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第四話

リオマーレ


 彼はスクリーンを見ていた。五枚あるうちの四枚がついていた。それぞれに人がうつっていた。もう一枚には車の移動先が描かれている。

「おかしい……」

「なぜ、車が遠くなっていくのかな?」

 スクリーンの向こう側の誰かたちが言った。

「誰が、運転しているんだ?」

「私の部下……のはずですが」

と、その男は恐る恐る言った。

「はず?」

「うらぎったか?」

「いいえ、そんなはずはありません!」

と、リオマーレは慌てて否定した。

「では、車に乗っているのは誰か、別人ということになるな」

「別人……。まさか、ラファンたちの……」

「我々の名前は出してないだろうね」

「もちろんです」

と、男はすぐに答えたが汗が出る。名前は出していた。それも一番トップの人間の名前を。しかし、そんなことを言えば、自分の首がとぶだだけでは済まないことをリオマーレはわかっていた。

「とにかく、さっさと取り戻してきなさい」

「はい」

 リオマーレにはそういうしかなかった。

「ペンダント……ねぇ……」

 スクリーンの中の人が話し合っている。ここまでエーアイキラーの影響がきていないのは政府関係者による努力の賜物だった。

「本当にそれに答があるんでしょうか?」

「問題になっていそうなものは摘み取るべきだわ」

「そうですね」

「あの……」

 リオマーレはおそる、おそるパネルの向こう側に人たちに向かって言った。

「何、リオマーレ」

「コフィ・ティーフィールド氏から寄付金が」

「あら、どこに?」

「……車の中です」

 力なく、リオマーレが言った。

「まさか、誰が運転しているかわからない中に?」

「……ハイ」

「ばか者!」

「申し訳ありません。すぐに、行ってまいります」

「当たり前です!」

 とにかく、その部屋を出たレオマーレは一息ついて、無線機の通じる部屋へと向かった。


エファーリア地方へ


 その頃、リードたちは、一時間走らないうちにエファーリア地方への入り口が見えてきた。エファーリア地方は、シェーマン地方からもっと南に向かったところにある。ライト軍の本拠地があると言われ、今では危ないのであまり、近づく人もいなかった。

「もーそろそろだよー」

「その前にご飯が食べたい」

 リザが言った。たしかに、朝から移動していてもう昼近くになっていた。

「そうね、ライズ兄さん、どこかに寄って」

「わかったー……ここでいい?」

「かまわん」

すぐ手前にあった定食屋に入った。

「いらっしゃい」

「めずらしいな。人がやっているなんて」

と、センリが言った。

「変ね……エーアイキラーがきかないロボットが出来たというのに」

ミレも言った。

ずっと、機械化が進んでいた為にほとんどの人間は引退し、ロボットに調理も会計も任せていることが普通だったからだ。逆に機械には絶対に秘伝の味は教えないという頑固な人もいて、本当に伝えなかったためにつぶれた店もあった。エーアイキラーが出現してから中には人が作るところもあったが、長い間ロボットに任せていたために、作れなくなってつぶれる店も多くあった。

