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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第8話 忘却の大剣(魔剣アシュケロン)
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人型攻撃力増強鎧

 3回戦は1対1によるバトル形式。最初はエンチャンターのアルフォンソと武器デザイナーのエドを擁するディエゴの戦いだ。エドはここまでに戦いに出した武器のアイデアが評価されて、『武器のファンタジスタ』という称号を得ていた。閃きや創造力で観客を魅了する彼のアイデアがそう呼ばせているのであろう。特に2回戦の自動で銛を連続発射する『サイドワインダー』の印象が強烈であった。

 

 そのイメージが観客一人ひとりに無敗を誇るエンチャンターのアルフォンソを撃ち破るのではないかという期待感を抱かせた。今日、歴史が変わる瞬間を見ることができるかもしれないという期待。よって、スタジアムは超満員である。エドがどんな武器を開発し、それをアルフォンソがどんな魔法付与で対抗するのかを固唾を飲んで見守るのだ。手に汗握る戦いが繰り広げられるに違いない。

 

 また、両者のデモンストレーター対決も話題であった。アルフォンソが擁するのはパラディンのマイケルムーア。正確無比な剣術に豊富な経験。甘いマスクにダンディな物腰。まさに完璧な男に女性ファンが詰めかけている。それに対抗するのは『爆撃女学生』の異名を取る瑠子・クラリーネ。若手の中で注目のデモンストレーターである。その剣技は目に止まらないスピードと爆撃と称される破壊力。見た目は華奢女の子だけにギャップ萌えで男性ファンが詰めかけていた。


「何よ、キャピキャピしてぶりっ子しやがって」


「爆撃女学生って言ったって、20歳超えているでしょ」


「若作りよ、若作り」


「マイケル様、そのぶりっ子にお仕置きしてあげてください~」


「うるさい、おばちゃんども。瑠子様に対する暴言許さじ!」


「瑠子様は神です」


「瑠子様~っ。汗臭いおっさんに引導渡してやれ!」


 ファン同士の罵倒がヒートアップしてする異様な光景が展開されている。そんな中に両者が対峙する。ダンジョン3階のチェスの間と呼ばれるエリア。その空間は床にマスが描かれている。9×9のマスだ。そのうち、9×4が自陣エリア。最後列の真ん中に本陣があり、ここにキングのストーンゴーレムが安置される。

 

 残り35マスに歩兵のストーンゴーレムが10体。ナイトが3体。ビショップが2体。戦車が2体、ウィザードが2体、クイーンが1体と道化師が1体を配置できる。それぞれが特殊な動き方と攻撃力を持っており、デモンストレーターはヒーローユニットとして駒となる。交互に移動して敵の本陣にあるキングを倒せば勝ちというゲームなのだ。


「この戦いは武器の優越が重要だが、それに匹敵するくらいコマを動かす戦術も重要となるだろう」


 ディエゴはそう言ってエリアの後方に立つ。ここで駒に命令を出して動かす役割があるのだ。これはディエゴが最終的に宣言するが、チーム内で相談することも可能なのでチーム戦となる。


「パ、じゃなかった会長。単純にヒーローユニットが真っ直ぐに進んで本陣を直撃すればいいんじゃない?」


 そう息子のアマデオがディエゴに尋ねた。駒の強さは種類によって決まっている。それぞれが強い、弱いがあるのだ。だが、ヒーローユニットたるデモンストレーターにはない。武器の力とデモンストレーターの戦闘力で破壊できるのだ。


「確かにデモンストレーターは強い。だが、ストーンゴーレムも侮れない。例えば、戦車は突進してくるとかなりの攻撃力がある。簡単には倒せない。ウィザードは敵の駒を任意の場所に移動させることができる。それはヒーローユニットも例外ではない。ビショップの駒はヒットポイントを回復させることができるのだ」


 ディエゴは自陣にストーンゴーレムを配置しながら、そう答えた。配置によってはデモンストレーターが消耗し、自陣が攻め落とされることもありえるのだ。


「ですが、やはりヒーローユニットの性能が一番のキーですよ」


 そうエドが今回の戦い用に投入した武器の入場を見つめた。瑠子・クラリーネが姿を現したのだ。その姿に観客は息を飲んだ。


「何だでゲロ、変でゲロ」

「瑠子……どうしたんだ」


 ゲロ子が呆れ、キル子が唖然とする姿がそこにあった。右京たちもこの戦いを見に来たのだ。同じギルドのチームだ。当然、瑠子の応援である。だが、右京も驚きでコメントできない。スタジアムに集まった瑠子ファンも息を飲み、マイケルムーアファンの女性たちも沈黙した。

 

 ウィーン……ガシャン。ウィーン、ガシャン。時折、プシューと蒸気を出しながら現れたそれは……。


「僕が今回開発した人型攻撃力増強鎧パワードスーツヒューマノイドタイプ


 エドがそう言い放った。仁王立ちして力強く指を差す。差した方向には、その自慢の逸品があった。それは身長2.5mの鉄でできた人型の機械の真ん中に瑠子が固定されているもの。瑠子の格好はセクシーなレオタード姿。両腕、両足には何本ものホースがつながれ、腕や足を動かすごとにその大きな人型の機械も動く。


 見方を変えれば、アイアンゴーレムを操縦する少女のように見えなくはない。だが、動きがぎこちなくカッコイイとは言えない動きである。


「こ、これは何ですの! こんなカッコ悪いの私は嫌です」


「我慢してください。直ぐに観客はあなたの攻撃力に度肝を抜かれますよ」

 

