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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第8話 忘却の大剣(魔剣アシュケロン)
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イヅモへの帰還

こういう説明回はつまらないですよね。

でも、話が終わらないのでご容赦を。

超長かった8話。これだけで10万字超えましたw

ドラゴンゾンビが出現したデュエリスト・エクスカリバー杯は、大会の邪魔にかこつけたクーデター騒ぎへと変化した。このことを予想していたクロアは、すでに王宮の近衛師団本部と連携し、首都を守る第1師団の一部が謀反することを掴んでいた。


デュエリスト・エクスカリバー杯でドラゴンゾンビを召喚して、何万という観客を人質に暴れるのは陽動で、騒ぎの収拾に近衛師団が動員されることを見越した作戦であった。

 

だが、その目論見はクロアに看破された。あわよくば、王位継承権3位のステファニー王女と5位のクローディア・バーゼルをどさくさ紛れに殺せればラッキーぐらいで、本命は王宮の選挙と政府の中枢を抑えることであったのだ。

 

 しかし、蜂起してむかった先には完全武装で待ち受けている近衛師団であった。クロアに命じられて指揮していた近衛師団師団長ヘンケル准将は、クローディア姫の予想した通りの展開に驚きつつ、政権の転覆を図る反逆者に対して攻撃を命じた。


「オースティン公爵閣下、大変です。王宮に乗り込んだ第17中隊が近衛師団の待ち伏せにあって全滅との報告が……」


「政庁へ向かった部隊も敵に阻まれ、包囲されているとの連絡が……」


「第1師団駐屯地でも裏切る予定の部隊が包囲、拘束されたとのこと」


「ば、ばかな。作戦がばれたということか? スタジアムはどうなっている?」


 オースティン公爵は70歳を超える老人である。だが、禿げあがった頭は血色がよくかがやき、100キロを超える巨体は年を感じさせない。彼は反乱軍司令部と化した自分の屋敷で朗報を聞くはずであった。ドラゴンゾンビに襲われる市民を助けるために第1師団と近衛兵が動き、手薄となった王宮を占拠する作戦だったのだ。


「それが……スタジアムには出動していないのです」

「ばかな。ありえない。多数の市民を犠牲にするというのか!」


 オースティン公爵はこの作戦の指揮を取る人物を脳裏に浮かべた。軍を動かす陸軍大臣は別の町へ出張中でいない。第1師団を動かす師団長は、コネで地位を手に入れた貴族のじいさん。こんな判断ができるとは思えない。近衛師団長は有能な男だが、あくまでも軍事面に特化しており、このような謀略を図るとは思えない。


(となると……)


 王族関係者はみんな人がよいだけで凡庸。その取り巻きの貴族もそうだ。王女ステファニーもただのお嬢様に過ぎない。


「やはり……あのバンパイア娘か。こんな芸当ができるのは、あいつしかいない。あの王族に名を連ねる忌まわしき血筋の娘」


 クローディアのことはオースティン公爵も早くから警戒していた。いつもはイヅモという片田舎の町で隠棲生活のようなことをしており、暗殺者を何度か送り込んだが失敗を重ねたので静観していた。


 都へやってきたというので、再び、暗殺を企てて成功したと思ったら、偽りであったことがあとで判明し、手を下した暗殺者が何者かに殺されるということを報告を受けたばかりだったのだ。


「こんなことのできる切れる人間はあの娘しかいない。畜生め」

「公爵、屋敷が包囲されています。もはや、これまでです」


 クーデターは不意を突き、短時間で相手の中枢を掌握することで成功する。待ち伏せされた上に圧倒的戦力で責められては打つ手がない。日和見していた連中もこれで自分につくことをためらうだろう。


「公爵、亡命しましょう。秘密の通路から脱出できます」

「うむ。ここは一時逃れて再起を図ろう」


 オースティン公爵は屋敷に作らせた秘密の通路を使って脱出をする。だが、地下通路を抜けた先には一人の少女が立っていた。


「待っていたよ。オースティン公爵」

「き、貴様はクローディア!」


 クロアは両手を上に挙げてストレッチを始める。左手で右手首をつかみ、ぐいっと伸ばす。戦闘前のウォーミングアップである。


「クロアは待ちくたびれちゃったよ。ダーリンならともかく、禿げたおじいちゃんを待つのはつらいよ。まあ、ウォーミングアップは十分だけど」


 オースティン公爵の護衛が5人一斉に襲い掛かる。だが、クロアは慌てない。5人に向かって瞬間移動。次々と手刀を後頭部に入れて卒倒させる。バタバタと倒れる護衛の男たち。オースティン公爵はそれを見て恐怖で動けない。護衛の男たちは格闘も一流の者を雇っていたが、人を超越するバンパイアの前に赤子の手をひねるようなものであった。


「さて、おじいちゃんにはどういうお仕置きをしようかな」


「待ってくれ。わしはこの国の行く末を考えて行動を起こしたのだ」


「だから、正義は我にありってこと?」


「凡庸な人間ではこの国は守れない。隣国の侵略を招くことになるのだ」


「侵略? あなたの国政への侵略でしょ。失政があるならともかく、現王家は温厚で民に寄り添った政治をしているよ」


「それは政治が停滞しているだけだ。寿命が尽きる寸前の王と病弱な皇太子。これでは何もできない。進まない」


 クロアは右手を突き出してオースティンの話を止める。これ以上、議論する気はない。


「だから、あなたが王家に変わって政治を牛耳る。その意欲は買うよ。だけど、やり方が悪いね。クロアにも暗殺者を何度も向けて。それにクロアが一番許せないのは……」


 くああっ……っと口を開ける。パンパイアの証である二本の牙がむき出しになる。普段は八重歯のような感じだが脅すときには伸びるのだ。


「わわわ……やめてくれ……血を吸わないでくれ」


 オースティンはへなへなと座り込んだ。腰が抜けたようである。先ほどまで演説めいた主張をした時とは打って変わった態度である。こうしてみるとただのおじいちゃんという感じだ。


