第五話
ガヒルダ鉄鋼場へ
この走っている間に、センリはミレにリザの普段の日常生活について色々と聞いていた。しばらく走るとリードは言った。
「その道を右だ」
「んー、わかったー」
しばらく走ると工場が見えたがあまりに静かだった。入口には休業中の札が掲げられていた。
「ここも、エーアイキラーの影響、受けてるのかね……まぁ、いいや。ちょっとまって」
センリは車から降りると近くの木に登り、門の向こう側へと消えた。そして、鍵を壊して内側から門を開けた。
「やっぱり、センサーごと壊れているみたい。車ごと、もっと奥に入ろう」
センリは再び車に乗った。
もっと奥まで行くと、鉄くずがかなり散乱した状態にあった。車から降りると、センリはあれこれと物色し始めた。鉄が必要とされなくなった時にリサイクルをするように国から言われていた。しかし、実際には元工場跡地のこの場所に投機していく人が後を絶たなかった。
「なんで、こんなところがほったらかしにしてあるのかしら?」
辺りを見回す限り、本当に積んであるだけというような状態だ。
「鉄なんて、武器にはもう古いからな」
「今はー、人工金属でつくるー」
「それにしても、ものすごい量ね」
見上げるだけの量と言えば、かなりあると言えるだろう。
「えっと……、パソコンのーこのコードとー、……テレビのこれとー……」
センリはブツブツいいながら、ガラクタの向こうへと消えていった。
その様子を三人は車から出て見つめていた。
「センリって機械に強いの?」
「そーだねー、パソコンもーテレビもーステレオもー盗聴器もー最新は無理だけどー、十分機能するもの、作るよー」
「あら、凄い」
「動くな!誰だ、お前ら!」
突然、後ろから声がした。その手には武器が握られていて、こっちに向けられていた。後ずさりすると同時に男は車の前まで迫ってきていた。
「ライト軍か、反ロボット軍か?」
「どっちでもないわ」
と、ミレが言う。
「その腰にあるのは反ロボット軍の武器じゃないか。俺を捕まえに来たんだろう!」
「あなたがー、誰なのか、しらないのにー?」
「うるさい。本当は知っているんだろう!……戻らないからな……」
その男は、あまりに前に立つ三人を見つめすぎたのだろう。後ろの車からリザが出てくることに気付かなかった。彼女の手が、誰だかわからない、その男の首元に振り下ろされるまで。
「う」
ばったりと倒れる音がした。
「わー、リザ、やっぱり強いー」
「時間的にぴったりのお目覚めね。おはよう」
「おはよう……これ、誰?とりあえず、殴ってみたんだけど」
「さぁね……とりあえず、武器は取り上げて、目が覚めるのを待つしかないわね」
ガラクタの山から再び現れたセンリが言った。
「なんの、音?あ、リザ、起きたの?おはよう」
と、色々、必要なものをセンリは見つけたようで、手にはたくさんのガラクタがあった。
「センリ、おはよう。それ、何?」
「いや、僕も聞きたい。倒れているのは誰?」
「まず、倒れているのは知らない人物で、リザが気絶させたので、目が覚めるのをまっているところだ。センり、探知機は出来たのか?」
一気にリードが説明した。
「材料はそろったよ。あとは、この武器の熱でくっつけるだけ」
「じゃー、それー作りながらー、この人―まとー」
「兄さん!怪我している!」
一番初めにミレが気がついた。
「えーいつー?」
「さっき、私がこの男を殴ったとき?」
リザはすでに泣き出しそうな顔をしている。
「かすっただけだ」
「何の音もしなかったのにー。平気ー?」
「静かに撃てるような機能がついているのは、この武器も同じだ」
「普通、いたいとか、声を上げるだろうが!」
「かすっただけだからな……」
「なにかないか、車の中、探してくる」
ミレは車へとかけていった。しかし、首を横にふった。
「だめ、薬は何もない」
「普通は持ってないだろう」
「でも……」
「大丈夫、本当にかすっただけだ。それより、センリ、さっさと作ってくれ。手を休めるな」
しばらく、センリはもくもくと作り続け、ミレはリードの腕を布で巻きながら、起きたリザにどうしてここにいるのかを説明し、リードとライズは倒れた人を挟んで、地面に座っていた。
「よし、できた。じゃ、スイッチ、オン!」
ピッピッピッピピピピピピピ――。
何かに反応したようだった。
「あー……」
「なんだ、センリ、わかったか?」
「うん……この車とーこの無線機だね」
「はずせないか?」
