5.徐狂兄妹
プロット修正してたら間に合いませんでした…
その代わり少し長めです!
「おはよう、マリナ」
朝、目が覚めるとまだ起きていない脳を働かせて、まずはマリナに挨拶をする。
「……」
だが、いくら待ってもマリナからの返答はない。
おかしい、と思った俺は急いで脳を覚醒させ部屋を隅々まで見る。
「ああ、そっか…」
そしてその途中で自分が別の部屋に泊まっていた、ということに気づいた。
「……」
そして部屋についている机の引き出しを開けていた自分が恥ずかしくなって引き出しを閉めたあと、とりあえずベッドに座った。
すると、視界の端に光の点滅、コールとメールがあることがわかり、それを開くことにした。
「うわ……」
ついでに時間を見ると既に12時。
マリナのコールとメールは数時間前から来ていてそのほとんどが心配する内容だった。
ちなみに件数は合わせて100はくだらなく、一瞬恐怖した。
そういえば、昨日は説明するの忘れてたな…、と他人事のように思いながら別の部屋に泊まっていることを旨とするメールを送っておいた。
返信はすぐに来て、内容は
心配させないでください!
という簡潔なものだった。
「あれ?」
そう言えば美紀はフレンド機能で場所を検索したと思っていたが…。
少し違和感を持った俺はフレンドリストを開く。
件数2なのは気にしていない、本当に。
ちなみに相手は〈Marina〉と〈Hole〉だ。
〈Marina〉の名前に右手で触れると
〈Call〉
〈Mail〉
〈Invite〉
〈Trade〉
と、名前の横に表示される。
一応全て押して確認してみたが、相手の居場所を検索するようなものは見つからない。
続いて俺はホールにコールしてその機能について聞いてみることにした。
コールはすぐにつながった。
『厨二病じゃねえか。珍しいな、何か用か?』
いい加減俺のことを二つ名で呼ぶのをやめてほしい。
「ああ、少しな。お前は他のMMOもやってたりするか?」
『そこそこはな』
「それじゃ話は早い。フレンドやギルドのサーチ機能はBJOにはあるか?」
俺がそう聞くとホールが裏で何か話しだした。
しばらくして返答がくる。
『そう言えば聞かないな。念のためカイトにも聞いてみたが、答えは同じだったぞ。何でいきなりそんなこと…』
「あんまり気にしないでくれ。それじゃ」
ホールの話を聞くだけ聞いて俺はコールを切った。
やはりフレンドサーチ機能はない。
だとしたら、昨日美紀はマリナを尾行したことになる。
なんでそんなことを…。
そう考えに耽っているとメールの受信を知らせるランプが点滅しだした。
どうやらマリナ達は町を出る門の前にいるらしい。
一度集まりたいとの事だったので、俺もそこへ向かった。
「ねえ、お兄ちゃん。今から3人で狩りに行こうよ!マリちゃんは良いって言ってくれたし、お兄ちゃんも一緒に。そっちの方が楽しいし!」
門の前に着くなり俺にかけられた第一声がそれだった。
本当にマリナも了承したのか?と思い、マリナの方を見てもマリナは不思議そうに首をかしげるだけだ。
どうやら本当に同意したらしい。
美紀と一緒にフィールドへ出るなんて俺としては絶対に嫌だ。
いくら記憶をなくして人が変わったからと言ってBJMで俺を不意打ちしてきた奴だ。
一緒にPK可能エリアなんて誰がいきたいと思うだろうか。
一応BJOにはPAというアクティブの設定があり、基本はOffとなっている。
パーティメンバー全員が了承しない限り、OffのままでOff状態だとパーティメンバーには攻撃スキル、デバフスキルの一切が効かなくなる。
On状態にするとそれが効くようになるのだ。
On状態にする例としてはステータスを下げたいときやスキルの衝撃で遠くに行きたいときなどが挙げられる。
それをOnにしなければパーティメンバーには攻撃されない……というわけではない。
PKを狙うならフィールドに出た瞬間にパーティを脱退し、攻撃すればいいのだ。
そんな状態で信用できない人と一緒にフィールドに出るなんてことを俺はしたくなかったのだ。
「悪いけど俺はパス。ちょっと用事がある」
俺がそう答えると2人は不機嫌そうな顔をしつつも「わかった。なら2人でいく」と言いすぐに行ってしまった。
マリナも俺と同じ考えだと思ったんだけどな…。
そうがっかりしながらもこれからどうするかを考える。
用事なんてない。というか実際レべリングしたい。
かといってマリナを放ってはおけない。
「はぁ…」
悩んだ末、遠くに見えるマリナと美紀を後ろから追いかけ、危なそうになったら事前詠唱しておいた〈瞬間移動〉でマリナを町まで運ぶことにした。
マリナ達が進んでいるのは〈シルバーウルフ〉がいる森の方面だ。
マリナがきょろきょろしながら歩いていることからどうやら美紀の記憶を探しているらしかった。
そのために一緒に狩りに行ったのか、とマリナの目的がはっきりしたところで、俺は念のため事前詠唱をしておく。
「天よ、我を我が望むところへ瞬く間に運びたまえ」
んー、これって味方も運べる、というのは分かってるんだけどどれくらい遠くの味方まで運べるんだろうな…。
〈シルバーウルフ〉との戦闘を始めたマリナ達を遠目からそんなことを考えて見ていること30分程、ようやくマリナ達は〈シルバーウルフ〉を倒した。
マリナのLvが30超えと言うのもあり、エリアボス相手ならなかなかに速いタイムなのではないだろうか。
美紀はLvが上がったことに喜んでいる。
そしてそのまま2人は特に何をすることもなく、歩いて町へと帰り始めた。
とりあえず何もなくてよかったな…、そう思った俺は小さく声をだし、事前詠唱を破棄した。
そして帰り道、行きの不安とは別の不安を抱えていた。
美紀は記憶を失っている、俺がいないところでのミキを見て改めてそれを実感した。
俺は美紀にどう接すればいいのだろう。
記憶を失ったからといってその人が犯した罪が完全に消える訳ではない。
罪を犯した記憶が悪いのではなく、罪を犯した人――人格、心が悪いのだから。
「はぁ……」
結果、自分からは話しかけず、話しかけられたら最低限の会話はしよう、と決めた。
次の日の狩りには俺も参加することにした。
マリナには事情を説明し、美紀のことを2人がかりで注意している。
「お兄ちゃん、強いね!」
「…ああ」
敵を倒すたびにそう言っては俺に抱き着いてくる美紀。
そのたびに払ってすぐに歩きだしているだが、次も、その次も美紀は同じことをしてくる。
お兄ちゃん、ここってどうすればいいの?
