融資は不可のようです
何だか半○直○風になったきたでゲロ。
倍返しでゲロw
「伊勢崎ウェポンディーラーズ? 聞いたことがない名前だな~」
王立オーフェリア銀行の融資窓口で担当者はそう眼鏡を布でふきふき、めんどくさそうにそう言い捨てた。中年の小さな男である。右京が窓口で呼ぶと奥からあくびをして出てきた。
意地悪そうな目つきで右京の格好を足の先から頭のてっぺんまで見てにやりと嫌な笑いを浮かべた。そして、椅子に座って右京を座らせたが、隣のブースの客にはお茶を出して丁寧な対応なのに、明らかに差別的な扱いだ。
「WDで有名になった伊勢崎ウェポンディーラーズを知らないでゲロか?」
ゲロ子がそう嫌そうにオヤジに言ったが、男はゲロ子を汚いものを見るかのように視線を送っただけであった。ちょっとムカっとした右京。
「さあ、知りませんね~。商売はなんです? 武器のディーラー?」
言葉が軽い。聞いて何かすると言った思いは全然感じられない。だが、右京は自分のやっていることをわかってもらおうと丁寧に答えた。
「中古武器を買い取って、付加価値をつけて売るんです」
「はあ? そんなんで儲かるのですかね。素人の浅はかな考えだ」
「いいえ。今までそうやってもうけてきたんですよ」
「自己資金も12万Gあるでゲロ」
ゲロ子がまいったか……っといった感じで両手を腰に当てて胸を張った。だが、男は全く無視する。
「12万G? 冗談でしょ~。中古武器屋と小さな鍛冶屋が何を馬鹿なことを」
全く右京たちの話を聞こうとしない。いくら興味がないにしても、少し調べれば分かることだ。冒険者の間では伊勢崎ウェポンディーラーズの名前を知らないものはいないのだ。
「とにかく、うちはあんたたちのような貧乏でちっぽけな商売人と付き合うような銀行じゃないんだよ~。うちは貴族様や大商人と付き合う銀行だよ~。格が違うんだ」
「格だと?」
右京はこの男に会って最初に不愉快に感じた理由がはっきりとわかった。この男が自分よりも劣るものには上から目線で接し、優れたものならへりくだる類の人間であるということだ。そして、その基準はこの男の偏見で決まるのだ。
「そう。格だよ~。小さな店主はこんなところに来るのは場違いだと言ってるんだ~」
「……」
右京は悔しくて手がブルブルと震えてきた。自分が今までやってきてことを、目の前のちっこい男は全否定しているのだ。大銀行に勤めていることを鼻にかけて見下すような態度である。
「せめて、伊勢崎ウェポンディーラーズのことを調べてもらえませんかね。先日のデュエリスト・エクスカリバー杯で決勝戦まで行ったことや、この町で行ったWDの試合のこと。実績を聞いてもらえれば、そんなバカにはできないはずだ。それにこのプランを見てもらえれば、どれだけこの商売が有望かわかっていただけるはず」
「プランねえ~……はいはい。一応、見ておくから預かっておく~。融資できるかどうかはそれからだね……まあ、望みはほとんどないがね~。ははははっ……」
右京が差し出す種類を男はそう笑って一応受け取った。この書類は、右京が店を開いたらどういう工程で返済するかを克明に記したものだ。今の売上と店を大きくした場合の売上予想に基づく戦略プランである。封筒に入った書類を男は無造作に掴んだ。先ほどの馬鹿にした笑いとこの態度でイラッとした右京は男に尋ねた。
「結果はいつ教えてくれますか?」
「さあ……どうでしょうかね~。支店長が機嫌の良い時に話をしてみるけど、まあ、融資ができそうならこちらから連絡するから~」
そう男はいいながら、右京が座っているのにさっさと席を立つ。連絡なんかしないぞという雰囲気がありありである。右京のことを若造だと馬鹿にして、考えることすらしないのである。
「嫌な男だったでゲロ……」
「ありゃダメだな。俺たちを見下すような態度だったし、武器のことを何も知らない感じだった」
右京は腹が立ったが、銀行はここだけではないと自分に言い聞かせた。それによくよく考えれば、自分のような若い人間に1億円近くのお金を貸そうなんて思わないであろう。だが、ここで諦めては夢がかなわない。右京は気を取り直して、ゲロ子を右肩に乗せて次の銀行に行くことにした。連絡するとは言ったが、あの男がそんなことをするわけがないことは重々承知である。王立銀行の融資はあきらめた方がよいであろう。
次に右京たちが向かったのはイヅモの町では2番手の第17銀行である。こちらの銀行は、対応はまだマシであった。窓口担当者の若い男性はWDに詳しく、右京が出品したガーディアンレディのエピソードやロケッツ・オブ・ジャベリンのことを知っていたからだ。親身に話を聞いてくれて右京の返済計画や営業計画にうなずき、また、アドバイスもしてくれたのだ。
これは融資の可能性があるかと右京は思ったが、担当者が融資課長に相談すると言って出て行ったが結果は思わしくなかった。
「私は精一杯、伊勢崎様の有望性を話したのですが、課長は一切取り合わないのです」
「そうですか……」
「どうでしょうか。武器ギルドのディエゴ様が保証人になっていただければ、課長を説得しやすいのですが」
担当者の若者はそう右京に提案した。課長の態度から信用力が不足しているので、この町の武器ギルドの会長の保証が欲しいと思ったのだ。ディエゴが保証してくれるなら、貸そうということらしい。右京は考えた。ディエゴ会長にお願いすれば、もしかしたら可能かもしれない。だが、それでは自分に対する信用がないということを認めることになる。
右京としては自分を認めた上で融資してもらいたいと思うのだ。ディエゴ会長やクロアの力を借りて前へ進んでもダメだと右京は思った。
