10.憎妹再会
宿に戻った俺はまず〈呪い解除〉を使って〈道化師の仮面〉の呪いを解くことにした。
とりあえず説明書を開き効果を確認。
聖属性魔法スキル〈呪い解除〉
使用MPは最大MP。
効果
どんな呪いやデバフでも解くことができる。
デメリット
呪いを痛みに変換するため多少の痛みを感じる。
そしてこの後に詠唱文が書いてある。
多少の痛みを感じるくらいいいだろう。
そう思って俺はすぐに詠唱を始めた。
「光よ、我が目の前に存在する悪意を浄化せよ。代償には我が身を…〈呪い解除〉」
そう唱えた瞬間俺の頭の中に一瞬『Feel pain5/100』と浮かんだ。
MAXの5%ほどの痛みなら大丈夫か…、そう思って痛みが来るのを待った。
「ッッうぐ…」
まず最初に感じたのは思い切り足を斬り飛ばされたような痛みだった。
立っていられなくなり四つん這いになる。
「…アアアァァアア!!」
次に肘から切り落とされたような痛み、体を支えていた手も付くことができなくなりその場に倒れ伏す。
「ッッッッッッ!!」
最後に体中に1本1本剣が突き刺さっているような痛みを感じた。
これで5%の痛み?冗談だろ。
だったら100はどうなるっていうんだ?
痛みから完全に解放されたのはそれから30分が経った頃だった。
痛みがなくなり体が自由に動かせるようになったので〈道化師の仮面〉を確認すると(呪)の文字がきれいに消えていた。
どうやら成功したらしい。
だがここで喜んでいる場合ではない。
まだまだやることはあるのだ。
次にやるべきは〈七死師〉を使った名前の変更だ。
名前を変えればしばらくは美紀にばれずに済むだろう。
お金もさっき仮面を引き取った分があるので一日狩らなくても余裕で暮らせるだろう。
よし、名前を変えよう。
そう決心して詠唱を始めようとしたとき、頭の中に機械的な声が響いた。
『二つ名を獲得しました。全プレイヤー中一人目の獲得です』
二つ名を獲得した?
確か二つ名は全プレイヤーjの3分の1以上が俺の名前か顔を知っていて同じ印象を持つ必要があったはずだ。
β開始初日で二つ名獲得?…いい印象なわけがないな、あんまり人と話してないし。
『二つ名〈厨二病〉』
最悪だああああああああ!!!
誰だ!?これをギルド本部に申し込んだやつは!?
くそ…これが周りの人に見られるなんて最悪だ…。
『スキル発動時、詠唱短縮、心唱、自動詠唱をしない場合、スキル終了まで全ステータス2倍』
しかもなんか無駄に能力がいいのが腹立つ…。
とりあえずこの印象を広めたやつ、もしくは最初に言ったやつはPK確定だな、うん。
ステータス画面を開いて現在表示されている名前を見ると見事に
厨二病〈Masa〉
となっていた。
もう諦めよう…。
でもこの二つ名俺にぴったりだな…もちろん名前ではなく能力が。
ようするに俺の場合スキル使用時に攻撃力二倍っていうことだ。
プラス思考で考えよう。
この二つ名は貰えてよかった、うん!
そう考えて気持ちを切り替え〈七死師〉を使うことにした。
「闇よ、我に力の一部を貸したまえ。その役は欺騙。期間は七度死す時まで。〈七死師〉」
俺がそう唱えると全MPと引き換えに目の前にキーボードが現れた。
最初の設定の時のキーボードは半透明の白だったのに対して、今回出てきたのは紫と黒の中間のような色。
まさに闇を感じさせるような色合いだった。
プレイヤー名はもう決めてある。
間違えないように慎重に文字を打つ。
『プレイヤー名〈Right〉で間違いありませんか?間違いがなければEnterキーを押してください』
脳内に響く機械的な音声の指示通りにEnterキーを押した。
このプレイヤー名にしたのにはいくつか理由がある。
まずは《正しい》という意味を持つということ。
すべてに対しては正しい行動はとれないかもしれないが、できる限り自分は正しくいたいと思ったのだ。
そしてもう一つの理由、それは《償う》という意味を持つということ。
あの時何もできなかった。
だからせめてこの世界の中だけでも凌への償いになるような行動をしよう、そう思ってこの名前にした。
これで周りの人から見る俺の名前は〈Right〉になった。
説明を読む限りフレンド登録してある人場合や自分のステータス画面、バトルジョブマッチのリザルト時などは〈Masa〉で表示されるらしいが、それは仕方がない。
短い期間でもばれずに済む、というのはかなりのメリットになると思うからだ。
本当にMPは回復しないのか?そう思って先ほど買ったMPポーションを飲んでみた。
…1ドットたりとも回復はしない。
どうやら本当に回復しないようだ。
こうなると俺は何もできなくなる。
丸一日、その間に俺は町を探索し、情報を増やすことにした。
先ほど〈呪い解除〉した仮面を装備して俺はまた外に出た。
(意外と人いるんだな…)
町に出たときの感想はそれだった。
さっきはやらなくちゃいけないことが結構あったから周りを見てる余裕がなかった。
落ち着いてみてみるとほとんどの人が狩りに出ているというわけではないらしい。
大体町にいる人は…全体の1割と言ったところだろう。
その中の半数はまだこの現実を受け入れることができてないそうで、落ち込んでいるのがその顔色でわかる。
残りの半数は楽しんでいるようにも見える。
同じくらいの年代の人が集まっていてグループもできている。
(どうせ俺は一人だよ…)
スタートダッシュに出遅れ、おまけに職業は魔法つk…マジシャン。
結果フレンド数は未だに1。
…別にショックを受けてる訳じゃない。
二年前の事件の後、周りから話しかけられても冷たい反応しかしなかったし、自分から話しかけることもなかった。
それもそうだ。
事件中はわざわざメールやSNS、電話までして嫌がらせじみたことをしてきたやつがそれが終わった瞬間にヘラヘラ笑いながら謝ってきたりするのだ。
そんなやつらは信じられない。
そう言えば、さっきのフレンド登録は割と自然にできた。
〈Marina〉、多分いい子なんだろうな。
それは職業を〈僧侶〉にしたことからもわかる。
うろ覚えだが〈僧侶〉はパーティ支援を中心とした職業だったはずだ。
PvPがメインのこのゲームでそんな職業を選ぶのは縛りプレイがしたかったよほどのゲーマーか根が優しい人のどちらかだと思う。
さっきの反応を見るにマリナは後者だろう。
そんなことを考えながら歩いていると、周囲の目線が俺に集まっていることに気づいた。
何だ?と疑問に思い耳を澄ませ周りがこそこそ離している内容を聞くことにした。
「アイツなんで仮面つけてるんだ?」「知らねえよ、しかも二つ名持ちだぞ」「二つ名『厨二病』かよ」「二つ名ピッタリすぎる…」「名前〈Right〉って…」
放っておいてくれ!
