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Battle Job Online  作者: 栗山ハル
【1.Battle Job Match】
3/30

2.過去之壱

「やったのはお前なんだろ?」

 何時間たったのだろうか。

 取調室の中で何度目かわからない質問をされた。

 のどが渇いた。

 おなかがすいた。

 家に帰りたい。

「違います…」

 いくら暴力は振られないと言っても密室の中で何百回も同じ質問をされるというのは精神的にくるものがある。

「だが現場にはお前しかいなかったらしいじゃないか。君と同じ学校の生徒も君が体育倉庫に向かっていったのを見たと言っているぞ」

 違う…。

 いくら言っても信じてもらえない。

「……」

 認めてしまいたい。

 だけどそんなわけにはいかない。

「近藤凌君をあんなふうにしたのは君なんだろう?井上雅人君」

 親友をひどい目に合わせたのが自分だなんて絶対に認めたくはなかった。


◇  ◇  ◇


 中学二年生の八月の中旬、俺は部活に追われる日々を送っていた。

 と言っても自分が好きでやっている部活だ。

 楽しくないわけがない、むしろ毎日できて楽しいくらいだ。

 先輩が引退して俺たちが部を引っ張っていくことになり俺は…いや、俺と親友の近藤凌は今まで以上に張り切っていた。

「ナイスショット、雅人!」

「そっちもな、凌!」

 二人で声を掛け合うと二人ほとんど同じタイミングでニシシと笑った。

 俺達が所属しているのはバドミントン部だ。

 そして今日は練習試合。

 俺と凌は俺達の地区では結構有名な学校のダブルスのペアと試合をすることになった。

 結果は辛勝。

 ギリギリでも勝てたことはかなりの自信につながった。

「強かったよ。また今度やろう!次は負けない」

「学校通しで無理だったら個人的にでもいいからさ!勝ち逃げは許さないぜ!」

 相手のチームのペアが俺たちにそう声をかけてくれた。

「ああ!」

「次も負けないぜ!」

 俺と凌はそれぞれそう言うと相手チームのペアと握手した。

 これからも二人でレベルアップしていきたい。

 そう張り切っていた俺と凌だったがそんな俺たちをよく思っていない奴らも当然いた。

 

 その試合から一週間後、俺たちは今より強くなるため熱心に練習に取り組んでいた。

「あ、ごめん」

 そう言って今日何度目かわからないイージーミスをする凌。

 今思えばこの時から少しおかしかった。

「調子悪い日もあるさ。気にすんな」

 俺は凌に心配事があって元気がなかっただなんて微塵も思いもしなかった。

 部内の雰囲気も何かいつもと違う気がする。

 そう考えもしたが

(気のせいだろうな)

 そう結論付けて気にするのをやめていた。

 部活が終わり、凌と帰ろうとして声をかけると

「ごめん、雅人。今日はちょっと寄るところがあるんだ。先に帰ってていいよ」

「ついていくぞ、どうせ帰ってもやることないしな」

 帰っても特にやることはない。

 多分美紀が俺に絡んできて俺が対処するというのが数時間続くだけだ。

 …あれ?意外とおかしいのかなコレ。

「いや、ちょっと時間がかかりそうなんだ。夜おそくなりそうだし、雅人の家の親父さん起こると怖いだろ?」

「…そうだな。父さんのことは考えただけでも鳥肌が…」

「大げさだよ」

 そう言って二人で笑った。

 今思い出せばこのやり取りの間も凌の体は震えていたし、笑い顔も少しひきつっていた。

 この時の俺はこれも気のせいだと勝手に決めつけていた。

「じゃあ、先に帰るぞ」

「うん、じゃあまた…」

 凌はいつも「また明日」と言ってから別れていた。

 それが今日は「また」だけだった。

 違和感を感じ始めたのはここからかもしれない。

 我ながら遅すぎるなと思った。

 帰り道、目の前で男子バドミントン部の一年が歩いていた。

 場所は大体学校から一〇分くらい歩いた場所だ。

(お疲れ様くらい言っておくべきだよな)