「俺の信用だけではダメですか? ディエゴ会長には迷惑をかけたくない」
「私個人は伊勢崎様の将来性を買っています。この商売は可能性があります。現に売上は毎月のように右肩上がりですし、新しいエリアで大々的に商売をすれば大化けする可能性があると思っています」
「ありがとうございます」
「ですが、課長は頭が古いのか頭ごなしに反対するのです」
「反対の理由はなんですか? ええっと……」
右京は担当者の男性の胸元を見る。最初に名前を教えてもらったが忘れてしまったのだ。
若い男はにっこりと笑った。
「融資営業部のヤンと申します。今年、この銀行に入った新入社員です」
王都の大学で金融学を勉強していたということでヤンは右京と同年齢であることが判明した。年齢的にも若いので右京の味方になりたいと思っていた。
「課長が言うには武器の中古なんてそんなに売れるものじゃない。新品に比べて質が劣るものなんか売れっこないって言うのです」
「実際には売れているでゲロ」
「私もそう言ったのですが。その売上は一時的なものだろうという判断だそうです。さらに王立銀行が貸さなかったのにうちが貸すわけないだろうとまで……」
「はあ? 王立銀行が貸さないところに貸すから当行の存在意義があるんじゃないですか」
「それも言ったんですがね。どうも理解していただけないようで……」
「ダメでゲロ……。この銀行も頭が硬いオッサンでラチがあかないでゲロ」
「ゲロ子、失礼だぞ」
ヤンはにっこりと笑って声を小さくした。
「その妖精さんの言うとおりですよ。この銀行、リスクを取らない安全運転が経営方針なんです。このままじゃ、先行き真っ暗ですよ。僕は就職先を間違えたと思っています」
客に向かって大胆な発言をするヤン。片目を閉じて茶目っ気たっぷりだ。右京はヤンがとてもいい男だと思った。だが、いくらヤンがいい奴でも、上司の課長が無能なら融資は下りない。
「一応、もう一度、僕から頼んでみます。自分の首をかけてでも説得しますよ。この案件、この銀行の浮沈にも関わると思っています。伊勢崎さんの商売は将来的にかなり大きいものになると僕は思います。これはそのメインバンクになるチャンスですから」
ヤンはそう言ってくれたが、後ろの席の課長はガンと首を縦にふらない。ヤンの説得も無駄だったようだ。
「伊勢崎さん、すみません。課長はダメだの一点張りで。書類にも目を通してくれません」
「そうですか。ヤンさん、ありがとうございます。ヤンさんに認めていただけでも勇気づけられます。別の銀行に行きますから」
これ以上、ヤンに迷惑をかけられないだろう。右京は諦めて17銀行の融資は諦めるしかないと思った。銀行を去ろうとすると、ヤンが引き止めた。
「右京さん、一応、融資に関わる書類は出していってください。課長がダメなら支店長に直談判します」
「そんなことしたら、君がヤバイ事にならないか?」
「いいですよ。逆鱗に触れてクビになってもその時はその時。そんな銀行はこちらから願い下げですよ」
ヤンの奴、過激なことを言っている。右京の件だけでなく、日頃から不満を貯めているらしい。支店長の判断はどうなるかは分からないが、今日の夕方にでも状況を話すとヤンは説明した。夕方にフェアリー亭で待ち合わせることを約束する。
「主様、お金を借りるのは、なかなかシビアでゲロ」
「まあ、そんなもんだろ。そう簡単にはいかないさ。それは俺が元いた世界も同じだよ」
断られたことで右京は学んだことがある。一見、成功しているようだが別の見方をすれば、これが続くか怪しいと考える人間が多いということである。さらに武器の中古品というのはイメージが悪く、売れないものという評価は根強いということだ。
この辺りを取り払わないと今後の右京の躍進はないだろう。クロアが安易にお金を借りるものではないと言ったが、おかげで客観的に自分を見ることができたのはクロアのおかげでもあるのだ。
「最後の銀行、イヅモ銀行には今から行くでゲロか?」
「いや、店の方が心配だ。そんなに店を空けておけないからな」
今はホーリーとヒルダが右京たちの帰りを待ちながら、客の相手をしてくれているだろう。早く帰らないと商売が回っていかない。第3の銀行は明日行こうと右京は思った。それにヤンが支店長を口説き落とすことが出来るかもしれないからだ。
「全く、どいつもこいつも金を借りることしか考えていない」
王立銀行の融資担当をしている中年のオヤジはそう言って、自分の席に戻った。右京から預かった書類の入った封筒をクルクル丸めるとゴミ箱へ投げ入れた。上司に見せて交渉するつもりは全くないのだ。
「オストラストさん。それは先ほどのお客様からお預かりした書類じゃないのですか?」
女子行員がそう尋ねたが、男は首を横に振った。女子行員は今年入った新人社員で、男はこの娘をいつも生意気だと思っていたのだ。
「預かったとはいっても、社交儀礼だよ。それに預からなきゃ、帰らんだろう」
「それで検討もせず、断るだけですか。ご自分だけの判断で?」
「小娘が! 先輩の仕事に口出すのか?」
「いえ。口は出しませんが、せめて課長に相談したらどうですか?」
女子行員はそう男に忠告したが、それはますます、この男に逆鱗に触れただけであった。男はコーヒーをカップに注ぐと新聞片手に部屋から出て行った。今から情報収集という名のティーブレイクに入るのだ。男がいなくなったのを見て女子行員は、そっとゴミ箱から書類を拾った。彼女は前回のWDを見に行った事があり、右京のことを知っていたのだ。




