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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第9話 伝統のクロスアーマー(モイラクロスアーマー)
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オーガ討伐隊編成

「それで、わしの鎧は完成したのか?」

 

ダンゲリングは右京が持参した鎧を見て目を細めた。パッと見、前と大きく変わった感じはしないが、よく見れば細部にわたって色々と工夫してあることが分かった。自分の愛用の鎧である。一目見れば、どこが変わったのか分かる。


(おい、右京、本当に大丈夫なんだろな?)


小さな声が鎧の中から聞こえる。キル子の声だ。


(大丈夫でゲロ。実験体)

(お前には聞いていないって、実験体って何だよ!)

(大丈夫だ、キル子、俺を信じろ)


 右京はそう答えた。右京にそう言われれば、キル子は体中がジーンと痺れて、右京の言いなりになってしまいたいという気持ちになるのだ。


(お、俺を信じろって……。右京、カッコイいいこと言うなよ。それは反則だろ……)


 鎧の中で真っ赤になっているキル子。




「俺を信じて、ついて来い」

「は、はい。あたしは右京についていくよ」


 手に手を取って駆け出す右京とキル子。そのゴールは教会。みんなが祝福するハッピーウェディングだ。もちろん、キル子の脳内お嫁さん妄想である。


 右京が持参したと言ったが、実際はキル子に完成した鎧を着させて、ダンゲリングの傭兵団本部の建物にやってきたのだ。本部は大きな専用の建物で、吠えるライオンが描かれた旗がいくつも翻っている。本部の建物の前庭に鎧を装備したキル子と右京、ゲロ子が立っている。


 ダンゲリングは大きな男であるから、キル子には鎧のサイズが合わない。よって、ブカブカのままである。全身を覆うフルアーマーだから、キル子が着ているとはちょっと分からない。


「ふむ。パーツパーツをつないでいた革紐はやめて、鉄と鉄を組み合わせたのか。なるほど。だが、これでは動きが悪くなるはずだが……」


「まずはコンポジットアーマーの弱点をなくしました。鉄同士の接合で明らかに防御力は上がっていますよ」


「上がっているでゲロ」


「うむ」


 ダンゲリングは鎧装備中のキル子の周りを回って、カイルが丁寧にリベットで固定したパーツ同士の接合を確認する。これは思いもしなかったアイデアである。


「なるほど。こうすれば鎧の弱点であった接合部分を強化できる。よく工夫したな」


「それだけではありません。ダンゲリングさん、あの兵隊さんのメイスで思いっきりぶん殴ってください」


 そう右京は護衛兵を指差した。腰にメイスをぶら下げている。それで殴れというのだ。ダンゲリングに命じられて、護衛兵がメイスを振り上げた。


(ちょ、ちょっと~っ!)


 キル子が抗議をする間もなく、強烈ない一撃がキル子に浴びせかける。不意を打たれたキル子はいつものような華麗にかわすことなく、その攻撃をまともに受けてしまったのだ。


 ガキーンっと金属がぶち当たる音がする。この音なら鎧は凹で中の人間がケガをしているはずである。だが、その攻撃は鎧に阻まれてメイスをもって攻撃した兵士は、衝撃でメイスを地面に落してしまった。


「馬鹿な、あの攻撃が効かないだと!」


 これにはダンゲリングも驚いた。こういう重鎧は剣の攻撃には強くても打撃系には弱いというのが定番だ。それを覆す性能があるのだ。


「では、この攻撃はどうだ!」


 今度は自分の腰に吊り下げてあったレイピアを抜いた。こういう重鎧戦士を倒すためには、鎧と鎧の隙間を刃物で刺すという方法がある。


「殺しはせんよ。ただ、腕にちょっとケガをしてもらう」


 ダンゲリングはそう言うや否や、目に止まらぬ速さで右腕の付け根に向かって、レイピアを突きつけた。こういう重鎧の弱点である。結構な本気モードで突いたのは、下にチェーンメイルを身に付けているだろうと考えてのことだ。だが、隙間からチェーンメイルに達したと思ったが、剣先の感覚が違うことに気づいた。


(こ、これはどういうことだ?)