「無理だねぇ……時間がなさすぎる。たぶん、車ならすぐ追ってくるよ。無線機は壊すとしても……車はなぁ……頑丈だし……」
「う……うー」
倒れていた人がうなった。
「あ、起きたの?」
と、リザが言った。
男性は、はっとしたように腰に手を当てたが何もなかった。
「武器なら、全部取り上げたわよ。でも、これ、私たちの持っているのと同じね。つまり、あなたは反ロボット軍ね?」
「違う!いや、昔はそうだが、今は違う」
どうも正確にものをいう、この男性、細かい人だ。
「話を聞きたいのは山々なんだが、あまり時間がない。この車についている発信機のせいでな」
と、リードは後ろの車を指差した。
「あの車は……じゃ、反ロボット軍が来るのか?」
と、男は声が荒げた。
「そうなるだろうな」
「壊せ!」
そう男は言った。
「壊すにしても、頑丈で、簡単には……」
センリが渋った。
「……しかたないな。ライズ、こいつを連れて、みんなで山の向こうにいろ。そして顔を出すな」
「あの瓦礫の山ー?」
と、ライズは後ろを振り返った。本当にちょっとしたがれきの山になっている。
「リード兄さんは?」
「これと無線機を吹き飛ばす」
と、車をぽんぽんと叩いた。
「でも……」
ミレの心配そうな顔に、リードはいつもの調子で答えた。
「大丈夫だ。タイマー設定も出来る」
「わかった、行こう」
センリがミレを連れて、ライズとリザが男を連れて瓦礫の奥へと移動した。急にリードが現れて、こっち側へ来たと同時期に爆発音がした。
どっか――ん!
耳を思わず押さえたセンリが言った。
「うるさー……。もしかして、ディブル氏からの爆薬?」
「そうだ。もう音が出ないか、探知機で確かめてくれ」
「わかった」
センリはお手製センサーを持って確かめに行った。
「お前達も、反ロボット軍から逃げてきたのか?」
と、男は言った。
「お前達も?もっていうことは、あなたは反ロボット軍だったの?」
「お前達は違うのか?」
「違うわ。わけがあって、追われているけどね。この武器は彼らから取り上げたものなの」
そう、ミレは言った。
「そうか……そうだな。あんた達、強いよ。脅して悪かった」
ついでに素直なようだ。
「いいえ。で、あなたお名前は?」
「リザ、あんたが倒しておいて、いいえも何もないと思うんだけど……」
ミレは苦笑した。
「ああ。まだ首が痛いよ。俺はジャルム。反ロボット軍の第三部隊のリーダーだったんだ」
「第三部隊ってー、エリートじゃないー?」
「ライズ兄さん、何で知っているの?」
「だってー、ミレのところに来たー兵士たちー、服に一本線が入っていたけど、リオマーレ、三本入っていたー。この人の服と一緒ー」
「リオマーレを知っているのか?」
ジャルムは顔をこわばらせた。
「そいつに追われている。一応な。知り合いか?」
「あいつは……サブリーダーだったが、抜け目のないやつで……」
センリが戻ってきた。
「大丈夫だったよ。一応、みんなの武器も調べさせてよ」
ぐるぐるとみんなの周りをまわって、調べたが、別に変な音はしなかったので、一応安心した。
「どうして、軍から追われているの?」
と、リザが聞いた。
「やめたから……というより、逃げてきたんだ。あの軍はおかしい。反ロボット軍と名乗りながら、第一部隊、つまり最前線にいるやつらだが、人だけじゃなくて、むしろ人よりも多く、改良されたディー4タイプのロボットがいるんだ」
「やはりな」
「エーアイキラーにー、やられないのー?」
と、ライズが聞いた。
「どうやら、ライト軍に裏切り者というか、スパイがいるらしくて、情報がこっちまでやってきているんだ。それを元にして、ディー5と戦える、ディー4タイプを改良したんだ」
「つまり、お互いが、ロボットで戦っているというわけか。でも、それになんの意味が?」
センリが聞く。
「どこかが利益を得ているんだろう」
「どこがー?」
「武器屋、ロボット屋、どれもピンと来ないな。ジャルム、反ロボット軍は部隊は第三までか?」
「ああ。あとは、お偉方がいるが、全員極秘で協力している政治家だ」
「政治……ああ、だからエントがいるのね」
と、リザがいった。
「エントって……首相のエントか?彼女も反ロボット軍か……」
「知らないのー?」
「知らない。我々まで、そんなに情報が来ない。唯一知っているのはコフィ氏だけだ」
「コフィ氏って……まさか、コフィ・ティーフィールドか?」
センリが驚いたように言った。
