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ヴァルモント公爵家へ

ガタン


体を揺らす振動で目が覚めた。


見慣れない天井。


よかった…生きてた。最初に思ったのはそれだった。


ガタガタと不規則に揺れるこの場所は馬車の中だろうか。


全体的に明るい色調で揃えられており、上品な雰囲気をつくっている。


窓から見える空は美しいみかん色に染まっていて、今は夕刻だろう。


今まで余程熟睡していたのだろうか、少年の顔を見てからの記憶は全くなかった。


顔にかかっている髪の毛がくすぐったくて、そっと払った。


髪の毛は元の黒に戻っていた。そもそも白くなっていたことすら怪しくなる。


「道が悪くてごめんね。でも、もうすぐ街に着くからよくなると思う。」


レイルドの声がした。


レイルド…これからどうなるのだろうか。


とりあえずあの地獄の孤児院からは出られたけれど、ここからも問題であった。


柔らかい椅子に横になっていた体を直してレイルドと向かい合わせの状態になる。


人当たりのいい笑みでこちらの様子を見ていた。


馬車が揺れるのに伴い柔らかくてこしのある髪もさらさらと揺れる。


「…どこにいくの?」


「君の家族のところだよ。」


ん?家族?耳を疑う。レイルドが私を支配するはずなのに。


「かぞく?」


「君の家族が誰なのか、僕にはわかるんだ。」


私もわかる。けど、原作ではこんなにすぐには分からなかったはずだ。


嘘を…ついているのか?


「なんでわかるの?」


「それは、会ってからのお楽しみだよ。」


レイルドはイタズラな笑みを浮かべて外を見た。


会ってからのお楽しみ、か。家族なんかたかが知れてる。


原作では、私の名前を聞いた瞬間、父は静かに、『娘などいない』と呟いた。


…知ってる、私は歓迎されない存在。


彼らは私のことを嫌う。




私も外を見てみると、その都の圧倒的な活気に目が奪われた。


街を歩く人々はみんな笑顔だ。


手を繋いで歩く親子、屋台で物を売る人。


この世界に来て初めてみる温かな日常は、決して前世と似てはいないけれど、どこか懐かしさを感じた。


私が釘付けになって見ている事に気がついたのか、レイルドが説明してくれる。


「この街は300年前から戦さもなく、安全だから帝国中から多くの人がやってきて生活しているんだ。それにね、領主さんが民のことを思って病院を作ったり、学校を作ったりしてるからこの街の生活は帝国内で1、2を争うレベルだよ。」


そうなんだ…優しい人だな、その領主さんは。


そうして少しレイルドと話していると、どうやら目的地についたようで、馬車が止まった。


素朴な服を着たおじさんがドアを開けてくれた。


たぶん、使用人だろう。何も言わずに踏み台を出してくれたのが、妙に丁寧で照れ臭い。


「さぁ、行こうか。」


レイルドが差し出した手を取った。


降りてみると、冷ややかな風が頬を撫でる。


馬車を降りた先には、今までに見たことのないほど立派で大きい豪邸――前世も含めて、初めて見た。


「大きい…」


玄関の真ん前まで馬車で来たようで、後ろを振り返ると丁寧に整えられた庭が広がっていた。


日が、今にも姿を消そうとしている。


レイルドが大きなドアをノックすると、鼻の下に白い髭を綺麗に整えて、背広を完璧に着こなしたお爺さんが出てきて対応している。


よく聞こえないが、親しげだ。


そばで待っていると、お爺さんはこちらを見て目をまんまるにして驚いた。


「これはこれは…大変珍しい方が来たようですね。」


そして、レイルドと私を入れてくれた。


「こちらです。」


お爺さんの案内に従って階段を登っていく。


入り口から入ってすぐ正面にある階段は手すりは白く塗られており、一定間隔で蝋燭が明るい。


床は濃い赤色のカーペットが敷かれてあって自分がいるのが場違いな気がしてきた。


「ここでお待ちください。旦那様を呼んできます。」


そういって通された部屋は客間だろう。


革張りのソファーが部屋の中央で向かい合わせになっている。レイルドに続いて座った。


飾られている絵にしろ、さりげなく置かれている壺にしろ、それだけで孤児院の年予算など軽く超えそうだ。


ここが…この帝国三大公爵家の一つ、ヴァルモント公爵家か。


待っているメイドさんが入れてくれた。


入ってきて私を見た時、少し怯えているように見えたが。


紅茶の良い香りが鼻をかすめる。


一口飲むとその温かさに驚いた。


そうか、この世界に来て初めての温かな飲み物。


心がじんわりとあったかくなる。とても美味しい紅茶だった。


温かいっていいな。久しぶりにそう思った。



客間の扉が静かに開けられた――



最初に目についたのは白銀の髪の毛。


細かに揺れるそれは以前見た自分の髪の毛にそっくりだった。


続いて整った顔立ちに血のような紅の瞳。


レイルドと同じくらいの歳だったとは思うが若いながら威厳ある佇まいに、ただ者ではないとわかる。


似ている…私に。


私の髪の毛が白くなったら、誰が見ても父娘だと分かるだろう。


だからか、レイルドが見たらわかると言ったのは。



黒くて上品な装飾を施された服を着ているその人は、こちらを少し見た後私たちの前に座る。


私を見ても嫌な顔をしない。


ニコリともしないけど、それがなんだか嬉しかった。


さて、ここからは“愛され悪役令嬢”の開幕だ。


生き残るためなら、演技の一つや二つ、してみせる――


感想頂けたら泣いて喜びます((* ´ ` )(* . .))”ペコリ

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