19.黒歴史
そこからは夫人をまとめ役として参加者の皆様からかなり詳しく色々聞かれました。
もちろんエドワード様と打合せをして話す内容は決めていたのでバッチリ。
なのですがそれこそかなりきわどい質問も…
「一緒にお住みになられてるとか。でしたらねぇ、そういうこともあるのでは?
デュアル様だってずっと我慢できるものではなくて?」
「婚約しているとはいえ流石にそこまではないのでは?」
「でも大人の男性ですのよ?目の前に魅力的な女性がいればそういったこともありえるのではありませんこと?」
「まさか!あのエドワード様ですよ?
今までどんな方にもなびかなかったのですもの、きっと特殊な恋愛観なのかそれとも…」
「過去の恋を忘れられていないから!ですわね」
私の言葉を待つことなく勝手に色々お話しされたうえに、エドワード様がまだキャロメ夫人を想っている。という風にもっていきたいようですね。
「それで、実際はどうなんですの?」
「それは2人の秘密、ということにさせておいてくださいませ。
ですが言えるとしたら昨日よりも今日、今日よりも明日と、どんどんお慕いする気持ちは増えるばかりということだけです」
そう返せば、しっかりと言わないことに不満を持ったのか何人かの眉間に皺がよります。このままだと更に色々聞かれてしまいそうですね。
「後はそうですね…ご期待通りの答えにはならないかもしれませんが、その、とてもいい匂いがします。
話すくらいの距離だと分からないんですが、その香りを感じるたびにとてもドキドキしてしまうんです」
何かを思い出すようにそう口にすれば何人かが「まぁ!」「あら」などと普通な反応を、何人かは不満そうな表情をされます。
キャロメ夫人も表情には出てませんが先程よりも雰囲気が変化したような気がします。
そして私の話になってからずっと静かに聞くだけだった夫人がついに声を出しました。
「あら、羨ましいわ。私も夫が亡くなってしまって数年が経ってしまいましたからね、そんな初々しい感情なんてとうの昔に忘れてしまったわ。
それにしても………そのご様子だとまだのようね。
貴方の年齢を考えて大人な対応をなされているのねエドワード様は。さすが彼はそこらの男性とは違いますわね」
「それは…」
「だってユーザス嬢はまだ少女、といった方がいいご年齢ですものね?
雰囲気もとても可愛らしくて愛でてしまいたくなるくらい。子供の頃に持っていたお人形のようにぎゅっとして差し上げたくなるわ」
………お前は女として見られているのではない。と遠回しにおっしゃられている?
「確かに分かります」
「うちで飼っているペットもよく抱きしめてしまいますわ」
「私も旦那様との婚約1年目はそんな感じでしたわ、学生の頃でしたけれど」
「私も学生の頃に…」
一部の人達はこの状況に困惑した表情を見せていますが、夫人が用意した方々は次々と私は子供だ、という点を直接的な表現ではなく言ってきます。
こんなの気にしなければいい。
………ですが何故でしょう。
ここ最近の不安などにのっかてきたのか1人1人の言葉が耳に、頭に、残ります。
一緒に寝てはいても一切そういった雰囲気になることはありません。もちろん私の魔法で強制的にぐっすり寝ていらっしゃるのもありますが。
自分の中でいい訳を考えてみても、それを否定する自分の気持ちがあります。
色々言ってくるだけあって夫人はメリハリのある体で、色気を感じさせる雰囲気もあって、とても魅力的な女性に見えます。
現に未亡人となってからは何人かに言い寄られたりもなさっているらしいです。
この方のような色気というか女性らしさが私にあったのならエドワード様ともそういう関係に進んでいるのでしょうか…
気を持ちなおそうとしてもどうしても沈んだ気持ちになってきてしまいました。
貴方たちには関係ないことです、と言ってしまいたいけどそういう訳にもいかず、ただひたすら皆さんのアドバイスと称する苦言に耐えました。
自分でも表情が硬くなっていくのが分かります。
特訓の成果なのか口角をあげて笑顔ではいるものの、顔の表面が自分のものではなくなってしまったかのように動かせません。
そんな私の状況に気をよくしたのか、夫人は輝くばかりの笑顔でお茶会の終了を宣言しました。
「では皆様今日はこのあたりでお開きにしましょう。本日はお集まりいただきありがとうございました。
ユーザス嬢も急なお誘いにも関わらず参加してくださってありがとう。
ぜひまたいらしてくださいな。私が知っているエドワード様のことをお教えして差し上げるわ」
「………はい、機会がございましたらぜひ」
「まぁ!キャロメ様に呼んでいただけるなんて光栄じゃないの。良かったわねユーザス嬢」
「本当に。関係の深い方から婚約者のお話を聞ける機会なんてそうないことよ」
おいうちとばかりに更にたくさんの言葉をいただきます。ですが…
…何も考える気が起きないわ。
「そうですね、またぜひ」
迎えにきてくれた馬車の中、1人になった途端、涙が自然にあふれてきました。
彼女たちの言葉ですごく傷ついた、というよりもここ最近のもやもやしていた気持ちがあふれ出したみたいです。
私の中で補佐官として働くのはとても大きな役割となっていました。
始まりは団長様から頼まれたエドワード様に睡眠をとってもらうことでしたが、その後一緒に働き始めた毎日がきっかけでこの恋はさらに募っていったからです。
何も知らない人達に私の大事なものを汚された気がして、ずっとずっと嫌だったんです。
女性として見てもらえない私の価値なんてお仕事で役に経つことくらいなのに…
どんどんと嫌な感情ばかりがあふれてきます。
そして私は自分でもよく分からない感情のもと、その日の夜にエドワード様に迫るという暴挙をおこしてしまったのです。
「エドワード様!この服かわいくないですか!?」
一緒に眠りにつく間際、ガウンを脱ぎます。その下は以前に用意していた、そういった時に着るネグリジェでした。
普段の色気がない私でもこのスケ感ならきっとそういった目で見てもらえるかもしれない!
