7.不可抗力
キリのいいところまでにしたら長くなりました、すいません
(やっぱり混んでるな…)
始まりの町付近のマップはすべて人が多すぎて狩れそうな状態にない。
みんながみんな狩りが進まなくてイライラし、今にもPKが起こりそうな雰囲気だ。
そんななか、とりあえず俺は魔法の威力や使い勝手を試したい。
今使える攻撃魔法は〈闇の雷〉と〈聖なる弓〉だけだ。
他のはMPが足りなかったりlvが足りなかったりして使えない。
あとは〈瞬間移動〉と〈魔法透明化〉が使えるくらいだ。
〈瞬間移動〉は説明を見る限り、MP消費が激しい
〈魔法透明化〉は割と少ないMP消費で使える。
(とりあえず〈魔法透明化〉をかけた〈闇の雷〉で遠くから敵を撃ってみるか…)
人が密集しているが仕方ない。
〈魔法透明化〉をかければ俺が何をやったかはほかのプレイヤーにはわからないだろう。
というより魔法使い以外は割とHPと防御力があるらしいし大丈夫だろう。
そんな楽観的な考えを持ちながら俺は詠唱を始めた。
えーと…まずは〈魔法透明化〉からだから…
「全ての現象を司る万能の神よ…我に力を貸したまえ…」
これで次に唱える魔法は透明化するらしい。
詠唱も短くてよかった。
次は〈闇の雷〉の詠唱だ。
「闇よ、我が敵を討つためにその力の一部を顕現せよ。その姿は雷、光の速度で敵を滅せよ。〈闇の雷〉!」
俺が狙ったところはプレイヤーが五人ほど、Mobが三体ほどいる半径三メートルくらいの範囲だ。
そのどこかに着弾してくれればいいな、そんな思いを胸に抱きながらそのあたりを眺めていた。
距離は五十メートルほどあったため変化が起こるとしても一〇秒ほどあとだろうと思っていた。
だがそれらの期待や考えは悪い意味といい意味で裏切られる。
まずいい意味のほう。
俺が魔法を放ってから着弾までは二秒とかからなかったし、着弾位置もMob三体の中心と言えた。
そして悪い意味。
…爆発音とともに半径5メートルのプレイヤーとMobが消滅した。
(マジかあああああ!!!?)
正確には〈闇の雷〉の爆風に巻き込まれ死んだのであろうが、〈魔法透明化〉をかけた今の状態では周りの人から見るといきなり消えたようにしか見えない。
「プレイヤーが消えたぞ!!?」「何かのバグ!?」「このマップはやばいぞ!みんな逃げろ!!」
他のプレイヤーはただ一人の例外もなく取り乱し、大急ぎで始まりの町へ帰って行った。
『レベルが上がりました。レベルが上がりました。レベルが上がりました。レベルが上がりました。レベルが上がりました。……』
俺の頭の中ではレベルアップを告げる無機質な声が響いている。
コレは俺のlvが11になるまで続いた。
「ハハ、ハハハ……ハァ…」
一人マップに取り残された俺は笑うしかなかった。
せめてKillしてしまった人の記憶だけでも集めてその人たちに届けよう。
そう思って俺は記憶のアイテムを集め出した。
集まったのは合計3個。
単純計算で30人の人をKillしてしまったことになる。
非常に申し訳ない。
『称号を手に入れました』
そう言えば二つ名とは別に称号というものもあった気がする。
コレはある一定条件を満たすともらえるものでステータスアップにつながるらしい。
二つ名は他のプレイヤーが自由に見れるのに対して称号はその保持者が許可しないとほかのプレイヤーは見ることができない。
『〈殺人者〉
全プレイヤーの中で一番最初にPKした人に与えられる称号です。
PvP時、全ステータス1.1倍』
凄い不名誉な称号だな…。
1.1倍というのはパッと見微妙な感じに見えるがかなり大きい。
『称号を手に入れました』
もう一つ手に入れていたようだ。
『〈殺人鬼〉
全プレイヤーの中で一番最初に30人PKした、いかれている人に与えられる称号です。
PvP時、ステータス1.1倍』
なんで俺はシステムに罵倒されなきゃいけないんだ?
