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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第8話 忘却の大剣(魔剣アシュケロン)
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勝利宣言

戦いが終わり右京はアルフォンソと共に記者会見に臨んでいる。決勝戦前の恒例である。虎のお姉さんことミランダが司会を務めている。参加者は国中の新聞、雑誌記者、武器屋や冒険者ギルドの関係者たちである。


「いよいよ、デュエリスト・エクスカリバー杯も決勝を残すのみとなりました。ここまでの戦いを振り返って、初参加で見事、決勝戦まで勝ち抜いた右京さん、心境はどうですか?」


 ミランダは、まず右京に質問をした。右京はこの大会が始まる前は全く注目されていなかった。決勝戦まで残るとは誰も予想していなかったであろう。


「ディエゴさんには、ベスト4が目標と言われていましたので、正直戸惑っています」


「右京さんのご職業は中古武器の買取り屋さんって聞いていますが、どんな商売なのですか」


 ミランダの質問は現代日本ではおかしな質問であるが、この異世界では自然な質問である。この世界には中古品を買い取って売るなどと言う商売がないのだ。車の新車販売はあっても中古車販売がないということなのだ。


だが、日本においても買取り業というのは、最近になって認知された商売といってもよい。2、30年前は下取りや質屋等で買い取る業者はあったものの、中古品を買い取る業者がたくさん出てきたのは最近のことである。


「冒険者から古くなった武器を適正な値段で買取り、それをチューンアップして売るという商売です」


「中古品を売るのですか? 品質的に大丈夫ですか?」


 ミランダは驚いたような口調でそう尋ねた。演技というより本心だろう。使い古した武器が生まれ変わるということが理解できないらしい。


「大丈夫です。俺が買うのは古くても良い武器です。相棒のカイルがそれを鍛え直して、生まれ変わらせます。1回戦で出品したポニャードダガーは冒険者から買い取った品ですし、ソードブレイカーは町のラーメン屋に飾ってあったのを譲り受けた品です」


「へえ~。そんなところにあった武器で勝ち抜いたのですか。これは驚きです。それでは、会場のみなさん。右京さんに質問はありますか」


 ミランダに言われて、何人かが手を挙げる。右京が適当に当てる。


「王都新聞のニッキーです。右京さんが勝ち抜いたのはデモンストレーターが優秀だったという意見もありますが」


 新聞記者の指摘は、ここまで観戦しての一般的な感想である。ここまで右京が出品してきた武器はダガーにしろ、トライデントにしろ、弓にしろ、圧倒的な破壊力を示したわけではない。これは右京が使用者の良さを引き出すよう武器を選択し、武器を調整しているからである。


「要するに女を戦わせて勝ってきたわけだ……」


 ポツリとアルフォンソがつぶやいた。それは皮肉混じりの悪意が込められていると感じた。


(主様、エルフのおっさん、嫌な奴決定でゲロ)


「確かに我が伊勢崎ウェポンディーラーズのデモンストレーターは優秀ですよ。キル……。霧子は剣の達人ですし、ネイは弓の達人。ケロティはちょっとコメントを差し控えますが、彼女たちの力なくしてはここまで来れなかったでしょうね」

 

 右京の目がアルフォンソに向けられた。


「でも、彼女らの良さを引き出したのは武器の力でもあります。目立たないけれど、よく考えればわかっていただけると思います。魔法とかいう力に頼って誰でも強くなれるような気がするものとは違って、俺の武器は本物です」


「な、なんだって! 私の武器が本物じゃないというのかね」


 アルフォンソが怒りを表して立ち上がった。元々、彼はこの記者会見の最初から不機嫌そうな表情であった。決勝戦の相手が右京で不満なのだ。アルフォンソは、相手が中古武器屋と聞いて、決勝戦にふさわしくないとか、一瞬で勝負が決まってしまうので盛り上げるために苦労をするとか吹聴していたのだ。


「本物かもしれないですが、実際に使えない武器は偽物ということですよ。例えば、アルフォンソさんが3回戦に出したメイス。威力が増していく魔法が付与されるあの武器はいくらですか?」


