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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第8話 忘却の大剣(魔剣アシュケロン)
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倍々ゲーム

「さあ、今度はマイケルムーア選手の前に歩兵ゴーレムが立ちはだかります。しかも、両サイドにはナイトと戦車が固めて完全にブロック。どうするでしょうか」

 

虎のお姉さんが解説する。瑠子と同じようにディエゴ陣へ侵攻したマイケルムーアの前に分厚いディフェンス陣が立ちはだかったのだ。これはディエゴが綿密に配置した結果であり、一手一手を動かしながら巧みにゴーレムによって包囲した結果であった。


「会長、いけます。ここでゴーレムの波状攻撃で一気に決めましょう」


 アマデオは両手でガッツポーズをした。この3回戦、本陣のキングを倒すことが勝利条件だが、ヒーローユニットのHPを0にしても勝利となる。ヒーローユニットは破格の強さを誇るが、ゴーレムの駒によって取り囲み、徐々にHPを削っていけば倒せなくはない。


「気に入らないな……」


 ディエゴはそうつぶやいた。


「会長、気に入らないって? 現にこちらの作戦通りじゃないですか。歩兵、ナイト、戦車で取り囲みました。第1陣が破壊されても、第2陣、3陣とぶつけられる」


 作戦通りだとアマデオは父親のつぶやきに信じられないという表情をした。これ以上ない理想の形だ。


「奴はこれまで一度も戦わず、誘導されるようにこちらの罠に入ってきた。おかしいと思わないか」


「それは武器の消耗を防ぐためでしょう。できるだけ進んで本陣近くになったら攻撃するのは常套手段かと……」


 ゆっくりとマイケルムーアが手にした武器を振り上げた。彼が持つ武器は『メイス』。形状は玉ねぎ型と言われるハンガリーで使われていたオーソドックスなものである。鉄製の柄に玉ねぎ型のヘッド部分が組み合わされたものだ。これにアルフォンソが魔法付与をして、凶悪な武器に生まれ変わっているに違いない。


 観客は誰もが想像した。メイスが振られる度に爆発するとか、炎が吹き上げるとか、電撃が地面から発せられるとか、そんな光景が頭に浮かんだ。だが、そんな派手な演出は起こらなかった。マイケルムーアが目の前の歩兵ゴーレムを倒したのは、そのメイスできっちり10回殴り続けたからだ。ゴーレムにヒットしても特に変わったことがないのだ。


「どういうことだよ、もっと派手な展開期待したのに……」


 観客のほとんどがマイケルムーアの攻撃に期待していたから、これはがっくりと気が抜ける。だが、アルフォンソは慌てていない。マイケルムーアが次に右の歩兵ゴーレムと格闘し始めたのだ。歩兵ゴーレムの耐久力は500程度。メイスの一撃は50くらいなので、およそ10発で破壊できる。


「おりゃ!」


 2体目を破壊しても攻撃の手は緩まない。マイケルムーアは駒を進めて、3体目と交戦する。渾身の力で殴り倒すマイケル。ドゴン、ドゴンとメイスの打撃が歩兵ゴーレムをばらばらにする。さらに隣のナイトのゴーレム。これに攻撃を仕掛ける。


「ゲロゲロ……。魔法付与に失敗したでゲロか?」

「派手な魔法は発動しないようじゃ」

「おかしいな。ベスト4で手を抜くとは思えないし」


 右京はアルフォンソの狙いがわからなかった。連続で戦い続けるマイケルムーアの体力を削る作戦は順調ではあった。


ドゴーン、ドゴーン。


 マイケルムーアは勢いよくメイスを振り上げて、ナイトの駒に襲いかかる。ナイトは歩兵の2倍の体力があり、さらに攻撃力も2倍となるのだ。ところが、マイケルムーアはこのナイトをたった3発で壊滅打撃を与える。さらに次に襲いかかった歩兵は1発で粉々になった。一枚の大きなガラスを鋼鉄のハンマーでぶち壊したぐらい爽快な破壊だ。


「奴の攻撃力が戦うたびに上がっている……」


 キル子がそう右京に言った。メイスは振り上げられる度に攻撃力が増すようだ。まさか、これが魔法なのかと気がついた。


「ふふふ……。みなさんもようやく気がついたところでしょうか」


 アルフォンソが虎のお姉さんミランダから向けられたマイクでそう言った。観客たちはアルフォンソの魔法付与の秘密が知りたいと静かになる。


「まだ気がつかない人のために答えましょう」

「早く、言うでゲロ。ゲロ子は分からないでゲロ」

「マジかよ、ゲロ子」


 その武器は攻撃を加える度に攻撃力が2倍になる『ストレングス』の魔法が付与されていた。しかも単純に2倍になるわけではない。これはコンボをつなげていくと恐ろしい程の攻撃力をもつことができるのだ。


