4.深画進考
マサの出番少なめです。
あとメインパートのための伏線
夜、マリナと美紀が寝静まった後、俺はある場所に訪れていた。
「アイさん、いますかー?」
道具屋、ここに来た理由は幾つかある。
「はい、活動中ですよ!」
そう言って現れたアイさんはなんだか昼間よりテンションが高い気がした。
夜型なのだろうか、それとも人がいない時間が好きなのだろうか。
「えーと…こんな遅くにどうしました?」
首をかしげて聞いてくるアイさんに俺は尋ねる。
「幾つか聞きたいことがあるんですよ。まずは1つ目から。〈Mikiの記憶〉ってアイテム届いてないですかね?」
俺にそう聞かれるとアイさんはウィンドウをスライドさせるような動作をし、数秒したあと言った。
「届いてないですね…。…あ、本当はこういうの教えちゃいけないんですよ?だから内緒でお願いしますね」
届いていない、か。
美紀が記憶を失ってから確実に1日は経っているが、それでも届いていないなんて…。
人があまりいかないフィールドにまだ落ちているか、それとも誰かが……。
そこまで考えて俺は首を横に振る。
流石にこの世界でそんなことをする人がいない、と俺は信じたかったのだ。
そしてすぐさまもう1つの質問にうつる。
「もう1ついいですか、アイさん。どうして俺の名前を知っているんですか?」
昼間は疑問に思わなかった。
だが、マリナを待っている時間色々と考えたのだ。
結果、知っているのはおかしいんじゃないか、という結論に達した。
「……どういう意味ですか?」
さっき「どうしました?」と聞いてきたときと同じようにそう言うアイさん。
確かに同じ動作を正確にする、という面では人工知能らしいといえばらしかった。
「そのままの意味ですよ。〈Masa〉って名前を何で知ってるかです。昼間俺のことマサって呼んだでしょ?だけど、よくよく考えたらおかしいんですよ。マリナは外で口を滑らしたりしないし、BJM時でもNPCはこのマップから出ないはずだ。それに、今俺の頭上には名前は〈Right〉と表示されているはずなんです。だからこその『どうして』です」
そう、知っているはずがないのだ。
最初に来たときはそのままの名前だったが、その時にはお得意様ではなく、昼間言っていることと矛盾が生まれる。
アイさんはそっと目を閉じた。
1秒、5秒と沈黙が生まれる。
10秒と経つことはなく、アイさんは口を開いた。
「あ、すいません。こんな時間に冒険者様が来ることなんてないので少し寝不足気味で…。えっと名前を知っている理由ですよね?私たちNPCにはスキルが効かないんです。だから〈Masa〉さんの名前が別表示されているなんて思いもしませんでした。混乱させてしまってすいません」
そして深々と頭を下げるアイさん。
それを見て俺は慌ててアイさんを止める。
「いえいえいえいえ!俺の方こそすいません。なんか疑うような質問しちゃって…」
そして俺はそのまま頭を下げた。
「マサさんの方こそ気にしないでください。…えーと紛らわしいことをしてしまったお詫びに〈Mikiの記憶〉発見時には連絡させていただきます。…といっても私たちNPCにはコールはできないのでマサさんのご来店時に報告させていただく、という形にはなりますけど…」
それはかなりありがたい。だいぶ楽になる。
はやく〈Mikiの記憶〉を見つければそれだけはやく美紀と別れられる、というわけなら俺は全力でそれを実行するまでだしな。
「ありがとうございます」
そういってもう1度軽く頭を下げ、最後に店を出ていくときに「またきます」とだけ言った。
「はい、それではまた、近いうちに」
昼間と同じセリフを聞いた俺は、ここら辺はやっぱりNPCなんだな、と思った後、今日は別の宿に泊まろう、と思い宿を探して夜の街を歩いた。
◆ ◆ ◆
「……いったわね」
先ほどまで道具屋でお客の……雅人の相手をしていた女性はそう独り言を漏らした後右手でウィンドウを操作し、ログアウトボタンを押した。
するとそのキャラクターは消え……ることはなく、そのままそこにとどまった。
ログアウトボタンを押した女性はというと、とあるビルの一室にいた。
そこにはBJO専用ハードが50台ほど並んでいてそこには全て人が入っていた。
