21.決勝再戦
「闇よ、我が敵を討つためにその力の一部を顕現せよ――」
うわ、すげえな。
そんなことを思いながらも俺はしっかり詠唱をしていた。
確かにフィールドは準決勝と同じ闘技場だった。
だが準決勝と違うところがいくつかあった。
まずは巨大なディスプレイ。
闘技場の真ん中の空中にかなりでかいディスプレイが浮いていた。
数は4つ、それぞれ画面を外側にして四角形を作っている。
いや、微妙に下側に傾いているから台形に近いかもしれない。
そしてもう一つ先ほどと違うところがある。
「ホール頑張れー!!!」「カイト君も頑張って!!」「マリナちゃん可愛いよおおぉぉ!!」「厨二病死ねええええ!」
準決勝では闘技場の周りの観客席は誰もいなかった。
だが、今はどうだろう。
そこには今までで敗れたプレイヤー達がこぞって観戦、人によっては応援したり野次を飛ばしていたりした。
ちなみに野次の大半は俺だ。
多少耐性があるとはいえ結構傷つくからやめてほしい。
俺の隣で一瞬そんな雰囲気にのまれていたマリナも俺の詠唱を聞いた後すぐに試合に集中した。
「マサ、左のパーティがこちらに向かってきています。メンバーは〈銃使い〉一人に戦士職二人です。右のパーティはまだ戸惑っています。メンバーは魔法職2人に戦士職1人です。奥の2パーティは交戦中です。その中の片方はあの二人です」
マリナは周りを見た後俺にそう伝えた。
マリナの落ち着いた対応は素直にすごいと思う。
つまり左のパーティから狙え、ってことだな。
〈銃使い〉か…。
流石に銃を撃たれたら避けられる自信がない。
その前に詠唱を終わらせるしかない。
「――その姿は雷、光の速度で敵を滅せよ。〈闇の雷〉」
幸い、俺の詠唱の唱え始めが早かったらしく、〈銃使い〉の間合いに入る前に魔法を発動で来た。
〈闇の雷〉は無事着弾、相手を殲滅した。
それと同時に凄い盛り上がっていた会場が一気に静かになった。
確かにこのスキルは強いけど、それをさらにチートにしたのは君たちだぞ?
そう言ってやりたかったが、右のパーティは俺たちに狙いを定めたらしく俺も詠唱を始めるしかなかった。
「チートすぎるだろ、あの攻撃……」
そんな声が観客席の至る所から聞こえた気がするがそんなのは気にしない、したら負けだ。
最終的にさっきと展開は変わらないじゃねえか…。
そんなことを思いつつ詠唱を始めることにした。
「光よ、我が敵を討つためにその力の一部を顕現せよ。その姿は……」
その後の詠唱は必要なかった。
俺達の前でポリゴン片に変わる敵チーム。
(ああ、さっきの観客席から聞こえたチートだろって言葉は俺だけに向けられた言葉じゃなかったんだな)
「やっぱり決勝まで来たか『厨二病』!予選のケリをつけようぜ!」
その近くに立っていたのはホールだった。
くそ、詠唱を止めるんじゃなかった。
あのまま唱えてホールごと消せばよかった。
「マリナ、あっちは頼む!」
奥の2パーティは交戦中、と言ったマリナの言葉は半分あたりで半分外れだったらしい。
正確には奥の1パーティとカイトが交戦中、ホールは丸薬を飲んでるところだった、と言ったところだろう。
奥のカイトはちょうど相手パーティを倒し終わったところだった。
「わかりました!」
そう言ってマリナはカイトに向かって走り出した。
通常魔法職に近接戦は向かない。
だが、今回のマリナの場合、相手はほぼ戦闘能力皆無だ。
逆に近寄らないとこっちにテイミングモンスターが来て一向に相手のHPは減らないのだ。
だったら近づいて戦闘能力がない本体をたたいたほうがいい。
「楽しみにしてたんだぜ、『厨二病』!」
そう狼男の姿で俺にいってくるホールに心の中で「俺もだよ」と答え詠唱を始める。
実際ここで喋ってる余裕は俺にはない。
「全ての現象を司る万能の神よ…我に力を貸したまえ…」
詠唱した扱いになる最小限の音量で唱える。
「無視すんなよ、『厨二病』」
ホールから逃げてもこのステージじゃ追いつかれてやられるのがオチだ。
だったら近接戦で競り勝つ。
先ほども言ったが魔法職に近接戦は向かない。
その理由はいくつかあるが一番の理由は心唱が魔法職や一部の職業にはできないということだろう。
他の職業は口に出さずともスキルが発動できる、つまり相手には何のスキルかわからない状態で発動できるのに対して魔法職はいくら短くしてもスキル名は唱えなくてはならない。
つまり相手にはスキル発動のタイミング、どのようなスキルなのかがわかってしまうのだ。
もちろん心唱しても武器に光が宿ったりもするのでわかるときもあるが。
だがその点はこのスキルには関係ない。
相手もスキルを使わない、こっちも運が良ければこれ一つで他には何も使わない。
ただの殴り合いだな。
「剣の精よ、我が敵を討つためにその力の一部を顕現せよ――」
ぶつぶつ何かを言っている俺に何か思ったのだろう。
ホールは俺を少し観察、そしてすぐに気づき
「ッチ!もう詠唱始めてやがったのかよ!」
そう言いながら俺の方へ距離を詰めてくる。
最初50m程は離れていたはずだ。
だが、ほんの1秒でその距離は半分近く縮まっていた。
本当に恐ろしいな、〈獣化人〉。
だが、あと1秒もあればこっちの残りの詠唱だって終わるさ。
「その姿は魔法、現れよ〈魔法剣〉」
杖を持った右手を前に出す。
次の瞬間杖は消え、俺はただのグーを前に出しているみたいになった。
観客からしたら「何やってんだ?コイツ」と言う感じだろう。
今回の使用MPは1200、20分もあれば終わると思ったからだ。
…てか見えない剣って間違えて自分斬っちゃいそうで怖いな。
「こいよ、ホール!」
ホールは残り数メートルで俺の右手、と言うところでいったん止まった。
「えげつねえことしてくれんじゃねえか。右手、なんか持ってんだろ。目には見えなくても禍々しいオーラがにじみ出てるっつーの」
オーラとか使うな。
お前のほうが厨二病っぽいぞ、誰かコイツにも『厨二病』の二つ名をあげるため頑張ってくれよ。
「そうかい!」
俺はそう言うと同時にホールのほうへ向かって踏み出し、右手を突き出した。
ホールは身体をずらし見えないはずの剣を避けると俺にそのままパンチを放ってきた。
あぶねえな!
