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第六話

歩いての道


「中はー結構、あったかいねー」

ライズがはしゃいだように言った。そんなにせまい通路でもない。

「そうだな。これなら、寒い時期も越せるかもしれない。そういえばあの人は逃げてから何年経つんだろう?」

と、歩きながらセンリが言った。

「体系が変わらないうちだ」

「リード、なんでわかるのー?」

リザが聞いた。

「服がピッタリウムのままだった。あれは一年に一度成長に合わせて、または体系の変化に合わせて作るものだろう?軍の連中は基本的に体を鍛えている。それが衰えてしまったら、服はもっと合わないものになるはずだ。それに武器……武器なんて作れるならすぐに最新を使うはずだ。それを見ただけで反ロボット軍のものだとわかった。近くで部下が使うのを見ていたからだろう」

「よく見ているな……」

センリは感心したように言った。

「でもー、反ロボット軍だってわかるのはー、武器を入れる場所が同じところからもわかるのよねー」

と、リザが思い出すように言った。

「そうなの?」

「うん。私が倒した後に武器を取り上げたでしょう?まずは帽子の中に銃弾、銃が右、左にはレーザー、腕には切られないように、金属の巻物―、靴は踏まれても平気な固いやつで、ナイフつきー。足と靴の間にも一本ずつ、入ってた」

「覚えたのか?」

「うん、覚えた」

 こっくりとリザはうなずいた。覚えてもしょうがないことを覚えたようだ……。

「出口だー。んーこれはー、押すのかなー」

思いっきり押すとドアは開いたが、完全に外だった。森の一部というところだろうか。

「どこだろう、リード、わかるか?」

「あの工場から、西に約二キロというところだろう、ということは、ラズリ川のある森だな。……そうだ、リズラノの森だ」

「川ーってー、あそこに見える、あれのことー?」

確かに木々の間に川が流れているのが見える。太陽がさしていてキラキラ光っている。

「キレイー」

ライズが言う。

「スーハーの森の水みたいー」

リザも言う。

「スーハーって……あの、変な部下たちを置いてきたーあの森ー?」

「そうよ。あそこではねー魚もとれるのよー。奥の方に湖があるの。たまに行くのよ」

「ミレ、リザは一人で行けるのか?迷ったりしないのか?」

 ミレは苦笑して言った。

「迷うもなにも、リザは覚えられたら、ずっと覚えているのよ。一度入った道も覚えられたら、そのま逆を辿って帰ってこられるのよ。たまにへんな植物を土産に持って帰ってくるしらい、詳しいのよ」

「へぇ……そう」

「私が一人で行く方が危ないわね」

「とれたーお魚ー」

ライズはいつのまにか魚の追い込みをやっていたらしい。

「ライズ兄さん、青い魚の方は平気だけど赤い方はだめよ。内臓に毒があるからぬいてからじゃないと食べられないわ」

「そーなのー?」

「そうよ。やるからかして」

「え、魚を下ろすなんて、できるの?」

「機械たちが壊れる前からやっているから平気よ。それよりリザとセンリは下に落ちている木を集めて。焼くから」

と、ミレは手をてきぱきと動かしながら言った。

「折るのはだめなのか?」

と、センリは近くの木に手を伸ばした。

「だめよ。煙がすごいことになるから」

「はーい。行こうか、センリ」

ライズは魚を取り続け、ミレは内蔵を抜き、リザとセンリは下に落ちている木を集めていた。夢中で拾っていたせいか、かなり奥のほうまで来ていた。

「こんなもんかな?」

「どーだろう。一度戻って、姉さんに聞いてみよう」

「そうだね」

さくさく、リザはためらうことなく歩いていった。センリは、リザが歩く後についていくと、本当に入った場所にでた。

「すげー。本当にま逆に出た」

 センリはそっと巻いていた布を取り戻した。目印は必要なかったようだ。

「ミレ姉さん、こんなもんでいい?」

「食事用はそれでいいと思うけど、たぶん今日はここで寝るわよ」

「こんな外で平気か?」

センリが辺りを見回して聞く。

「今ねー、リードが距離ー見に行くって高いところへ行ってるのー。川のうえに行くとカルナレ地方で下の方に行くとシェオ地方なのー。どっちが近いか見てくるってー」

「怪我しているのに平気なのか?」

「そう言ったけど、頑固でね……」

ため息混じりにミレは言った。リザはセンリの袖を引っ張った。

「なに?」

小声でリザが言った。

「ミレも頑固よ」

思わず、センリは吹き出した。

「聞こえているわよ!」

「ミレー、この魚はー食べられるー?」

遠くから、ライズが声を上げた。

シェオ地方は海に面している地方で海産物が有名だった。逆にカルナレ地方は森の中にある地方で、木の実や茸や風味用の葉っぱなどを売ることで生計を立てている人が多い地方だ。

