。クンクンと臭いを嗅ぎながら一匹のオーガが近づいてくる。
「ガルル……フゴフゴ……」
変な言葉を発しながら、右京たちを探しているのだ。洞窟は蔦で覆われて入口がわかりにくくなっている。静かにしていれば見つからないと思われた。だが、オーガは血の匂いが分かる。臭いを嗅ぎながら近づいてくる。
「ヤバイでゲロ。こっちへ来るでゲロ。主様どうするでゲロ」
「倒すしかないだろ。幸い、奴は1匹。あのバカ強いオーガロードはいないようだし。右京、あたしに任せろ」
そうキル子が手に持った大剣『アシュケロン』を鞘から抜く。この剣なら大型のモンスターであるオーガに勝てる。但し、仲間を呼ばれる前に倒さないとまずいことになる。
「キル子、頼む」
「任せておけって」
「ご主人様、わたくしもキル子さんのサポートをします」
ヒルダが魔法で援護する。
「フゴフゴ……グオオオオオッ」
オーガが洞窟に気づいた。キル子がアシュケロンを振りかざして飛び出す。同時にヒルダの魔法詠唱が開始される。
「おおお……。暗闇の精霊たちよ。今、その黒き闇をもって見るものの世界を閉じなさい。ブラックアウト!」
暗闇の魔法である。対象物の視界を10秒間奪う魔法だ。オーガは突然、真っ暗になった視界に驚いた。持っていた棍棒をブンブンと闇雲に振り回す。
「行くぞ、アシュケロン」
(はい、ママ)
目を閉じるとキル子の前に黒い髪の幼女が現れる。剣の精霊アシュケロンである。アシュケロンはにっこりと微笑む。
「大好きなママのために……死・ん・で……」
バシュバシュバシュ……っと三連擊がキル子によって叩き込まれる。オーガは断末魔の声を上げることなく一瞬であの世へ旅立った。
「ふう~っ。これで残りは5匹だな」
キル子はアシュケロンを鞘へしまう。強敵のオーガロードがいなければ、こんなものである。正面から戦わないで1匹ずつおびき寄せて倒せばよかったと後悔した。
「死体を隠さないとまずいでゲロ」
「そうだな。俺も手伝うよ」
右京はキル子と協力してオーガの巨体を引きずって運ぶ。ちょっと離れた場所へ運んで草で覆った。これで仲間も発見しづらいであろう。これでしばらくは時間が稼げる。けが人を連れて脱出するか、反撃に転じるかである。どちらにすべきか。右京は考えながらも、ほんの2時間前の出来事を思いだした。
2時間前。村に居座っていたオーガに先制攻撃をかけた討伐隊は、見張りをしていた1匹を倒したまではよかった。しかし、騒ぎを聞きつけて反撃を開始したオーガの前に大苦戦を強いられることになる。
オーガは通常、戦闘力は強いが、知恵は人間の5歳程度の知能しかない。道具は使うがせいぜい棍棒程度である。人間側にそれなりの戦力があれば倒せないモンスターではない。しかも、こちらはヒルダが魔法を使うことができる。魔法に援護された討伐隊の圧勝と思われた。しかし、オーガロードが現れた時にそんな甘い幻想は吹き飛んだ。
オーガのうちの1匹は明らかに他のオーガとは違っていたのだ。革鎧を着用しているのも違和感があったが、指につけた宝石の指輪とこの世界には似合わない武器をもっていたのだ。
オーガのリーダーが手にもっていた武器。それはアサルトライフル。右京はミリタリーオタクではないので、それがどんな種類の武器かは分からない。だが、はっきりいえることは、それはこの世界では最強の武器であるということ。
そこから撃ち出される弾丸で傭兵たちは倒れ、ダンゲリングも自慢の鎧ごと撃ち抜かれた。幸いスライムの革で強化された鎧とモイラアーマーのおかげで、命は取り止めたが、一発の弾丸は肩を貫通しており、そこからの出血で動けないでいた。
しかもオーガロードは手榴弾まで使ったのだ。それが爆発して何人も倒れる。魔剣アシュケロンをもつキル子が奮戦し、ヒルダの魔法攻撃でなんとか負傷者を後方に下がらせたが、この洞窟まで退却するのが精一杯であった。
