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少年の守りたいもの

カインは唯一の家族で、お互い支え合ってきたからこそこんな劣悪な環境でもやってこれた。


でも、いつからだろうか、気がついたら弟は咳き込むことが多くなり、食欲も無くなってきた。


そして先日、ひどく咳き込んだと思ったら血を吐いた。


床に滲んだ血を見た瞬間、焦燥感に駆られた。


弟はただの軽い病気ではなく、何か酷い病を患っているのではないか。


もし…それが奴らに気づかれてしまったら、カインは…気がついた時には、外での作業の時に抜け出していた。


舗装されていない荒れた道を全力で走る。


きっと道なりに行けば町につけると信じて。


途中で何度も転んだがお構いなし。


擦り傷が少し痛んだけど気にならなかった。


そうしてしばらく走った後――俺は絶望した。


高い門が目の前に立ち塞がった。


あり一匹通らないように閉じられたそれは――


俺がいくら頑張っても到底登れない高さだった。


どこか抜けられる穴などはないだろうか、そう思って周囲を回ってみたけどそんな穴は見つからなかった。


途方に暮れていると、強いライトで照らされた。


「見つけたぞっ」


そう言われて、心臓が飛び跳ねた。


まずい、このままじゃ弟を助けられない。どうにか逃げないと!


その一心でまた走り出す。


でも、高い塀で覆われた中、子供の俺にはどうすることもできずあっけなく捕まってしまった。







縄で縛られたあと、頬を叩かれ足で蹴られる。


そして地下の檻に入れられた。奴ら曰く数日ここに閉じ込められるようだ。


処罰がこの程度で済んだのはまだ健康だったからだ。


だから、俺は“生かされた”。


叩かれて腫れた頬を押さえつつ周囲を見回した。


俺の他には、床に横になってもう死ぬのを待っている何人かの子供だった。


そうか…皆ここに連れられていたんだ。


でも、何日もこのまま?冗談じゃない。


出されるのを待っていたらカインはより悪化して奴らに気づかれてしまう。


どうにかしてここから出ないと。



しかし、いくら待ってもごはんを運んでくる奴らは鍵を閉め忘れたりしなかったし、俺の話を聞きもしなかった。


「おいっ!ここから出してくれ!もう懲り懲りだ!脱走したりしないから!」


もう何日経ったのかわからない。


飯が来るのも不定期でその度に俺の焦りは募ってくる。


もう気づかれていないか?ちゃんと飯は食えてるのか?悪化していないか?

不安でたまらなくなったときに、彼女はきた。



いつもなら乱暴に開けられる扉が今回はやけに静かに開けられたな、そう思った。


ふと、入ってきた人物に目を向けるとその鮮やかな黒髪に目を奪われた。


今までに奴らが話していたのを聞いたことはあった。


この孤児院に黒髪の子供がいると。しかしこんなにも美しいものなのだろうか。


暖かなランタンの光をキラキラと反射する黒髪は今まで見てきた中で一番綺麗だった。


決してこちらを見ようとしない目は赤く色づいている。


この人ならカインを助けてもらえる。そう直感的に感じた。



その数時間後、俺はようやく地下牢から出してもらえた。


久しぶりの外の空気は想像以上に新鮮で、生きていることを実感した。


雨漏りが目立つ階段を登る。


立て付けの悪い扉を開き、自分たちの部屋に入るとカインが笑顔で駆け寄ってきた。顔はまだ青白く、少々足元もおぼつかない。


薄暗い部屋のあちこちに、子どもたちが毛布を被って小さくなっている。


目だけが、じっとこっちを見ていた。


カインは細い腕で俺に抱きついた。


「おにいちゃん……!」


カインの小さな声に思わず目の奥が熱くなる。


「…ただいま。ごめんな。」


そういうと、カインは顔を俺に押し付けて何か言っている。


うまく聞き取れなかったので、カインの声を聞こうと耳を傾ける。


「ぼくなんかのためにもう、がんばらないでよ。」


震える声は今度はしっかりと聞こえた。


俺は…何も言えない。


何か声をかけようと思ってもかけれなかった。


カインは癖毛で、俺によく似た茶色である。


揺れ動く小さな頭を優しく、優しく撫でた。


「…お兄ちゃんは大丈夫だ。だってこんなにピンピンしてるだろ?」


心配させないように、明るい声で言う。


カインは頷いたけれど、どこか影があった。








翌日のことだった。


その日も同じように仕事をしていたら、いきなりカインが咳き込み出した。


止まらない咳に周りの子供も奴らの視線も集まる。


「カイン!」


手を伸ばした。


――でも、間に合わなかった。


カインの小さな体が、力なく床に崩れ落ちる。


あの時見た血の色が、今度は彼の口元から広がっていた。



感想頂けたら嬉しいです!いつかいただける日を待ってます(o_ _)o

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