奥の方にみえた、リードの方を見つめて、センリが言った。

「あいつは距離も頭に入っているのか、ホントに賢いな」

「でも、センリもあの学校にいるってことは優秀なんでしょ」

と、ミレが言う。

「僕は機械には強いけど、文学は弱めなんだ。あそこの学校は何か一つでも優れていればいいんだけど、リードとライズはほとんどが完璧に出来るんだ。特にリードはすごいよ」

「へぇ……二人とも凄いのね。私なんか、全部、平均的なのに」

「んーでも、ミレはホンモノーよく知っているー」

「そうだな。こんなところで、魚の中毒死はいやだ」

と、センリも真顔で言った。

「おーい」

「あ、リードー、こっちだよー」

「ふぅ……やっぱり歩くと疲れるな。ここから下に三キロでシェオ地方だが、隠れるならここから北に五キロのカルナレ地方の方がいいと思う」

「なんでー?」

リザが聞く。

「学校で、カルナレの法律をやったと言っただろう。かなり山の奥の方なんで、自分たちの存在を覚えてもらうために客を大事にしてくれる。と、同時にあそこでは、草や木から肌を守るために布を全身にまとう習性があるんだ。顔を隠すにはちょうどいいかもな。ルイを覚えているか?彼女は頭からかぶりものをしていただろう?あんな布を全身にまとう文化の地方なんだ」

「ならったのは、法律だけじゃないのか?」

「オレ、センリがー法律だけでー学ぶのを辞めた地方ってしらなーい」

と、ライズが笑いながら言った。

「気になるんだ、文化背景が。ついでにかじったんだ。趣味だ。ほっとけ。魚は焼けたのか?」

「ええ、これは食べられるわよ。熱いから気をつけてね」

魚を食べながら、リザは聞いた。

「なんで、リードはそんなに覚えられるの?私なんかすぐに忘れちゃうのに」

「さて……そう言われてもな。頭に詰め込むのが好きなだけだ」

「いいなぁ……」

「そうか?ただ入れるだけじゃ、パソコンと変わらない。機械を使えばできることをわざわざやる必要はないんだ。機械たちが復活したら、私の活用など限られてくるだろう。それなら、センリのように、ガラクタからでも、何かを組み立てられるほうが重要だと思うね」

センリは誉められ慣れていないのか、照れていた。

「照れてるー」

ライズがからかった。

「いや、だって、リードがそんなこと言ったの、初めて聞いたからさー」

「初めて言ったんだから。当たり前だ」

リードはいつもと変わらない調子で言った。

リザが言う。

「ねーじゃあさー、これ、わかる?J×(KF+CUP+RZX)÷FZって」

「なにそれ?どこで覚えたの?」

「なんだ、それ……リード、わかるか?」

センリが聞いた。

リードは難しい顔をしていた……。

「どこかで聞いたような方程式だな……。リザ、それ、どこで、誰が言っていたものだ?」

「どこ……かな?あ、父さんが家で言っていた」

「あー!オレ、思い出したよー。それ、エーアイキラーの途中の方程式だ。俺の専攻、植物とか、生物とか、そのなかにロボットも入っているねー。たしかー、エーアイキラーの途中だよー」

 興奮したようにライズが言い出した。それでも、ゆっくり喋るのは変わらないらしい。

「なんで、エーアイキラーの途中を知っているんだ?」

リードが聞く。

「生物のーマーシャル先生、いま、機能停止中だけどー、でもぎりぎりまでエーアイキラーと戦っていた。オレ、聞きたいことあったのにー止まっちゃったんだ」

「何が聞きたかったの?」

と、ミレが促した。

「その続きー」

「じゃ、なにか、マーシャル先生はエーアイキラーの成分を研究していたのか?」

「んー、本当は直す方法を探していたんだと思うー。そうとは言ってなかったけどー」

「でも、なんで、それをリザが知っているの?」

「んーなんか頭に残っていた式だったの。なにかわかんなくって」

「じゃ、学校に戻ってみたら、なにか資料があるかもよ」

と、センリが言った。

「そうか、もしかしたら、うちで父さんが言っていたなら、うちにも何かあるかも」

と、ミレも言った。

「とりあえず、カルナレ地方で服を得てから一泊して今度はシェオ地方のほうに行こうか。それから学校にいったほうが早いよ」

センリが提案をした。

「じゃー暗くならないうちにー歩くよー」

ライズが言った。

魚を食べ終えてから、ライスの一言でとりあえず、歩き出した。しかし、リードはやっぱりトロトロと一定ペースで歩くのを嫌がり、走り出した。


「まってー」

急にライズが言った。

「何、兄さん」

「何か、聞こえる。ちょっとー見てくるー」

「ライズの耳は鳥の声も聞き分けられんだ。普段から授業抜け出して、外の近くの山に出かけてるしな」

センリが言った。そういうと、その場に座り込んだ。

ライズはそっと山の中から下を見下ろすと少しだけ反ロボット軍の制服が見えた。誰かが説明をしている声が聞こえた。

「これらのものはお尋ね者である。この顔の男子二名と女子一名、それと、この顔だ。みたら、我が反ロボット軍に知らせるように」

「はい。わかりました」

 そう返事した声は……。

「あの声ー……ルイみたいだなー」

「そんなことないわよ、だって彼女は午前中、学校にいたじゃない。私たちはあれからすぐにここに来ているのよ?」

と、そっと後ろからやってきたミレがいう。

 そのうち、反ロボットの軍人達は去っていった。

「今の……この顔ってことは私たち三人よね?」

「男一人なのが、僕……じゃ、リザは?」

「学校には戻れないな」

と、リードが言った。いつの間にか追いついたようだ。

「どーしてー?」

 リザが聞いた。

「私たちはもう三つ子だとばれている。多分、リオマーレガ学校に向かったんだろう。コフィ氏もいることだしな。そして、センリが一緒にいるということを知っているということは……」