俺の魔法攻撃力と物理防御力的に、どちらも一発もらえば終わりの戦いだ。
集中力が先に切れたほうが負ける。
「最高だよ!こっちは身体強化されてるっつうのにほとんど俺と同じ速さじゃねえか。一体アンタ何lvだよ、俺より上なんじゃねえか?」
パンチを出しながら俺にそう言ってくるホール。
俺も剣を振って応戦するが、手数が違う。
向こうは両手両足を使ってくるのに対してこっちは右手だけ。
避けてたまに手を出すので精いっぱいだ。
「25だよ!」
答えながら隙を見て残りMPを確認。
残り400、20%か…。
〈闇の雷〉の冷却時間は終わっている。
(唱えながら攻撃、回避か…。やるしかねえ!)
「闇よ、我が敵を討つためにその力の一部を顕現せよ――」
「さっきの攻撃か!?くそ!」
そう言いながらホールは手数を増やしてくる。
こっちだってギリギリなんだよ!
「――その姿は雷、光の速度で敵を滅せよ――」
当てるより詠唱のほうが早いと判断したのかホールは1度距離をとった。
だが、こっちは詠唱通り光の速度、よけられてたまるか。
「〈闇の雷〉!」
俺がそう唱える直前、ホールは瓶から丸薬のようなものを一粒とりだし、食べた後唱えた。
「〈擬獣化〉マクロポディダエ!」
そして闇の雷が着弾する直前、ホールは変身、そして跳んだ。
その高さは15m程。
〈闇の雷〉は高さ10mほどまで飲み込んだが、ホールまでは届かなかった。
「残念だったな、『厨二病』!」
ホールはそう言って落ちて着地しようとしている。
確かによけられるとは思わなかった……だが、万が一よけられても、上にだったらまだ可能性があった。
ホール、俺の勝ちだ。
自然落下しているホールまでの距離は15mほど。
そのホールにダッシュで近づく。
ホールは何をしようとしているのか察したのかはわからないが、再度丸薬を取り出し食べた。
「〈擬獣化〉フェンリル!」
そう言うと再度ホールは狼男の姿となった。
ホール、残念だったな。
俺はお前が着地した後に攻撃するようなお人よしじゃないんだよ。
ホールが着地するまで残り3m程。
俺とホールとの直線距離は5mほど。
この距離なら外さない。
「俺の勝ちだ、ホール!」
俺は右手を振りかぶり、手に持っていた透明な剣を投げた。
「ハアアアァアア!?」
ホールはそう叫びながら空中で俺の剣に貫かれた。
正確には俺が投擲した数瞬後にホールの体に穴が開いた。
ホールの体力は0になり、ポリゴン片となった。
「〈聖なる弓〉!」
「いけ、〈アーリーイーグル〉!」
俺は勝ったことで安心していた。
そんなときにマリナとカイトの声が聞こえた。
最後マリナは〈聖なる弓〉を放ちその矢がカイトを貫き、カイトのHPを0にした。
だが、まだ消えている途中だ。
それは〈アーリーイーグル〉もおなじ。
〈アーリーイーグル〉はマリナのほうへ向かっている。
「マリナ、〈アーリーイーグル〉が残ってる!しゃがめ!!」
〈アーリーイーグル〉はマリナの頭ぐらいの高さを飛んでいた。
マリナはそちらの方を振り返らず、俺の指示通りしゃがんだ。
そしてその直後、〈アーリーイーグル〉はマリナの頭上へ到着、そこで消えた。
『バトルジョブマッチ、第100回優勝者はプレイヤー名〈Masa〉、〈Marina〉のパーティです。おめでとうございます。後日上位プレイヤーにはアイテムを送ります。五分後、全プレイヤーを始まりの町に転送します』
勝った…?
今度こそ俺は気を抜いてその場に座り込んだ。
「マサ!勝ちましたよ!」
そう言ってマリナは俺の方へ走って俺の胸へ飛び込んできた。
そのまま勢いで俺が押し倒される形になった。
「ああ、やったな」
俺はそう言ってマリナの背中に手をまわした。
俺達は二人で優勝の喜びを分かち合っていた。
…ここが全プレイヤーに見られている空間だというのを忘れて。
第100回なのはこちらの世界にも歴史があるからです
わかりにくくてすいません




