19.最多倒破
「負けてましたね、あのままやっていたら」
転送されたのは控室だった。
どうやら勝者閲覧室は個室になっているらしい。
六人用で作られた部屋なのだろう、俺とマリナの二人にとってはかなり大きい。
そんな広い空間で発されたマリナの言葉はやけに俺の心に沁みわたった。
わかってる、言われなくても。
油断した俺のミスだ。
ホールの方の様子をうかがう必要はなかった。
〈獣使い〉と言うのがわかった時点で〈聖なる弓〉の詠唱を始めるべきだったんだ。
それで〈獣使い〉を倒せればこっちに数的有利が生まれた。
「マサ、そんなに落ち込まないでください。マサのせいじゃありません。私がもっと早く違和感に気づいていれば、それにマサの攻撃力のことを考えれば様子をうかがうより奇襲のほうが効果的でしたし…」
「落ち込んでないよ、マリナ。それにマリナのせいじゃない」
それにマリナは1人でも〈アーリーイーグル〉を倒していた。
それに比べて俺は何だ?
攻撃を避けてポーションを消費して〈瞬間移動〉逃げていただけ。
もし、〈瞬間移動〉を使った後、ホールが俺を探さずにマリナのほうへ行っていたらどうなった?
俺が2回目に〈瞬間移動〉を使った時マリナは既にやられていたかもしれない。
また俺の判断ミスで、また間に合わないところだった。
(もうそんなことにはならないようにするって決めたのに……)
この世界に来てマリナを初めて助けた時、あの時とは違うと思った。
だがそうじゃない。
油断して、準備もしてないで…どこが変わったんだよ!
「マサ、私、周りの空気に敏感だって前に言いましたよね?今のマサは自分を責めています、絶対に。マサは悪くないです。…でも、私がそう言ってもマサは気にすると思います」
マリナはそう言って椅子に座って俯いていた俺の顔を自分の顔のほうへ向けさせてから言った。
「だったら次に勝てばいいんです!今回だって私たちはどっちもやられてないんですよ?負けるところだっただけで負けたわけじゃないです。だからマサ、自分を責めないで?」
マリナの言うとおりだ。
何で俺マイナスの方にしか考えてなかったんだ。
確かに今回の結果は誇れたものじゃない。
だけど、間に合わなかったわけでもないんだ。
「マリナ、ありがとな」
この世界で、何があってもマリナだけは守る。
デスゲームな訳じゃない。
でも記憶はドロップする。
そんなことを考えている運営がデスゲームにしない保証なんてないんだ。
だったらもしそうなっても今度は絶対に守れるように…。
「それに…今はもっと重要なことがありますよ、マサ……」
今度はマリナがテンションを落としてそう言った。
何かあっただろうか、考える必要はなかった。
「おい!『厨二病』!お前がプレイヤー消滅事件の犯人だろ!」「くそっ、ドアが開かねえ!」「開けろ!説明をしろ!」
そんな叫び声とともにドアが激しくノック…もとい攻撃されていた。
「……」
「これですよ…」
完全に忘れていた。
そうだ、あの2人にばれていたということは他のプレイヤーにもばれている可能性があったんだ。
しかも俺はあの試合で〈瞬間移動〉を連用した。
最初の一回はかなり早い時間だったから閲覧室には誰もいなかっただろう。
だが2回目、3回目はどうだ?
あれを使ったのはおそらく残り20分を切っていたくらいの頃だろう。
閲覧室には結構の数のプレイヤーがいただろう。
その中に俺の二つ名について疑念を抱いているひとがいたとしたら?
〈僧侶〉にあんなスキルないよな?と。
(諦めるか…)
そう思ってドアを開けて説明しようと動こうとしたとき、先にマリナが動いた。
「うるさいですッッ!!事情はBJMに優勝してから説明しますから今は帰ってください!!」
マリナはそうドアを開けて言い放った。
ドアの外にいたプレイヤー、俺から見る限り20人ほどは口を開けて唖然としている。
それもそうだろう、少し小さめの黒髪ロングの美少女が獣のコスプレっぽい服装をしながら出てきた挙句かなりの大声で叫んだのだから。
そんな冷静に考察していた俺の顔も多分その人たちと同じになっているだろう。
「わかったなら戻ってください!」
そう言うとマリナはドアと鍵を閉めさっきまで座っていたところに座りなおした。
「マサ、これでBJM終わるまで静かになると思いますよ」
そう言ってマリナは俺に微笑んだ。
けども…だけどもさ……
「…何で俺達優勝宣言しちゃってるの?」
「ああでもしないと静かにならないと思ったからです!」
「いやいや!その姿でマリナみたいな子が叫べば静かになるからね!?」
優勝したら説明するって…、それに説明するの俺なんだよ、マリナ?