「学校にも、手が回っているというわけね」

 ミレが引き継いだ。

「そうだ」

「私はー?」

「たぶん、写真がなかったんだろう。ミレの顔は私たちのを女性風にすればいいだけだからな」

「あー進級時に毎回とるなぁー」

と、ライズが思い出したように言った。

「私、写真嫌いなの。だって覚えてないことばかりなんだもん」

リザがいった。

「よし、顔を覚えられてないリザが服を買いに行くとしよう」

と、センリが言った。

「お金は?」

リザが聞いた。みんなが黙った。

「あるわよ」

と、ミレ。

「なんで……お金を持ってきたのか?」

と、リードが驚いた。

「うちのじゃないわ。反ロボット軍が車の中に入れていたものよ。それも座席の下にね。座った時に変な感じだったから……壊す前にもって来たの。はい、これ、なくさないようにね」

「……いつの間に……」

と、センリも驚いていた。ついでに複雑な顔をして言った。

「普通、座席の下にお金なんて置いておくか?」

「いってくるー」

と、初めての一人でのお使いのように、嬉しそうに出かけていた。

「気をつけてねー」

「大丈夫――」

リザが町のほうへ消えていった。

「ああは言ったけど大丈夫かなぁ……」

「たぶんね。待つしかないから、待ちましょ。もっと奥で」

「戻ってこれるー?」

「……あと二時間以内ならね」

と、ミレは自分のではなく、リードの腕時計を持ち上げ見て言った。

「二時間ってもしかして夜の寝る時間か?」

と、リードが言った。

「その通り。道端だろうが、どこだろうが、あの子は寝るわよ」

 さすがに長く一緒に住んでいる人の台詞は違う。

「つれさらわれたりはしない?」

と、センリが心配そうに聞いた。

「全然」

と、ミレはあっさりと完全否定をした。

「あー寝相、悪いもんねー」

「あたり。一度家まで運んできてくれた人がいたんだけど、後に判明したことだけど肋骨が三本も折れていたわ」

「わが妹ながら怖いな」

 センリはぞっとしたようだった。


待機


そして、ひたすら、待った。一時間たち……。

「迎えに行ったほうが……」

「見つかるぞ」

と、押し問答をしながらその間にもうすぐ二時間という時間が近づいてきた頃、リザは笑顔で戻ってきた。えらく大きな荷物を抱えていた。

「ただいまー。ハイこれ、服とパン」

「パン?」

「うん。おなかがすくと思って」

「とりあえず、服を着よう」

頭に布を巻き、腕に巻き、マントのような、だぼっとした服を上から着た。それでも両手がすぐに出るところが不思議なところだ。ミレはこれなら、足に武器をはさんでいてもすぐに取れるだろうなと思っていたりした。

先に着替えていたリザはその間、先にパンを黙々と食べていた。

「おつりは?」

「はい」

ミレはかなり軽くなった小銭をしまった。

「さて、どうする?」

「んーあ……リザが寝る……」

ミレがため息をついた。パンを食べ終わったリザはすでに、うとうとし始めていた。

「うちにきたら?」

突然声をかけられて、全員の手が反射的に武器に伸びていたが、その人物は口を覆っていた布をはずし、頭にかぶっていたものを取ると、そこにいたのはルイだった。

「やっほー」

 のんきに手を振っている。

「ルイ、なんでここに?」

「あーやっぱりー、さっきの、ルイだったんだー。あたったー」

「さっき、渡された軍からの指名手配の紙には驚いたわよ。何、やっているんだか。こっちも、色々、あってねー、説明は一言ではできないわね。私のうち、いま、誰もいないからその寝ているお嬢さん連れておいでよ。ここにいてもねぇ……」

ミレが振り返るとリザはすっかり寝ていた。

「いいのか?」

「よくなかったら、声なんかかけない」

「追われているんだけどー」

 ライズは一応、ルイの心配をしているようだ。

「手配書がでるくらいだから、それくらいはわかる。いいから、さっさと連れておいでよ」

「僕、おぶうよ……」

と、センリが近づいたとたんに足が伸びて蹴られそうになった。しかし、それはすんでのところでかすっただけに終わった。

「いったー。かすっただけなのに……」

「私が運ぶわ。慣れているし。よいしょっと」

「大丈夫か?」

「あんまり……長時間は無理ね」

 自分と同じような体格を背負うのは確かにラクではないだろう。

「じゃ、早くしましょ。こっちよ」

がさがさと草の中を歩き、しばらくすると一本の道と小屋の前に出た。カルナレ地方は太陽がよくあたり、よく雨が降ることで草や木がかなりのスピードで育つ地方だった。そのため、家は草よりも高いところににあった。雨水を避けるためとも言われているが、実際のところはわからないでいた。