 そう思った俺は後輩に声をかけようとした。

 …が、後輩たちが話していた内容を聞いた瞬間に俺の考えは一気にとんだ。

「近藤先輩大丈夫か?ほかの先輩たち少なくても一〇人は集めるって言ってたぞ」

「いや、さすがにまずいだろ。でも俺達じゃ何も――」

「どういうことだ!?」

 俺は後輩たちの肩を掴みそう聞いた。

「い…井上先輩!?」

「いや、別に…なんでもないです」

 後輩たちは明らかに何か隠しているような表情で俺にそう言った。

「言え!」

 相当怖い顔をしていたのか、はたまた肩を握る力が強くなっていたのかはわからないが、後輩たちは半泣き状態で俺に事情を話し始めた。

「ッッ!!」

 それを聞いた俺は荷物をその場において、全力疾走で学校まで戻った。


 後輩たちから聞いた情報を整理するとこうだ。

一、俺と凌以外の男子バド部二年は俺たちのことが気に食わなかったらしい。

 二、話し合った結果、バドでは勝てないなら集団で暴力に訴えればいい、ということになった。

 三、二人だと万が一の場合がある、よって一人ずつ、まずは凌からやることにした。

 四、日にちは今日、場所は体育準備室。

(凌……無事で…頼むから無事でいてくれ…)

 そう願いながら俺は学校へと急いだ。

 

 体育倉庫に俺がついたのは後輩たちに話を聞いた数分後だった。

 そしてそこで俺が見たのは数人に囲まれて気絶している、制服がぼろぼろになっている凌の姿だった。

「チッ…来るのがはええよ、井上。いったい誰から聞いた?」

 俺の足音に気づいたからだろう、一人の男子生徒が俺のほうに振り向いた。

 確か男子バド部の二年の…名前は杉山航だったはずだ。

「誰に聞いたかだなんてどうでもいいだろ」

 急いできたためあがってしまった息を整えながら俺はそう答えた。

 相手の人数は六人ほど。

 流石に一〇人は集められなかったようだが、それでも俺が勝てる相手とは思えない。

「この人数差でそんなにでかい態度がとれるなんて…状況がわかってないのか?」

 わかってないわけがない。

 でもなんでなんだよ。

 なんで今まで必死にやってきた俺と凌がこんな目に遭わなくちゃいけないんだよ。

「俺が何も対策や準備をせずに来たと思ってるのか?」

 もちろんはったりだ。

 あまりに焦っていたから準備なんてできてるわけがない。

「そうか…じゃあ――」

 よし、引っかかった。

 そう油断してしまったのがいけなかったんだと思う。

「その対策や準備が無駄になって残念だったな」

 杉山がそう言った瞬間俺の後頭部に強い衝撃がきた。

 隠れてたやつもいたのか…。

 気絶する前に俺の目に映ったのは杉山のあくどい笑みと気絶した凌をさらにいたぶる杉山の仲間たちだった。


 パトカーと救急車のサイレン音。

 俺の目を覚まさせたのはその二つの音だった。

「痛っっ…」

 体の節々が痛い。

 凌同様に俺も気絶した後俺も殴られたりしたのだろう。

(でもよかった…。誰かが通報してくれたのか)

 ひとまず安心すると少しの違和感に気づいた。

 右手が重い。

 何だ?そう思い右手へ視線を移す。

 俺の右手に握られていたのは――木刀だった。

「なん…だ……これ」

「井上雅人君だね?ちょっと話を聞かせてもらってもいいかな?」

 とまどっていた俺に警察から声をかけられた。

 凶器とみられるものを持った状態で断ることなんかできない。

 それに俺はどちらかと言えば被害者だ。

 話せばわかってくれるはず。

 そう思った俺は「はい、わかりました」と答えて近くの交番まで向かった。


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