1.婚約破棄をしましょう!
以前は別の名前であげていた作品をタイトルを変更しつつ、別で連載を始めました。
それにともない、前作は削除しました。
しっかりと完結まで1作品しあげたいという想いで書き上げましたので最後までお付き合いくださると幸いです。よろしくお願いいたします。
今、私は王宮の庭園の植木の陰に隠れています。
そして視線の先には婚約者。
だけど声はかけません、何故でしょうか?
正解は、女の人と抱きしめ合っているから。
…まぁ、前から知っていたことだから今更傷つきはしません。政略結婚だから元から愛があった訳じゃないですし。
私の父が私の為にいい条件の人を探してくれて、
それが彼だっただけ。
だから結婚してから愛を育めばいい。
………それでもやっぱりむかつきますよね?
前から他に女の人がいるという噂も聞いていたし、実際に花を贈っている現場を目にしたこともある。
だけどギリギリ、私や父には隠そうとしていた。実際に父は彼をいい男だと思ってる。
だから私もまだ我慢できていた。だけどこれはない。
16歳を迎える子供が一斉に王宮に呼ばれる成人のパーティー。それはもうたくさんの貴族が参加する大事な大事な行事。
そんな中で婚約者以外の女の人を連れて、いい感じに暗い庭園に行くどころか、抱きしめ合って、しまいには今キスしたよね?
ここまで常識も理性もないやつだとは思わなかった。
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彼の家は私と同じ侯爵家。歴史のある由緒正しい家だが、ここ数代の当主の失策が続いてしまってお金はない。
反対に私の家は父の代で陞爵されたばかりで歴史は浅いけれど、父の堅実な統治で領地がどんどん豊かになってお金はある。
そんな私達の家同志が、結びつきが強くなればもっといろいろな事ができるからと、私達の婚約は決められた。
そして彼自身、成績は上位寄り。外見も細身で高身長、金の髪はさらさらで瞳は明るい空色、人当たりもよくて、絵本に出てくる王子様の様な彼は人気が高かった。
ただし、女癖というのか?女の扱いが引くほどに悪い。女に優しい、という次元を超えて甘すぎる。
自称、彼と将来を誓い合った仲だというご令嬢達に何度も突っかかられた。
そして現在、目の前でいちゃいちゃとしている彼女はその筆頭。
私達2人よりひとつ年下で、公爵家のご令嬢。
3人の兄がいて末っ子の彼女は甘やかされて育った為、自分の思い通りにならないと、まぁひどい。
怒りに身を任せて淹れたての紅茶のカップを投げられたり、彼が私との用事を優先しようとすれば泣いて引き留める。
しまいには、彼が私にドレスを贈ったことが気にくわないと頭からぶどうジュースをかけられた。
その時の彼は怒っている彼女をなだめるだけで、すぐ隣にいる私のフォローは何もしなかった。
失礼しますとだけ小さく声を出して1人で退出したパーティー、流石にこの日は帰りの馬車で泣いた。
赤くはれた目にひどい恰好の私が家に帰ると父は何度もどうしたのかと聞いて抱きしめてくれた。
だけど理由は言えなかった。
原因になっている彼を選んだのは父だったから。
私のことを思って選んでくれた彼のせいで私が泣いているなんて言えない。
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私は父や母、我が家の使用人達が大好きだ。そして後継者として育てる意味で父とは多くの時間を一緒に過ごした。
いつも領地をよくしようと考え行動するところ、
いつも優しくたくさん褒めてくれるところ、
しかし時にはちゃんと叱ってもくれるところ、
いつも私と母の写真を持ち歩いているところ、
全部が自慢の父。そんな父の邪魔にだけはなりたくなかったから耐えてきた。
………だけどもうやめる。彼なんかに大事なうちの領地や我が家の使用人達を託せない。私1人を守る事すらしない彼は無理!だからやってやる!