ルイの家


「ここに入って」

全員がぎりぎりは入れるその小屋は玄関ではなく、エレベーターだった。

家が、政府の許可を得て、この地方では木でできているが、地面からではなく、高床式になっていたのは、昔からで、なぜなのか、今ではわからない。しかし、一番の有力説では、家の下に食料を保存用に乾燥させて置いておく風習があったからだと言われている。

「二階から玄関なの。地面に近いと水にやられることがあるもんだから。あ、この部屋にリザ、寝かしておけば?」

と、近くの部屋のドアを開けた。

「どうも、ありがとう」

 ミレはとりあえず、そこにリザを寝かせた。

「リザのことー、覚えていたのー?」

ライズが聞く。

「かわいい女の子の顔は忘れないの。あ、アズには言わないでね。昨日、なだめるのに苦戦したんだから」  

渋そうな顔をするあたり、本当に大変だったのだろう。

「いつからリザの後を?」

「パン屋で見つけたの。それでなくともでっかい袋を担いでいたからね。目立っていたわ。でも、すぐにみんなの所にいけなかったってことは誰かを撒きながら歩いていたってことよね。反ロボット軍と関係あり?」

「関係など、持ちたくもないな」

「僕らの四人分の服が入っていたんだからでかくもなるよな」

センリが言う。

「そうよ、それでなくとも、この地方は着る服が多いんだから」

 女の子にあれだけの荷物を持たせたことを怒っているようだ。

「何でここにルイがいるんだ?」

「あら、リードでも知らなかったの?私はここが出身よ。普段は学校の寮にいるけど」

「カルナレ出身なのは知っている。なぜ、寮にいないんだ?ここまで、えらく早くついたな」

「普通の人は知らない、裏道があるのよ。といっても、獣道だけど。ここの住人は詳しいけどね」

 ルイは肩をすくめて話し出した。

「学校が校内戦争寸前の空気になっているから。アズと二人で出てきたの。アズもシェオ地方にある、実家のほうに帰っているわ。明日には私もアズのところへ行くけど」

「校内戦争寸前の空気って?」

センリが聞く。全員が金属の柔らかな椅子に座ってお茶を出しながらルイは話し出した。

「あ、違う味だ」

 ライズには、ミレのところとお茶の差がわかったようだ。

「葉っぱが違うと味も変わるのよ」

 ミレは説明した。

「それで?」

 話を進めたのはやっぱり、リードだった。

「昨日の教室爆破を覚えている?」

「もちろんよ」

「あれが引き金でね。知っているでしょうけど、学校内は校長派と副校長派とにわかれていたの。それぞれの思考の違いは知っているでしょ?それが、エーアイキラーで、副校長が有利になっているところに、ディー五タイプのロボットの出現で力は半々になった。しばらくは冷戦状態になってなのに、どっちの派でもなかった、ディブル氏が爆破を起こしたでしょう?」

「あれは研究の成果を試しただけだろう?誰もいないし、特に使ってもいなかった部屋だ」

と、リードが説明した。

「そうよ、ただの使っていない移動教室の一つ。でも、副校長室の真上だったの。当然、下までゆれて、大騒ぎ。そして、校長たちの兄弟喧嘩、先生方や、少数の生徒も入れて大騒ぎだったわ」

「生徒もー?」

「そう、アルクは当然、校長派だし、門の二人は副校長派だし。すてきな学校方針のおかげで、男女関係なく、全員武道をやるでしょう?あぶなくってね。ほとんどの生徒はそれぞれの自分たちの地方に散ったわ」