 つまり、敵を1体倒すと次の敵とは×2で戦える。それを倒すと×4となる。さらに倒すと×8となるのだ。歩兵の総HPは500。メイスによる普通打撃は1発50程度だ。だが、1体倒して次に行くと魔法の武器の効果で1回につき100ダメージとなる。


 倒すのに10回の攻撃が必要だったのに、コンボ成立後は半分の5回で十分となる。2人目を倒せば、効果は4倍。HP1000のナイトは5発で葬り去られる。これで16倍。800ダメージをたたき出すメイスの前に、一撃という日本語の意味を充分に納得させられる。


「わたしの前に敵を並べるということは、ゲームを捨てたと同義語だ」

 

 マイケルムーアがそうゴーレムを破壊しつつ言い放った。ディエゴ側のゴーレムの駒はガラス細工のように粉々になるのみである。


「くそっ」


 ディエゴは慌てて次の攻撃を加えようとした戦車の突進をやめて駒を退避させた。隣接するマスに敵がいなくなってマイケルムーアの攻撃が途切れる。コンボが止まったのだ。攻撃力がリセットされて元の数値に戻る。


「コンボは止まったが、これでこの武器の恐ろしさがわかったであろう。戦えば戦うほど強くなる武器。長く戦えば消耗してしまう君たちの武器では、私には勝てない」


 そうアルフォンソは静かに言った。もはや、勝利は自分のものであるといった雰囲気だ。確かにコンボを重ねればどんどん攻撃力が上がっていく魔法の武器に通常の武器では対抗のしようがない。だが、エドはにやりと笑った。


「そうかな。僕の武器はそんなにやわじゃないよ」


 エドの言葉に瑠子が応える。モーニングスターの柄に付いているボタンを押す。すると刺の突起が引っ込んだ。破壊して足止めをした後のとどめを差すときには、突起を引っ込めるのだ。これで武器へのダメージを最小限に抑える。さらの違うボタンを押すと丸い球状のものの中から、ハンマーのヘッドの部分が飛び出した。


「行け、チャリオット。敵デモンストレーターに直撃」


 アルフォンソの命令で瑠子目掛けて攻撃が始まる。戦車の駒は1回の移動で5マス移動できる特殊能力がある。それではるか後方から突進してきたのだ。


「せいの!」


 だが、瑠子は動じない。軽くモーニングスターを振り上げるとドゴーンという破壊音がすると戦車のゴーレムが粉々になる。モーニングスターからウォーハンマーへ変形した武器で仕留めたのだ。


「スゴイでゲロ」

「ご主人様。エドさんのアイデアは素晴らしいものがありますね。一つの武器に異なる要素を詰め込むとは」


 復活したヒルダがそう解説する。戦いは大激戦の様相である。共に圧倒的な破壊力をもって、ゴーレムを次々と破壊して本陣へと近づいている。もはや戦略とか関係なく、本陣に早く到着したものが勝つということになりつつある。


(ここまでは大味なゲーム運び。だが、このゲームの恐ろしさは駒の特性を使った綿密な作戦による)


 アルフォンソが自陣のウィザードのゴーレムに命じたのだ。それは瑠子のマスにそっと隣接した。瑠子は2台目の戦車を3擊で破壊した。だが、それは計算通りであった。


「敵のヒーローユニットを移動。フィールドの一番端へ」

「ば、馬鹿な……」


 ディエゴと瑠子は同時に自分たちが置かれた状況を飲み込めず、一瞬、放心状態となった。本陣に迫る勢いだった瑠子だったが、気がつけば自陣の右端に移動させられている。


「このゲームはただ攻撃すればよいというわけではないのだよ」

 

 アルフォンソはそうほくそ笑んだ。そして、マイケルムーアに攻撃命令を出す。ディエゴ本陣までのルートが開かれた。


「さあ、コンボを続けて本陣で一撃で破壊してやりましょう」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ここで分かりにくい、ゴーレムの動きのまとめ

 フィールドは9×10のマスで仕切られている。


歩兵……1ターンに1マス移動できる。(前進)移動方向は、前後左右OKである。

ナイト……攻撃力が高い。1ターンに2マス分移動できる。

ビショップ……隣接するユニットが破壊された場合に有効。破壊されたユニットを蘇らせる効果。また、ダメージを受けた駒の修復も可能。

戦車……1ターンに5マス移動できる。戦車と言っても馬に引かせて走らせる古代の戦車なのだ。

ウィザード…隣接するユニットを任意の場所へ移動できる。これは使いようによってはちょっとずるい気がする。

道化師……隣接するユニットをそのままコピーできる。ん?

クイーン…強さはキング並み。動けないキングの代わりに邪魔をする駒。

キング…本陣でひたすら耐える駒。ヒットポイント1万。

ヒーロー…デモンストレーター。左右前後斜め前後ろ移動可能。但し1マスしか移動できない。


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