改めて2人を見るといつの間にかベンチに座ってずっとキスを繰り返している。
そこで、私の固有魔法である睡眠魔法を使う。
私の魔力が2人を包み込むと、すっと力が抜けて…
………眠りについた。
よし!うまくいった。次の行動に移らなきゃ。
私はささっとその場を去り、パーティ会場へ戻った。
会場内で父を見つけ、休憩しようと誘って庭園へ向かう。
2人を眠らせてからそんなに時間は経っていないからまだ起きていないだろう。2人のいるベンチに近づいてきた所で魔法を解く。
すると彼らのいる方向から声が少しだけ聞こえた。上手く起きたみたいね。
後は言い逃れのできないようにまた、キスでもしていてくれればいいんだけど…
父を連れてさりげなくベンチに近づいていくと女性の艶めかしい声が聞こえてきた。
まさかそこまで?と思っていたら、父が眉間に皺を寄せて立ち止まってしまった。
「ここは空気が悪いな。会場へ戻ろうか」
それはそうよね。男女のあれこれがありそうな現場を娘に見せたくはないよねー、でも見てくれなきゃ困る。
「そうですねお父様。
………あれ?これってナルキス様の声?」
本当は彼の声なんてしてないけど、はっとした顔でそう呟けば、父は目を見開いた。
「………ここで待っていなさい」
そう言い残し父はベンチの方向へ、そして植木の陰からしばらくベンチの方を見つめるといきなり出ていきました。
私も慌てて後を追います。
「お前は何をやっているんだ」
「ユ、ユーザス侯爵!?なぜこのようなところに…ち、違うんですこれは!」
静かに言葉を発した父とうろたえる彼、相対した反応の2人。
そして少し衣服が乱れた彼女の方はどうやら怒っているらしい。
「なんなのよもぅ、私とナルキスの邪魔をしないで!」
「ディ、ディアナ!この方は…」
怒りながら父につめよる彼女、それを止めようと彼は手を肩に添えているけれど、そんなので止まる様な女の子じゃない。
「ガント公爵家の末のご令嬢とお見掛けする。しかし貴方には婚約者はいなかったと思うのですが?彼とはどういう関係ですかな?」
淡々と話をする父の陰に隠れる様に近づいてみる。
「雰囲気で察してくださらないかしら?私達は愛し合っているの。邪魔だから早くどこかへ行ってちょうだい!」
「しかしそちらのコーナー家のご子息には婚約者がいたはずですが?」
「そんなこと関係ないわ。ナルキスはいつも私だけを愛していると言ってくれているもの。
花束やアクセサリー、それに今日のこのドレスだってナルキスから贈られたのよ?自分の瞳の色のドレスをね。それに…」
「ディアナ!…ユーザス侯爵、これには訳があるのです」
2人とも私の存在に気づいていないみたいで、彼女は全部喋ってくれる。
青ざめた表情の彼もさすがに止めたけど、これはもう決定的な浮気の証拠よね。
だって浮気現場を見た上に更に浮気相手の証言もあるんですもの。
「いや、よく分かったよ、君が私の愛する娘の相手にはふさわしくないとね。
…ミリーは知っていたのかい?」
こちらを振り返らずに問いかけてきた父の顔は見えませんが、きっと眉間に皺を寄せて唇を噛みしめているのでしょう。父が何かを耐える時のクセなのです。
「はい。2人の関係はずっと前から知っていました。婚姻を結ぶ前のことと、わりきっておりました。ですが、ここまでとは思っておりませんでした」
声を聞いて2人もやっと私の存在に気が付いたみたい。
彼の目が更に見開かれ、ミリーと呟きます。貴方に愛称で呼ばれたくないんですけど。
彼女はなんとなくでも状況が分かったのか、嬉しそうににやりと笑いました。
「あぁミリー、辛い思いをさせてしまったな。家に帰ってじっくり話そう。
ナルキス・コーナー殿、今日の事も含めて全てご当主に伝えさせてもらう。もう娘には関わらんでくれ」
「ご冗談を。僕とミリーは婚約しているんですよ?関わらないなんてそんな不可能な…」
「私がお前のような不誠実な男に可愛い娘を嫁がせるとでも思うか!
婚約を願い出てきたのはそちらだった、だからこそ娘が傷つくようなことはすまいと思っていたのだ。
なんとふがいないことか。お前のような不届者を選んでしまった私にも責任はある。ミリー本当にすまない」
「お父様…
人は失敗するものだ。それを見越して事を成せばならん。大事なのは失敗しないことじゃあない、失敗でくじけないことだ。思考を止めず想いを強くもてば、結果の方からついてくる」
「それは」
「私が敬愛するディップ・ユーザスの言葉です。
私も色々とできたこと、やらなければならなかったことがありました。だけど放置してしまったのです、理由をつけて。
これは私達2人の失敗ですよね?」
ニッコリと笑って問いかければ父の眉間の皺が薄くなり、目尻も心なしか下がった。
「そうだな。ここの所、何もかもうまくいきすぎていた。傲慢になっていたのだろう。今一度気を引き締めていかねばならんな」
「はい!幸いまだ挽回できますもの。結婚してしまっていたら大変でした。明日に備えて作戦会議ですね。
…ではナルキス・コーナー様、今まで色々とありがとうございました」
「ミ、ミリ…」
彼の言葉をぶった切って話を進める。
「ディアナ・ガント様どうかお2人でお幸せにお過ごしください。
でも最後に1つだけよろしいでしょうか?会場に戻る前にドレスは整えた方がよろしいかと。
以前貴方様が私にジュースを頭からかけて下さった時の姿よりみっともないですもの。
では今夜はお互い良い夢を」
怒ったように目を見開いた彼女が声を出す前に父の腕をとり、背を向けて素早くその場を離れます。
そうすると後ろの方で女としての魅力がないだの、地味だのと色々と叫んでいる声が聞こえた気がしますが、すがすがしい気分の私には全く響きません。
父と明日の予定なんかを決めながら家に帰りました。
お読みいただきありがとうございます!