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Battle Job Online  作者: 栗山ハル
【1.Battle Job Match】
2/30

1.終日始日

 七月一日。

 今日は俺の人生の中でもかなり重要であろうことが起こる。

 学校の定期テスト?そういえばそんなものもあった気がするがそんなことはどうでもいい。

 妹の誕生日?アイツは俺と関わり合いたくないらしいし、そんなものを渡す義理もない。

 誰かに告白?別に俺は彼女とかに憧れてはいないし、そんなものは必要ない。

 冷めてるって?

 ああ、それはよく言われる。

 ただその前に少し言葉がつくがな。

 話を戻そう。

 七月一日、今日は世界初のVRMMOのβテスト開始日なのだ。

 数年前、初めてVRゲームが発売されてから様々なゲームが出た。

 RPGや釣り、育成など今あるゲームのほとんどのジャンルが出たと思う。

 それらのゲームが一つ出るたびに多くのゲーマーが感動し、楽しんだ。

 俺もその中の一人だ。

 そんな中ついにVRゲームのオンラインが作られたのだ。

 名前は〈Battle Job  Online〉通称BJO

 その内容は様々な職業のプレイヤー同士で戦い定期的にプレイヤートップを決める、というものだ。

 もちろんlvもあるが、個人のテクニックでそんなものは簡単にひっくり返る。

 他にも楽しめるところは山ほどあるのだが、それはログインしてからヘルプで聞ける、と説明書には書いてあった。

 実際のところ説明書には基本的なプレイ方法と戦士や獣使いなどの基本的な職業しか書かれていなかったため俺にも詳しい内容は分からない。

 …と言ってもまだβテストなわけなのだが。

 だが、それでもBJOの発表がされたとき、今までどんなゲームが出た時よりも俺達、ゲーマーは歓喜した。

 βテストの定員は三万人。

 倍率は異例の百倍。

 ゲームに興味がある人もない人も物は試しという感じで応募したのだ。

 俺は専用のはがきを大量に買い少なくとも百回は応募した。

 おそらくほかにもそのようなプレイヤーがいるはずなので実際の倍率は五十倍ほどであろうが、それでもかなりの倍率だったと言えるだろう。

 そして、俺は運よく当選した。

 家でも学校でも最近は割と静かにしていた…というか感情をあまり表に出さないようにしていた俺が嬉しさのあまりはしゃいだことで家族は驚いていた…というか若干引いていたが、そんなことは気にならないくらいうれしかった。

 専用の機械と当選の知らせが届いてから数週間がたった今日、先ほどあげたほかのことを気にしている余裕など俺にはなかったのである。

「雅人、美紀ちゃんへの誕生日プレゼントは買ったの?」

 BJOのキャラ名はどうしようか、そんなことを考えていると俺の前に一人の女子生徒が立っていて、俺の名前が呼ばれていた。

 そう言えばもうテストも終わって帰りのHRの時間になっていた。

 全く気が付かなかったな。

 俺のテスト用紙の解答欄はある程度埋めたので追試はないであろう。

 ちなみに雅人、というのは俺の名前で美紀は妹の名前だ。

「小野さんには関係ないと思いますけど?」

 というか誕生日プレゼントなんか買ってる訳ないだろ、向こうも欲しがってねえよ。

 というかお互いに嫌いだと思っているのにそんな人にプレゼントをあげるほど俺は優しくない。

「関係ないとかないでしょ、幼馴染なんだから――」

 幼馴染か…。

 そう言えばそうだったかもしれない。

 小野望とは家が隣で数年前まで結構仲が良かった。

「それに美紀ちゃんだって欲しがってると思うよ?あ、あと私のことは昔みたいに望って――」

「黙れ、お前に何がわかる?」

 そう、数年前まで仲が良かったのだ。

 今は……ただのクラスメイトだ。

 そんなただのクラスメイトに人の家庭事情までとやかく言われたくはない。

 俺はそう思って小野さんの言葉を遮ってそう言ったのだ。

「ごめん、ちょっと口調が悪かったね。でもさ、誰でもそれほど親しくない人に自分の家庭事情までないか言われたくないと思うんだ。それは分かってほしいな」

 俺がそう言って軽く笑うと小野さんは悲しそうな顔をした後言った。

「雅人、変わったよね」

「……」

 俺は何も答えなかった。

 そんなことは自分でも一番よくわかっている。

 だが、そうさせたのは誰なんだ?