「ダーリンが優勝するはずだったデュエリスト・エクスカリバー杯をぶち壊したことよ。これは万死に値するよ」


 クロアの目が赤なる。こうなると魔力が高まるのだ。


「あわわわ……」


 ジョボジョボっともらすオースティン公爵。もはや、反王政の重鎮という威厳はない。


「はあ~。もういいわ。警備兵も来たことだし」


 わらわらと1個小隊の警備兵が走ってくるのが見えた。今回のクーデターを企んだものは逮捕されて今後、裁判にかけられることになる。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「で、決勝戦はうやむやになって賞金は0でゲロか? 運がないでゲロ。主様はツキがないでゲロ」

 

 イヅモに帰る馬車の中でゲロ子がブツブツ文句を言う。馬車には神殿での研修を終えたホーリーにヒルダ。ネイが乗っている。クーデター騒ぎで両者優勝ということになったが賞金は壊されたスタジアムの修理や怪我をした人々に使われて、目減りして右京が得たのは2千G。もらえないよりマシだが大幅に少なくなってしまった。


「先輩、ご主人様はお金よりも名誉を重んじるお方です。例え、賞金を全額もらったとしてもご主人様は、恵まれない人にそれを寄付する心優しいお方なのです」


「そうですよ、ゲロちゃん。右京様はそういう神様みたいな人なんです」


 ヒルダとホーリーの右京への評価は『神評価』である。正直、右京はこう言われると首筋がこそばゆくなってしまう。それほど自分が成人君子とは思っていない。


「お金よりも右京さんは、名誉を大切にする人なのじゃ」

「名誉じゃ、お腹は膨れないでゲロ」


 ネイの言葉も理想としてはそうありたい。でも、ゲロ子の言葉もまた真実である。ゲロ子は単にご馳走が食べたいだけなのであろうが。右京はそんなゲロ子の苦労を労おうと考えた。ゲロ子も随分活躍した。伊勢崎ウェポンディーラーズのメンバー、みんなの力を合わせた結果である。


「まあ、いいじゃないか。イヅモへ帰ったら打ち上げをしようじゃないか。パーッと、フェアリー亭あたりで」


「それは名案でゲロ」

「いいですねえ」

「賛成じゃ」

「太っ腹だな、右京」


 キル子が感心したように言う。傍らには魔剣『アシュケロン』がある。これは右京が今回のキル子のがんばりにお礼にプレゼントしたのだ。キル子は右京からの初めてのプレゼントで機嫌がいいのだ。キル子の豊かな双丘に挟んで大剣を抱きしめるキル子。目を閉じると右京が笑顔で近づいてくる映像が浮かんでくる。


「右京、まさか……これって」

「キル子、これがお前への婚約指輪の代わりだよ」

「え……じゃあ……」

「俺と結婚してくれ!」

「……は、はい」


「何が『はい』でゲロか。いつもの妄想でゲロ」


「うるさい。あたしは今、幸せな気分だったんだ。邪魔をするな、ゲロ子」

 

 ゲロ子を叩こうと狭い馬車の中で暴れるキル子。いつものコントが始まった。そんな様子を見ながら、右京はポケットからメダルを取り出した。それは金できたメダル。前回大会優勝したアルフォンソが、都を離れる時に右京に手渡したメダルである。


「右京君。決勝戦は両者引き分けという公式判断だが、観客も私も真の勝者は誰か分かっている。参ったよ。魔法付与が一番武器の性能を高める方法だと私は思っていた。だが、君の武器はそれを凌駕していた。使う者の能力を引き出し、攻撃力を高めていくのが武器なのだと私は今一度、基本を学んだよ。私は今後、原点に帰って冒険者のために使える武器を作るよ。中古武器屋と馬鹿にして済まなかった」


 そうアルフォンソは頭を下げて、今回の優勝者の証として前回チャンピオンから右京へ手渡したのがこのメダルなのだ。アルフォンソのことを嫌な奴だと思っていた右京であったが、素直に頭を下げてこれまでの非を謝罪するアルフォンソの潔さに右京は感服した。


 やはり、チャンピオンに上り詰めた人間というのは人格者なのであろう。右京も魔法付与については、今回の戦いでその有用性を学ばせてもらった。魔法付与はコストがかかりすぎるので、商売として成り立つにはいくつも障害があるが、いつか自分も扱ってみたいと思ったのであった。


 馬車がイヅモの町に入ると、待ち構えていたかのようにエルスの実家からの使いがカイルに伝える。エルスさんが産気づいたというのだ。こちらもめでたい話である。慌てて、エルスの元へ駆けつけるカイル。


 その日の午後、赤ちゃんが生まれた。2890gの元気な女の子の赤ちゃんだ。カイルがパパになったのだ。



次回から第9話。どんな武器出そうかな?

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