シーソーゲーム
ついにアルフォンソVSディエゴ、マイケルムーアVS瑠子の戦いの決着なる。
魔法の武器とカラクリ武器、どちらが優れているか。
「これで瑠子が敵本陣へ移動するのが難しくなったでゲロ」
アルフォンソのウィザードの特殊能力で自陣の右端1列目に飛ばされたヒーローユニットの瑠子・クラリーネ。奇妙な鉄の鎧を操縦するはめになった彼女。スピード感を出した攻撃が得意なのに、ガシャン、プシューっとまどろっこしい動きになってさらに敵もいない端っこに追いやられて怒り心頭である。
「確かに端に飛ばされたけど、ヒーローユニットは斜めに進めるから、敵本陣まで8ターンあれば行けるだろ」
「右京、よく見てみろ。瑠子の進路には巧みに敵ゴーレムが配置されている。例えば、一番早く敵本陣に近づくには、左斜めを4回進み、前進4回の8ターンでよい。だが、そのラインには敵ユニットが4体も並んでいる。耐久力もあるクイーンも1体あるからますます時間がかかってしまう」
そうキル子が紙にフィールドと同じマスを書いて移動ルートを示した。それを見るとよくわかる。どんなに気が急いでいても瑠子は一歩一歩進むしかないのだ。一番遠回りのルートはこのまま前進9マス。左に4マス移動するコース。これだと敵ユニットはいない。
だが、敵本陣への攻撃まで12ターンかかる。それに対してマイケルムーアはディエゴ本陣の正面に位置する。間にクイーンユニットがいるからまだ本陣を攻撃できないが、クイーンを排除すれば攻撃は可能だ。現在、マイケルムーアの左右に歩兵と戦車。クイーンの右隣にビショップが位置している。
「でも、このルートだと8ターンで行けないか?」
右京がペンでキル子が書いた図にルートを示す。まず3マス左斜めへ進んで、前進3マス、左斜め1マス、右斜め1マスで本陣へ届く。敵ユニットをすり抜ける感じだ。
「ご主人様、それだと最後の左斜めマスに入った瞬間、その左隣のウィザードにまた飛ばされます」
ヒルダが敵の駒の位置を記入する。忘れてならないのが、ウィザードのゴーレムは隣の駒を任意の位置に移動できるのだ。これは自分が移動するとすぐには使えないが、敵が移動して来ると次のターンで発動するのだ。
「では、その手前で右へ2マス移動、前進1マス、斜め左1マスだ。10ターンになるがこれが最短距離だろう」
「ご主人様、そうですが10ターンだとマイケルムーアさんの方が先に本陣を攻撃できます。まず、周辺の敵を倒してコンボを発動します。左の歩兵を撃破して2倍。右の歩兵を倒して4倍。斜め左のビショップを倒して8倍、右斜めのナイトを倒して16倍。それだと攻撃力は50×16で800。ヒットポイント5000のクイーンが7発で撃破されます」
「つまり6ターンで本陣が攻撃されるでゲロ。本陣戦は10回攻撃で1ターンでゲロが、クイーン倒して32倍だと7発でキングが破壊されてゲームエンドでゲロ」
つまりマイケルムーアは今から7ターンでディエゴの本陣を落とせるということになる。瑠子は移動途中で敗戦となるのだ。
「それなら、駒を避難させたらどうだ。奴にコンボをさせないように退却だ」
右京の言ったことは当然、ディエゴも考えた。今回出品されたアルフォンソの魔法の武器は『ストレングス』の魔法で敵を倒すと攻撃力が2倍ずつ増えるという特殊能力をもっているのだ。コンボさせなければ、本陣のキングを破壊するのに200回の攻撃が必要となるのだ。
ターン数にして20ターン。こっちの方が勝利する可能性がある。10ターンでアルフォンソの本陣にたどり着いて9ターン以内でキングを破壊すればよいのだ。
「おそらく、ディエゴ会長はもう1つの可能性を考えたと思う。本陣前をがら空きにして、アルフォンソが何らかの策をもっていたら、それこそ短時間で負けてしまうことになりかねない」
キル子がそうディエゴの考えを読み解いた。そして、それはまさにそのとおりであった。
「本陣をがら空きにして、敵がさらに攻撃力を上がる方法があってみろ。なんの抵抗もなく、我が本陣が陥落するかもしれない」