いかれたとかもう悪口だろ…。
かなりテンションが落ちながら俺もほかのプレイヤー同様始まりの町に戻ることにした。
◇ ◇ ◇
BJO掲示板
始まりの町付近のマップでプレイヤーがいきなり消えた件
1:異世界の戦士
このスレは今日始まりの町付近のマップでプレイヤーがいきなり消えたことについて話し合うスレッドです
2:ニャンコ
あれはマジでビビった
3:ゴーズ
説明求む
2:ニャンコ
まかせろ(キリッ
あれは俺が〈ゴブリン〉を狩っていた時のことだった
正直あのマップは人が多すぎて半分くらいいなくならねえかなとか思っていたのも事実だ
そしたら二十メートルくらい先で〈ゴブリン〉を狩ってたパーティを中心にそこらへん一帯にいたMobとプレイヤーが一人残らず消滅したんだよ
そのプレイヤーがどうなったか知る者はいない…
4:ゴーズ
怖すぎんだろww
それでみんな焦って逃げてたのかw
5:とある事件の被害者
俺はその消滅に巻き込まれた…
6:ニャンコ
>>5
マwwジwwかww
つかシステムバグで消えたのかと思ったわw
7:ゴーズ
>>5
kwsk
8:とある事件の被害者
>>5
いや、あれはPKだ!
>>7
大体のことは>>2の通りだよ
体が燃えるように熱くなった後始まりの町に転送されたよ…
それで道具屋に言ったら親切な人が届けてくれたらしい俺の記憶を持ってるっていうから貰ってきた
9:ニャンコ
>>8
いやいや、それ犯人だろ!
あのあとみんな走って逃げてったぞ
あそこに残るのは犯人くらいだとおもうがw
10:とある事件の被害者
>>9
mj?
つかそれよりもあの時俺たちのことを殺ったスキルとプレイヤーを知りたいんだが
11:ゴーズ
>>10
まだどの職業がどのスキルかわかってないからな…
わかってきたらみんなで犯人捜ししようぜ!
12:ニャンコ
>>11
お前、いいやつだな。
13:とある事件の被害者
>>11
ありがとう!
14:ゴーズ
気にすんな!!
◇ ◇ ◇
ステータス
名前〈Masa〉
職業〈マジシャン〉
装備:頭・なし
胴・初心者の服
腰・初心者のズボン
武器・初心者の杖
その他・なし
使用している力4/10
称号〈殺人者〉、〈殺人鬼〉
二つ名なし
HP150(100+50)
MP1500
物理攻撃力4(4+4‐4)
魔法攻撃力24(8+8×2)
物理防御力4(4+8‐8)
魔法防御力16(8+4×2)
力10
残AP50
◆ ◆ ◆
一番大切な記憶が消える?
私の中で最も重要なポイントはそこだった。
ログアウトできない?そんなのはどうでもいい。
仮想世界内で六か月もあればお兄ちゃんのことを見つけられる。
アバターが現実の顔と同じ?そんなのは好都合だ。
お兄ちゃんの顔は忘れるわけがないのだから。
痛みを実際に感じる?そんな少しの痛みには動じない。
あの日お兄ちゃんに与えてしまった心の痛みに比べればマシに決まっているのだから。
でも記憶が消える、それだけは許容できなかった。
私の一番大切な記憶…忘れてはいけない記憶。
そんなのは決まっている。
二年前の事件に関する記憶、コレの他に大切な記憶はない。
もし忘れてしまったらどうなる?
おそらく自分が犯した罪のことを忘れ昔のようにお兄ちゃんに接するだろう。
謝ることもできずに。
(絶対に死ぬわけにはいかない)
プレイヤー名〈Miki〉、職業〈弓使い〉
アバターの名前は本名からとった。
職業を〈弓使い〉にした理由はいくつかあるが、まず一つ目はその索敵範囲の広さだ。
最初の説明NPCに聞いたところ弓使いは全職業の中で索敵範囲がナンバー2だった。
確かナンバー1は〈銃使い〉だったと思う。
じゃあ何故〈銃使い〉の職業にしなかったのか。
それが二つ目の理由だ。
〈弓使い〉はテイミングスキルがある三つの職業の中の一つなのだ。
テイミングができる他の職業は確か〈獣使い〉と〈獣化人〉だったはずだ。
この二つの特徴があるからこそ〈弓使い〉を選んだ。
広い索敵範囲でお兄ちゃんを探す。
自分では見つけられないところはテイミングした魔物に探してもらう。
ただ一つの目的のために。
そんな私が行動を始めたのはGMの説明後すぐだった。
ログインした後同じくらいの年代の子二人を見つけていたのでその二人と一緒に行動している。
二人とも戸惑ってはいたが、私が何とか落ち着きを取り戻させ、まずは道具屋へ向かった。
「ヒナちゃんとマリちゃんは何の職業にしたの?」
私はこのゲームでできた初めての友達の二人にそう聞いた。
「私は〈盗賊〉だよ!暗殺者っぽくて格好いいじゃん!」
そう答えたのはプレイヤー名〈Hina〉、通称ヒナちゃんだ。
