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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第9話 伝統のクロスアーマー(モイラクロスアーマー)
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右京、銀行へ行く

今回は内政編です。

店を大きくして商売を拡大しようとする右京ですが……。どうなる?

「主様、そろそろ、店を大きくした方がいいでゲロ」


 開店と同時にやって来る客の対応に追われて、さすがのゲロ子もサボる暇がない。朝から右京の店に売りに来る客や買い取った武器を見に来る客が何人もやって来る。これは都で行われたWDの全国大会での右京の活躍を聞いた冒険者が、自分の使い古した武器やダンジョンで手に入れた武器を売りにやって来るのだ。


 右京はその査定に大忙しだ。また、買い取った武器をカイルが整備して売るのだが、伊勢崎ウェポンディーラーズの品は安くて性能がよいという評判でこちらも客が出物はないかとやって来る。


 売る方にまで手が回らないので、ディエゴに頼んでギルドの武器ショップにも卸しているが、自分のところで売った方が利益も大きいし、客も安く買える。そう考えるとそろそろ店を大きくすることを考えないといけない時期だと右京は思った。

 

 カイルの鍛冶工房もそうだ。大量に持ち込まれる武器で修理が間に合わない。カイルと弟子のピルトだけではそろそろ受注も限界であろう。責任感の強いカイルは毎晩遅くまで、働いで注文をこなしているが丁寧に時間をかけてやるのがカイル流の仕事である。これ以上は質が落ちてしまいかねない。となると、カイルの工房も広くし、職人を雇って生産効率を上げていくことも必要だ。


「そうだな。そろそろ、人も雇って商売を拡大する頃だろう」


 思えば、この世界にやってきた時には一文無しであった。今は小さいながらも武器の買取り店を経営して、このように繁盛している。感慨無量とはこのことだ。店を大きくしていくことは経営者としての目標である。人も雇うことで社会に貢献もできるのだ。まあ、ゲロ子はただ単にサボりたいだけであるが。


「買取りにあと2人は人が欲しいし、販売の方は専門部署を作ってそちらで販売した方が効率いい。売上げも上がるだろうし、宣伝もできる。ここは伊勢崎ウェポンディーラーズのブランド力を一挙に上げるチャンスだ」


「ゲロゲロ……となると、今の店じゃ狭いでゲロ。いよいよ、自前の店を作る時期でゲロ」




「どう思う? カイル」


 夕方になって店を閉めた後、右京はカイルを酒場に誘って今後の方針を相談してみた。


「ううむ。俺は商売を拡大するのが必ずしもよいとは思えないのだ」


 職人気質のカイルはそう消極的な意見を述べた。カイルとしては店を大きくして、自分の目が届かないようになると今の品質が保てなくなることを危惧しているのだ。これは職人としては当然の反応で、右京としても尊重したい意見ではある。だが、ここは共同経営者であるカイルを説得しなければならない。


「カイル。君の腕は超一流だ。この中古買取り業も君の修理の腕なくしては、成功しなかっただろう。だが、このままじゃ、その腕も僅かな人にしか生かせなくなる。君の腕は、もっと多くの人に生かすべきだと思う」


「ううむ……」


「それにだ。君の娘のシャーロットちゃんがお嬢様って呼ばれる身分にしてあげたくないか。奥さんのエルスさんにもいい暮らしをさせてやりたいだろう」


 カイルの子供は1ヶ月前に生まれている。最近、実家からエルスさんと共に帰ってきて、今は工房の2階で親子水入らずの暮らしをしている。確かに子供も生まれて部屋も狭い。妻と娘にもっと広い家に住まわせてやりたいとカイルも思っていた。


「腕のよい職人を雇って、君が指揮すれば品質も落ないだろう。多くの人に職を与えるのも大事な使命だと俺は思う。それに、今、勝負に出ないと競争相手が出てくる恐れもある。それまでに伊勢崎ウェポンディーラーズのブランド力を高めておきたいんだ」


「うむ……。それは理解できるのだが。どうやって店を大きくする。資金はあるのか?」


 自前で店を建設するとなると、結構なお金がかかる。土地代に建物の建設費用。商売が回れば人を雇う資金は捻出できそうだが、初期投資に相当な資金がいるだろう。


「店の場所の候補はあるんだ。ゲロ子が冒険者ギルドで得た情報だ」


「そうでゲロ。イヅモの正門近くのロイド川沿いエリアで開発があるでゲロ」 


 そう言ってゲロ子が地図を開いた。イヅモの町は南エリアに繁華街が集中するが、繁華街は古くからある店で占められて入る余地がない。町では新しい商業地区を開発したいと、正門近くにあった古い住居地区を一掃したのだ。