 エドが大声で前線に配置された瑠子を励ます。後ろを振り返り悲痛な叫びを上げる瑠子・クラリーネ。


「そ、そんな~。観客の皆さん、みんな驚いて一言も発していませんわよ」


 確かにスタジアムに詰めかけた観客は沈黙している。どう反応してよいか迷っている感じだ。


「エド君、本当にあれで瑠子君の力を引き出せるのかね?」


 ディエゴも観客の反応で少し揺らいだ。前日にこれを見て彼も驚いて声も出なかった。だが、エドの説明を聞いて納得はしている。瑠子には格好で嫌がる可能性があるので、試合直前まで知らせなかった。単に打撃用の武器で戦うことだけを告げていただけなのだ。


「何だか会場が静まり返っていますが、進行を務めるのは虎のお姉さんことミランダです。それでは、3回戦のルールを説明します。3回戦はチーム戦です。フィールドに配置されたストーンゴーレムを破壊しながら敵の本陣にあるキングゴーレムを破壊すれば勝ちです。交互に1マス動かし、デモンストレーターがゴーレムと出会えば戦闘が始まります」


 ストーンゴーレムには役割によって耐久力が決まっていたが、目安として一番弱い歩兵型で一般的な戦士がメイス等の武器で10発殴って破壊できるほどであった。これはかなり重労働であり、武器へのダメージも大きく、扱うデモンストレーターへの影響も大きいものがあった。


「それでは開始です。先攻はディエゴ陣営からです」


 虎のお姉さんミランダさんの宣言で戦いが始まった。まずはディエゴが宣言する。最前線に配置した瑠子に1マス前進させる。


 ギー……ガシャン、ガシャンと前進する。蒸気がプシューっと出て相変わらずカッコ悪い動きだ。観客席からは失笑らしきものが漏れてきた。


「何だか、常識では考えられない武器を登場させてきたようだね。まずはどれほどのものかその力を見てあげよう。歩兵を前進。デモンストレーターにアタック!」


 アルフォンソがそう命じた。歩兵のストーンゴーレムが石の剣を振り上げて、前進して瑠子へのアタックをかける。まずは敵の力量を図ろうというのだ。カッコ悪いとブー垂れていた瑠子だったが、そこはプロのデモンストレーター。戦闘になると目の色が変わる。


「ストーンゴーレムごときが、この私に勝てると思う?」


 瑠子が人型攻撃増強鎧パワードスーツの背中に取り付けられた武器を手にした。重さは全く感じない。それどころか、機械の体を通じて電気のような痺れが伝わってくる。それは心地よいというより、体を震わせる快感へと変わる。


(なに、この感覚。圧倒的なパワーが私を支配していく……何だか私、別の自分になってしまいそう……ダメえええ……)


 機械の腕が巨大な武器を振り上げた。観客は変な鎧姿の瑠子ばかりを見ていたので、背中の巨大な武器に誰も注目していなかったのだが、ここでそれが目に入った。


 それは『モルゲンステルン』またの名を『モーニングスター』と呼ばれる武器。柄頭が巨大な球状で放射状に幾つもの刺が出ており、通常の大きさは全長が50~80cm、重さは3kg程である。だが、瑠子が取り出したのはそれよりもはるかに大きい。長さは150cm、重さは10kgにも及ぶ巨大な『モーニングスター』である。


 この武器の特徴は、重武装した騎士を打撃で倒せること。剣や槍では倒せない重装備でもこれで殴られれば中の人間は無事で済まない。そして今の場合でも、ストーンゴーレムの固い岩の体も容易に破壊できる。


「そりゃあああっ。死ね、死ね!」


 パワードスーツを操る瑠子はその巨大なモーニングスターでまず、ストーンゴーレムの足をなぎ払った。一撃で両足が吹き飛び、その場で崩れる歩兵。


「はうううううううっ……。気持ちいいいいいっ……。まだ、ダメ、もっと感じさせて!」


 さらに振り上げたモーニングスターがそのまま倒れた歩兵のストーンゴーレムを粉々に砕いた。粉々になった石が飛び散り、視界が悪くなる。まさに粉砕するという言葉がぴったりの光景だ。


「す、すごい……」


 虎のお姉さんがそうコメントした瞬間にスタジアムが大歓声に包まれた。凄まじい破壊力に脳天まで痺れが来た。


「すげえ、瑠子ちゃん」

「神だ、瑠子様が降臨された」

「あの格好、よく見るとそそられないか?」

「ああ、拘束されたみたいな瑠子ちゃんの格好が萌えええええっ」


 瑠子ファンがある者は興奮のあまり鼻血を出し、ある者はトランス状態で気絶する。意味のわからない雄叫びを上げるものもいる。


「い、一撃です。信じられません。普通は10発以上、攻撃しないと破壊できないストーンゴーレムをたった一撃で戦闘力を奪い、もう一撃で粉砕しました」


 おおおおおおっ……。スタジアムのどよめきと歓声が鳴り止まない。


「なるほど。瑠子君の武器は素早い動き。しかし、今回のフィールドではそれは使えない。一歩一歩進んでゴーレムを破壊するだけだ。スピードは意味がない。となるとパワーアップが課題だが、まさかあんな発想をするとはな。さすがはベスト4進出者だ。侮れない」

 

 アルフォンソは瑠子の攻撃を見て、気を引き締めた。これは下手をすると瑠子が最短距離で本陣に迫り、キングを破壊してしまう恐れがあった。


「だが、こちらも工夫がないわけじゃない。魔法付与の方法がいろいろあることを思い知るがいい」


 アルフォンソはマイケルムーアに前進を命じた。今度は彼の番だ。


人型攻撃力増強鎧…ネーミング、ダサいなんて言わないで。

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