3.隊加入妹
テスト疲れでいまいち調子が出ない…
さあ、どうする。
今、俺にある選択肢は限られている。
ドアを開けたあと昔通りに対応するのか、最近のように対応するのか、だ。
「…ぇ、ミキさん……なんで…」
マリナが隣で驚いている、と言うことはマリナが招待したわけではないのだろう。
対応しない、と言う選択肢をとることはできない。
マリナが教えてないのにここに来たということは何らかの方法を使ってマリナの場所を突き止めた、と言うことになるからだ。
俺は使わないからわからないが、おそらくフレンドの場所を検索する機能でもあるのだろう。
「…私、事情を言って今日は帰ってもらるよう説得します」
マリナは少し落ち着くとそう言った。
「なんて事情を説明するんだ?記憶がなくなってる、って言うのか?元の記憶が手元にない今、そんなこと言っても発狂させるだけだ」
そう、記憶を失ってることを教えることもできない。
このゲームで冷静さを欠いたら確実に、さらに記憶を失うことになる。
「じゃあどうすれば……」
落ち込むマリナを見て、俺は自分がとるべき行動を決めた。
「…俺がでて少し会話して帰ってもらう」
そう、俺が我慢すれば済む話なのだ。
ここで俺だけ逃げればマリナが俺と一緒にいないことを美紀は不振がるだろう。マリナは昼間俺とパーティを組んでいることを美紀に言ってしまっているのだから。
別の部屋に泊まってる、と言ってもそれがどこかはマリナが知っていなければおかしいことだし、その方法も使えない。
「そんな……私が悪いのに…マサが…そんなの……」
「落ち着け、マリナ。大丈夫だから、な?」
そう言って俺は少し笑う。
マリナと二人きりだったから仮面はつけていないが、それが今回はあまりよくなかったかも知れない。おそらく……いや、確実に顔が引きつっているだろう。
だが、それをできるだけ気にさせないようにマリナの頭に手を置いて軽く撫でた。
相手は美紀だ。
だけど、普通に話さなくてはいけない。
もちろん美紀が俺を信じてくれなかったのは事実だし、それを忘れたからと言って美紀を許せるわけでもない。
むしろまた同じことをする可能性があると考えることすらできる。
「まあ、なんとかなるよ」
最後にそう言って俺はドアの方へ向かった。
「美紀か?」
ドアの目の前までつくとそのドアを隔ててそう尋ねる。
返答はすぐにきた。
「あ、その声はお兄ちゃんだね!会いに来たよ、開けて開けてー」
美紀……だよな?
昔の美紀でも最近の美紀でもない気がしたが、そのままドアを開けた。
「…ゎぁ……。久しぶ……お兄……んの……た…」
「ん、なんだ?」
顔を赤く染めながら小声でそう言う美紀が何て言っているかわからなかった俺は聞き返す。
「久しぶりに……久しぶりにお兄ちゃんの顔見た!そんな気がする!最近会話も全然してなかったもんね!お兄ちゃん久しぶりっ」
そう言って俺に抱き着いてくる美紀は普段ギュッと引き締まっている整った顔をゆるゆるに崩している。
「ちょっと、ちょっと待て!」
突然の美紀の行動に驚いた俺は美紀を両手で引きはがした。
何だ?…いや、誰だ?
そう思わざるをえなかった。
兄の俺が言うのも変な感じがするが、昔の美紀は重度のブラコンだったとおもう。
だが、学校でも家でも真面目だった美紀は俺についてきたり、一緒に買い物に行こうと誘ってきたり、部屋に来たりそれぐらいのレベルだった。
こんなこと、絶対にするはずがなかったのだ。
「…お兄ちゃん、私のこと嫌?」
マリナより少し背が高いぐらいの美紀はもちろん俺より背が低い。
そこから俺の方を見上げてくる美紀の眼は怯えなど一切なくただ純粋で、少し潤んでいた。
「…いや、そうじゃ……ない」
言葉に突っかかりながらそう答える。
俺の頭の中は混乱していた。
昔の美紀の場合も、最近の美紀の場合も、どちらも想定はしていた。
だが、どちらでもない美紀の場合なんて想定できるだろうか。
「よかった…。お兄ちゃん最近現実で忙しそうだったからあんまり会話できなかったでしょ?だからね、少し不安だったんだ。お兄ちゃんに嫌われてないか」
美紀はそう言うと再度俺に抱き着き、俺の心音を確かめるかのように耳を胸に当てる。
「えへへ…お兄ちゃん成分補充…なんてね」
そう言って再度「えへへ」と笑う美紀はまさしく誰?と言う感じだった。
「マサ…」
マリナよ、混乱してるのは俺も同じなんだ。
だからどうしよう、みたいな目で俺を見ても困るんだよ…。
「ねえ、お兄ちゃん」
突然美紀の動きが止まり俺の顔を見て言った。
「私もパーティに入ってもいいかな?」
パーティに加入?
いや、確かにそう言われることも考えていた。
そしてその時の対応も。
だけど、その対象の様子が想定外すぎて考えった対応が当てにならない。
「マサ、いいじゃないですか」
俺が答えを考えていると後ろからそんなマリナの声がした。
そしてそのまま足音がこちらに向かってくる。
美紀は……俺の方を向いていてマリナが近づいているのに気が付いていないらしい。
そして俺の真後ろ、美紀とは俺を挟んで正面にいるマリナは少し背伸びをして俺の耳もとに口元を近づけようとした。…が、高さが足りず、足元がプルプルと震えてきていてなんだか可哀想だな、と思った俺は少ししゃがんでマリナの杭もとに高さをあわせた。
「こんな状態のミキさんを放っておくのは危険です。ミキさんは最近まで自分の中心となっていたものを失ったんですから…。今なら何をしても不思議ではありませんよ、マサ」
そう早口で言うとすぐに背伸びをやめた。
やっぱりきつかったんだね、その体勢。
「そうだな」
俺は短く小声でそう答えるとその言葉には美紀が反応した。
「じゃあいいの!?やった!お兄ちゃんパーティ招待送ってー」
美紀は俺から少し離れた後小さく跳ねて喜びを全身でアピールした。
するとすぐさまパーティ招待承認ウィンドウを開いた。
「気がはええよ…」
特に反対する理由もない、と言うよりマリナの言うとおりだと思った俺はパーティウィンドウを操作して美紀に招待を送った。
「はい、承認!よろしくね、お兄ちゃん、マリちゃん」
そう言って再度笑う美紀の顔は俺が見たことのないもので、まがりなりにも自分の妹がまるで着ぐるみのようで、まるで同アカを別人が使っているようで、そんなことを思った俺は少し鳥肌がたった気がした。