「………いきなりどうしたんだ?」
困惑した顔ですっとガウンを再度肩にかけられます。
「えっと、あの、私、もっとエドワード様と…」
「今日の茶会でなにかあったのか?」
「いえ、何かあったという訳では」
話をしながらもガウンの前も帯でくくられ全く見えない状態にされてしまいました。そんなに見るに堪えなかったのでしょうか…
「君がこういった衣装を着てきた意味は理解しているつもりだ。しかしなぜ急に、というのは分からない。今日なにかあったのではないか?」
「別に何かあったわけではありません。私がエドワード様ともっと先に進みたい…と思っただけで」
「………本当か?
昨日までの君はどちらかというと俺との眠りに安心感のようなものを求めていたように思う」
言われてみると確かにそうです。ここ最近の不安を感じるたびにこうしていつもより近くにいれる毎日のこの時間がやすらぎでした。
「…」
「今日の君は帰ってきてから無理して笑っていただろう?それに時々上の空でいることも多かった。俺には…
打ち明けられないか?」
急にこんな行動にでた私にとまどいもあるでしょう。なのにエドワード様は私を心配するような目でそのままゆっくりと抱き寄せてくださいます。
トットットとゆっくりと聞こえる心臓の音、いつも香るさわやかな匂い、腕の中の暖かさ、エドワード様のぬくもりを感じて心が落ち着いていきます。
「君の心に何か変化があってこういった行動にでたのだと思う。その気持ちが嬉しくない訳ではないんだ。だけどそれよりも、俺は君の心も体も大切にしたい。
俺たちの始まりは特殊だっただろう?俺に睡眠をとらせることから始まった。通常であれば婚約の段階でこうして夜に一緒にいることなどない。
それにご両親から君を任せてもらっているという立場で、この状況を利用して君に手を出すつもりはない。
………これが俺の気持ちだ」
「はい」
私は自分の不安や焦る気持ちのことしか考えていなくて、でも、エドワード様は私のことだけでなくて両親のことまで考えてくれていた。
ここがエドワード様と私の、いえ大人と子供の差、なのでしょうか。私もこんな素敵な方の横に立てる立派な大人になりたい。
そんな気持ちを込めてぎゅっと抱き着きます。
「もう少し待ってくれるか?俺の頭が固いのかもしれない、けれどそれが俺の矜持なんだ。付き合わせてすまないが、俺と徐々に関係を変えていってほしい」
顔をあげて、しっかりと目を見ます。ちゃんと伝わる様に。
「………もちろんです。
今はちょっと私の気持ちを伝えられないです。自分でもよく分からないことが多くて…ちゃんと、もっとしっかりと考えたいです。
今日、エドワード様のお気持ちを聞けてとても嬉しいです。私の話もまた今度、聞いてくださいますか?」
「あぁ、俺はなんでも察せる気の利いた男じゃない。だから教えてもらえると助かるよ、今日もどうしたらいいのか分からなくて困っていたんだ」
そういって笑ったエドワード様はちょっと照れたようなお顔で、またひとつ新たな一面を見れたことだけが今回の成果ではないでしょうか。
今夜のことはエドワード様との距離が縮まった大切な思い出であると同時に、私のとんでもない黒歴史の1ページとなりました。