 アルフォンソはコホンと一つ咳払いをした。そして見下したように右京に言い放った。


「ふん。あれは10万Gはするな。貴様のような中古品屋には扱えない品だ」


「そうですか。10万Gですね。それじゃ、一般の冒険者には手が届かないですね」


「私の武器はそれを扱うのにふさわしい所有者がもつべきものだ。王侯貴族や勇者がもつにふさわしい」


 右京はにやりと笑った。この高慢ちきなエルフの男に喧嘩を売ろうと心に決めたのだ。慢心でカイルの手による右京の武器の素晴らしさが見抜けない男に思い知らせてやろうと思ったのだ。


「はん。それだからあんたの武器は使えないんですよ。そんな高い武器は冒険者には買えない。使えない武器はまやかしでしょう。勇者はともかく、王侯貴族のみなさんはあなたの武器を大切にしまうだけでしょ。人に見せびらかせて自慢するだけのもの。そういう実用性のない武器を偽物というのです」


「な、なんだと! ポッと出の小僧が生意気な。運だけで勝ってきたくせに」


「運だけかどうかは、決勝戦でわかりますよ。俺はあんたを倒して、武器は魔法の武器が一番ではないことを証明してみせますよ」


 おおおおっ……。


 記者会見の参加者からどよめきが起こった。最初は優勝候補筆頭で、ここまで結果的に順当に勝ち抜いてきたアルフォンソと初出場で逆転の連続で勝ち抜いていた右京。勝敗の行方は誰も目にも明らかであったが、その右京が自信ありげに勝利宣言したのだ。これは俄然面白くなってきた。


「面白い。どうやら貴様は私の最高傑作を知らないようだ。知っていて、そんなことを言うはずがないからな。まあ、決勝戦ではせいぜいがんばることだな」


「そちらこそ」

「こ、小僧が……」


 パチパチパチ……。


 拍手をして出てきたのは主催者で大会長のステファニー王女。言い争う二人に絶妙なタイミングで割って入ってきたが、これは彼女が計算したものではなかった。能天気な王女は傍らのクロアに促されたのだ。


「アルフォンソ様、右京様、決勝戦でのご健闘お祈りいたしますわ」


 そう言って手を差し出す。水を差された感のあるアルフォンソはやむなく、その甲にキスをする。右京も真似をする。終わるとアルフォンソは不機嫌そうに会場を後にした。


「右京様、まさかあなたがここまで勝ち残るなんて、わたくしは夢にも思いませんでしたわ」


 相変わらず失礼な王女だ。でも、きっと悪気はないのであろう。こういう地位にある人間は相手の心情を無視して言いたいことをいうものだ。


「王女様の期待に応えられなくてすみませんね。でも、次も期待には応えられませんよ」


「あらまあ。アルフォンソ様に勝つつもりですの」


「勝ちますよ。何だか闘志が湧いてきましたよ。アルフォンソとあなたに会ってね」


「わたくしに会ってですか?」

「はい。腹黒い王女様のおかげで」


「な、なんですって! わたくしが腹黒いですって!」


 横でクロアが笑っている。右京も言いたいことを言う男だ。ステファニーは侮辱されてカンカンに怒っている。


「怒った王女様の顔はブサイクでゲロ」


「ゲロ子、それは言うな。見てくれは美人でも心がブスな女はめずらしくない」


 わなわなと拳を震わすステファニー王女。


「わ、わたくしがブ、ブスですって?」


 生まれてこのかた、やれ美少女だ、花の妖精だと称えられ、花や蝶よと育てられた王女には衝撃的な言葉である。


「独り言ですよ。このようなお美しい王女様に向かって失礼なことは申しません。聞こえないと思ったのですが」


「王女様の耳はよく聞こえるでゲロ」

「ぶ、無礼な……」


 一国の王女を侮辱すれば、それは大変なことになる。不敬罪ということで逮捕されて処刑されることも中世ではめずらしくない。だが、右京もゲロ子もステファニーの横にいるクロアの存在があってこその本音である。クロアは表情でGOサインを出していたのだ。


「ステファニー。ここで騒いだら器の小さい王女って記者たちに書かれるよ」

「クローディア、あなたのダーリン、口が過ぎますわよ」


「それを大きな心でお許しになる王女殿下を国民は求めているよ」


 ステファニーは会場にいる記者たちの顔を見る。みんなステファニーの動向に注目している。クロアの言うとおり、ここは大会主催者として度量の大きいところを見せた方がよいだろう。