柔らかな椅子にかけたライズがさっそく言い出した。

「定食をー五つでいい?」

「いいよ、ところで、定食って何?」

と、リザが聞いた。

「かしこまりました。定食五つー」

「定食はこれだね。豆の煮つけ、ロフーノスープ、パキラ、ルーズの切り身ってなっているよ」

と、センリはテーブルの上に置かれた一覧表を見ながら言った。

「へぇ……パキラって知らない。姉さんは知っている?」

「うちでは作ってないから、知らないわね」

「そっか」

「ミレたちは自分で作ったものを食べているの?他の地方から物売りが行かない?」

「来るわよ。でもパキラはきたことがないから、知らないわ。今はバスが止まっているから、よけいに誰も来ないのよ」

と、ミレはため息をついた。

「バス以外ではないのー?見たことないけどー」

「めったにないわよ。今日の郵便屋さんみたいなことは今までに一度もなかったわ。こっちから行くことはあっても向こうから来る人は珍しいわね」

「じゃ、ライズがそっちに行っているというのは……」

「事件よ。最初は、周りの人たちも驚いていたわ」

と、ミレは笑った。

「バスが止まるまではー、食べ物やさんが来てたのー?」

「そうね。基本的に魚はシェオから来るわね。でもうちの場合、たまにリザがスーハーの森から採ってくるけど。湖があるみたいでね」

「みたい……とは?」

「私は行ったことがないの」

と、ミレは首を振った。

「どうしてー?」

「木をつたっていくのよー」

と、リザが説明した。

「無理でしょう?」

「すごいな。落ちるなよ」

 センリは心配そうに言った。

「いまのところ、平気」

「肉は育てている動物からか?」

と、リードは思い出したように言った。

「ええ。でもさすがに、さばくのは無理よ。人でもさばくことが出来る人がいるんだけど、一人じゃ、やっぱり難しいみたい」

「まだ、さばける人がいるのか?」

「解剖学をしている人でね、ファルト地方の医者も勤めている人なの」

「へぇ……」

「はい、おまちどうさま」

と、主人が定食を運んできた。

 全員が食べ物を前に無言だったのは食べる事に夢中だったせいだろう。人が作っているには割合まともな味だった。

「おいしかった」

と、リザは満足そうにいった。

「パキラってフルーツだったのね」

と、ミレは言った。

「そーだよー。でっかい木になるのー」

 ライズは両手を広げて見せた。

「いくらだ?」

 リードが聞いた。

「定食五つで五十フォルです」

 普通は五人分で十フォルから二十フォルくらいだ。

「五十フォルって、高くない?」

「……お客さんたち、どこからきました?」

「シャーマンですけど」

 センリが答えた。

「ああ、だから、ですよ。うちの五十フォルはましなほうです。もっと奥に行って御覧なさい。もっとしますよ。へたすると、十倍も違います」

 店の主人は暗い顔をした。

「なんで……?なにかあったのー?」

「お客さんたち、エーアイキラーの効かないロボットを知っているかね?」

「それを見に行くところだ」

「彼らのせいで原価が高くなって、……結果として定食も高くなってしまったんです」

「どういうことなの?どうして、ロボットで人が困ることになるのよ?」

 ミレが聞いた。

「それが……」

 定食屋の主人も暇だったのか、椅子を持ち出してきて話し出した。リードたちも座りなおした。

「確かに、エーアイキラーに負けないロボットが出来ました。彼らはディー5と言われるタイプですが、今までのディー1から4までと違って、戦闘用なんです」

「戦闘用?ってことは人のお手伝いタイプじゃないわけか」

「はい。ですが、反ロボット軍と戦うには必要なんです。ロボットは物を食べませんから、作るのは人の分だけでいいのですが、人々はロボット作りに徴収されてしまって、農作物の作る量やできがどんどん低下していくんです。だから野菜の物価の値段が上がるんです。それでなくとも、毎日、戦いで損傷を受けたロボットの修理が行われるし、各地方から大量生産の要求をされますが、そのための機械が動かないので、人が造ることになります。そのせいで、体を壊す者もでてきます。だんだんと、この地方を離れていく者も少なくありません」

「そんなことに……」

「ええ。やっぱり、エーアイキラーを全滅させるワクチンが必要になるんですよね……」

と、主人はしみじみと言った。その顔には疲れたような表情が浮かんでいた。

「貴重な話、助かった。五十フォルだ。その戦闘用のディー5を見て、次の地方に夜までにさっさと移動しよう」

「そーだねー、そのほうがいいかもー」

「ごちそうさまでしたー」

 ミレとリザは声をそろえていった。

「いいえ、また、どうぞー」

 店を出て、また車で進んだ。地方の中心に行くと、道が広くなり、建物もよく見えるが確かに、歩いているのは武器を持ったロボットばかりで人のほうは数えてみたところ、三人しか会わなかった。

 車の中から外を眺めてセンリが言う。

「はじめて見た」

「ディー5ってーなんかーごついー?」

「そうね、いままでのは、力があったり、薄くだったり、小さくだったり、飛んだり、人に似ているのが基本だったのに、今度の5は完全にロボットと外見だけでわかるタイプね」

 ミレも同意した。ロボットはディー1からディー4まであり、1は、農業用。2は簡単な家庭用。3は飛行で小型化ロボット。4は人にそっくりなロボットだった。しかし、4はあまりに人に似ているため、目の色を変えてあった。そして、高価なことからあまり、生産されていないと言われていた。

「それにしても、ディー5は、反ロボット軍には、痛手なロボットの出現だよな」

「そうねぇ……。エーアイキラーは効かないわ、修理ができるわ、人間のほうはそうもいかないものね」

「反ロボット軍が人だけで成り立っているならな」

「リード、それ、どういう意味だ?」

「人だけでロボットが倒せないからエーアイキラーを作らせたんだろう?ところが、エーアイキラーが効かないロボットが現れた。それから結構な時間が流れているのに、なぜ、未だに反ロボット軍が力を持っているんだ?なぜ、ミレの父親をエルマールの国際特殊部門が探しているんだ?そして、彼はどこに行ったんだ?ミレのペンダントの意味は?私たちは何から、なんのために逃げているんだ?もし反ロボット軍からだとしたら、ロボットのために人が追いやられているこの地方にいて、なにが得られるというのだろう?どうも、よくわからないことばかりだ」