「そうだが……知っているのか?」
と、ジャルムは逆に聞いた。男、三人顔を見合わせている。
「リードー……」
「兄さん達、知り合いなの?」
「うちの学校の副校長だ」
顔色一つ変えずに、リードは言った。
「お前達、あの学校の連中なのか!賢いな……」
ジャルムは改めて感心したようだった。しかし、ミレは驚いたように言った。
「副校長?……どうして?だって、兄さん達の学校って三分の二は機械でしょう。とまっちゃうじゃない!」
センリが答えた。
「校長と意見の合わない人でね。校長は、賢ければ賢いほどいいって言う人で、逆に副校長はもっと差別されないような社会がいいという人なんだ」
ミレが驚いたように言った。
「何で、そんな二人が同じ学校にいるのよ?」
「まず、二人は兄弟だ。次に二人とも政治家をかねている。そして、コフィ氏のほうは婿養子に入って苗字が違うが、校長はレスラ・スアズ。アルクの親父だ」
「……待って?あの学校で会ったアルク?だって、彼のお父さん、ライト・エーアイ軍のトップだって……つまり……兄弟喧嘩?」
これ以上できないというほどミレは顔をしかめた。
「でも、仲が悪いのにどうして同じ学校内にいるの?」
と、リザが率直に聞く。
「私は小学校からあの学校にいる。そして、暇つぶしに調べたのだが、代々、あの学校は天才を世の中に送り出している。そして、その三分の一が政治家になる。当然、どんどん、一般市民との差が広がる。他の三分の二もそれなりの企業に勤める。そして、トップにつくと、すると、下の人々はそれに従うという仕組みが出来上がる。それを壊すためにはあの学校自体を壊すしかないんだ。しかし、物理的に壊しても、すぐに作り直されるだけだ。だから、機械を止める、エーアイキラーを欲しがったんだろう」
「くわしー」
「推測に過ぎないがな。しかし……それにどうして、ミレのお父さんが関係しているのかわからない……」
「ねぇ、反ロボット軍を抜け出したからって、ライト軍にはいるとは限らないの?」
と、ジャルムにミレは聞いてみた。
「ああ。裏切り者など、よっぽどの情報でもあれば別だろうが、そうじゃなきゃ、入るのも無理だろう。それに、私の場合は基本的考えとしてはやっぱり反ロボットなんだ。だからどっちにも、つかないでいる」
「なんでー?」
「なんていうのかな……確かにロボットは優秀なんだけど、人にはなれないよな……でもその、人よりも何でもできるんだ。なら、人の存在価値はどこにあるんだろうと思ってしまう。人の尊厳を守るために、やはり私は反ロボット主義なんだ。死んだら、どうにもならない人と、壊れても直せるロボットが戦っても人が不利なだけだ。しかし、今のこの、ディー4の改良型とディー5タイプの戦いの意味が見出せないんだ。終わらない戦いの意味が。俺が目の前の敵を倒していればいいだけなら逃げたりしなかったんだろうがな」
しみじみジャルムが話しているうちに、何か音が聞こえてきた。
「なんだろー?」
「鉄くずをこっそりと置きに来た連中だ。いまだにここの鉄は増え続けているんだ。見つかるとマズイ。こっちに隠れろ」
ジャルムにつれられてもっと瓦礫の奥へ奥へと行くと建物があった。
「ここは?」
センリが聞く。
「ここは、元が工場だ。こっちだ……」
古めかしいドアを開けると長い通路があった。
「これで、行くと山の中に出る。そこから逃げろ」
「あなたは?」
ミレが聞く。
「オレはまだ、どこにも動けないでいるんだ。さぁ、行け」
「つかまらないでね、どっちにも」
ミレはそう言って、ジャルムに武器を返し、最後に通路を歩き出した。後ろでドアが閉まると同時に部屋のどこかが明るくなるらしく、ぼんやりと明るかった。
リオマーレの追跡
とにかく、リオマーレはシュエーマン地方の、前に無線機が表していたラファール校へと向かっていた。
「消えました」
と、モニターを見つめていた部下の一人が言った。
「消えた?」
と、リオマーレは怪訝そうに言った。
「ハイ」
「なぜ……まさか、あの車を壊したのか?」
「そのようです」
「無線機もか?」
「反応ありません」
と、もう一人の部下も答えた。
「とにかく、ガヒルダ工場まで向かったのはわかっている。あそこから歩くとなると……よし、カルナレ地方とシェオ地方に人を集めて探せ」
「手配します」
「見えました、ラファール校です」
と、運転手していた部下は言った。
「よし、コフィ氏に会うぞ」