 そう思いながらも小野さんの次の言葉を待った。

「ごめん」

 小野さんは最後にそう言って自分の席に戻って行った。

 最後は少し泣きそうだったようにも見えた。

「…帰りの準備しなくちゃな」

 随分と酷いことを言ったのかもしれない。

 そう頭では思っているのに心ではほとんど罪悪感を感じてはいなかった。


◇  ◇   ◇


俺はHRが終わってすぐに教室を出た。

 現在の時刻は一二〇〇。俺は今部活には入っていないので大分早い下校時刻となっている。

 βテスト開始は一八〇〇だが、それまでに色々とやっておかなくてはならないことがある。

 まずは軽食。

 仮想世界で体を動かすとかなり疲れるし、腹も減る。

 じゃあ仮想世界で飯食えば?と思うかもしれないが、実際中のご飯はあまりおいしくない。

 何でもあまりに美味しすぎるとダイエットがどうとか言って仮想世界で食事をして現実世界ではまったくしない人が出てくるらしいのだ。そして栄養失調、最悪の場合は死。

 だからあまりおいしくない料理で何とかしているらしい。

 だから途中で一回ログアウトしてご飯を食べたい。

 だから軽食の確保は結構大切なのだ。

 あとはアバターの登録。

 コレは一五〇〇からできる。

 外見や名前の設定はもちろん背や体重、反射速度までも計測するのでコレは割と時間がかかる。

 背や体重を計測する理由は仮想世界から現実世界に戻ったときの仮想酔いをなくすためだ。

 仮想酔いというのはVR系のもの独特のもので自分が仮想世界の自分に設定した情報と現実の自分とで誤差が大きいと現実世界に戻ったときにしっかり立てず、しばらくの間自分の体なのに自分の体のように動かなくなることだ。

 他のVRゲームでは自分で入力するのに対し、SJOは送られてきた機械がすべて測定してくれるらしい。

 便利なものだなと思う。

 反射速度は詳しいことは分からないがおそらく必要なことなのだと思う。

 そんなことを考えながら下校しているといつもの数倍のはやさの体感時間で家に着いた。

 ポケットの中から鍵を取り出しドアを開け家の中へ入った。

「…ただいま」

「おかえりなさい」

 そう俺の声に答えたのは母親だ。

 まあこの時間に父と妹はいないはずだし、いたら困るわけだが。

 俺が家族の中で唯一普通に話すのは母親だけなのだ。

「昼はある?」

「作ってあるわよ。机の上に置いてあるわ」

 流石母さん。

「ありがと」

 それ以外は特に会話はない。

 俺が食べ始めると母さんも準備を始め昼を食べだした。

 沈黙。

 だがコレはいつもの光景なのでどちらも口を開こうとしない。

 別に俺と母さんは仲が悪いわけじゃない。

 先ほど言ったように俺が家族の中でまともに話すのは母さんだけなのだ。

 どちらかと言えば仲がいいと言えるだろう。

 ガチャ

 そんなことを考えていると玄関のドアが開く音が聞こえた。

「ただいまー、おなかすいちゃったよお母さん。お昼ごはんー!」

 妹もテスト期間中だったらしく早めに帰ってきたらしい。

 一応妹のことも説明しておく。

 俺とは二つ離れた中学二年、容姿は良く、その他もハイスペック。

 以上だ。

 他にはなすことはない。

 というか考えるだけでもイラつく。

「母さん、ごちそう様。美味しかったよ。ちょっと出かけてくるね」

 一緒の空間にいたくない。

 自分でも極端だとは思うが正直な気持ちなんだから仕方がない。

「はい、わかったわ。いってらっしゃい」

 母さんからそう言われると食器を片付けて財布を持ち出かけようとした。

 とりあえず、軽食でも買いに行くかな。

 リビングを出るとちょうど妹がリビングに入ってくるところだった。

 …もうちょっと考えてから動くべきだったな。

「…あ、お兄ちゃん……、あの…その……」

 何か言おうとして縮こまっている。

 だが、

「買い物に行く、どいてくれ。通れない」

 俺はそう言った。

「ッッ…。うん…」

 さっき帰ってきたときの元気はどうしたんだよ。

 そう言いたくなったが別にいいか、と思い言うのをやめた。

 どいてくれたことだしコンビニにでも行くとしよう。

 今度もまた悪いことをしたとは思ったが罪悪感は湧かなかった。


 そう言えばもう長い間妹とまともに話してないな。

 多分さっきは俺に謝ろうとしていたのであろう。

 数年前にあった事件。

 俺のことを信じてくれたのは母さんと一人の警察官だけだった。

 クラスメイトも、

 仲の良かった友達も、

 教師も、

 父親も、

 幼馴染も、

 妹も、

 全員が俺のことを疑ったのだ。

「まあ、そのおかげでゲームと出会えたわけだし結果オーライってことにしよう」

 ただ一つだけ心残りがあるとすれば……親友の近藤凌のことだ。

(考えるのはやめよう)

 凌のことは絶対に忘れない。

 そう決めたんだ。

 そんなことを考えた後、俺はコンビニへの足を速めた。


 コンビニではおにぎりと飲み物だけ買ってすぐに家に帰ってきた。

 一応帰ってきたことを伝えるために「ただいま」とは言ったが、万が一妹に答えられても困るので、すぐに自分の部屋に向かった。

 現在時刻は一三三〇。

 アバター作成までもまだ結構時間がある。

「寝るか…」

 そう決めた俺は机の上にコンビニで買ったものを置いてベッドに横になった。

 意外と疲れがたまっていたらしく数分のうちに俺は意識を手放した。


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