白
ミステリアスなんて聞こえはいいけど、要するに得体が知れないってことでしょう?そんな風に思われていることに酷くショックを受けてしまった自分自身に驚いています。
他人にどう思われようと構わないし、ましてやあの人に関心を持つはずもなく、周りの言葉なんて聞くつもりもない緩くかかるバックミュージックのようなものだったのです。
もういつだったか思い出せないくらい前に、ただ何も持っていないことが分かって、全てに失望したのだけれど、消滅するとか余生を送るとかいう強い意志があるわけでもなく、幽霊のように、もしくは亡霊のように仕方なしに生きてきたのです。何も持っていないとはいえ、納得いくものではなくとも肉体だけは確かにここに存在していましたので。
肉体機能は多分欠陥なく、なのにそれからは常に誰の言葉も遠く感じる。それでよかった。口外さえしなければ、心が死んでいることなんて誰にも分からないでしょう。綿飴を髪に絡めている人を見て驚いたフリをしたり、科学室で足を開いている人を見て悲鳴を上げたり、横で笑えば笑うフリ、人並みの反応。幾度となく往生際の悪いフォローをしてきましたから。
勿論、本当はどうでも良かった。
何の関心もなかった。
「ミステリアスだね」
あの人のその一言。どうして突き刺されたのか分からず、私は今、混乱している。
父に似ているのかもしれない。持っているのに、欠片さえくれず、私の分を用意しようとも思ってくれなかった残酷な父に。白い天井を見つめて、泣いていた。記憶は飛び飛び、まだ泣けていた、昔。
『ハヅキは性別の違いにすら気付いてないのか?ていうか、気にしないか』
【いやいや、さすがにそれは気付くでしょう。自分のこと、只の冷血人間、ついでに性同一性障害ぐらいにしか思ってないんじゃないでしょうか】
『肉体機能に問題なく、で、心が死んでる?いや、他に大変な問題あるんだけどな』
【大丈夫ですかね?】
『‥‥まー、死にはしないだろうさ。そんな度胸があればとっくに』
【シンヤさん、他人事のように言わないで下さい。分かってると思いますけど、彼女が死を選択したら、当然僕らも死にますからね】
真っ白になっていた。よくある放心状態。疲れているのかもしれない。なんだかここは薄暗い。
あの人になら、本当に刺されてもいいかもしれないと考え始めている。
この感情がなんなのか、検討はついていて、強い確信を持って告白してみましょうか。心のない私は、傷つきはしないはずだから。
【無理だと思います】
『万が一上手くいったとして、一つの体で何人と付き合う気だよ。大体にして、イクミだけで四人の女と付き合ってるわけだし、いいかげん、もたないね』
【それ以前に、僕は男の人と肉体関係どうこうってすごい抵抗ありますけど‥‥】
『抵抗あんの?どっちかっていえば、ニコの精神は女寄りだろ』
【‥‥違いますよ】
『考えたら、男に「ミステリアスだね」とか言ってきたこいつ、絶対ホモだろ。計算だ。簡単に引っかかりやがって。ハヅキ、告白なんてしてみろ。上手く纏まっちまうぞ。うっわー、そっか。相手、男だもんな。気持ち悪!!』
【本当に危険だと思ったら、ハヅキには申し訳ないですが、切り替わって止めましょう】
『ていうか、このホモ男、全力で遠ざけよう。無理にでも交代して、俺、ぶん殴るわ』
【しかし、ハヅキはなんでしょうね。いつまでも、僕らの存在にすら気付かないなんて】
『受け入れたくないんだろ。呼びかけても応えないし』
【やっぱり人格の一人が勝手な行動すると、みんなが迷惑しますね】
『イクミだってヨシヒトだって大概勝手だけどな』
【でも、まあ、許せる範囲ですよね】
『‥‥「刺されても」ってのは、比喩だろ?』
【‥‥‥多分。彼女、詩人ですからね】
また、白くなった。私はきっと疲れている。いつだって、疲れている。
最近、白くなっている間、奥で何かを感じる。ざわめいている。何だろう。
きっと、気のせい。疲れているせい。
独白なんてするつもりもなかった。貴方はただの傍観者。どうぞお忘れ下さい。
【‥‥独白なんてしなくても、完全に中から聞こえちゃってますけどね】
『傍観者でもないし』
《お前ら二人、いつもいつもやかましいわ!!解説者気取りか!!》
『!!光輝だ!!ホストがでてくるとは、珍しい』
【‥‥すみません】
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
多重人格者のお話でございました。