背はだいたい私と同じくらいの160センチ、私より少し茶色がかったポニーテールに強気な目は誰が見ても活発なスポーツ少女という印象を抱くだろう。
中身のほうも外見と大差ないそうで現実世界ではバスケをやっているらしい。
「私は〈僧侶〉です。運動がそんなに得意ではないので、みんなの支援ができたらと思って…」
こちらはプレイヤー名〈Marina〉、通称マリちゃん。
身長150センチほどで髪は黒髪のショートカットで少し弱気そうな顔。
まるで日本人形のようだと思う。
そして背の関係もあり思わず守りたくなってしまう不思議な子だ。
確か〈僧侶〉は魔法使いとは違って聖属性魔法が使える唯一の職業だった気がする。
「マリは優しいんだね~」
ヒナちゃんはそう言って顔を緩ませている。
そんなことを思っている私も同じような顔をしているのだと思うが。
「そんなことないです、普通です!」
そう言って頬を膨らませるマリちゃん。
本当に可愛いな…。
そうこうしている間に道具屋までたどり着いた。
先に来ている人もいたようだが、まだそこまで混んでいない。
早めに買って早めに立ち去ろう。
そう思って三人で手早く買い物を済ませた。
◇ ◇ ◇
道具屋で必要なものを買った私たち三人はすぐにMobが湧くマップに出てきていた。
買ったものは説明書とHP・MPポーション、それから私の場合は矢だけだ。
装備は選んだ職業ごとに最初から(初心者用だが)装備されているので問題なかった。
「うえ、なんか〈ゴブリン〉って気持ち悪い」
三人でパーティを組んで狩りを進めているとヒナちゃんがそんなことを言い出した。
そうはいっても仕方がない、こうしないとLvが上がらないわけなんだし。
気持ち悪いという意見には激しく同意するが。
気持ち悪いと言ってもその見た目だけだ。
斬られたりしてもその傷口はポリゴン片だからグロテスクではない。
遠くから攻撃している私と、支援しているマリちゃんはまだマシなのかもしれない。
ヒナちゃんは敵を直接短剣で斬らなくてはいけないから気持ち悪さは私たちの比ではないだろう。
一応斬っている感触はするらしいし…。
(〈ホーミングショット〉!)
心の中でそう唱えると私が手にしている弓と矢が薄い赤い光を放ち始める。
その約半秒後、矢は〈ゴブリン〉の胸めがけて飛んで行った。
Mobにも弱点はあるらしく、半分近くあった〈ゴブリン〉のHPは瞬く間に残り一割ほどになった。
「〈聖なる弓〉!」
そうマリちゃんが唱えると弓の形をした白い光が私が攻撃を当てた〈ゴブリン〉めがけて飛んで行った。
そして〈ゴブリン〉の残りHPを削りきり、〈ゴブリン〉はポリゴンとなり消滅した。
「マリちゃんの攻撃カッコいいけどスキル名言わなくちゃダメなの?」
〈弓使い〉は心の中でスキル名を唱えるだけでいいので、スキル名を言っていたマリちゃんのことが不思議に思って私はそう聞いた。
「はい…。これでもこのスキルはもとから詠唱短縮してあるから楽なんですよ」
「すぺるすきっぷ?なんだそれ?」
私たちのところに近づいてきたヒナちゃんがマリちゃんにそう聞いた。
「魔法スキルの熟練度があがると詠唱を短くしたりできるんです。最初から出ている魔法スキル…と言っても〈聖なる弓〉だけなんですが、コレは熟練度がMAXなので初期状態でスキル名だけで発動できるんです」
なるほど、つまりスキル名を言うだけの発動も十分短くなっているということか。
そんな他愛もない話をしているといきなり爆音が聞こえた。
「わっ、何の音!?」
「それに今少し揺れたような…」
爆音がしたほうを見てみると不自然にMobもプレイヤーもいない場所があった。
「逃げろー!」
他のプレイヤーがそう言ったのを聞いて私たちも逃げることにした。
何かのバグ?
そんなことを思いながら走って始まりの町に入る門の前に来たとき後ろを振り返った。
他のプレイヤーも逃げてきているが一人、不自然に動いていないプレイヤーがいた。
(何?あの人。〈遠くを見る眼〉)
不思議に思った私は遠くまで見えるようになるスキルを使ってそのプレイヤーを確認しておくことにした。
(嘘…。こんなに早く見つけられるなんて…)
そこにいたのは戸惑いながら、苦笑いをするお兄ちゃんだった。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!ちょっと戻らせて!」
「いやいや、危ないってミキ!」
「そうです!もしバグで消えちゃったらどうするんですか!?」
お兄ちゃんのもとへ向かおうとした私をヒナちゃんとマリちゃんは止めた。
他のプレイヤーも門のほうへ押し寄せてきて私を通してくれる気はない。
(見えるところにいるのに…)
後悔しても仕方ない。
次のチャンスがあるはず、そう信じて私はおとなしく町へ戻ることにした。