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少年の守りたいもの(2)

俺は夢中でカインのそばに駆け寄ろうとしたが、奴らに途中でうでを掴まれて制止されてしまった。


「…っ離せ!!」


抵抗している間にも視界の端でカインは乱雑に廊下へと引き摺られていく。


やめろ、やめてくれ!お願いだから!!


無我夢中で俺は奴の手を力一杯噛む。噛みついた瞬間、奴の悲鳴と共に腕がゆるみ、俺は必死にすり抜けた。


急いで廊下まで走り抜けるとカインは院長に渡されていた。


奴らのカインを見る目は嫌悪そのものだった。


院長が手元の棒をギュッと握り直した。


その仕草に背筋が凍る。


まさか、まさか殴るつもりじゃ…


「このやろうっ!この不良品が!」


そう荒々しく怒鳴って棒を振り上げる。


今度は、間に合った。


「違うっ!病気じゃない!やめろ!」


間に入り込んで叫ぶ。


その瞬間頭に激しい衝撃。


棒が当たったのだと気づいたのは、院長と話していた奴に押し倒されて、床にうつ伏せになった時だった。


いつのまにか立ち位置が変わって俺の目の前にカインが横になっていた。


俺は必死にもがく。


もがくけど抜け出せない。


院長はやれやれ、とでも言いたそうに肩を2、3度回す。


そしてうでを振り上げ――





――誰かが飛び込んできた。


一瞬、何が起きたのか分からなかった。


だけど見えた。


カインの前に立ちはだかる、小さな背中。


黒髪の少女だ。震えながらも、棒をしっかり掴んでいた。


…助けに来てくれたんだ。俺たちを。


しかし、そんな背中もびくりと動く。


床からだと上手く様子が見えない。


精一杯首を伸ばして見えたのは、反射光。


でもそれはふっと消える。


それが意味することは俺でもわかる。


「危な…!!」


刹那――あまりの冷気に全身の細胞が"危険"だと叫び、あげていた頭を床に押し付けた。


バチン、と何かが弾けた音がして、次の瞬間、冷気が爆発した。


ギィィ……金属を削るような音と共に、霜が壁を這っい、白い花のような模様を残していく。


肌が裂けるような風の中で、俺はただ、床に伏せることしかできなかった。





なにが…起こっているんだ。


激しく渦巻く冷気が止まった時、廊下に以前の面影はなく、俺の上に乗っていた大人も、院長も力なく倒れていた。


立っているのは少女、ただ1人だった。髪の毛の色が…変わっている?


なんの音もなく、ただしんしんと氷の結晶が宙を舞っている。


吐き出す息も白く凍っていく。


目を疑う、それでも幻想的で不思議な光景に体が動かない。



やっとこれが現実だと気づいたのは勢いよく玄関の扉が開いた時だった。


何やら上質な服を着た男の人が少女のそばに駆け寄っていく。


誰だ……知らない顔だ。


でも、妙に整ったその顔立ちは、どこか現実味がなかった。


2人はなんともいえない距離感で話し始めた。


すると、それまで動いてなかったカインが小刻みに震え出した。


「カインっ!!」


自分の上に乗っていた奴をどうにかして押しのけてカインの元へ駆け寄る。


そっと抱き上げると身体が沸騰しているように熱かった。


「…っ!!どうすればっ誰か、誰か助けてくれ…」


明らかに悪化している。


今にも死んでしまうんじゃないか…?


目の前が真っ白になって上手くカインの様子すら見えない。


身体の熱がひしひしと伝わる。


「あぁ…死なないでくれ。」


そうしたら、俺は本当に1人になってしまう。


それがどんなに悲しくて孤独で苦しいことか。


いつの間にか先ほどの男の人が近くに来て膝をついていた。


そして真剣な顔でカインにそっと手を伸ばす。


男の人が小さな声で何かを言うと、カインの体が淡い緑の光に包まれた。


あったかそうな、春の陽だまりみたいな光だった。


光が消えた時、いつの間にかカインの顔色はここ最近で一番良く、熱も下がっているようだった。


こんな元気そうなカインは久しぶりに見た


よかった…生きてる。生き延びたんだ。


すやすやと眠るカインを見つめていると、カインの頬にぼたぼたと大粒の水滴がこぼれ落ちた。


「…ありがとうございますっ。本当に…本当に…っ」


本当に、感謝してもしきれない。


「本当に助けたのは僕じゃないよ――彼女だ。」


その言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなった。


振り返ると、少女は眠り込んで床に座っていた。


その髪は黒い。白髪に見えたのは気のせいだったのかな。


よくみると鼻血が出てしまっていた。


「相当大変だったようだ。」


その子を優しい目で見つめて言った。


初めてみる大人の優しい表情。


「職員全員拘束しました!!子供達も保護しました!」


黒色が基調で黄色の差し色が映えている窮屈そうな服を着た大人が廊下に来た。


周りを見渡すと、奴らが縄で縛られている。


俺と少女の存在に気づくと、男の人に言う。


「公爵様、この子達はどうしましょう。」


「少女は僕が保護する。少年たちは、君たちで頼むよ。弟は急いで医者に見せてやってくれ」


「了解しました!」


その人は俺をみると、優しい笑顔で手を差し出す。


「もう君たちは自由だ。君たちをいじめる人はもういないよ。」


「自由…?」


わからない。


でも、その手の温かさは絶対に忘れない。


振り返って見た、小さな背中。


いつか必ず、俺も誰かを守れる人間になる。


…そう、誓った。


あの小さな背中に、いつか並べる日まで――



少女の名前すら知らないまま、俺たちは孤児院を去った。

気軽に感想ください((。・ω・)。_ _))ペコリ

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