「この場所なら町に入ってきた冒険者も直ぐに立ち寄ることができる。注文を受けて町外へ売ることも可能だ。それに川沿いということで、木炭や鉄等の原材料も運び込みやすい。ここに拠点を構えたいんだ」


 右京はそう地図に指差してプランを説明する。買取り店と販売店を併設。カイルの鍛冶工房に買取り倉庫、カイル一家の住居に右京の住居も設置するかなりの大掛かりなものだ。


「これだと土地代だけで20万Gはするだろう」


 この世界の町の土地代を考えてカイルはそう試算した。これに右京が言う建物や装備を整えるとさらに20万Gはかかりそうだ。日本円にして2億円相当である。現代からすると安い投資であると右京は考えていた。この場所は将来性があると確信をもっていた。町の中心となる商業エリアの中心を抑えて置くことは、商売をしてく上で重要である。


「資金は俺が今まで貯めたお金8万Gある。カイルはいくら出せそうだ」


「4万Gが精一杯だ」

「合わせて12万Gか……」


 土地代はもう少し安く買えそうだが、それでも20万G以上足りない。カイルは資金繰りがつくなら賛成すると言ってくれたが、右京にとっては難題である。


「お金ならクロアに相談するでゲロ。あのバンパイア女に借りを作るのは悔しいでゲロが」


「……とりあえず、相談してみるか」


 クロアは右京がこの世界に飛ばされた時に出資してくれたことがある。町外れに魔法のアイテムショップ「黒うさぎ亭」を開いているのだが、この国の王族に名を連ねる大金持ちであることが判明している。意外にすんなりとお金を貸してくれるかもしれない。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「クロアは貸さないよ」


 クロアは都でのクーデター騒ぎの後始末で、1ヶ月遅れでこのイヅモへ帰ってきたばかりであった。右京から店の拡大プランを一部始終聞いたクロアはそうきっぱりと言った。これは意外な反応であった。なんやかんや言ってもクロアは貸してくれるのではないかと右京は甘く考えていたのだ。


「なんでゲロ。ケチなバンパイアでゲロ」


 ゲロ子がそう文句を言うがクロアは耳を貸さない。


「クロア、頼む。ここは店を成長させるチャンスなんだ」


 右京はそう頭を下げたが、クロアは黒いうさぎの帽子を目深にかぶって首を横に振る。


「ダーリン。商売を成功させるのに安易な方法をとっちゃダメだよ」


「俺のプランに不備があるなら教えてくれ」


 右京はそうテーブルに両手をついて、頭をテーブルにつける。


「ダーリンがそうやってクロアに結婚を申し込んでくれるならうれしいんだけど。借金の申し込みじゃあね。ダーリン、商売人たるもの、お金のことで女に頭を下げちゃダメだよ」


「クロア……」


「場所のことや、店のこと。ここで投資することは悪くないとクロアは思うよ。でも、お金を安易に借りるとうまくいかないとクロアは思うの。ちゃんとした資金調達だったら、銀行に行くといいよ」


 そうクロアは言った。この世界にも銀行はある。まずは冒険者ギルドがやっている冒険者専用の銀行。これは冒険者から資金を預かり、小切手で資金を引き出せる。手数料を取って運営している銀行だ。これは冒険者しか利用できない。


 右京は代金を冒険者から小切手で預かるとそれを冒険者ギルド内にある銀行窓口にもっていくと現金がもらえるが、右京自身は冒険者じゃないので預けられないのだ。もちろん、商売するから融資なんてことはしてくれない。


 町には3つほど銀行がある。まずは最大手の王立オーフェリア銀行。ほとんどの町に支店をもつ大きな銀行だ。2つ目は第17銀行。これはイヅモを中心とする王国の西エリアを基盤とする銀行だ。3つ目はイヅモ銀行。このイヅモの町を本拠とする小さな銀行である。


 右京はこれまでニコニコ現金払いでやってきたので、銀行というものを利用したことがない。銀行は商売をする人にお金を貸してくれるが、それは土地が担保にあるとか、商売の成長力に魅力があるといった場合に貸してくれるのだ。この世界に飛ばされた時には、何も持たない右京は銀行に世話になることはできなかったが、今は一応、商売で成功している実績がある。融資を申し込んでもよいかもしれない。


「分かったよ、クロア」

「うん。その意気だよ、ダーリン」


 クロアにアドバイスを受けて、右京は翌日、ゲロ子を連れて銀行を初めて訪れた。


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