「ファンタジー世界に近代兵器は反則だろ!」
右京が愚痴をいうのも当然だ。この世界のバランスを崩すとんでもない事態だ。
「あれが主様のもといた世界にあった武器でゲロか? ゲロ子は見たことがないでゲロ」
「ご主人様。わたくしの専門辞書にもあのような武器は掲載されておりません」
ゲロ子もヒルダも知らないようだ。となるとあの武器はこの世界とは違う場所から持ち込まれたということになる。右京が現代日本からこの世界に飛ばされたように、あの武器も飛ばされたのかもしれない。例えば、紛争地域で戦っていた兵士が飛ばされてきたとか。飛ばされた兵士からオーガが武器を奪い取ったというケースもありうる。
「オーガロードの指にはいくつも指輪を付けていたでゲロ」
おそらく魔法の指輪であろう。あの武器を使いこなす知能を得るための『知恵の指輪』。他のオーガを従わせる『カリスマの指輪』。炎の魔法を唱えることができる『炎の指輪』こちらの魔法を無効化する『静寂の指輪』こんなところであろう。他にも指輪をしていたから、まだ、秘められた能力があるのかもしれない。
(どうするか……)
例えば、ここはキル子らに任せて右京とゲロ子が脱出。援軍を連れてくるという方法もある。事情を話せばクロアが協力してくれるだろう。アサルトライフルに対抗するには、クロア級の魔力の持ち主が必要だ。
だが、逃げだすことはかなり難しい。この森の出口はモイラ村であり、そこを通らないと町には帰れないのだ。警戒しているオーガどもが見逃してくれるはずがない。
「とにかく、けが人もいるし早く行動しないとまずいことになる。ゲロ子、脱出方法を探しにいくぞ」
「アイアイサーでゲロ」
右京はゲロ子を伴って、洞穴からそっと出た。ここはキル子達に任せておけばよいだろう。しばらくは見つからないはずだ。隠れながら森を出て村が見える場所まで行く。木に登って村の様子を伺う。すると驚くべき光景が視界に飛び込んできた。
「村人がいるぞ!」
「本当でゲロ。首輪を付けているゲロが」
オーガは人食い鬼と言われる。人間を襲って食べる習性がある。ところが、村を占領したオーガは違うのだろうか。もちろん、人間はみんな鎖につながれ、オーガのために労働をしている。逃げ遅れた村人だろう。オーガに捕まって奴隷にされているのだ。村人は戦闘でケガをしたオーガの手当をさせられ、さらに食べ物や飲み物を村の中心の広場に運んでいる。戦勝パーティでもするようである。
オーガどもが車座になって座り、中央には焚き火がされて、食べ物や飲み物を飲み始めた。村人の若い女性が酒をついでいる。そんな女性を抱きかかえてご満悦のオーガたち。特にミリタリー武装をした世界をぶち壊す存在のオーガロードはご満悦の様子だ。
「基本エサである人間を奴隷化するか?」
「ゲロゲロ。エサから酒をついでもらうのはオカシイでゲロ。もしかしたら、知恵の指輪の影響かもしれないでゲロ」
「知能が高まって人間を食べるのをやめたってことか?」
「味にうるさくなったということでゲロ」
ゲロ子の意見は一理ある。人間なんて食べても美味しくない。それにしても、現代の武器を使いこなす謎とか、入手先とか疑問だらけだが、奴らが人間並みの知能があるなら、右京にも手があると思った。
視線を向けた先は、ここまで乗ってきた馬車である。あそこには、この討伐戦のためにもってきた品物が積んであるはずだ。道中の暇を紛らわすために、音楽にたしなめるよう楽器まで積んであるのだ。
「オーガにああいう色気があるなら、俺にいい考えがある」
右京はそう言った。オーガどもを一掃する作戦が浮かんだのだ。それは古来より続く、鬼退治の原点でもある作戦である。
右京が何か思いついた。
古来より、伝えられし、民話などでお馴染みの倒し方…。




