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5.決意を口に

今日の朝は何故かパチッと目が覚めたので、自分で起きて窓を開けて朝日を浴びます。


お日様がさんさんと輝き、とても気持ちの良い風が吹いています。


「なんて気持ちの良い朝でしょう。どうか今日はうまくいきますように」


少しすると侍女が支度の手伝いに来てくれました。いつもは1人ですが今日は3人で侍女頭まで来てくれています。


「おはようございますお嬢様。


本日は奥様よりお嬢様の魅力を最大限引き出す様にと仰せつかっております。


朝早くから申し訳ありませんが湯あみのご用意ができておりますのでご移動願えますか?」


「えぇ、お願いします。こんなに早くからごめんなさいね、でも今日は私にとって大事な日なの。


その…


できるかぎりでいいのだけれど可愛くしてもらえる?あ、でも大人っぽさもほしいわ、子供に見られたくないの」


恥ずかしくて頬が熱い…

赤くなっているかもしれないわね。


でもエドワード様に少しでも釣り合う様に大人の女性になりたい。


その為にはいつも母の身支度をしている彼女に頼むのが1番だと思うの。


「お嬢様のお気持ちはよく分かります。好いてる男性には最高な自分を見せたいものですわ。


ドレスや髪型、お化粧を工夫すれば色んな見え方もできるかと思います。


まずはお体と髪の手入れからいきましょう。湯あみの後はマッサージもさせて頂きます。私達にお任せください」


頼もしい侍女頭の言葉に大きく頷きます。そして私の戦いが始まりました…!


「いーたーいーでーすー」


「お嬢様、この痛みの先に細くしなやかな腕があるのです。我慢して下さいませ」


「うぅ~」



「いたたたたたたた…!」


「お嬢様、殿方はやはり細い腰にグッとくると聞きます。ここも我慢です」


「ひゃ、ひゃい~」



「え?まだ着替えるの?」


「お嬢様、本日の顔色に1番あったお色のドレスを選ばなければなりません。後数着です、ご辛抱を」


「…はい」




こうして美しくなる為の戦いを超えて最後の仕上げのお化粧を迎えた私は息も絶え絶えです。ですがその分の成果はでました。


いつもよりも色白にそして細く見えますし、む、胸も心なしか大きく見えます。


悩殺とはいかないまでも子供に見られることは避けたいですし。


「お嬢様、ラインを引きますので目を瞑って頂いてよろしいでしょうか?


……はい、終わりました。とてもお綺麗です」



「ふわぁぁぁ」


鏡の中の自分を見てつい声が出てしまいます。


髪のセットもお化粧も要望通りに大人っぽくなるようにしてくれたおかげか、心なしか色気があるように感じます。


前回の初めてお会いした時は普段のお化粧だったのでこれは驚いてもらえるのではないでしょうか。


「ありがとう!まるで自分じゃないみたいだわ」


嬉しくて鏡の前で色んな角度から自分を見たりしていたら周りから笑われてしまいました。


「お嬢様、お腹がすいてはおりませんか?朝から何も食べていらっしゃらないので軽食をご用意いたしました。


コルセットで苦しいかもしれませんが少しだけも食べておいた方がよいかと」


「そうね、少しくらいなら入りそうだからいただきます。ありがとう」


こうして朝からバタバタの準備が終わって一息ついていると母もやってきて一緒にお茶をしてエドワード様を待ちます。


もちろん、母にもとても褒めて頂けました。



そしてついに、エドワード様が来たとの知らせが入りました、心臓がうるさい位に高鳴っています。


お相手は公爵家の方ですし、我が家はこの婚約を望んでいるという意思表示の為にも玄関で3人揃って待つことにしました。


玄関の扉が開き、家令がまず入ってきます。その後に続いて入ってきたのはエドワード様…








なんて素敵なんでしょう!!


王宮で働いていらっしゃるので昨日も正装でしたが、今日はまた雰囲気が違います。


ピリピリしていないというか、少しだけ柔らかい感じがします。これがプライベートに踏み込めるということですか…!


「……


………?


………リア嬢?