「そのディブル氏はどうなったのさ?」

「先生方もどっちの派にも入ってなかった人たちは帰ったけど……ディブル氏はいつのまにか校長派に入れられちゃってね」

「困ったな……私が威力が見たいといったからか……。ディブル氏は学校か……」

 リードが顔をしかめた。なにを思っているのがわかったのか、ミレが聞いた。

「リード兄さん、行くの?」

「行くだけ無駄よ。やらせておけばいいのよ、勉強は学校じゃなくても出来るわ」

肩をすくめて、ルイが言った。

「そうかもしれないが、……あの学校には国がバックアップしているはずだ。つまり、戦いが長引くと必ず社会に影響が出る。多分、その前に国が動くはずだ」

「国……空からくるの?今、たしか、氷山の上で止まっているんじゃなかった?降りてこられるの?」

 ミレが言う。

「緊急事態を想定してそのくらいの装置があるはずだ。しかし、来るにしても、まだ時間があるはずだ。彼らはいつだって動くのに会議やら、なんやらで時間がかかる」

 リードが言った。

「国……出てくるのはー首相かなー?大統領ーかな?」

ライズが言った。

センリが言う。

「エント首相だろう」

「そうよねぇ……表向きは学校の支持賛成なんだから」

ミレも言う。

「表向きは?何の話?」

ルイが言った。

「いやー、それよりー、ここからー、学校までーどのくらいかかる?」

と、ライズが聞いた。もうライズの頭の中では兄がそう簡単に計画を変更することはないことがわかっているかのようだった。

「えっとー、バスで一時間だけど、エーアイキラーのせいで止まっているから歩けば、三時間以上?」

「なに……本当か……三時間……」

時間を聞いただけで、リードの頭の中ではどのくらいの距離を歩かなくてはならないかの想定ができたらしい。頭をくらくらさせていた。

「歩けばね」

と、ルイは強調した。

「歩かずにどう行くのさ?」

センリが言う。

「チャルなら半分の時間で行くわよ。こっちは山の上だから、くだりは早いし。六人乗りがあるから、明日ついでに乗っていくといいわ。アズのところへ行く途中みたいなものだし」

「ルイ、親はー?」

「普段の学校の休みのときはいるんだけど、今日みたいに寮生活中に帰ってくるといないわ。夫婦で一緒に同じ仕事しているから、出かけるときは同時にいないのよ」

「へー」

「とりあえず、今日はここに泊まってって。ミレはリザと同じ部屋でいい?」

「ええ。そうしてくれると助かるわ」

「じゃ、先に光、浴びてらっしゃいよ。三人は後でね。パン買っているみたいだから、夕食はいいわね?」

「ああ。いらないよ」

「リード、薬はそこに入っているから勝手に使って」

と、部屋のすみにある箱をさした。

「わかるか?」

「アズがよく、そうやって心配させないように隠すから見抜くワザが身に付いたのよ」

「じゃ、借りるよー。リードー、腕、だしてー」

ライズが箱を開けて、治療を始めた。

「ミレ、こっちよ」

ルイの案内で、ミレは服を全てぬいで、光を浴びた。

他の三人も浴びて、ルイも最後に浴びて、それぞれに寝ることになった。


学校へ再び


そして、翌日、まず、ミレが目を覚ました。

ルイが起こしにきた時にはもう、腕に布を巻きつけている最中だった。この地方、全身でなぜ布で覆うのか大分疑問だ。もう代わりになるような服はあるというのに。これも習慣というものだろうか。

「早いのねーミレ」

 感心したようにルイが言った。ルイが起きるベルの音がミレには聞こえていた。

「ええ。リザが起きる前に起きる習慣がついているから、どうしてもね」

「どうして?」

「リザはレファンド病なの」

「……そうなんだ。昨日、見ただけじゃ、わからなかったわ。ミレのことは覚えているの?」

「ええ」

「リザはセンリの妹らしいの。でもセンリのことを覚えてないみたいで」

「……そう。センリも悲しいわね」

「そうね……」

「でも、あなたはいいわね、覚えられていて。覚えていることの方が少ないでしょ。私のおばあちゃんがレファンド病だったわ。もういないけどね。全部の地方の中でも少ない病気よね。当時、調べたわ。ここでは、私のおばあちゃんだけだった。何度会いに行っても覚えてくれなくって。朝には必ず誰?って言われる。最初はボケかと思ったんだけど……。ロボットの先生が診断したらレファンド病って診断された」

「ここは、ロボットの先生なのね。ファルト地方では看護士がそうよ。今はエーアイキラーで止まっているけど」

「ここも止まっている。でも基本的に医者嫌いなのよね、この地方」

「そうなの?」

「ええ。自然に死ぬのが一番。医療で命を永らえさせるのはおかしいって」

「めずらしいわね」

「考え方が古いだけ。だから若い人はこの地方に戻ってこない」

 ルイははっきりと言いきった。

「でも、ルイはここに住んでいるじゃない」

「ここで、医者をやろうと思って。学校も医療分野に進んでいるしね。儲からないでしょうけど、絶対にこれからは必要になると思うし。ただ、機械が止まっているから最近は薬草の研究ばかりだけど」

