2.純忘妹訪
宿題が終わらない……更新が……
ミキさんにコールで呼び出された私は始まりの町にあるレストランへ足を運んでいた。
そのレストランは大通りにあるわけではないが、味は確かでマサともたまに来ている店だ。
「あ、マリちゃん!久しぶりだね!」
店に到着すると店の隅にある席から私の名前が呼ばれた為そちらへ顔を向ける。
そこには集合時間の10分前だというのに先に到着してドリンクを飲んでいるミキさんがいた。
(寄り道しないできたほうがよかったかな…)
コールが来て、マサの手前すぐに家を出てしまった私だったが、集合時間にはだいぶ余裕があり、少し町を散歩してからここへ来たのだ。
集合時間に遅れてないとはいえ、待ち合わせの人より遅く来てしまう、というのは私にとってそうそうないことなのでかなり申し訳ない気持ちになる。
「遅れてしまってすいません…」
小走りで席に向かい軽く頭を下げる。
「ん、いいよいいよ。私も今来たところだから」
ミキさんが全く気にしていないのはその表情からもわかるが、その定型文は私もよく使うため、あてにならない。要するに少し怖い。
昔、約束の時間から30分後に来たクラスメイトに「今来たところだから」と言ったことがある。
よくよく考えると30分遅刻してる相手に今来たところだからって自分も遅刻していることになってそれはそれでどうなんだ?と言う感じなのだけれども…。
ちなみに私は集合時間の30分前に到着していたから、計1時間待っていた。
「えーと…それで、話っていうのは?」
私はミキさんに「よかったら少し話さない?」と言われて今日ここに来たのだ。
「うん、お兄ちゃんのこと」
やっぱりか、そう思った。
マサの話を聞く限り過去のことはミキさんが悪い、と私は思っている。
…けれども、ミキさんの気持ちもわからないでもないのだ。
ずっと信用してた大好きなお兄ちゃんに裏切られたと思ってしまった。
私にこれだけ世話を焼いてくれるマサが昔妹にどれだけ甘々だったかなんて簡単に想像できる。
だからこそ、裏切られたという勘違いからおかしな行動をしてしまったのだろう。
…と言っても私だったらそんなことはしていなかった――たとえやろうとしてもできなかったと思うからミキさんの方が悪いと思っているのだけれど。
「マリちゃんはお兄ちゃんとパーティ組んでるんだよね?」
そう言って微笑むミキさんの心意は分からなかったが、私は軽くうなずいた。
「お兄ちゃんとパーティ組んでるマリちゃんに少しでもお兄ちゃんのこと教えよう、って思って…」
どういうことだろう。
未だにミキさんが言おうとしていることがわからなかった私はそのままミキさんの話を聞くことにした。
「お兄ちゃんはね、卵料理が好きなの。お母さんの作るのも好きだけど私が作ったのが特に好きって言ってくれて…。それからバドミントン凄い上手なんだよ!大会でもいいところまでいっててね、私もたまに一緒にやってたんだあと勉強も教えてくれたり優しいところもあってね、あっ、そういえば一緒に買い物行ったとき下着売り場入ろうとしたら顔真っ赤にしてて可愛かったなぁ…。それからそれから――」
「ちょっと待ってください、ミキさん!」
「ん、何?」
顔を火照らせ、ほっぺたを抑えながらまだ話を続けようとするミキさんを私はそう言って止めた。
「それっていつのことですか?」
マサの話を聞く限りどう考えてもおかしかった。
「えーとね、2年くらいまえかな?最近お兄ちゃん忙しくなったみたいで話す機会減っちゃったんだよね…」
どういうこと?
マサはミキさんに信じてもらえなくてそれで話さなくなって…。
なんでこんなことになってるんだろう。
「ごめんなさい、ミキさん。また今度会いましょう。ちょっと用事ができちゃって…」
「うん、気にしなくていいよ。また今度会おうね、マリちゃん」
そう優しく言ってくれたミキさんに頭を下げ、私は駆け足で店を出た。
◆ ◆ ◆
「マリナ遅いな…」
宿に着いた俺は結構な時間待ってもマリナが帰ってこないことに少しの不安を感じていた。
結構時間がかかる用事なのだろうか。
不安になってコールをかけようか唸りながら考えること30分、ふいにドアが開く音がした。
「ただいまです」
「お帰り、マリナ!遅かったから心配したぞ。襲われたりしなかったか?もう遅いんだから気をつけなきゃ……」
「マサは私のお母さんですか…?」
心なしか疲れたようにそう言うマリナはどうやら襲われたりしたわけじゃないらしい。
「マリナ、どうかしたのか?」
数十秒たってもその場から動こうとしないマリナが心配になりそう声をかける。
そこからさらに数秒たちマリナが俺を睨みつけるように見てから言った。
「マサ、聞きたいことがあります」
マリナの雰囲気から察するに割と…いや、かなりまともな話らしい。
「何?」
とりあえず近くにある椅子を出してマリナに座るように促してからそう聞いた。
俺はベッドに座る。
「妹さんの事です」
「……」
珍しい、それもかなり。
普段周りのことを優先して考えて行動しているマリナが、俺に美紀のことを聞いてくるなんて。
相当重要なことなんだろう。
「…いいよ、何が聞きたいの?」
今更マリナに隠し事をしても仕方ない、と思った俺はマリナの質問に素直に答えることにした。
…と言っても前に話したのそのままだから特に隠し事とかはないんだけど。
「マサとミキさんはここ2年話してないんですよね?理由は…その……事件のことで」
「うん」
「マサが忙しいから会話しなかったわけじゃないですよね?」
「そんな理由だったらここまで険悪になってないよ」
「険悪……そうですよね…」
うーん…と唸りだすマリナには何か納得のいかないことがあるらしい。
「えっと、それがどうかした?」
俺がそう尋ねるとマリナは思考の中から帰ってきて顔をあげてから、先ほど美紀と会っていたこと、その話の内容について話し始めた。
そしてその話を聞くにつれて俺の中に一つの可能性が浮かび上がり、そしてそれが確信に変わっていった。
「マリナ、さっき俺も道具屋で一つ話を聞いてきたんだ」
それが関係あるの?と言いたげに首をかしげるマリナ。
「記憶のドロップ、それをした人は自分が記憶をドロップしてしまったということを忘れてしまうらしい」
そしてマリナの顔が驚愕に変わる。
「じゃあ…ミキさんは……」
「十中八九、事件とそれに関する記憶を失っている」
自分で口に出してその非現実さと絶望を実感した。
この状態で美紀に会ったら俺はどうすればいいんだ?
今まで通りあしらうか?それとも昔のように仲のいい兄妹をやるのか?
だめだ、思考がまとまらない。
しばらくは美紀に会わないようにしよう。
そう心に決めてとりあえず今日は寝ようと寝る支度を始めた時、ドアがノックされる音が聞こえた。
「お兄ちゃん、マリちゃん?私、美紀だよ!」
仮想世界でもそれが現実の今では何もかもうまくいかない。
お前の思い通りになんかさせない、そう神にでも言われているような気がした。
訪ねてきた人の声は間違いなく妹の美紀のものだった。