「とにかく!ここまで言っちゃった以上頑張りましょう!」
「そうだね…」
どっちにしろあの二人を倒さなきゃいけないんだ。
もし決勝で当たるんだったら優勝しなきゃいけないってことだ。
なんだか張り切っているマリナと自分のために俺は気合いを入れなおした。
『転送開始時刻になりました。1分後転送を開始します。準々決勝出場パーティ数は125です。各グループ5パーティで戦っていただきます。時間制限はなし、残り1パーティになるまで戦ってください。勝ち抜いた合計25パーティが準決勝へ出場となります。マップは森、オリジナルマップです。30秒後転送を開始します』
「マリナ、もう最初から全力でいくからな」
「はい、もう何も言いませんよ」
そう言ってマリナは俺の手を取った。
「絶対に勝ちましょう!」
「ああ」
マリナの言葉にそう返して俺はマリナの手を握り返した。
その数秒後、転送が始まった。
転送された先ではどこを見ても木だった。
〈シルバーウルフ〉がでるフィールドに近いかもしれない。
余りにも木が多くてフィールドの広さもわからない。
『ただ今からバトルジョブマッチ準々決勝を始めます。フィールドナンバー4のこのマップでは24人、計5パーティが参加しています。予選同様HPポーションは使えません。ご健闘をお祈りします』
ルールは予選と変わらないのか。
実際広さが直径200m程ならばバフスキル多様+闇の雷のコンボでマップごと消し飛ばすのだが、それで範囲が足りなかった時のリスクがでかい。
まずMP回復をしなくてはいけなくなるし、俺にギリギリ当たらないところまで木々を消し飛ばすことになるであろうことから俺の居場所もばれる。
見つけた後に正確にやっていくのが確実だ。
「マリナ、事前詠唱するから喋れなくなるけどいい?」
しばらく考えたあと、俺は作戦を決めた。
事前詠唱、先に途中まで詠唱を終わらせておく小技のようなものだ。
このゲームでは詠唱時間に制限がない。
だから前にスキル名だけをその前の詠唱から1時間後に言うということを試してみたのだ。
結果は成功した。
だが、次にやるとき途中に咳き込んでしまってそちらの方は失敗。
要するにこれは俺でも準備をすれば詠唱短縮もどきができるというとてもありがたい技なのだ。
ついでに攻撃をくらった時も失敗して、その時は本当にあせった。
〈ゴブリン〉相手じゃなかったら死んでたと思う。
「わかりました。敵を見かけたら肩をたたいてください」
マリナはそう言うと周りの敵を探し出した。
「それじゃ、失礼して――全ての現象を司る万能の神よ…我に力を貸したまえ…」
唱えながら俺も周りを見るがいかんせん視界が悪い。
全く見つからない。
「闇よ、我が敵を討つためにその力の一部を顕現せよ。その姿は雷、光の速度で敵を滅せよ」
ここまでで事前詠唱終了。
スキル名の途中で間が空いたり、噛んだりするのは詠唱失敗扱いになるらしいのでここまでが限界なのだ。
ちなみにソースはマリナ。
以前〈聖なる弓〉の詠唱の時に詠唱を噛み「シェイントアロー!」と言ってスキルが発動しなく、笑いをこらえていたところを真っ赤な顔+涙目のコンボで睨まれた後凄い拗ねられたのを覚えている。
そんなことを思い出しながらしばらく歩いて敵を探していた。
5分ぐらいそうしていると大きな物音が聞こえた。
「マサ、誰かいます」
木の陰に隠れて物音がしていた方を見ると、そこでは大体20人くらいのプレイヤーが大乱闘を起こしていた。
「どうやらここがフィールドの真ん中みたいですね。全パーティ集まってるみたいですし」
おそらく木の配置とかでどこかしらに誘導されるようになっていたのであろう。
最悪このフィールドだったら1時間誰とも会わないということもありそうなのにこうして全パーティが1か所に集まっているわけだし。
「じゃあ、マサ。油断せずに――」
「〈闇の雷〉」
マリナが何か言おうとしていたがさっきの予選で様子をうかがってても意味のないことが分かった。
だから俺はとりあえず攻撃してからマリナの話を聞くことにしたのだ。
「ん?何、マリナ?」
俺とマリナの前には毎度おなじみのクレーターができていてプレイヤーも木も何も残っていなかった。
「何でもないです。何でもないですけど、これじゃあマサの評判がまた下がるだけですよ…」
まあ確かにそれもそうなんだけど…。
…説明すればみんなわかってくれるはずだ、多分。
『フィールドナンバー4、残りパーティ数が1になりました。閲覧マップへ自動転送されます。経過時間7分56秒。最多kill数19、プレイヤー名〈Masa〉』
…BJMのリザルトで表示される名前〈Right〉じゃなくて〈Masa〉かよ……。
他のプレイヤーにもばれてるみたいだし本格的に〈七死師〉の意味が分からなくなってきたぞ…。
「マサ、戻ったらすぐに〈瞬間移動〉を使ってください。できれば建物の屋上とか誰も来られないようなところに…。じゃないとまたさっきみたいになります」
さっきみたい、と言うのは控室に人がいっぱい来たことを言っているのであろう。
確かにまたあれが来るのも嫌だな。
「ん、わかったよ」
俺はマリナにそう返答して転送を待った。