「へぇ……」

「んー……」

と、リザがうなった。両足を壁に上げて寝ていた(!)。

「それにしても、すごい格好でリザは眠るのねぇ……」

と、はじめて見たルイは目を丸くしていた。

「普段はファルトに住んでいるもんだから、床に寝る形式なの。せいぜい、部屋の中を移動する程度なんだけど」

「ああ、ここは床に眠ると冷たいからねぇ……。木で出来ているせいか、風も通るし」

「あと、……十分は起きないわね。兄さんたちは?」

「ああ、これから、起こしに行こうと思って」

「じゃ、一緒に行くわ」

ミレは立ち上がった。

二人は三人の寝ている部屋をノックすると返事がした。

「どうぞ」

朝の太陽の光を浴びながらリードは同じように腕に布を巻いているところだった。ライズはもう完全に準備ができていて、センリは髪を直しているところだった。

「リザは?」

センリが聞く。

「あと……八分ちょい」

「ピッタリに起きるよねー」

「そうね」

「じゃ、私、朝食作ってくる」

と、ルイは台所に向かった。

「あーオレ、食材見たいー」

と、ライズもついていった。

「よし、できた」

と、リードが満足げに言った。

「時間かかったなー」

「慣れていないんだ」

二人のその言い合いにふっとミレは笑った。

「なに、笑っているの?」

「いえ、二人の学校での様子がうかがえるなぁと思って」

「あー確かに。いつもこんな感じだよな」

「そうか?」

と、いつものようにリードが言った。

「あ、いい匂い。何作っているんだろう……」

センリが出て行った。

「怪我は平気?」

「ああ、たいしたことはない」

「よかったわ」

 ほっとしたようにミレが言った。

「ミレ」

「何?」

「お父さんからのペンダント、よく見せてくれないか?」

「いいわよ」

ミレは首から下げていたペンダントを渡した。リードはしばらく見つめていたが、ため息一つついて、言った。

「……別に、ロケットになっていたり、何か描かれていたり、電子回路が組み込まれているようなものではないんだなぁ……」

「そうなのよ。私も最初は何か入っているのかと思ったんだけど、ただのうすっぺらい、青いガラスみたいなのよね。まぶしい。兄さん、太陽で反射させないで」

「あ、すまん……ミレ、これ、ちょっと借りてもいいか?」

「いいわよ」

「ミレー、姉さんー、どこー?」

と、リザの声が聞こえてきた。

「あ、リザだ」

慌てて、ミレはリザのところへ走っていった。

リードはペンダントを壁に反射させて何か考えていた……。

ミレに引っ張られて、やってきたリザは昨日の朝と同じ質問をした。自己紹介に今度はルイも加わった。

「ライズとリードの学校のクラスメイト、ルイよ、よろしく」

「学校?」

「今日、これから行くから、その時見ればわかるよ」

と、センリが言った。そうでもしないと質問に答えている間に料理が冷めてしまうような気がした。

「あ、ミレ、これ、返しておくよ」

と、リードがペンダントを返した。

「何かわかった?」

「いや」

 そんな会話をしながら、食事をしているとリザが言った。

「これ、パキラだー」 

「覚えたの?」

「うん。知っている……けど、なんで知っているんだろう?」

 リザは本当に不思議そうな顔をした。

「何時くらいにでる?」

 ルイが質問をした。

「食べたらーすぐー」

 ライズの台詞に誰も反対しなかったので、それに決定した。外に出ると、ルイがチャルを倉庫の中から出してきた。六人乗りのチャルを見るのはミレも初めてだった。

「二人や三人、四人乗りまでは見たことがあるんだけどね」

「ここは森の中だから、木を切ったりとか、実を集めるときとか、大人数で移動することが多いの。だから大きいのがあるの。八人乗りもあるんだ。とりあえず、うちのは六人用だけど」

「十分だね」

センリが言った。

「でも、これ、どうやってのるのー?」

 ライズも六人用チャルは始めて見るようだ。

「私とリザは乗れるわ。だから、道を知っているルイが真ん中で私たちで両脇を固めるから、男性人は三人とも後ろに乗って。足はここ……くるくる回るから足を乗せたままにしておいてね。地面にあたると痛いわよ」

どうにかして、三人が乗っかり、全員が乗った。六人用のチャルは前三列、後ろ三列になっているわけではない。上から見ると、三角形のような形に見えるようになっていた。一番前にルイが乗り、二列目にミレとリザが乗り、最後の三列に三人が乗った。

「いくよー」

 元気よく、ルイがペダルをこぎだした。

「うわっ」

 センリが声を上げた。

「こわいー、こわーいー」

 こんなに早くスピードを出したことがなかったのか、チャルに乗ったことのあるライズでもしっかりと捕まっていた。

「……」

 リードは恐怖のあまりに声も上げられなかったようだ。

下り坂で六人も乗っていればスピードがあるというもの。それでも、ブレーキをかけながら降りていった。ルイは三時間の半分くらいでつくといったが、実際はもっと早く着いた。

全員でカルナレ地方の格好をしていたせいだろう。かなり怪しげに見えたが、そのせいで逆にシェーマン地方に入っても、そこらにいた軍の兵士達に声をかけられることはなかった。