お兄ちゃん、これって知ってる?
お兄ちゃん、今のどうだった!?
無垢な笑顔の美紀にそう言われるたびに、俺の精神が確実に病んでいくのを感じた。
数回目から、美紀に話しかけられるたびに思うようになってきた。
現実世界では俺だけが虐げられ、実質美紀には被害はなかった。
俺は自分にも、当時の周りにも、神様にも恵みを貰えなかったし、与えなかったと思う。
仮想世界でも俺ばかりが被害を受けるのか?
と。
「ねえ、お兄ちゃん聞いてる?」
「……」
俺はどうすればいいんだよ。
自問する。
だが答えは返ってこない。
どうすればいいかなんて誰にもわからないのだから。
「ねえ、お兄ちゃ――」
「なあ、美紀」
1日中何も知らず、何も罪がないと思っている瞳の美紀と対話するには俺の精神は幼すぎたし、崩壊しきっていた。
心で思ったことを止めるダムなどとうに決壊していて思った言葉がそのまま口に出る。
「お前はさ、記憶を失っていることに本当に違和感がないのか?」
「マサ!」
「え?」
マリナが俺が言った言葉を誤魔化すように声をあげるがもう既に遅かった。
美紀にはしっかり聞こえていたし、その瞳には先ほどとはうって変って恐れが見える。
何で、そんな顔するんだよ。
俺が、俺だけが悪いのか。
「だってそうだろう。今までのお前を構成していた記憶がなくなったと言っても過言じゃない。人格だってまるっきり変わっている。それで違和感がないなんて…そんなわけないだろ」
後半は自分の願望が。
こうすることで俺は自分が抱えていたものを少しでも減らしたかったのかもしれない。
「お兄ちゃん…私って記憶を……」
「ああ、失っている。確実に」
俺の言葉を聞いた美紀は〈帰還石〉を取り出し「リターンッッ!」と言って町へ戻った。
その後パーティメンバーを見るとそこには美紀の名前がなくなっていた。
「マサ…」
「ははっ…ははははは…」
自分で何がしたいのかが分からなくなっていた俺はマリナに誘導されて宿へと戻った。
「マサ、いきなりどうして…」
宿のベッドに座って俯いている俺を見てマリナは何か言いかけたが、そのまま口を閉じた。
「マサ、ごめんなさい」
そして次に口を開いたマリナが言ったことばはそれだった。
急に言われた俺は不意を突かれたその言葉に思わず顔を上げる。
「元はと言えば私がいけないんです。ミキさんを連れてきてしまったから。パーティを組んでみんなで狩りに行こうとしたのも早く記憶が見つかってミキさんに元に戻ってほしかったからなんです。そうすればミキさんもマサから離れると思って、結果的にマサに良いと思って…」
何でマリナが謝るんだ?
悪いのは俺なんだよ。
いつでも俺が悪いんだ。あの時だって俺がもっといろいろ考えて行動していればよかったし、今仲直りできていないのだって俺の心が狭いから、今回の件だって俺がもっと我慢していれば…。
「でも、マサに無理をさせていました。…マサ、あとは私が何とかしますから。マサは少し休んでいてください」
そう言って笑うマリナを見て俺は自分が何をしていたんだろうと思った。
この世界では俺を救ってくれたマリナを守る、そう決めたのにマリナは俺のために無理をしている。
「とりあえずマサは休んでいてくださいね?まずは調子をよくしないことには始まりませんから」
「マリナ、ありがとな」
「これくらいなんてことないですよ」
俺のお礼にマリナはそう答えて宿を出て行った。
おそらく美紀を探しに行ったんだろう。
「マリナ、本当にありがとな」
誰もいなくなった部屋でもう一度そう言うと、俺はベッドに横になりそのまま闇へ落ちて行った。