全部に理由があるんだよ、仕方ないだろ!
本当に『厨二病』ってギルド本部に申し込みに行ったやつ覚えておけ。
そう思いながら町を歩いた。
突然だがアイコンの話をしよう。
キャラクターの頭上には緑色の逆三角形のアイコンと二つ名と名前、それからギルド名が浮かんでいる。
PKを推奨していないとはいえ、禁止もしていないこのゲームにはPKへのペナルティはなくPKしても頭上のアイコンの色は変わらない。
でもそのアイコンも色が変わる場合がある。
まずは同じギルドに所属している場合。
この場合のアイコンの色は青だ。
次に同じパーティに所属している場合。
この場合は黄色のアイコンになる。
最後にフレンド登録をしている場合。
この場合のアイコンの色は白色だ。
BJO内で結婚すると結婚相手のアイコンの色が変わるらしいが、これはパートナーと相談して決めることができるそうだ。
さて、俺がいきなりこんな話を始めたのにも理由がある。
緑のアイコンまみれの町の中に一つだけ違う色のアイコンを見つけた。
俺はギルドにもパーティにも所属していない。
フレンド登録数は1人。
よって相手が誰かはすぐにわかる。
その相手――マリナもすぐにこちらに気づいたようだ。
さっき言っていた友達と一緒に歩いている。
片方は見るからにスポーツ少女と言った感じの子だ。
問題はもう一人。
どこかで見たことがある…どころじゃない。
俺と同じような色の茶色の髪の毛を腰くらいまで伸ばし整った顔。
忘れたい、でも忘れるわけがない。
それはさっきも見た俺の妹、井上美紀の姿だった。
(今マリナに名前を呼ばれるのはマズイ!下手したら気づかれる!)
仮面をつけていると言っても髪は出ているし、声も変わらない。
マリナは俺のことをマサと呼ぶだろう。
表示されているのは〈Right〉だがアイコンが白でさっきあった人の名前をわざわざ確認はしないだろう。
〈七死師〉を使ったせいで今はスキルが使えない。
距離は10メートルほど。
マリナの行動をよく見る。
マリナが俺のほうを向き、口を開き名前を呼ぼうとした瞬間に俺はダッシュ、そして名前を呼んだ。
「こんにちは、マ「やあ、マリナ!さっきぶりだね!」…あ、はい!」
いきなり走った挙句かなりの大声で名前を呼んだため、マリナも、周りの人も一瞬変な目で俺を見てきた。
「マリナの友達かな?」
いきなり呼び捨てだったがまあいいだろう。
さっきもそうだったし。
「そうです、さっきお話しした…」
そう言って俺に説明をしてくれようとするマリナ。
「こちらがヒナさん、こちらがミキさんです」
「こんにちは!…それで、仮面の人はマリと知り合い?」
ニシシ、と笑って俺にそう言ってくるヒナさん。
美紀は黙ったままだ。
名前は見ればわかるが自己紹介はしておくべきだよな、そう思った俺も自己紹介をすることにした。
「こんにちは、俺はライト。マリナとは……リアルで兄妹かな」
まずプレイヤー名を聞いてマリナは固まった。
次に兄妹発言を聞いてマリナは処理落ちした。
ごめん…でもこれが一番楽に片付くんだ…。
「マリナのお兄ちゃん…。こんにちは、私にもお兄ちゃんがいるんですけど、ライトさんと声とか髪が似てて――」
そう言って俺に軽く笑ってみせる美紀。
「さっき見かけたときと装備も似てたからてっきり私のお兄ちゃんだと思いました」
やめてくれ。
気付くと現実世界だったら肉が千切れていそうな力でこぶしを握っていた。
だが全く変化はない。
割と丈夫に作られているようだ。
仮面の下から冷めた目で美紀を見る俺の前で処理落ちしたマリナが戻ってきた。
「じゃあマリナと一緒に行動するから。これからもあうことがあったらよろしくね」
そう言ってマリナの手を引き俺はその場を去った。
あぁ…、マリナごめん。
あとで説明と埋め合わせはするから…。