「リードー、いっぱいー考えているんだねー」

「ねぇ、ライズー、次はどこにいくの?」

と、リザが聞いた。

「とりあえず、エドマール地方からもっと離れるために、もっと南にある、サザル地方にはいるよ。でも時間がかかるかなぁ……」

「そっか……」

「サザル地方ってあの、ジェディンが設計図を送ったといわれている場所?」

「そうー」

「ついでに、図書館があるはずだ。めずらしく、紙がまだある場所だ。おかげで地方としては比較的、目のいい人が多い場所だ」

 本が好きなせいか、なぜか詳しい。

「へぇ……それも学校で習ったの?」

ミレが聞いた。

「独学だ」

「独学って何?」

「自分で勉強することだよ」

センリが説明する。

「すごいねー」

リザが笑った。

「リザ、もうすぐ、時間よ」

「本当?」

「何の時間?」

「昼ねー。おやすみー」

言うが早いか、リザは睡眠に入った。あまりに寝入りの速さに三人は驚いたようだった。

「まさか……これで起きたら、また僕らのことを忘れるのか?」

「いいえ。忘れるのは夜の睡眠だけよ。昼寝をしないとどうも体力が低下しやすいのよね。一時間もすれば起きるわ」

 ほっとしたようにセンリは言った。

「そっか。でも毎日大変だろう?毎日同じことを聞かれることの方が多いんだろう?少なくとも、母さんにはそうだった」

「そうねぇ……でも、私のことは覚えているからね。夜、寝て、朝になって起きたときに私がいないと、みんなに攻撃を仕掛けるかもしれないわよ」

「……ありえそうで怖い。それにしても、リザはちょっと変わっているな」

と、センリがぐっすり寝ているリザを見つめながら言った。

「そうだな。普通、レファンド病は体力の低下がかなり激しい。普通は武道なんてできないはずだ」

 リードも言う。

「詳しいのね。そうね、リザはその点、レファンドの中でも異端児の方ね。睡眠は決まっている分だけ。それも寝ている間も動き続けて……。私もエーアイキラーが現れるまでに調べられることは調べたんだけど……載っていた症例とは少し、異なってはいるみたいね」

「リザはー、生まれたときからー、レファンド病?」

ライズか聞いた。

「いや……三歳……くらいかな。風邪をこじらせて高熱をリザが出したんだ。それから、それが治ったのに、急に話せたはずの言葉が何も言わなくなったんだ。半年後、病院でレファンド病だと言われてね。色々、レファンド病について調べたら、ずっと覚えていることもあるというんで、父さんと母さんは自分たちの事を覚えさせようとしたんだけど、覚えられなかったんだ。それで、毎日知らない人に会っているようなものだろう?リザにとって逆にストレスになるし、母さんも毎日の同じことの繰り返しでイライラしてくるしでね。結局は手放したんだ」

「それがー、ミレの両親とー一緒に暮らしていたんだー」

「ええ。うちに来たのは、今から七年位前かしら?私よりも後から来たの。うちの両親の元へ来たのはリザが覚えていたのがきっかけでね。他の里親の事は覚えられなかったの。でも、今の両親の顔は覚えているのに、どこに行ったのかは覚えていないの。何日、会っていないのかもね」

「レファンド病は毎日、物事を覚えるために力を使うから体力が低下しやすい。しかし、リザは体力がありすぎだな」

リードが言う。

「そうよ。私はどうも……体力まで平均的で。それに比べて、リザはかなりあるの。それも、夜中、寝ているとき、無意識に人を痛めつけるくらいにね」

「あれは、痛かった」

と、リードは思い出したようにため息をついた。

「え、なに、リードも腕が落ちてきたのか?」

「いや、けられた」

「だから、リード兄さん、早くに起きたのね」

「オレ、なんにもないー」

「それはラッキーだわ」

 そのとき、再び変な音がした。

 ガガガガガガピー……。

「お前達は、ファルトで会った奴らか?」

と、今度は冷静なリオマーレの声が聞こえてきた。

「そっちはリオマーレか?」

「私の部下はどうした?」

「ファルト地方にあるスーハーって言う森の中にいるよ。助けてやれるものなら、そうしたまえ」

「お前たちの居場所はわかっているぞ、絶対に捕まえてやる!」

最後の方はどなりちらし、そして、プツッとまた途切れた。

「なんでーわかるんだろうー?はったりー?」

「どうかな。リード、この辺に鉄くずのあるところを知らないか?」

「あるぞ。探知機を作るのか?」

と、リードにはわかったようだ。

「うん、念のため、そうしようと思う」

「じゃ、ライズ、サザル地方の前にある、ガヒルダ鉄鋼場に行ってくれ」

「どこー?」

「見えたら、道順を言う」

「リード兄さん、行ったことあるの?」

「ないが、世界地図の授業で習ったものが入っている」

と、頭をつついてみせた。

「お前の頭ってすごいなぁ……」

「問題点は、地図は常に変わり続けていることだがな」

「そーだねー」



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