あまりの恐怖心に後ろから声は聞こえなくなった。ただ、女三人だけが方向移動するときに声をかけ合っているというのが続いた。とにかく、時間がかかった。

「ついたよーん」

 ルイがチャルを止めた。もう体がすっかりこわばっていたのか、後ろの三人は降りるので精一杯のようだった。

「腰がいたいー」

 まず、ライズが言い出した。

「結構、早いもんだな」

 リードはまだ、肩を上げたままで自分の時計を見て言った。体が恐怖で固まってしまったらしい。

「車と違って、速度が見えるし、空気にあたるし……晴れていてよかった」

「あら、私たちはバランスも体力も使ったのよ。少し、こぐところもあったしね」

とミレは息をついて、言った。

「じゃ、私はこれで。気をつけて行ってね。またね」

「ありがとう、ルイ」

ルイは手を振ってだいぶ軽くなったチャルで去っていった。


学校へもう一度


とりあえず、学校の前までは来た。しかし……。

「ところで、リード、どこから入るんだ?」

「どこからってー?」

「いや、だって、あれ……」

センリが指すほうを見ると、学校の門の前では、ディー五タイプの戦闘用ロボットと手を伸ばせば届きそうな位置に相手側の人がにらみ合っていた。

「あれはー、人ーじゃないねー目の色が違うー瞬きもしないし。ディー四の改良型タイプだね」

と、ライズが見つめながら言った。遠くからでも見えるのは普段から鳥を見つめたりしているからだろうか。

「たぶん、そうだな……あれを全部突破するのは……」

 センリはためらった。さすがに人数が多いと判断したのだろう。

「爆破する手もあるが、ロボットを壊しても私の得にはならない。だから……」

と、リードが言い出した。

「だから?」

「抜け道に行くぞ」

 さっさと、リードは歩き出した。あまりに意外な答えが返ってきたからか、センリの目は点になってしばらくしてから言った。

「なんで、抜け道なんて、知っているんだよ。お前は毎日正門からきているし、授業抜けたことなんてないんだろうが」

「オレはーたまにあるよー。ホンモノの花とか見にー」

「それは知っているけど、ライズはともかくだよ?なんで、リードが?」

「この校内を設計したのがディブル氏のひいおじいさんなんだ。それで知っている」

 リードの説明を聞いて、センリは恐る恐る聞いた。

「リード……」

「なんだ?」

「お前、本当にこの学校の全員の家族構成が頭に入っているんじゃないだろうな?」

「まさか、君に妹がいたなんて知らなかったよ。ディブル氏が話してくれたんだ。ついでに壊し方も」

「センリ、妹がいるの?」

リザが聞く。

「う、うん……いや、それより、なんだよ、壊しかたって?」

「ディブル氏とそのお父さんは壊し屋だ」

「壊しやー?」

 ライズも始めて聞く話らしい。

「そう、ビルなどがうまく真下に落とす仕事だ。そうすると、近所のビルに迷惑かけることなく、崩せるらしい。サザル地方ではとくに高いビルが多いから、よくこの方法が使用されるそうだ。まだまだ、完璧とは言えないみたいなんだが。ディブル氏のおじいさんと、ひいおじいさんは建築の仕事だったらしい」

門以外の道からそっと敷地内に入った。それでも、ディー五たちがウロウロしている。とにかく見つからないようにと、リードたちは先を急いだ。ロボットだけがいたわけではないために、見つかりにくかったようだ。

ミレは言う。

「わからない話ねぇ……なんで、逆の道へ?」

「別に逆じゃない。ディブル氏は建築もする。ただ壊す時のことも考えて作るんだ」

「安全なのー?」

と、ライズが不安そうに言った。

「安全じゃなかったら建築なんかできんだろうが」

リードはあっさりと言い切った。

さくさく歩くリードの後をぞろぞろついて歩いた。ある地点で、ぴたっと止まると

「誰か、歩いたのだろうか?」

と、急に言った。

「なんで?」

「草が。倒れている」

後ろから覗き込んだ、ミレも言った。

「本当ね。こんな道、他にも誰か校内にいるのかしら?」

「それにしても、こういうときにカルナレ地方の服って便利だなぁ……」

 たしかに、草はリードたちの肩近くまで迫っている。さすがに建物の周辺までは先生方も草の刈り取りまで手が回らないようだ。全身まとうような服じゃないと長くなった草で切ってしまいそうだ。

「まぁ、気をつけていこう」

「はーい」

返事だけはいい、リザだった。

「ここだと思う」

とリードが言った。

そこはただの壁があった。

「壁じゃないか」

「いや、この辺に……」

 リードはぺたぺたと周辺の壁を触った。

「こっちだよー」

もう少し先まで歩いていったライズが壁の一部を押すと壁が中に入り、内側ですべり自動ドアのように開いた。

「やっぱり、抜け出しているやつは違うな」

「ううん。覚えられないからデークの木で覚えたの」

と、すぐ後ろにある木を指差して言った。

「へぇ……あれ、デークって言うんだぁ……」

と、木を見つめながらリザが言った。

中は暗く、ドアが閉まると逆に外からの光が少し入るのか、明るくなった。ガラスケースや怪しげな形の瓶や壷がある。人体模型も骨だけのものや、筋力だけのものや、脳の開いたものなどがあった。楽器もあれば、壁にはお面もあり、民族以上のような服もあった。はっきり言って、なんの統一感のない部屋だった。