ディエゴはそう考えて敢えてゴーレムで壁を作った。簡単に取り付かせるより時間稼ぎだと思ったのだ。
「ふふふ……。コンボを恐れずですか。さすがですね。もし、コンボ攻撃にビビってキング周辺の駒を退避させたら、私の勝ちは確定でしたが、ディエゴ氏もなかなかやりますね。ですが、それなら粛々と攻撃を続けるだけです。マイケル、倍加の魔法の恐ろしさを思い知らせてやれ」
「ふん。全く、面倒だな。まずは1体目」
マイケルムーアは一番弱い右隣の歩兵ゴーレムを倒す。これで攻撃力2倍。次は左隣の歩兵を5発で倒す。これで4倍。瑠子はキーン、ガシャン、キーン、ガシャンと斜めへ2マス移動しただけである。
「さらに斜め右の厄介なビショップを撃破!」
ビショップの駒が7発で破壊される。さらに斜め左のナイトが2発で倒された。今のマイケルムーアの1発あたりの攻撃力は800である。HPが1000しかないナイトでは2発で粉々だ。
「これで16倍。そしてクイーンへアタック」
クイーンユニットのHPは5000である。だが、1発あたり800となったマイケルムーアのメイスの攻撃の前に壁にすらならなかった。7発で崩れ落ちたのだ。もはや、キングの周りに駒はない。これだけの戦闘だ。ゴーレムもただ破壊されるだけでなく、ある程度は抵抗してマイケルムーアのヒットポイントを削ってくれることを期待したが、全くといっていいほどダメージを与えることができなかった。
「32倍の攻撃力をもってキングを破壊する」
マイケルムーアはクイーンが破壊されたエリアへ移動する。瑠子は6マス進んだだけ。まだ本陣まで4マスも足りない。
「これで終わりだ!」
アルフォンソが勝利を確信した。だが、その時、ディエゴは高らかに宣言した。
「敵陣左翼に位置する道化師に命令する。隣接するウィザードをコピー」
「な、なんだと!」
道化師ユニットがウィザードになった。コピー元のウィザードは隣接するユニットを任意の場所へ飛ばすことができる。
「ウィザードとなった道化師ユニットを本陣左横に召喚」
これで斜め右に行動完了となったマイケルムーアが位置している。召喚されたユニットはコンボの流れで1ターン行動ができる。ということは……つまり……。
「マイケルムーアのヒーローユニットを敵陣の端へ飛ばす。負け犬の小屋へご案内だ」
「さ、させるか!」
この一連の流れが成立したら完全にアルフォンソの負けとなる。瑠子はあと4ターンで本陣攻撃が可能となり、おそらくあの謎の鎧の力で2ターンもあればキングは破壊されてしまう。端へ飛ばされたマイケルムーアが再び、本陣攻撃できるのはどんなに早くても8ターンはかかる。つまり、2ターンの差でディエゴの勝ちが決定する。
「チャリオット!」
5マス移動できる戦車のゴーレムが横からウィザードに襲いかかる。行動が完了していないユニットはコンボ中の敵に反撃できるのだ。すさまじい戦車の突進の前にウィザードに化けた道化師のゴーレムが粉々となった。
「あ、危なかった……。もう少しで負けるところだった」
マイケルムーアがメイスを降ろして一息ついた。敵の思わぬ反撃に肝を冷やした。だが、起死回生の反撃を潰されたディエゴは指揮所で笑っている。なぜかと考えたマイケルムーアは愕然とした。
「敵の狙いはウィザードによる飛ばしではなかった。本当の狙いは……」
アルフォンソはしてやられたと思った。敵の戦略はこちらの裏をかくものであったのだ。
「これでマイケルムーアのコンボが切れたでゲロ。他のユニットで攻撃したらコンボが切れるでゲロ」
わあああっ……
大歓声がスタジアムを押し包む。両陣営の頭脳戦の応酬の見ごたえが観客の体をしびれさせた。
「コンボが切れました。マイケルムーア選手のコンボ魔法が無効となり、1擊あたりのダメージが1600から50へ戻りました。こうなるとキングユニットを破壊するのに、200回、ターン数にして20ターン必要となります。圧倒的不利になったアルフォンソ陣営、どうするでしょうか」
虎のお姉さん、ミランダがそう叫んだ。そうしている間に瑠子は本陣へとたどり着いた。巨大なモーニングスターを振り上げて攻撃態勢に入る。通常攻撃で歩兵を1擊で破壊する攻撃力だ。計算では2ターンでキングを破壊できる。
