3.過去之弐
そして俺に話を聞く警察官が変わった。
もうこの交代も三回目くらいだ。
「本当にやってないんだな?」
今度の警察官は今までの警察官とは違う質問の仕方だった。
まだ二〇代前半に見える警察官。
質問の仕方はやったか、ではなくやってないか。
その少しの違いでも少し信頼されたような気がしてうれしかった。
「はい、やってないです」
俺がそう答えると警察官は「詳しく聞かせてくれ」と言って俺の話を聞いてくれた。
俺は部活が終わってからのことをすべて話した。
すべて聞き終えると警察官は少し考えた後言った。
「わかった。少し時間をくれないか?今日はもう帰っていいから。俺に任せとけ」
そう言って警察官は笑った。
その笑い顔はどこか凌の笑い顔を思い出させた。
「明日一八〇〇くらいにここに来てくれ。一応君のことを疑うように言われてるからな。形だけでもそれっぽくしないと」
警察官がそんなこと言っちゃダメだろ。
そんなことを思いながら俺は警察官に言われた通り家に帰ることにした。
交番から外に出ると母さんが立っていた。
「来てくれたの?」
「息子が警察沙汰だなんて心配だもの」
「俺はやってないよ」
「雅人がそう言うなら母さんは信じるわ」
「ありがと」
泣きそうになるくらいうれしかった。
俺のことを信じてくれる人がいることが。
そしてそのまま俺は母さんと一緒に家まで帰った。
「自分のしたことくらい認めたらどうなんだ、このバカ息子!!」
家に帰って父さんに自分はやってないと説明した。
だが、信じてもらえなかった。
そして殴られた。
俺が本当のことを言うたびに。
一応あんたの息子なんだぜ?
少しくらい信じろよ。
「はぁ…はぁ…はぁ……。今日はもう寝る」
殴りつかれたのかそう言って父さんは寝室へと向かっていった。
「よく冷やしなさい」
母さんは俺に氷水を入れた袋を渡してくれた。
あんな状態になった父さんを止めるのは絶対に無理だからアフターケアをしてくれるだけでもすごくうれしかった。
「ありがと…。俺ももう寝るよ」
そう言うとふらついた足取りで自分の部屋に向かった。
もう寝よう、そう思ってベッドに横になったときドアがノックされた。
「お兄ちゃん、入っていい?」
妹の美紀だ。
「ああ」
本当は今すぐ寝たかったが、少しくらいなら妹の我がままに付き合ってもいいか。
そう思った俺は美紀を部屋の中に入れた。
美紀は整った顔をしている。
そして地毛だけどほどよく茶色がかった髪の毛を腰くらいまで伸ばしている。
それは中学に入っても変わることのない彼女のトレードマークのようなものだった。
「それで、どうしたんだ?」
俺がそう聞くと妹は少し間をおいてから言った。
「お兄ちゃん、嘘をついたらだめなんだよ?」
一瞬何を言われたのか分からなかった。
「どういうことだ?」
いや、本当は聞かなくてもわかっていた。
おそらく美紀はさっきの俺と父さんのやり取りを聞いていたのだろう。
そして俺が嘘をついてると判断した。
「嘘つきは嫌い!」
そう言って美紀は自分の部屋に戻って行った。
妹にすら信じてもらえないのか…。
今のでさらに疲労がたまった俺はベッドに横になるとすぐに寝ようとした。
(今日だけ…今日だけは……)
でも母さんと一人の警察官以外の人にはj分の言うことが信じてもらえないというのはかなり精神的にくるものがあった。
今日だけ、そう決めた俺は部屋の外には聞こえないように静かに、静かに泣いた。
次の日、昼過ぎに望に呼び出された。
望というのは俺の幼馴染の女の子だ。
家が隣だから中学二年の今でもよく遊んだりしている。
運動神経が非常によく、そこら辺の男子なんかには負けない身体能力を持っている。
運動しやすいから、という理由でショートカットなのは昔から変わっていない。
「雅人、何があったの?」
昨日の話か。
すぐにそう察しがついた。
しかし学校の情報網とは恐ろしい。
昨日の夕方に会ったことがもう今日には広まっているんだから。
隠す必要もなかったし、俺は望に昨日会ったことを話した。
「いくらなんでもそれは無理があると思うよ、雅人」
驚かされるのは昨日の夜から何回目だろう。
まさか無理があるなんて言葉を聞くことになると思わなかった。
「杉山君も今剛が出したほかの人もみんなに当てはまることだけど……どの人の保護者も息子はその時間家に居たって言ってるらしいよ?」
嘘だ。
じゃああれは何だ?幽霊か?
「そんな訳ないだろ!じゃあ俺が見たあれはいったいなんなんだよ!幽霊だって言いたいのか!?」
「雅人!」
思わず叫んだ俺を結衣の声が遮った。
「雅人の話を本当だっていうなら保護者も犯罪に加担してることになるんだよ?…早く認めたほうが楽だと思うよ。私が言いたいのはそれだけ」
何も言い返せなかった。
心のどこかでは期待していた。
美紀の時もそうだったし望の時も。
俺のことを信じてくれるんじゃないかって。
「はは……はははは」
でも、実際は誰も信じてくれなかった。
この日警察の人に聞いた話だと凌は目を覚ましていないらしい。
少しでも早く目を覚ましてくれよ、親友。
その話を聞いたとき俺はそう思っていた。
そして夜、また親父には殴られ妹には寝る前に遠回しに自首しろと言われる。
次の日からも昼間に会う人は変わったが、言われる内容は変わらない。
夜には殴られ自首をすすめられる。
こんな生活が続いていく中で俺の精神は確実に消耗していった。
そして事件が発生してから一週間ほどが経った頃だろうか。
凌は奇跡的に目を覚ました。
言語機能には何も起こっていないらしいが、体はあまり自由に動かなくなってしまったらしい。
そして警察も凌に話を聞きに行き俺の無罪は証明された。
たくさんの人に謝られた。
だがもう謝られても何も感じなくなっていた。
小野さんと妹には会わないようにしている。
あれだけいろいろ言われた後には嫌悪感しか残っていなかったからだ。
毎日俺を殴った父親は何も言わなくなった。
父親にも会わないようにしているから何か言ってるのかもしれないがそんなのは知らない。
部活も教師に退部届を書かされたから無加入状態だ。
近いうちに凌のお見舞いに行かなきゃな。
事件が終わった後俺が考えていたのはそれだけだった。
過去編はほとんど手を付けてません