 それを確かめるために、ダンゲリングはレイピアを抜くと再度攻撃する。今度は脇の下の僅かな隙間めがけての突きである。だが、それは虚しく空を切った。キル子も人気の腕利きデモンストレーターである。そう簡単に攻撃されるわけにはいかない。


「な、ばかな」


 自分の攻撃がかわされたダンゲリングは、かわしたスピードに驚きの声を上げた。鎧は明らかに重量が前よりも増している。ダンゲリングの感覚では5kg程度の増加はしているという認識だ。これにチェーンメイルを着ていたら総重量は軽く80kgを超えるだろう。それなのに、この鎧を着た戦士はまるで普通の服を着ているような動きなのである。


「おそらく、総重量は90kg近いはずだ。あんな動き出来るはずがない。どういうことなのだ」


 右京はキル子のフルフェイス兜を2回ほどコンコンと叩いた。キコキコっと目の前の覆いをずらしたキル子。右京の指示でまず、フルフェイス状態の兜を脱いだ。


「お、女だと? 」


 出てきたのは銀髪の女。褐色のエキゾチックな顔立ちである。ダンゲリングはますます訳がわからなくなった。


「鎧の内側には衝撃を吸収するスラムの革が張ってあります。さらに言うなら、熱や冷気にも耐える革も張ってありますから、魔法攻撃にも耐えることができます」


 そう右京が説明する。衝撃を防いで魔法攻撃にも耐える。この重鎧の弱点を全てクリアしている。だが、もっと驚くのは鎧に入っていたのが女であること。女ならますます、重量に耐えられないはずだ。普通なら着たら、一歩も動けないであろう。


「それではわしの疑問は解決しないぞ。総重量が少なくとも80kgは超えているのに、あの軽やかな動き。どういうことか、説明してもらおうか」


「説明しましょう。キル子、脱げ」


「え? こんなところで……」

 

 重鎧『プレートアーマー』を着てもじもじするキル子。格好のゴツさと仕草の可愛らしさが完全にミスマッチである。


「何、赤くなっているでゲロ。勘違いするなでゲロ。主様は鎧を脱げと言ったでゲロ」


「わ、わかっているよ」


「ブラも脱いで、主様を誘惑するなでゲロ」


「そんなことするか!」


 ガチャン、ガチャンとプレートアーマーを脱ぐと、そこには緑色の不思議なクロスアーマーを身につけたキル子が現れる。


「チェーメイルを付けていないのか?」


 チェーンメイルを着ていなければ、当然ながら重量は40kg削減できる。これは大きい。しかし、クロスアーマーにチェーンメイル程の強さは通常ない。だが、右京の説明によれば、このモイラ草で作ったクロスアーマーなら、打撃も防ぐし、剣の攻撃も防ぐ。プレートアーマーと組み合わせれば、ほぼ無敵と言っていい完璧な防御力をもつことになる。


「これは素晴らしい。文句ない。これで条件クリアとしよう。13万Gは無利子で貸与しよう」


「ありがとうございます」


「これなら商売も繁盛するだろう。新しい店での躍進を期待するよ」


 そう言ってダンゲリングは握手を求めた。右京は右手を出すとギュッと握った。商談成立である。だが、右京はさらに彼に提案があるのだ。


「ダンゲリングさん、このモイラ草で作ったクロスアーマー、『モイラアーマー』のことで実はちょっとお話したいことがあるのです」


 そう右京はそう切り出した。当初の目的は13万Gの無利子貸与。だが、それ以上に美味しい商売の種を見つけたのだ。それはオーガを退治して、モイラ族の村を解放し、伝統の技を伝承すればこの素晴らしいモイラアーマーを右京が単独で売ることができるのである。


「分かった。傭兵団から人員を出そう」


 右京の話が終わるとダンゲリングはそう話にすぐ乗ってきた。この素晴らしいクロスアーマーを自分の傭兵団の正式採用にしたいと思ったのだ。右京に手を貸せば、優先的に融通してくれるという契約を結ぶ。

 

 こうしてオーガを倒すために討伐隊が組織されたのだ。メンバーはダンゲリング自身と1個分隊(傭兵8名)、キル子とヒルダ、ホーリーにネイの伊勢崎ウェポンディーラーズの関係者である。右京とゲロ子はいつものように役に立たないが付いていくことにする。


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