「ここはなに?なんの部屋なの?」

リザが言ったのも当然だろう。

「ただの倉庫だ。学校内にはこんなところが、いくつかあるんだ」

と、センリが説明した。


ワクチン作成


そっと倉庫のドアを開けると廊下には誰もいなかった。

そっと忍び足で廊下を歩いていると、急に目の前のドアが開いた。

全員、体がびくっとした。

中からディブル氏が手招きをしていた。全員そこに入ると、一番にディブル氏がパニックを起こしていることがわかった。ドアが閉まると同時に一気に話し出した。

「リード君、どうしよう、僕はねー、どっちの派閥でもないんだよー。研究が好きで、爆破が好きで、どっちでもいいんだ。あの部屋の下が副校長室だったなんて知らなかったんだよ……。どうしよう、どうしよう、どうしよう!」

「デェブル氏、落ち着いてください」

「落ち着いてられないよー。僕はねー美しい爆弾を、静かに作りたいだけなんだー。こんな派閥争いなんか、どうでもいいんだよー。どうしよう……」

 おろおろと動き回って、どうも落ち着きがない。

「爆弾って美しいの?」

リザが言った。

「しっ」

ミレが言う。

「とりあえず、状況説明を。あのあと、どうなったんですか?」

と、リードはいつもの口調で聞いた。それで、少し、ディブル氏は落ち着いたらしい。

「えっと……爆破の後、その結果の調書をとって、かたづけをしていたら、副校長がやってきて、なんか、一人で勝手に叫んでいて、挑戦は受けてたつとか言っていて、校長のところへ行ったみたい。で、いつまにか、アルクだっけ?に、ここに隠れていろって言われて、連れて来られた」

と、ディブル氏は早口でまくし立てた。

「何で、僕たちが廊下にいたってわかったんですか?」

 センリが聞いた。

「あ、それはねー、そのカーテンの向こう、マジックミラーだから」

 センリがカーテンを開くと確かに向こう側が見えた。

「何でこんなところに鏡が?」

「じいさんの趣味なんだよー」

 平然と言ったディブルが言う。全員が黙った。

「このぶくぶくしているの、何?」

と、リザが丸いフラスコの中で沸騰しているものを見ていった。赤やら、黄色やらキラキラしたものまである。それを見て、リードも言う。

「ディブル氏、もしかして、研究に使っていた道具や材料を全部、ここにもってきているんですか?」

「うん。アルクくんが、敵に渡すと壊されるかもしれないからって言うから。どうしようと思って。全部大事な研究だし、どっちにも渡せなくって」

 今まで、ディブル氏だけに気をとられていたが、よくよく辺りを見回してみると、あっちこっちに、資料の山があったり、本があったり、フラスコやらビーカーから、ランプの様なものもある。もちろん、いまでは使う人は少ない。火をつけて温めることなどしなくても、他の装置があるのだが。

「こっちの方が僕は好きなんだ」

というだけの理由で、ディブル氏の実験は火で行なわれていた。

「この色の付いた……色んな形のものは?」

と、センリが聞いた。丸から、三角、四角、星型まであった。

「全部、爆薬だ」

と、リードが答えた。

「こんなに?」

と、初めて見たのか、センリは驚いたようだった。ライズも目を丸くしている。

「へぇーーー」

「敵にとられても、死には至らないが、僕の芸術を争いごとには使って欲しくないんだ。芸術は人を笑顔にするためにあるんだ!」

と、ディブル氏は力説していた。

「芸術って何?」

「えっと……」

「センリ、その説明は無理よ」

 ミレは無表情で言った。ミレにもディブル氏の考えは理解できないようだ。

「やっぱり?」

「これだけ……あれば……できるかな?」

あれこれを見つめながら、リードが言った。何か頭に浮かんでいるようだ。

「何をー?」

「ディブル氏、作ってほしいものがあるんです。今、式を書きますからお願いします」

 リードが言った。

「なに、新しい爆弾?」

 爆弾と言うだけで、ディブル氏はうきうきしているようだった。

「ちがいますが、この戦いの終結には絶対に必要なものです」

「リード兄さん、何を作るの?」

「それはともかく、私はディブル氏を手伝うから、リザとライズにはさっきのデークの実を三十個以上とってきてほしい。ミレとセンリはこれだ」

「なにこれ?」

ミレは手渡された小さな丸いものを見つめていた。

「爆弾だ」

「えーっ」

「わーっ、落とすなよー」

おろおろしている二人にリードは言った。

「大丈夫だ。それはただの閃光爆弾だ。光と音はすごいが、けがはしない。それを……このモデルガンに突っ込んで、打って、騒ぎを遠くで起こしてほしい」

「私はこれでいいわ」

と、ミレはそこにあった模型の骸骨の手を折り、輪ゴムをひっかけた。

「なにそれ?」

「こっちのほうがたぶん私には向いているはずなの。大丈夫よ、騒ぎを起こして、人やロボットをそっちに向かわせるのね」

「そうだ、頼んだぞ」

「わかったわ、行こう、センリ」

ミレとセンリは校内へ行き、ライズとリザは木の実を取りに行き、リードは式を書き始めた。

「これなんですが……」




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