気味の悪い光景だ、そう女性は思ったが、自分もその中の1人だということを自覚し、すぐにそのことについては考えるのをやめた。
「あ、そうだ」
そして自分が担当時間なのにもかかわらず、操作を人工知能に任せてログアウトしてきた理由を思い出し、すぐに場所を移動した。
愛のへや
女性はそう書かれたプレートがついているドアをノックすることなく蹴り飛ばし開ける。
「ちょっと愛!どういうことよ、何で私達の担当NPCに名前なんてついてるの!しかも愛?アンタの名前じゃない、何考えてんの!?」
入るなりそう怒鳴り散らすと、愛と呼ばれた女性――いや、少女の方が適切だろうか――は顔をわかりやすくしかめた。
そこは奇妙な部屋だった。
BJOをプレイ中の若者数人がそれぞれディスプレイに映っている。
ディスプレイの数は20個ほどだろうか、1人当たり4個使い、ステータスや現在の様子などを表示している。
そのディスプレイを丸々見渡せる位置に座る愛はどうやら数人のプレイヤーの様子を完全に把握しているらしい。
「桐生ちゃんってばまたそんなにカリカリしてー。女の子なんだからもっとおしとやかに行動しなきゃだめだよー?」
ディスプレイに向けていた顔をドアの方へ向け、再度その顔をしかめた。
桐生はそれに少しムッとしたが、それ気にせずに再度問いかけをした。
「そんなことはどうでもいいの。最終ログインIDが愛のモノだったから何かしたんだろうとは思ってたけど…。まさか何か余計なこと言ったんじゃないでしょうね!」
「えー、いいじゃん別にー。だって彼は私の計画の中枢だもんー。ほらほらー、知ってる?さっきの子。本名は井上雅人、過去に冤罪の経験有り。そしてその妹は井上美紀っていうんだけどねー、〈Miki〉って名前でBJOやってて今記憶失ってるんだよー。最近別の班が完成させた記憶投影機でその映像見たけどね、なかなかのものだったよー?」
記憶投影機で他人の記憶を見る、ということを何も悪びれることなく言う愛に、今度は桐生が軽く顔をしかめたが、それがこの人の特徴だ、と思い気にしないことにした。
最近記憶投影機なるものが完成した、というのは聞いたが、映像まではしっかりと再現できないらしく、ある程度の事しかわからないらしい。
「それで、何を教えたの?愛」
「ちゃんと上司らしく接してくれなきゃ教えてあげないー」
少しイラッと来た桐生だったが、愛が言っていることはあながち間違ってはいないので言うとおりにすることにした。
「班長、教えてください」
そう言って軽く頭を下げようとする桐生。
「んー、嫌だー」
だが、その一言を聞いた瞬間、軽く下げた頭はすぐに愛を見るためあがり、ダッシュで愛に近づいた。
「あー!桐生ちゃん、あんまドタバタしないでよー!壊れちゃうじゃんー!機械ってデリケートなんだよー!?」
「いいから早く教えてよ、愛!」
「そんな大したことじゃないってばー」
愛の肩を掴み激しく前後に振る桐生についに白旗を上げた愛が話し始めた。
「記憶をなくした人がその記憶も一緒に無くすことだけだよー」
「なんだ、聞いて損した」
「だから大したことじゃないって言ったじゃん…」
それだけ聞くと興味が失せた桐生は部屋を出ようとドアの方へ引き返す。
「でもね、できるだけ桐生ちゃんたちのテンションに合わせて演じたから変にテンションあげて接するとばれちゃうよー?」
つまり先ほどまで少し高めのテンションで演じていたアイは全くの無意味だった、というわけだ。
すぐにそう結論を出した桐生はなんだか急に恥ずかしくなってきた。
「んーとね、赤面してるとこ悪いんだけどね、桐生ちゃん」
してない!、とすぐに答えたかったが、答えるために愛の方へ向くと赤面しているのがばれてしまうと気付いた桐生はそのまま話を聞くことにした。
「遅くてもあと1か月、早かったら数週間後には『災厄の魔女』計画を始めることにするよー」
ああ、始まってしまうのか、と桐生は思う。
自分の班の研究だというのに、こんなにも狂ったことをするなんて…。
「わかりました」
最後に班長モードに戻った愛にそう言って部屋を出た。
そう言えばまだ自分の担当の時間だ、と気づいた桐生はすぐに〈Ai〉にログインしなおした。




