6.説明之書
数分後、目を覚ました俺はGMが言っていた職業ごとの説明書を買うために道具やに向かうことにした。
明らかに出遅れた俺が道具屋に着いた頃にはもう殆どのプレイヤーが狩りに出かけていたのでかなり道具屋は空いていた。
「すいません、説明書を買いたいんですけど…」
カウンターのところに立っていた女の人に向かって俺はそう言った。
「あ、いらっしゃいませ!こちら商品一覧になっています。どの説明書か具体的に決まったら呼んでくださいね」
そう言って女の人は俺にカタログを渡した。
立っている位置から想像ついたけどやっぱりNPCだったのね、この人。
というか外見じゃ全くNPCだなんてわからない。
「わかりました」
そう言ってカタログを見始めることにした。
それにしても…
(多いな、コレ…)
あまりにも説明書が多かった。
とりあえず〈魔法使いの説明書〉を買えばいいはずなのだがこれがなかなか見つからない。
探すこと約一〇分。
「見つけた!すいません、これください!」
間違い探しの最後の一つが見つかったときのような喜びを感じながら俺は店員のNPCにそう言った。
「えーと…非常に申しあげにくいのですが、お客様の職業とこの説明書の対象の職業が違います。プレゼントとして買うなら構わないんですけど…。こちらの商品で間違いありませんか?」
え、なんですと?
「いやいや、俺の職業は魔法使いのはずなんだけど…」
俺はさっき職業を変えられなかったはずだ。
だから魔法使いで間違いないはず。
「代々道具屋の子供にはお客様の職業を見分ける訓練が行われます。もちろん私もお客様の職業はそのお客様を見るだけでわかります。断言します、お客様は魔法使いではありません」
道具屋のNPCにそう即答された。
じゃあさっき職業変更の処理は行われてたのか?
「じゃあ俺は戦士?」
「違います」
違うらしい。
じゃあ何か、俺は自分が選んでない職業になっちゃったの!?
「じゃあ俺の職業は何なんだ?」
最初からこう聞けばよかったのだ。
なんでその発想が最初に出てこなかったのであろう。
「お客様の職業はマジシャンです」
……。
「それって魔法使いって意味だよな?何でわざわざ外国語で言ったの?」
「いえ、表示がマジシャンなんです。なのでマジシャンの説明書を買えばご自身の職業のことがわかりますよ」
なんか馬鹿にされている気しかしなかったがとりあえず探してみることにした。
割とすぐに見つかったマジシャンの説明書の値段は…一〇kソル――つまり一〇〇〇〇ソルだった。
ソルというのはBJOの通貨単位だ。
ちなみに一〇〇〇ソル=一kソル、一〇〇〇kソル=一Mソル、一〇〇〇Mソル=一Gソルだ。
kやMやGは他のMMOでも使われている。
そしてBJOの初期金額は一〇kソル。
つまり全額出さないと説明書が買えない、というわけだ。
「…なんでコレこんなに高いの?」
他の説明書は大体一kソル位で買ったとしてもまだまだお金は残るというのにマジシャンを含む一部の職業の説明書だけ一〇kソルなのだ。
「世界に一つの説明書ですから高価なのは当たり前です」
そう真面目な顔で言うNPC。
いやいや、世界に一つしかないものが初心者の初期金額で買えるのは逆に安すぎだろ…。
いろいろ考えた結果、まずはこれがないと始まらないと思う。
だから、とりあえずコレを買ったらしばらくはお金集めに専念しよう。
そう思って〈マジシャンの説明書〉を買うことにした。
「じゃあコレください」
そう言って一〇kソルを店員に手渡した。
「はい、こちらが商品になります」
お金を受け取ると店員のNPCは〈マジシャンの説明書〉を取り出して俺に手渡した。
「ありがとさん、と」
一応NPCでもお礼位は言うべきだろうと思いお礼を言って俺は店から出た。
早速読もう、じゃないとlvをあげられない。
噴水の近くにベンチがあったのでそこに座って説明書を読むことにした。
説明書は思っていたより分厚く週刊の漫画雑誌くらいの分厚さはあるだろう。
「これ全部読むのか…」
読む前からテンションが落ちていたが、何度も言うように読まなきゃ冒険が始まらない。
よって仕方なく最初のページから読むことにした。
【前書き
この説明書は魔法使いのOnly one Job マジシャンのスキルが載っている説明書です】
いやいやいやいや、ちょっと待て。
まずOnly one Jobってなんだ、一つだけの職業?