 

 ミリアリア嬢?」


「は、はい!」


私がエドワード様を見つめてボケッとしている間にいつの間にか目の前までいらっしゃっておられました。


両親との挨拶も終えたらしく、私にお声がけ頂いていたにも関わらず気づかなかったみたいです。


「本日はわざわざ来ていただきありがとうございます。その、夢なんじゃないかと思う位、とても嬉しいです」


「………そうか」


そう一言おっしゃった後は黙ってしまったので、父が声をかけてくれました。


「では、こんな玄関先ではなく応接間の方へ。


公爵家の方のお口に合うかは分かりませんがお茶とお菓子もご用意しておりますので」


「ありがたく頂戴いたします」


そして私達は揃って応接間へむかいました。席についてすぐにお茶が用意されました。いつも飲んでいるのとは違う匂いがします。


きっと我が家で一番いいものなのでしょう。あたたかさが喉をすーっと通っていくと不思議と落ち着けます。



ふと、さっきのはどんな感情だったんだろう…と考えてしまいます。


緊張気味に話す父と会話してらっしゃるエドワード様を見て先程の表情を思い出します。


私の言葉にそうかとだけ返してから黙ってしまったあの時、少しだけ眉間に皺を寄せてから目を逸らされてしまいました。


私に呆れてしまったのでしょうか。さっきもボケッとしてしまったし今日の恰好も舞い上がりすぎてて引かれてしまった…?


悲しい気持ちが溢れてきそうになった時、思い直します。



いやいや、こんなことでクヨクヨしちゃダメよね、私達は両想いだからとかで婚約するのではないんだから。


落ち込んだりしてる暇があったら行動しなきゃ!今はちゃんと話を聞こう。


「………というわけです。


ぜひミリアリア嬢にはすぐにでも我が家で共に生活をしてもらいたい。


もちろん、お2人が心配する気持ちも理解はしています。


婚約を認めて頂いただけでなく急にこのようなお願いも、というのは失礼だとは十分に承知しています」


「ううむ、デュアル様のお話は分かりました。


しかし婚約者の家での花嫁修業など最近ではほとんどありません。我が家から通うのでは…」


「それだと会う時間が普通よりも限られてしまうのです。


私の都合で申し訳ないのですが仕事が忙しく…今でも王宮に寝泊まりすることが多くあります。


娘さんとの親交を深める時間をとる為にもぜひお願いいたします」


そう言って深く頭を下げたエドワード様。


婚約の話から公爵家でお世話になる話まで全てしてくれていたみたい。


それに団長様の口添えがあったとはいえ、私が傍にいたいとお願いしたことなのに、まるでエドワード様が望んでいるかのように両親を説得してくれている。




どうしよう…




どんどん好きが増えていくわ。


「お父様、私からもお願いいたします。


私が少しでもエドワード様の傍にいたいとお願いしたのです。


公爵家であり更に宰相でもあらせられるのです、本来なら忙しいからと手紙だけで済ませてもいいところをこうして時間をとって挨拶に来て下さったのです。


それに…




見て下さいこの隈!

書類が溜まってきたから手伝ってくれと言ってくるお父様でだってこんなに濃い隈ができたことありますか?


それだけ睡眠を削ってまでお仕事をされているのです!


