プロローグ
2章のプロローグです
「私、最低だ……」
私―――〈Miki〉は先日行われたバトルジョブマッチのこと……いや、BJOに来てからのことを後悔していた。
Battle Job Matchの優勝者名が〈Masa〉と表示されたことから、お兄ちゃんの正体は疑いようがなくなっていた。
そしてあの日以来、気を抜くとふと自問自答してしまう。
私はいったい何のためにBattle Job Onlineにログインしたのだろう。
お兄ちゃんと仲直りするためだ。
私はいったい何のためにレベルを上げていたんだろう。
Battle Job Matchでお兄ちゃんを不意打ちで倒すため?
違う。
じゃあ、正々堂々と倒すため?
そうじゃない。
じゃあ何のため?
話を―――謝罪を聞いてもらうためだ。
そのためにお兄ちゃんと同じくらい強くならなくちゃ相手にすらされない、そう思ったから求めた力だった、だからレベルを上げていたんだ。
だけど実際にしたことは?
不意打ちで矢をうった上に完全な敗北。
「私って何がしたいんだろう…」
わからない、自分が、自分のやりたいことが。
目的はお兄ちゃんとの仲直り。
そのために何をすればいいの?
こんな自問自答が終わることなく続いていく。
まずは謝ることから始めなくちゃいけない。
でも、自分にそれができるのだろうか。
2年間、会話すらまともにできなかった私に、仮想世界で仮面つきのお兄ちゃんともよくわからない内容でしか会話できなかった私に。
お兄ちゃんがあの仮面を外したら私は声を発することができるのだろうか。
考えれば考えるほど、私は何もできないと実感させられた。
「そっか……わかった。でもフレンド登録もしてるし、また会えるよね」
この日、私はヒナちゃんに一つの提案をした。
パーティの解消。
理由は自分の使えなさからだ。
レベル上げのために狩りに出ても、お兄ちゃんに対してどうすればいいか考えてしまう私は足手まといもいいところだった。
これ以上迷惑はかけられない、そう考えての行動だった。
「うん、ごめんね、ヒナちゃん」
最後に私がそう言うとヒナちゃんは「気にしないで。困ったことがあったらコール入れてね」と言って私と別れた。
しばらくはなんとかなるかな…。
アイテムウィンドウに表示されている残金を見て、心の中でそう呟いた私はできるだけ安い宿に泊まってしばらく過ごすことにした。
そして1週間、私は最低限の食事だけとり、借りた宿から1歩も出ることなく過ごした。
第2回のBattle Job Matchは個人の乱戦でぼーっとしていた私はすぐに退場することになった。
「そろそろお金が無くなる…」
いくらお金をかけず過ごしても、開始間もない今の状態ではそうそう長く過ごすことはできないらしい。
外に出れば記憶を失うリスクを負うというのに、安全な場所で半年過ごすことはできない仕様となっているらしい。
製作者の悪趣味もここまでくれば笑えてくる。
お金を貯めるために仕方なく、私はMob狩りに行くことにした。
人が多い。
いまだ始まりの町付近のマップには多くのプレイヤーがいた。
開始2週間も経てば他のフィールドに行く人が増えてもいい頃だと思うが、私のような人が多いのか、はたまた念には念をという人が多いのかは分からないが結構な数のプレイヤーがいた。
これでは効率が悪い。
自分のレベルもそこまで低くないし、少し移動しても大丈夫だろう、と思った私は少し歩いて森の中に入ることにした。
森のエリアは北と南に1つずつ発見されている。
ゲーム開始数日、北の森には謎のクレーターが頻繁に発生していたらしく、その時はヒナちゃんがそのスクリーンショットをしつこいぐらいに見せてきた。
もちろん他のプレイヤーの進行が滞るのですぐにそのクレーターは消えるらしいが。
とりあえず、そんなよくわからないものがある北の森より南の森の方がいいかな、と思った私は南の森へと向かって足を進めた。
(〈ホーミングショット〉!)
心唱で発動したスキルによって放たれた矢は狙い通り、不気味なキノコの傘に命中した。
〈ポイズンマッシュルーム〉は15Lvという高レベルにもかかわらず、弱点の傘が狙いやすく、そこに当たれば〈ホーミングショット〉1発で倒すことができた。
RPGなどほとんどやったこともなく、ゲームに疎い私は、製作者にも優しいところがあったんだな、くらいにしか思っていなかった。
「あ、やば」
しっかりと狙えていなかったらしく、何度目かに〈ホーミングショット〉で放った矢は傘に当たらなかった。
それでも半分近いHPは削れているため、まあ大丈夫だろう、と考え弓を構えなおした私は〈ポイズンマッシュルーム〉がおかしな行動をしているのに気づいた。
頭を振って胞子を出している?
直感的にマズイ、と思った私は〈ホーミングショット〉の冷却時間を待たずに〈貫く矢〉を発動することにした。
「〈貫く矢〉!」
しかし、激しく動いている〈ポイズンマッシュルーム〉に攻撃は当たらず、矢ははずれてしまった。
とりあえず逃げよう、と考え元来た道を引き返そうとした私の眼に飛び込んだのは信じられない光景だった。
〈ポイズンマッシュルーム〉の大群。
少なく見積もっても7体はくだらないだろう。
まだ全体攻撃のない序盤の弓使いで相手できる量を明らかに超えている。
おそらく先ほどの行動は仲間を呼ぶための行動だったのだろう。
走って逃げればなんとかなるかもしれない。
そう考えた私は〈ポイズンマッシュルーム〉の間を走って逃げようとした。
「ッッ……」
(何コレ……)
が、私の体は言うことを聞かなくなった。
自分のHPバーの下には麻痺状態を告げるアイコンが表示されていた。
そしてそうしている間にも攻撃をくらっている私のHPバーは確実に減っている。
『デスペナルティは一定確率での大切な記憶のドロップ』
そんな非人道的な言葉が頭の中によぎる。
だめ!それだけは!
頭が急激に冴える。
だが、麻痺状態では何もできない。
HPバーは既に危険域を表す赤色になっていた。
「ゃ……ぃゃ………」
私の願いが天に届くことはなく、都合よくヒーローが訪れるはずもなく、HPバーはあっけなくなくなった。
ポリゴン片となって町へと転移された私がいた場所に〈Mikiの記憶〉というアイテムがドロップされていたことに私が気づくはずもなかった。