どういうことだ!?
【Only one Jobは職業選択時、その職業を選んだプレイヤーが一人だけだった場合にそのプレイヤーに与えられる職業です。Only one Jobにはペナルティとボーナスが伴います】
一人だけその職選んで浮いてるのが既にペナルティだと思うんだが…。
【マジシャンのペナルティは以下の八つです。
火属性魔法スキルが使えなくなる。
風属性魔法スキルが使えなくなる。
水属性魔法スキルが使えなくなる。
土属性魔法スキルが使えなくなる。
雷属性魔法スキルが使えなくなる。
自動詠唱が使えなくなる。
詠唱短縮が使えなくなる。
物理攻撃力と物理防御力が上がらなくなる。
普通の魔法使いの使える魔法スキルは火属性と風属性と水属性と土属性と雷属性です。
その中の五属性が使えなくなります。
自動詠唱は一定のスピードで詠唱をする代わりに正確に詠唱する魔法使いのオンオフスキルです。
それが使えなくなります。
詠唱短縮は魔法スキルの熟練度が上がるにつれて詠唱を短縮できるようになるパッシブスキルです。
それが使えなくなります。
通常、防具や武器をつけるとどんなものでも物理攻撃力と物理防御力は上がります。
それが初期状態から上がらなくなります。
以上がマジシャンのペナルティとその説明です】
ハアアァァァァアアアア!?
何それ!?
すべての魔法が使えなくなるのに攻撃力も上がらない?
敵倒せねえじゃねえか!バカじゃねえの!?
【そしてマジシャンのボーナスは以下の八つです】
そうだ、まだボーナスがある。
それに期待しよう!
【聖属性魔法スキルが使えるようになる。
闇属性魔法スキルが使えるようになる。
剣系統魔法スキルが使えるようになる。
無属性魔法スキルが使えるようになる。
召喚魔法スキルが使えるようになる。
移動系統魔法スキルが使えるようになる。
職人スキルが使えるようになる。
魔法攻撃力と魔法防御力の増加速度が二倍になる。
聖属性スキルはバフスキルのほぼ全てです。
闇属性スキルはデバフスキルのほぼ全てです。
剣系統魔法スキルは剣に関係する魔法を使うことのできるスキルです。
無属性魔法スキルは系統上属性がないとされる魔法のスキルです。
召喚魔法スキルは異世界から召喚獣を召喚します。
移動系統魔法スキルは町にある転移門と同じ効果を好きな距離、好きな場所で使えるスキルです。
職人スキルは自分で武器や防具を作れるスキルです。
魔法関連職が装備できる装備をつけると魔法攻撃力、魔法防御力が上がります。
その増加量が二倍になります】
え?何このチート。
要するに魔法攻撃、魔法防御は最強、移動はめちゃくちゃ、補助スキルはほぼ全て持っていて自分で武器も作れる。
ペナルティの自動詠唱と詠唱短縮が使えない分詠唱には時間がかかるが、それを差し引いても無敵だろう。
もう一つ難点を挙げるとすれば物理防御力が上がらないということだろう。
物理攻撃はほとんどしないためあがらなくてもいいが、物理ダメージは結構喰らうだろう。
これが上がらないのはきつい。
説明書の残りはスキルの詠唱文のようだ。
まだ使えるのは少ないが、立派に役に立ってくれるだろう。
「これ以上遅れるのも嫌だし、俺もマップに出るか!」
そう言って俺は始まりの町を出た。