ですが、私の魔法や書類整理の能力ならお役にたてるかも…


いやたちます!それに…


私がエドワード様の傍にいたいのです」


両親の横で座っていた所からエドワード様の隣に行き頭を下げます。


すると私の言葉を聞いていたエドワード様も立ち上がり一緒に頭を下げてくれます。


「…複雑な思いです。


自分がなんとしてでも幸せにしてやらなきゃと思っていた存在を私のせいで傷つけてしまった。それがこうして自らの力で立派になって…


エドワード・デュアル様、親のひいき目かもしれませんがよくできた娘です。


どうか幸せにしてやって下さい」


目に涙を浮かべた父が深く頭を下げ、横で母もお願いしますという言葉と共に頭を下げる。


こうして私とエドワード様の婚約は成立し、1週間の準備期間をとってから花嫁修業としてエドワード様のお屋敷でお世話になることが決定しました。


我が家から持っていかなければならない物やエドワード様の方で用意して下さる物などの打ち合わせをして、エドワード様は帰られました。


帰ったと言っても王宮にお仕事をしに行ったみたいです。


少し聞いただけでも信じられない量のお仕事をされているみたいでした。


休みなんてもの、ここ数年でとった覚えがないらしく生活のほとんどを王宮で過ごしているそうです。


私のことを伝える為に今日は家に帰るとおっしゃっていましたがかなり久しぶりらしいです。


宰相の位に就いた時に建てたお屋敷なので通いで王宮に行ける距離らしいのですが、その移動時間すら勿体ないと帰ることもしていなかった。


と、当然のように言ったエドワード様を信じられないという顔で見てしまった私達家族は普通だと思うのです。


だからこそ、エドワード様がいなくなった後は私達家族で会議をしました。


父のように領地を経営しているだけでは宰相様についてなど詳しく知るよしもありませんでした。


だけど今日の短い挨拶だけでもエドワード様のお忙しさもさることながら、その誠実さも十分に伝わりました。


公爵家や宰相の権威を振りかざすどころか、格下の我が家や父を馬鹿にすることもなく、あくまでも婚約を願いにきた者として振る舞って下さいました。


その為、父も母もエドワード様のお役に立つという私の願いを応援してくれました。


1週間という期間でできること、私が学ぶべき事などを話し合ったり我が家の今後のことも話し合いました。


その日は3人で夜更かししてしまいました。


…こうして3人で笑ったり、真剣に話すことは最後なのかなと思うと寂しく感じたことは両親には内緒です。






そしてエドワード様が婚約の挨拶に来て下さった日から1週間後の今日、私は王都にあるユーザス家を出ます。


私の荷物を全て積み込んである馬車を確認してからお屋敷を振りかえります。


父と母の目には涙が浮かんでいます。だけど2人とも笑顔です。


「準備が終わりました。


…いってまいります、お父様お母様。


今までありがとうございました、私はこの家に、2人の娘として産まれて幸せです。


本当にありがとうございました…


今までもこれからも大好きです!」


私は我慢できなくなって、泣きながら2人の胸に飛び込みました。


「あぁ、私達もミリーを愛しているよ。


今まで私の仕事も手伝ってくれてありがとう、どこに出しても恥ずかしくない自慢の娘だ、自信を持ちなさい。


補佐官としても妻としても問題ない。宰相様にとっても最良の相手だといえるだろう」


「えぇ、貴方ならきっと大丈夫。


でもね、何かあったらいつでも帰ってきていいの。


私達はいつまでもずっと貴方の味方よ。


愛しているわミリー」


2人からぎゅっと抱きしめてもらい、私も負けないくらいの力で抱きしめ返します。


そして自分から手を離し2人から離れます。


「お父様とお母様に負けないくらいの夫婦になってまた会いに来ます。


その為にエドワード様のお役に立って私にメロメロにしてきますね!」


笑って大きく1歩さがります。馬車に近づいてから両親とその後ろを見ます。


全ての使用人達がお屋敷の前に並んで見送ってくれます。


父の後を付いて回る私のお世話をしてくれていた執事


今日という日まで私を磨きに磨いてくれた侍女頭と侍女達


美味しいお茶の入れ方や手料理を教えてくれたり作ってくれた料理人


それ以外にも色んな事をみんなに支えられてきました。


「みんな大好きよー!


今までたくさんたくさんありがとう、行ってきます!」


令嬢としては恥ずかしいかもしれないけれど大きく手を振ります。


すると使用人のみんながそろって頭を下げてくれました。


それを見てからまた両親に目を向けます。


「行ってきます、お父様、お母様」


「「いってらっしゃい、愛しのミリー」」


そして馬車に乗ってからも見えなくなるまで窓から乗り出して手を降りました。


席に落ちついて座っても止まらない涙、深呼吸を繰り返しやっと止められました。


そしたら今度は目を冷やします。このためにきちんと冷やしたタオルも用意しておきました。


腫れぼったさがなくなったら化粧などもしないといけません。私は侍女を誰も連れて行かないので自分でやらなくては。


私は今王宮に向かっています。


エドワード様も今日は私の為に一緒にお屋敷に帰ってくれるそうなのでそれまでに気持ちを切り替えなくてはいけません。


幸いまだ時間はあります。


私の大事な言葉で気合いを入れます。


「人は失敗するものだ。

それを見越して事を成せばならん。

大事なのは失敗しないことじゃあない、失敗でくじけないことだ。

思考を止めず想いを強くもてば、結果の方からついてくるものだ。


よーし!


ミリアリア・ユーザスの名に!


そしてエドワード様の婚約者として、恥ずかしくないよう頑張ろう!」

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