悪役令嬢思い出す
頭に響く鈍い痛みで視界が霞む。
あれ、、、私何をしているんだろう。
なんとか今の自分について考えようとするけれど、頭の痛みでうまく考えがまとまらない。
埃の積もった木の床に倒れ込んでいる体を精一杯持ち上げて前に立っている人を見た。
浅黒く汚れた肌に、場違いなほど高級な服。
にやけた顔が、私を見下ろしていた。
握る棒の先に、血のような赤がついていた。
なんでだろう、見覚えがないのにこの人を見ると体が硬直して声も出せなくなる。
「あ…」と、精一杯搾り出した声。
しかし、私が声を出したのを聞いて目の前の人が笑った。
「まだ打ち足りないか、このガキがっ!さっさとくたばれっ!呪われた色しやがってっ」
そう言って振り上げられた棒を視界にとらえた瞬間、私の意識は途切れた。
次に目が覚めた時、1人で床に横たわっていた。
動かすたびに痛む体を労りつつ、なんとか上半身を起こし座る体制になる。
周りに人はおらず、前見た時は気づかなかった窓のカーテンの隙間から光が漏れていた。
相変わらず埃っぽい部屋は倉庫のようだった。
大量に積まれている埃の被った本。
何が入っているか分からない木でできた箱。
木の箱にしろ、本にしろ、やけに古臭く、中世的である。
そう言われてみれば、今着ているこの服も質が悪く今まで見たことのないぐらい粗悪なものだ。
なに、これ?混乱しながら何気なく自分の着ている服を見るとその服を掴む自分の手が見えた。
「……っ!?!?」
明らかに小さくて異様に白いーーまるで幼児のような手。
よく考えると体全体が小さいことに気づく。
痛みを忘れて近くにあった鏡の被せ布を勢いよく剥がした。
鏡に映った赤い瞳、黒い髪。
この色――間違いない。
エレノア・ヴァルモント。
前世で、何度も読み返した物語の中で、孤児院に捨てられていた悪役令嬢だ。
〜夢見る乙女は世界を救う〜
主人公のヒヨリ・ソルジャーナは人類としてはとても珍しい”浄化の魔法”を持った聖女である。
そして、彼女は魔法学園で様々な仲間と出会いこの世界を脅かしている魔王を討伐する。
よくある王道のストーリー。
私が転生?した世界はまさにこの物語で、魔王と共に殺される悪役令嬢エレノア・ヴァルモントだった。
前世では死んだ父親が残した多額の借金の取り立てに怯えながら、生活するお金を稼ぐ切り詰められた生活の末過労死した私は、次は主人公に倒される悪役になってしまったということだ。
私はいつでも自分の意思を持ち、最後まで泣かなかったエレノアに心惹かれて繰り返しページをめくった。そして彼女は特別な見た目をしているからすぐに分かった。
黒曜石のように漆黒な色の髪の毛。
ルビーのような紅の瞳。
そして誰もが羨む美貌を兼ね備えている。
しかも、気を失う前のあの男の言葉…「呪われた色」。
この世界では髪の毛の色が白に近いほど魔力が多くて扱える魔法の種類も多い。
そして人である限りは魔力を少なからず持っている。
つまり、私のこの黒い髪の色は異端であり存在し得ないものなのだ。
物語では彼女は公爵家の娘として生まれたが、その異質な黒い髪のせいで孤児院に捨てられてしまう。
しかし、黒い髪色は白を超えた魔力を表していた。
彼女が劣悪な環境の孤児院で生活している中、主人公たちを貶めている真の悪役に気づかれ、エレノアはまんまと利用されてしまった。
これは全ての物語が終わった上で明かされた事実だ。
エレノアがあまりに可哀想で私は彼女を幸せにしてあげたいと何度も思ったことか。
でも、私は今エレノアだ。
エレノアを幸せにできるのは私だ。
絶対に幸せにしてみせる。
私が、救うんだ。
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