「瑠子さ~ん。同時攻撃になります、念のため、鎧のサポートをMAXにしてください。攻撃力は1000へアップ。1ターンで決めます」
「わかったわ」
瑠子はエドから教えられたレバーを倒した。ギアが変わって攻撃力を上げるモードだ。短時間ながら攻撃力を上げることができる。ただ、これはかなりの負担を鎧にかけるのでかなり危険な賭けだ。マイケルムーアは20ターンかかるから慌てなくてもいいはずだが、まだ何かやってくるとエドも瑠子も感じたのだ。魔法というものは侮れないのだ。そして、その予感は当たった。
「させるか、アルフォンソ、使うぞ!」
マイケルムーアはそう叫んだ。アルフォンソが頷くと同時に玉ねぎメイスの魔法の力を開放する。これをすると武器は魔法力を失うが、代わりにとてつもない攻撃をすることができるのだ。
メイスが金色に輝く。マイケルムーアは攻撃態勢に入る。
「くらえ、セルフブースト!」
セルフブーストは1体の敵に対してコンボによる倍加を可能とする。つまり、一発殴ると次は2倍。2発殴ると次は4倍となる。一度発動すれば魔法の力を失う最後の奥手のであった。
「ゲロ子、計算しろ」
「分かったでゲロ。1回で50ダメージでゲロ。2回で2倍で100ダメージでゲロ。っ合計で150ダメージでゲロ……」
ゲロ子のフードに描かれたカエルの目がクルクルと回る計算中だ。だが、それよりも頭脳明晰なヒルダが答えた。
「7回の攻撃で64倍、総ダメージが6350となります。つまり、8回目の攻撃で6400を加えて12750ダメージとなりますから、このままでいけばマイケルムーア選手が勝ちます」
瑠子は1回辺り、1000ダメージなので10回の攻撃を要する。わずか2発分の差で負ける。
「私は負けない。さらにパワーモード起動」
瑠子は6回の攻撃を終えたところで、緊急時に押す赤いボタンを押した。これは『人型攻撃力増強鎧』のすべての力を一点に集中するモード。これを使えば機能は完全に停止してしまうが、7回目で決めなければ負けてしまうのだ。
ブシューっと蒸気が両肩から大量に漏れる。巨大なモーニングスターを振り上げる瑠子。その瞬間、瑠子は自分の服がみるみるうちに破れ、そのまま、体が空中に舞い上がるイメージに囚われた。背中には真っ白な羽が生えている。空から巨大な燃え盛る太陽が落下してくる。それがモーニングスターの先端。
「熱い……私、体が熱くて……だめ、こんな攻撃をしたら、私、狂ってしまう。気持ちよくて、狂ってしまうよ~」
恍惚とした表情の瑠子。そしてさらなる快感を得るために無造作に振り下ろした。すさまじい爆音が轟く。それは爆裂女学生と名前にふさわしいラストアタックであった。
「ああああああああっ……イ、イク~っ」
プシューっと瑠子がまとう『人型攻撃力増強鎧』の動きが止まった。瑠子は気絶している。体が時折、ピクピクと痙攣している。
「ああああっと! 瑠子選手のものすごい攻撃が炸裂。これでアルフォンソ陣営のキングは破壊されたでしょうか。破壊されれば、瑠子選手の勝ち。ディエゴ陣営の勝利です」
観客全員が見守った。マイケルムーアも7回目の攻撃で中断した。スクリーンに映る数字を見る。
「1」
マイケルムーアは頷いた。無言で8回目の攻撃を加える。ディエゴ陣営のキングのHPが「0」となった。
「あああっ~。なんということでしょうか! わずか1ポイント、1ポイント残ってしまいました」
瑠子・クラリーネ選手の渾身の一撃は3999ダメージを叩き出したものの、残り4000あったアルフォンソのキングゴーレムのHPを0にすることができなかったのだ。
「決勝進出の1名が決定しました。アルフォンソ&マイケルムーアチームです」
そう勝者を宣言するミランダ。
おおおおっ……。
大歓声と紙吹雪、応援グッズ等がスタジアムに投げ込まれる。感動と悲鳴、歓喜と落胆が渦巻くスタジアム。3回戦の第1試合はこうして終わった。2試合目は右京たちの出番である。
眠くて死にそうです。
間違いがあったらごめんなさい。