「わかりました。大会主催者としてわたくし、ステファニーは右京様の健闘も祈り、デュエリスト・エクスカリバー杯の成功を願います。それでは決勝戦の方法を発表します」


 ディエリスト・エクスカリバー杯の決勝戦は、大会が始まった当初から変わっていない。変わっていないので前回優勝者のアルフォンソはさっさと帰ってしまったが、初出場の右京は聞いて損はない情報だ。


 決勝戦はタッグ戦。『ジャイアント・キル』である。相手はドラゴン。勇者が総動員して倒した火竜『ドルトムント』のバーチャルモンスターを決勝戦2人のデモンストレーターで倒すのだ。ドラゴンに与えたポイントで武器の優越が決まるが、巨大なドラゴンをたった二人で倒すのは難しく、これまでドラゴンを倒した例はない。デモンストレーター側がHP0になって終了し、ポイントで勝負ということになる。


 第1回大会に優勝した時に出品された剣の名前が『エクスカリバー』だったために、この大会名に採用されているくらい、この決勝戦は数々の伝説を残したのであった。



「ご主人様、よくぞあの高慢なエルフにビシッと言ってくれました。わたくし、とても感動しましたわ」


 会見を終えるとヒルダが飛んで右京の左肩に乗った。相変わらず、右京の頬にスリスリしてくる。


「あたしもすっきりしたよ。あの見下した態度にはムカついていたんだ」

「うちもじゃ」


 キル子もネイも右京の態度にいたく感心したようだ。ヒルダはともかく、キル子なんかは惚れ直したという感じで心臓がドキドキしてくるのを抑えられないのだ。


(さすが、あたしが見込んだ男。言う時はちゃんと言う男だ)


「それにしても、あそこまで言ったからにはダーリン。ちゃんと勝つ方法は考えているのでしょうね」


 クロアがそう右京に尋ねた。


「ん?」


 答えない右京。クロア、キル子、ネイ、ヒルダの女子一同、右京を見る。


「まさか、ダーリン」

「右京、何も考えてなかったのか?」

「信じられないのじゃ」

「そんな強気なご主人様が好きです」

「主様はこういう人でゲロ」


 右京には現在のところ、アルフォンソに勝つ方法を考えていなかった。決勝戦の方法も知らなかったのだ。アイ・ハブ・ノーアイデア状態である。


「アルフォンソは前回の戦いで魔法の大剣で勝利したのよ。おそらく、今回も同じ大剣で勝負してくるでしょうね。何しろ、最高傑作として名高いものであったから」


 クロアが説明した。前回の大会でアルフォンソが出品した大剣は2mもある『ツーハンドソード』と呼ばれるものであった。氷結魔法が付与されており、『グラム』と名付けられた。あともう少しで火竜『ドルトムント』を倒しそうになった伝説の剣である。今回もそれを出してくるに違いない。


「なるほどね。じゃあ、俺も同じもので勝負するよ」

「ツーハンドソードを手に入れるでゲロか」


「ああ。ツヴァイヘンデルを買い取って、それで勝負するよ。武器は値段で決まるわけじゃないことを証明してみせるよ」

 

 右京はそう胸を張った。あと一勝で優勝なのだ。中古武器屋の意地を見せてやろうと右京は強く思った。




「わたくしをブスですって! なんて男かしら!」


 控え室に戻ったステファニーはプンプン怒って肩にかけたストールをソファに投げた。クロアにアドバイスされて事を荒立てなかったので、ステファニー王女の寛容さが伝わって株は上がったが、内心は面白くない。というより、ズバリと言われて自分の心にズキュンと何かが突き刺さるような感覚に囚われた。


(あんな生意気な男なんて、負ければいいですのよ。アルフォンソ様が天誅を下すはずよ。全く、王女を、このわたくしをブス呼ばわりなんて……)


 ステファニーはアルフォンソに強気で喧嘩を売る姿を思い出した。実績のあるもの以外は、大抵はアルフォンソに媚びへつらい、おべっかをいうのが常であった。それなのに初出場の右京は堂々としたものであった。


「クローディアがダーリンと呼ぶ理由がなんとなく分かる……って、わたくしは何をいってるのかしら……。わたくしをブスなんて言う男に……う~っ」

 

 ステファニーは迎えの馬車がやってくるまで、ソファーにうつ伏せになってクッションに埋まった。記憶の中から右京の顔を削除しようと努めたが、城に帰ってからもそれはできなかった。


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